くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる

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第10章 魔女の郷?姥捨て山の間違いじゃないのか

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「もういきなり帰ってくるなんて母さん聞いてなかったわよ、ご飯食べるなら食べるって連絡貰わないと困るんだから、大体あんたは昔からどん臭くて、術式の覚えも悪いし、周りの村へ出向した時は迫ってきた男の子の毛根を半分以上焼いて絶滅させちゃって、あの子今頃若禿げ旦那って呼ばれて、結婚に苦労してるって、そうそう、他にも」
「まったく、母さんいい加減にして、いったいいくつの時の話をしているのよ?第1若禿げにした奴ってば、自分が30代の癖して、その頃二桁になったばっかりのうちに求婚して押し倒そうとしたんよ?そんなの毛根半分焼けるくらい何よ、正統な報酬でしょ?あの人界隈では」
 王国でのごたごたからやっと抜け出して、どっかに雲隠れしようと思って旅に出たけど、お金と生活力が皆無だった・・・。
 お金の管理は妹姫様に一任していたし、ご飯は大抵エルフか勇者か聖騎士が作ってくれた。たまに手伝おうとすると皆が必死で懇願するので、火をつけたり、水を出したりしかしていなかった。
 つまりお金が無くて、生活力も皆無な魔法術式が得意だけど、人と喋るのが得意じゃない少女が一人。うまく行くわけがない。
 自分に自信が全くない訳じゃないし、それなりに可愛い部類に入ると思うんだけど、うちを救ってくれる王子様は現れなかった。
 たしか1月ほど前にこの国唯一の王子様は勇者が殺したから、私の前に現れるわけなんだけど・・・。
 そんなうちは仕方なく、本当に仕方なく、実家に帰ることにした。出る時は男の一人や二人捕まえてきてやるわいね~とか言って出てきた手前、王国戦士ダンカンとの事は内緒だ。
 振られて行く場所がないから帰ってきたとか、誰にも言えない、絶対封印。
「それはそうとニト、あんた旦那さんたくさん作って連れて帰るって言ってなかったっけ?母さんは皆にあん娘はいっちょう奥手だけん、絶対無理ばしちょるんよ、あったかく見守ってちょーよ、って言ってあるから、恥ずかしがらずに母さんには本当の事言っておきなさい?魔法少女が魔女になるのに男の子種が必要なのは仕方がないけど、魔法少女が絶対に魔女にならなきゃいけないって時代でもないし、母さんはニトがやりたいようにすれば良いと思っているからね」
「ありがとう母さん、そのうちに落ち着いたら話すわ、今はちょっと疲れているからまた、それにうちは魔女に成りたくないわけじゃないんよ、魔女にならなきゃ母さんとすぐにお別れになるけんね」
 魔女の娘は必ず魔法少女として生まれてくる。
 魔法少女が魔女と違うのはその寿命と魔力量、魔法少女が魔法少女のままだと、人と変わらない年齢までしか生きれない。但し魔女になると、その魔力量と寿命が10倍近くに延長される。その為に男性が必要となるんだけど、今のところ私の周囲にはそんな人は居ないし、ダンカンとあんな別れをしたばかりなので、新しい相手を探すこともちょっと疲れた。まだ時間は十分にあるとは思うけど、ギリギリになってどうでもよい男を相手にしたり、結局相手が見つからずに母さんに看取られていくなんて嫌だ。
 どん詰まりな状況だけど、いつか新しい恋は自然と始まっていく筈。汲々と相手を探すんじゃなくて、自然と目が合って、話して楽しくて、ああ、この人なら一緒になってもいいかな?と思える相手が現れる筈。現れるといいなぁ。現れると信じたいなぁ。
「もうこの子は、落ち着いたらしっかり母さんに話すのよ?ご近所さんの目もあるんだから、あんまり母さんを困らせないでね、今日は夕ご飯食べてお風呂入っちゃいなさい」
「はぁ~い」
 懐かしい実家のご飯を頬張り、木のぬくもりが残るお風呂に入る。
 妹姫様たちと一緒にいた頃のお風呂は石造りが多くて、ちょっと固いイメージだったけど、やっぱりお風呂は木の柔らかいイメージが良い。
「あ~やっぱりお風呂もご飯も実家が一番~」
 ささくれだった心が、じんわりと柔らかくなっていく気がする。
 私にとってあの旅にどんな意味があったのか判らないけれど、少なくともこの郷に居続けていたよりは多くの経験が出来た。
 人という生き物は欲が合って、その人それぞれの欲に従って生きている。その欲の大小によって優先順位を決めて行動している。恋は本能って思っていたんだけど、ダンカンとの事はちょっと違ったんだって今なら思い知れる。
 ダンカンの欲、彼は王国で1番の男になりたかったんだと思う。強くて優しくて気が利いて、妹姫様と婚約していたのは知らなかったけど、涙をこらえて考えてみるとお似合いだとも思う。
「あっ」
 温かいお湯に、目から水滴が落ちて波紋が広がっていく。
「そう言えばうち、泣いてなかったんだ」
 ダンカンの事が好きだった。まるで運命の王子様だと思っていた。彼の包み込むような優しさがあの時のうちを包み込んでいた。それが本物の恋なのかどうか?そんな事これっぽっちも考えなかった。母さんが昔言っていたけど、恋は盲目で、恋した方が負けって言葉が身に染みる。
 その意味でうちの恋は始まった時には負けていたのかもしれない。
「もぅウジウジしてたってどうなる物でもないし、向こうはお似合いの相手だし、うちはうちにお似合いの相手を待つしかない、でも待つだけじゃ駄目、現れた時には悩殺できるように自分を磨かなきゃ!」
 でも、悩殺ってどういう事なんだろう?母さんが相手を見つけた時は悩殺して、向こうから告白させたって言っていたけど?
