12 / 49
第1章 人魚すくいのおかしな屋台
第11話 わらべうた
しおりを挟む「案理。『人魚すくい』は楽しめたかい?」
『人魚すくい』の屋台を出て、ミコトは繋いだ手の先の人物に話し掛ける。その手には、先ほどの飴玉が大事そうに握られていた。
「ええ、とても。でも、喉が乾いてしまって。私、そこまでたくさん話していたかしらね?」
不思議そうな顔をした案理だが、美しい指先はヨーヨーの表面を撫でている。封印が解かれて以降、彼女はずっとこの調子だった。
「テントみたいな造りだったから、熱気がこもっていたんじゃない?」
「そうかもしれないわね。…………ねえ、ミコト。さっきの約束、忘れてないでしょうね?」
「クレープか屋台のものを奢るって話だったよね。覚えているよ。ラムネがいい? お隣のかき氷も美味しそうだけど……。なんでもお好きなものをどうぞ?」
「かき氷がいいわ! 並びましょう」
待ちきれない様子の案理に手を引かれ、ミコトは小走りになった。
「たまたま一席空いていて、よかったわね」
休憩スペースにある椅子に掛けた案理は、明るい声を出した。
「うん。ぼくは立ち食いでもいいけど、案理にはそんなことさせたくないからね」
ミコトは案理の対面ではなく隣に掛けた。
「私は構わないのだけど……。でも、ちょうどひと息つきたいところだったから、助かったわ」
近くのテーブルでは、小学校低学年ほどの子どもたちがベビーカステラを片手に屋台での収穫を広げており、保護者とおぼしき人たちもテーブルのすぐそばで談笑していた。
「♪しんしゅつきぼつのおかしなやたい。人魚すくいをしってるかい?」
「♪きみをよぶこえがきこえたら、すくっておあげよ。あわれな人魚」
「♪なんにもきこえないのなら、だまっていえじをいそぐといい」
「♪なんにもきこえないのなら、けっしてすくってはいけないよ」
子どもたちは、時計回りにわらべうたを歌っているようだった。
「…………ねえ、ミコト? あの子たちが歌っているのって…………」
かき氷の山を崩していた案理の手が止まる。
「『人魚すくい』のことだろうね。都市伝説化しているのかも」
ミコトは案理の手からスプーンストローを奪い、彼女の口にかき氷を運び出した。
「……都市伝説? でも、『人魚すくい』の屋台は本当にあったじゃない。ここからも見えるでしょう?」
案理は素直に口を開けたかに見えたが、問いかけるだけ問いかけて、さっさと口を閉じてしまった。
「どうかな? きみが見えてるのと同じ景色を、みんなが見ているかどうか……。確かめる術なんてないよ?」
「怖いことを言わないで頂戴」
「怖かった? ごめんね。……大丈夫だよ。『人魚すくい』の屋台はみんなにも見えているし、レインだって幽霊じゃない。今だって、スーツのおじさんと話してる」
「そうね。だけど、さっきから見ていても、他の屋台に比べて……その…………」
他の屋台に並ぶ人の列は長くなっていくように見えるのに対し、『人魚すくい』の屋台に列が形成されることはなく、飲食物でないという点を加味しても、極端に客の入りが少ない印象は拭えなかった。
「みんな知っているんじゃない? 『誰にでもすくえるものじゃない』ってこと。歌にもなっているくらいだし、そのせいで敬遠されているのかも」
「うーん……。そうかもしれないわね……」
案理は腑に落ちない気持ちで手元に視線を落とす。
大好きなはずの宇治抹茶味のかき氷は半分以上溶け、とても美味しそうには思えない濁った緑色をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
七竈 ~ふたたび、春~
菱沼あゆ
ホラー
変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?
突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。
ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。
七竃が消えれば、呪いは消えるのか?
何故、急に七竃が切られることになったのか。
市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。
学園ホラー&ミステリー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
まばたき怪談
坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる