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Have a spooktacular night!
Have a spooktacular night!【8】
しおりを挟む「よろしくお願いしますね、カリン」
「カリン、よろしく」
「カリンちゃん。よろしくね~」
でも、舞い上がっていられたのも束の間。真っ先に答えてくれたチル以外からの『よろしく』が集まる頃には、あまりの恐怖に血の気が引いていた。
だって、みんな初めて知ったような反応をしてたけど、彼らはいままで私を『カリン(ちゃん)』と呼んでいた。名乗ったおぼえのない名前を。まだ誰も知らないはずの私の名前を知っていた。
それなのに、なんでわざわざ知らないふりをしたの?
初対面とは思えないほどフレンドリーなみんなの態度に惑わされ、旧友の距離感で接するうちに、おぼえなくてはいけなかった違和感までもが見事にすっぽり抜け落ちていた。
……というよりは、違和感の生じる隙すら最初から与えられていなかったといったほうが、私の置かれた状況を的確に表す事ができるかもしれない。
正直怖いけど、なにもわからないままでいるほうがよっぽど怖い。
「……いまさらなんだけどさ。私、あんたたちに名前教えたっけ?」
勇気を振り絞って問いかける。(震え声)って感じになったけど、とりあえず第一段階はクリアってとこかな。真っ正面から聞けば言い逃れはできないはずだし。
「ああ、その事でしたら……。こちらの社員証を落とされていたので、それで知っていたんです。気味が悪かったでしょうね……。怖がらせてしまって本当にすみません」
パックは手の中のものをすっとこちらに差し出した。財布やスマホに並ぶ貴重品。数ある身分証の一種。
「え?」
パックがあんまり自然に渡してきたから素直に受け取っちゃったけど、どこから出したか見ておけばよかった。カソックっていろいろしまっておけるんだっけ?
数ある内ポケットのどこかに保管しておいてくれたってことかな。まさかとは思うけど、黒鍵とか仕込んでないだろうな? いやいやそれは型月に毒されすぎ。
ともあれ、現段階では偽造された可能性も否めない。念のため、ポケットの中をごそごそ引っ掻き回してみたけど、そこに入れてあるはずの社員証はなく。
「あれ……ほんとだ。いつの間に落としちゃってたんだろ? 拾っといてくれてありがとう」
たったいま渡された社員証は紛れもなく本物らしい。
「そういうわけで……納得していただけましたか?」
「うん。問い詰めちゃってほんとごめん。動転してた」
「防犯意識が高いのはいいことだな」
「それもごめん、すごい感じ悪かったよね」
「スーは皮肉のつもりで言ったわけじゃないと思うから、大丈夫」
二連チャンで謝罪した私を哀れに思ってくれたのかな。優しいねチルちゃんprpr。おまわりさんこいつです。
「ならよかった」
「荷物預けたときにでも落としちゃったんじゃない? 渡すの忘れててごめんね。俺からも謝るよ」
「あー、そうかも。あのとき急いでたしね……」
確かにヴィニーの言う通り、私は退勤後、直でここに来て、ゴミ拾いの邪魔になる荷物はすべて駅のロッカーに預けた。当然落とし物に気を配る余裕なんてない。
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