“Boo”t!full Nightmare

片喰 一歌

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We hope your Halloween is a ”Treat”!

We hope your Halloween is a ”Treat”!【7】

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 四人はそれぞれ顔を見合わせて、私の視線の先を見て……それから、大きく首を横に振った。
 
「あそこにギラギラで変な形のオブジェあるでしょ。あれの近くってか隣にあるタワーが見えなくて。位置関係的にも見えないはずなくない?」

「タワー……ですか?」

「タワー、だと?」

 このままでは埒が明かないと思って説明したけど、みんなは私がなにを言っているのかわからないみたいだった。
 
 問題の場所をびしっと指したのに、パックとスーは目を細めてその方向を見つめたまま動かない。

 代わりに探してくれてるのかもだけど、残念ながら私の視力は良好だ。
 
「なに言ってるの、カリンちゃん? よ?」

 声も出せずに冷や汗を掻いているところに、ヴィニーがトドメを刺す。
 
「そうだよねぇ。あっちのタワーと勘違いしてるのかなぁ」

 チルの指した方向には、開業から半世紀以上経つお馴染みの観光名所のタワーがあった。

「それとは別にもうひとつできたじゃん。私はそっちのことを言ってて……たぶんもう十年くらい経つと思うんだけど…………あ!」

 話の途中で閃きが走った。

「いまって西暦何年だっけ?」

 ありえないとは思うけど、前提知識がズレているおかしいのが私のほうこっちだとしたら、まず最初に考えられるのが『過去に飛ばされてしまった』可能性。
 
 ここ数年は転生ものに押され気味な感じするけど、タイムスリップものはド定番だもんね。

 まだそうと決まったわけじゃないけど、あれも現実に起こらないからこそ楽しめてた物語類型なんだな。
 
「二〇二三年ですけど、先ほどからどうされたんですか」

「……二〇二三、年…………」

 異変も疑問も解消されたわけではない。
 
 まだ全然ほっとしていい状況とは言えないのに、『過去に飛んでしまった』なんていう、到底ありえない可能性がひとつ消えただけで全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。

「カリンちゃん!?」

 ヴィニーは落とした紙コップに見向きもせず、手を伸ばしてくれた。

 届く範囲にはいなかったから結果的に無意味な行動だったけど、その気持ちが嬉しい。

「だよね……うん、いまは二〇二三年だよね……」

「大丈夫ですか? 顔色もすぐれませんし、不思議なことばかり聞いて……。お疲れでしたら、お部屋のご用意もしますよ。とびきり展望のいい部屋もありますし」

 パックは長い脚を縺れさせながら駆け寄ってきてくれた。

 後ろには、それに続く双子の姿も見える。

 やっぱり優しい人たちだな。

 でも、その一点の曇りもない善意がいまはつらい。

 お願いだから、窓の外の現実から目を背けさせてほしい。

 ……なんて、泣き言言ってる場合じゃないか。
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