誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第2章 夜明けの海辺

第20話 述懐

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「お話に入る前に、聞いておきたいことがあるんです」

 と前置きをした千鶴は、注いでもらったばかりの茶で精神を落ち着けます。
 
「……紫水さんには、わたしが何歳に見えますか?」
 
「外見から年齢をはかるのは難しいことだと思うけれど……」

 満を持しての質問にも、紫水は淡々と答えます。

「そうだなあ。ひとまず平均くらいの体格だと仮定するなら、十歳から十三歳のあいだくらい? ……というのは、幅を多く取りすぎていて、卑怯だったかな」
 
 全身をさっと走った視線も、すぐに千鶴の両目に戻っていました。

「いいえ。飛び抜けて小さかった場合や大きかった場合のことまで考えて答えてくれただけですよね?」

「そんなところだね、おおよそは。言動まで加味するなら、もう少し上の年代ではないかと思ったけれど、質問の仕方からして外見年齢を尋ねられているのではないかという気がしてね。もし君の意図とずれていたのだったら、答え直すけれど」

「いえ、ありがとうございます。……やっぱり紫水さんはすごいですね。聞きたかったのは見た目のことで……」

 この外見が原因で受けたさまざまな仕打ちを思い出した千鶴は、襲い来る苦しみから逃れたくて俯きました。

「わたし、こう見えて十七歳なんです。やっぱり、年齢のとおりには見えません……よね」
 
 膝の上に置いた手を広げてみましたが、細く頼りない指の先についた爪は薄く小さく、全体的に見てもまだどこかふくふくと丸みを感じるそれは、どこから見ても子どものものでした。

「…………なるほど」

 そんな彼女の様子を見ていた紫水はというと、短くそう呟いて以降、なにも口にはしませんでした。

「驚かないんですか?」

 千鶴は顔を上げ、肯定も否定もしてこない彼を見つめます。

「驚いてはいるさ。でも、いまのはきっと導入のようなもので、これからする話に関わってくる重要事項なんだろうし、わざわざ腰を折ることもないんじゃないかと思っただけだよ」

「はい。そのとおりです。もったいつけるものでもないですし、そろそろお話に入りますね」

 紫水がうんうんと頷いたのを確認し、千鶴はすぅっと息を吸い込みました。
 
「始まりがいつだったのかは、わたしにもわからないんです……」 

 と断りを入れ、一切合切語る決意を固め直します。
 
 突然、成長が止まったこと。それに対する周囲の反応。唯一の居場所。村の掟に、迫りくる刻限。最後まで自分なりに抵抗を試みたこと。

 絡繰のようにぎこちなく、その身に起こったことをただ時系列を追って並べていくだけで、次の展開に移行するたびに考え込むために奇妙な沈黙が生まれてしまう千鶴の話しぶりは、お世辞にも上手いものとは言えなかったでしょう。

 しかし、紫水はそれを逆手に取り、都度都度質問を投げかけました。

 その助けもあって、途中からは彼女も自身の感情などを交えつつ、なんとか最後まで話し切ることができました。
 
 話し終えるまでにどのくらいの時間を要したのかは、千鶴にもわかりませんでした。
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