“Boo”t!full Nightmare

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
26 / 119
Have a spooktacular night!

Have a spooktacular night!【8】

しおりを挟む

「よろしくお願いしますね、カリン」

「カリン、よろしく」

「カリンちゃん。よろしくね~」
 
 でも、舞い上がっていられたのも束の間。真っ先に答えてくれたチル以外からの『よろしく』が集まる頃には、あまりの恐怖に血の気が引いていた。
 
 だって、みんな初めて知ったような反応をしてたけど、彼らはいままで私を『カリン(ちゃん)』と呼んでいた。名前を。の私の名前を知っていた。

 それなのに、なんでわざわざ知らないふりをしたの?
 
 初対面とは思えないほどフレンドリーなみんなの態度に惑わされ、旧友の距離感で接するうちに、おぼえなくてはいけなかった違和感までもが見事にすっぽり抜け落ちていた。

 ……というよりは、違和感の生じる隙すら最初から与えられていなかったといったほうが、私の置かれた状況を的確に表す事ができるかもしれない。

 正直怖いけど、なにもわからないままでいるほうがよっぽど怖い。

「……いまさらなんだけどさ。私、あんたたちに名前教えたっけ?」

 勇気を振り絞って問いかける。(震え声)って感じになったけど、とりあえず第一段階はクリアってとこかな。真っ正面から聞けば言い逃れはできないはずだし。

「ああ、その事でしたら……。こちらの社員証を落とされていたので、それで知っていたんです。気味が悪かったでしょうね……。怖がらせてしまって本当にすみません」

 パックは手の中のものをすっとこちらに差し出した。財布やスマホに並ぶ貴重品。数ある身分証の一種。

「え?」

 パックがあんまり自然に渡してきたから素直に受け取っちゃったけど、どこから出したか見ておけばよかった。カソックっていろいろしまっておけるんだっけ?

 数ある内ポケットのどこかに保管しておいてくれたってことかな。まさかとは思うけど、黒鍵とか仕込んでないだろうな? いやいやそれは型月に毒されすぎ。

 ともあれ、現段階では偽造された可能性も否めない。念のため、ポケットの中をごそごそ引っ掻き回してみたけど、そこに入れてあるはずの社員証はなく。

「あれ……ほんとだ。いつの間に落としちゃってたんだろ? 拾っといてくれてありがとう」

 たったいま渡された社員証は紛れもなく本物らしい。

「そういうわけで……納得していただけましたか?」

「うん。問い詰めちゃってほんとごめん。動転してた」

「防犯意識が高いのはいいことだな」

「それもごめん、すごい感じ悪かったよね」

「スーは皮肉のつもりで言ったわけじゃないと思うから、大丈夫」

 二連チャンで謝罪した私を哀れに思ってくれたのかな。優しいねチルちゃんprpr。おまわりさんこいつです。

「ならよかった」

「荷物預けたときにでも落としちゃったんじゃない? 渡すの忘れててごめんね。俺からも謝るよ」

「あー、そうかも。あのとき急いでたしね……」

 確かにヴィニーの言う通り、私は退勤後、直でここに来て、ゴミ拾いの邪魔になる荷物はすべて駅のロッカーに預けた。当然落とし物に気を配る余裕なんてない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

落ち込み少女

淡女
ライト文芸
「ここから飛び降りて」 僕はたった今、学校の屋上で、 一人の少女から命を絶つよう命じられていた。 悩き多き少女たちは 自らの悩みを具現化した悩み部屋を作ってしまう!? 僕はどこまで踏み込める? どこまで彼女たちの痛みに関われる? 分からない、だからこそ僕は人と交わるんだ。

Cocktail Story

夜代 朔
ライト文芸
「カクテル言葉」をテーマにした作品。 朗読・声劇の台本としてもご使用頂けます。 許可取り不要 自作発言禁止。 使用報告頂けたら嬉しいです。 使用時は作者名の表記をお願いします。 ※表示画像には五百式カクテルメーカーで作成させて頂いたものを使用しています。

Dear “Dear”

りずべす
ライト文芸
大昔から、人類は人形を生み出してきた。 西暦三千年超。人類はその技術を高めた末、自らの生活を支える存在《ディア》を作り出す。ディアは海洋に建つ巨大な塔《世界樹(ワールドツリー)》によって稼働し、人類の無二のパートナーとしてその社会の根幹を担った。 そんな時代に生きる男子高校生那城蓮(なしろれん)は、ある日、街の展望台でディアと自称する女性アイリスに出会う。しかし蓮はそれが信じられなかった。蓮は彼女のことを人間だと思ったのだ。 後日学校で、蓮は友人の遠山珀(とおやまはく)に、アイリスについて相談する。珀は大昔にディアを開発した大企業《ガラテイア》の子息であった。 しかしそこに、珀の双子の姉である遠山翆(とおやますい)が二人を訪ねてきて、学校の先生が所有するという人間そっくりなディアについての調査を頼まれる。アイリスとの関連性も鑑み、蓮は調査を引き受けることにした。

Eカップ湯けむり美人ひなぎくのアトリエぱにぱに!

いすみ 静江
ライト文芸
◆【 私、家族になります! アトリエ学芸員と子沢山教授は恋愛ステップを踊る! 】 ◆白咲ひなぎくとプロフェッサー黒樹は、パリから日本へと向かった。 その際、黒樹に五人の子ども達がいることを知ったひなぎくは心が揺れる。 家族って、恋愛って、何だろう。 『アトリエデイジー』は、美術史に親しんで貰おうと温泉郷に皆の尽力もありオープンした。 だが、怪盗ブルーローズにレプリカを狙われる。 これは、アトリエオープン前のぱにぱにファミリー物語。 色々なものづくりも楽しめます。 年の差があって連れ子も沢山いるプロフェッサー黒樹とどきどき独身のひなぎくちゃんの恋の行方は……? ◆主な登場人物 白咲ひなぎく(しろさき・ひなぎく):ひなぎくちゃん。Eカップ湯けむり美人と呼ばれたくない。博物館学芸員。おっとりしています。 黒樹悠(くろき・ゆう):プロフェッサー黒樹。ワンピースを着ていたらダックスフンドでも追う。パリで知り合った教授。アラフィフを気に病むお年頃。 黒樹蓮花(くろき・れんか):長女。大学生。ひなぎくに惹かれる。 黒樹和(くろき・かず):長男。高校生。しっかり者。 黒樹劉樹(くろき・りゅうき):次男。小学生。家事が好き。 黒樹虹花(くろき・にじか):次女。澄花と双子。小学生。元気。 黒樹澄花(くろき・すみか):三女。虹花と双子。小学生。控えめ。 怪盗ブルーローズ(かいとうぶるーろーず):謎。 ☆ ◆挿絵は、小説を書いたいすみ 静江が描いております。 ◆よろしくお願いいたします。

処理中です...