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第4章 夕べの調べ
第4話? ■■の××について<Ⅳ>
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「…………あ。おは……よう?」
「……!」
目覚めた彼は、息を呑みました。
「髪、すっごくパサパサ……。ずっと寝られてなかったんだね……。もっと寝てなくて大丈夫?」
膝の上を覗き込む彼女は、瞳に涙を溜め、伸び放題の髪を撫でています。
「……ああ。久々にゆっくり休めた。本当にありがとう。延長も必要ない」
「どういたしまして! だけど、『寝かせてほしい』なんて、欲のないひとなんだね?」
彼がぎこちなく微笑めば、彼女は満面の笑みを見せました。
「…………いや。睡眠不足が解消されたら、別の欲が出てきてしまったみたいで……」
感情表現豊かな彼女に心を奪われてしまった彼は、しきりに頬を掻いています。
「そんな言い方じゃ、わかんないよ。……わかるけど、ずるい」
彼女は、もう片方の頬をぎゅっと抓りました。
「ずるいとは? 詳しく説明してくれないか」
「あたし、なんでもはっきり言ってくれるひとが好き。褒め言葉も愛の言葉もそうだし、『いまどう思ってるか』も、『なにがしたいか』も。だから、もう一回言ってみてくれない? あたしから言わせるんじゃなくて、きみの言葉で誘ってよ……」
完全に目が冴えた彼は、生唾を飲み込みました。
「わかった。……では。起きて早々、申し訳ないが……抱かせてくれないか」
上体を起こした彼は、曲線的な肩に手を添えて、頼み込みます。
「あたしでいいの? 後悔しない?」
先ほどまでの膨れっ面はどこへ行ってしまったのか、夕日に染まった彼女は、にこやかに問いかけました。
「後悔なんかするものか。君がいいんだ……。他の女じゃなく、君が欲しい…………」
その言葉を聞き届けた彼女は、目を閉じて、性急な口付けを受け入れました。
*******
何日……何ヶ月ぶりの熟睡から目覚めた僕は、膝(といっていいかわからないが)を貸してくれている彼女がたまらなく欲しくなってしまった。
呆れるだろう?
だが、彼女は呆れもしないで、求めに応じてくれたよ。どれだけ懐が深いんだろうな。
ここまで聞けば、■■の××が持つ催眠作用の詳細についても、なんとなく察しはつくだろうが……。
ん? 催眠中の感覚が気になるのか?
感覚としては、『理性の箍を外された』と言ったほうが近かったかもしれない。
無理矢理ではあったが、不快ではなくて……。まさに夢心地といった気分だったよ。
僕は職業柄か生来の気質か、なにかと思考を巡らせていないと落ち着かないほうなんだが、日々の生活で、いかに脳が休まっていないかも実感できた。
そういった意味でも、彼女には感謝しているんだ。
とはいえ、これ以上は惚気になってしまいそうだし、本題に移行しよう。
……思うに、『特定の感情を一律に喚起する』のではなく、『対象者の理性によって抑制された望みを解放する』効果があるんだろうな。■■の××には。
だからこそ、あの男も『望みが叶う』と言ったんじゃないか。
そういう意味だとすれば、嘘は吐いていなかったな。
限度はあるだろうが、普通の人間が普通に抱く程度の願望や欲望なんて、存外に慎ましいものだろう?
酒に酔うと、いつもより少しだけ大胆になれるように。
そういった効果を期待して、酒を煽るように――――人々は常に、解放を求めている。
だから、僕は■■の××を美酒と喩えたんだ。
ああ、そういえば――――。『美酒』ということでひとつ、思い出した話がある。
次回は、その話からだな。
もっとも、どこかの国に伝わる御伽噺のようなものだったと記憶しているがね。
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