誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第4章 夕べの調べ

第2話? ■■の××について<Ⅱ>

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 ――――失礼! 話を戻そう。
 
 うちのお偉いさんがた、洋墨と紙の無駄遣いにはうるさいんだ。
 
 報告書を日記代わりにするなと言うのなら、最初から書式を用意してくればいいのに。
 
 そのほうがよっぽど効率的で合理的だと思わないか?
 
 ……まあ、これはあとで直接抗議してくるとして。

 ええと、主題は……『■■を見かけたら、耳を塞げ』という言い伝えの過程だったな。うん、そうだ。

(『発声』という単語の上には打ち消し線が引かれ、その横に『』と崩れ気味の字で綴られている)
 
 確か『美しい声を持つこと』を■■のいちばんの特徴として挙げたところか。

 一応、聞いておくが、僕がそうした理由がわかるか?
 
 僕たちが■■と接触する際には、が最大の脅威になりうると考えているからだ。

 『美しい声を聴くと、気もそぞろになってしまうせいですか?』って?

 はははっ! そんなもので済めば、まだかわいいほうだ。
 
 …………本当に、僕たちを魅了する程度であったなら、共生の道もあっただろうにな。

 ああ、そう深刻に受け取ることはない。悲観論者の戯言だ。

 ただ、いまぼやいたのにも訳がある。

 これは、この何年かのあいだに発覚したことなんだが――――■■の××には、強いがあるらしい。
 
 どういう状態か、軽く説明を挟んでおいたほうがいいか?

 ……そうだな。僕たちのいう催眠作用が、君の見知ったものと異なっている可能性も低くないし、無益な行き違いを起こさないためにも、定義付けは必要な作業のひとつだ。

 というわけで、催眠作用について、少し。

 ここでいう『催眠作用』というのは、対象を眠らせるだけの無害なものではない。

 結果として眠気を催すことはあるだろうし、強制的に引き起こされる眠気も、厄介といえば厄介だ。
 
 しかし、本当に恐ろしいのは、そこではない。

 ――――そんな生易しいものではないんだ。彼らの××は。

 君は、醜いものを見て、不快になったことはないか?

 ……あるだろう。誰にだって。

 その性根こそが醜いのだと承知していても、特殊な嗜好の持ち主でもなければ、醜いものは忌避するように刷り込まれているはずだ。

 ――――正直な回答、感謝する。

 では、その逆はどうだ?

 美しいものに遇って、甘美な恍惚を享受した経験は?

 ……こちらについても、一度や二度ならずあるはずだ。

 なんせ、僕たちは美しいものにどうしようもなく惹かれ、それらを狂おしいほど愛してしまうように作られている。

 ――――抗いがたい、本能として。

 次の項では、具体例もまじえて、話を進めていこうじゃあないか。
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