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第1章 悪夢のはじまり
第3話 五年後
しおりを挟むそれから、五年が経過しました。
千鶴はというと、かつての誓いを果たせる状況ではなくなっていました。
それもそのはず。
彼女の成長はやはり微々たるもので、身長に限っていえば、あの日から小指の半分ほどしか伸びていなかったのですから。
身長以外の部分でも外見上の変化はほとんど見られず、同い年の子たちが大人顔負けの体躯に成長していくなかで、やはり千鶴ただ独りだけ、時間が止まってしまったかのようでした。
原因がはっきりしていれば、ここまで思い悩むこともなかったのかもしれません。
千鶴は母に付き添われて何度も村の医者にかかりましたが、健康状態に異常はなく、該当する病名もありませんでした。
こうなってしまっては、医者もお手上げです。
「うーん……。やっぱりどこにも異常はないよ」
医者は診察結果に何度も視線を走らせましたが、千鶴の身体は健康そのものでした。
「でも、おかしいじゃないですか! ほとんど成長が見られないことが既に異常ではないんですか?」
母の指摘を受け、医者の眉が曇ります。
「そうは言ってもねぇ……何も見つからないんだよ」
そのことに医者である彼が気付いていないはずはありませんが、安易に肯定してしまえば、さらにきつい追及は免れないでしょう。
「そんな…………! もう少し、しっかり調べてください……」
「これ以上、調べるところなんてないよ。『私の手には負えない』。ここまで言わんとわからんのかね。……失礼。診察は終わりだ。他の医者を当たってくれ」
医者は二人を追い払うように、次の患者を呼び出しました。
同じように帰されたのは、もう何軒目になるでしょう。
繰り返される医者と母のやりとりにげんなりしながら、千鶴は考えます。
『五年前に何があった』のかと。
彼女には心当たりなどありませんでしたが、謎を解く鍵はそこにあるに違いないのです。
――――自分に記憶がないのなら、他の人の知識に頼ればいい。
千鶴はこの逼迫した状況でも悲観的にはならず、現状を打破するべく懸命に思案します。
体は成長しておらずとも、彼女の精神は誰より成熟したものでした。
過去の事例から、少しでも参考になりそうな記録を見つけ出せないか。
そう考えた彼女は、ある場所を訪ねることにしました。
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