 何かの精神干渉魔法術式の一種だろうか?相手の精神を支配して好きにするのかな?
 それはなんか嫌だ、やっぱりうちは自然に好き合って一緒になりたい。
「いつまでお風呂入ってるのニト!もう子供じゃないんだからのぼせても快方しないんだからね!」
「はぁ~い、もう、母さんはいつでもうちを子ども扱いして!」
 風呂から上がった時、入る前よりは少し心が軽くなった気がした。
 懐かしいベッドに横になった途端、疲れていたんだろう、すぐに睡魔に襲われて、次に目を空けたら日が昇っていた。
「懐かしい空気、見慣れた部屋、ずっと一緒だった猫ちゃん、うち、帰って来たんだなぁ~」
 郷を出て、そんなに長い時間離れていたわけじゃない。1年と少しだけ帰らなかっただけなのに、うちの部屋が懐かしく感じる。初めて自分で強請った黒猫のぬいぐるみ。確か魔女には黒猫の使い魔が居るのが格好良いと何かの本で読んで、必死で強請ったんだっけ。実は魔女の使い魔は猫ではなくて、ケットシーと言う魔物か、鳥系の魔物を魔力で支配する事が多く、ぬいぐるみの様な黒猫はいない事を知った時は一晩泣いた。
 いない生き物なのになんでぬいぐるみが販売されていたのかと言うと、1000年近く前に現れた初代の勇者様が猫が好きで、わざわざ作って広めたせいだ。
 このことについて当初ケットシー達は酷く否定的だったらしいが、初代勇者が彼らの国を作る手伝いをしたことにより認められたって話だ。
 今ケットシーの国がどこにあるのか私は知らない。かなり長生きで、初代勇者と一緒に魔王がいた島の討伐にも参加したことになる魔女会議のメンバーなら知っているのかもしれないけれど、基本彼女たちは多くを語らない。忘れているのかもしれないけれど、うちの読みだと、ただただ語るのが面倒だって可能性が一番高いと思う。
 数度しか見たことないけれど、彼女たちは皆が老いて、目を空けるのも億劫そうだったから。
「久しぶりの朝寝坊っうふふん♪」
 王国の人と一緒だった時は、魔法少女として完全に気をゆることは出来なかったし、ダンカン達と一緒に旅していた時は、寝顔を見せるわけにはいかないと早起きしていたし。
 のんびりと、懐かしさを込めて部屋をじっくりと眺める。小さな本棚、必死で家庭教師役の母さんと一緒に術式を覚えた机と椅子。女の子らしい物は少ないけれど、カーテンはだけは水色のこれも猫柄の生地から母さんと一緒に作った思い出の品・・・。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「おっおいおい、朝からそんな悲鳴とか上げられると、少しと言うか結構ショックなんだけど、こっちはあちこち放浪してなんとかここまでやってきて
救いの女神に出会った気持ちなんだけど」
「なになになに、なんでなんでなんで!なんでいるです!?ここってうちの家ですよ、しかも2階です、なんでその窓にいるんです?朝から不法侵入なんです?」
「ちょっと、だから落ち着けって!あんまり大声で悲鳴上げると私が周りの人に怪しい人だって通報されて、勇名馳せる魔女たちに捕まっちゃうじゃないか?」
 長い金髪を朝の爽やかな風に靡かせて、困った様に頭をかく聖騎士。
 あの時、今の勇者を罠に嵌める為に、その前に反対しそうな槍の聖騎士に腹痛の毒を盛って以来の邂逅だった。緊張からちょっと毒の量が多かったみたいで、うちの料理と一緒に出したら白目をむいて倒れていた。
 食べさせる前に、初めての料理を好きな人に食べてもらいたくて、でも料理は自信がないから、味見をお願いした、と言う話で食べてもらった。ただ食べさせるだけではうちの料理は怪しまれるから、なにか理由が必要とダンカンから教わり、無理やりに考えたいい訳だった。なんとなく釈然としない嘘だったけど、うちのお願いを聴く前は眉間に皺を寄せて疑っていた聖騎士だったけど、話を聞いた後は目を瞑って食べてくれた。
 まさか数秒で効果が出るとは思わなかったから、白目をむいて倒れた時は驚いたっけ
「ふ~ふ~、まったくなんだって貴方は私の部屋の窓枠に居るんです?復讐だったりしますのです?」
「復讐?なにを言ってるんだい、君が私に何か復讐されるようなことをしたのかい?」
 はい、したです。と答えるのが正直者のやる事だけれど、私はそこまでの正直馬鹿ではない。
「し、してないです、ですよ?」
「なら私がここに居るのは復讐じゃない、それからニトは自分の事をうちって言うんだね、別にそのままでいいのに?ニトの可愛らしさが強調されてるし」
 にかっと笑顔が朝日に眩しい。本当なんなんですこの人?
 でも、可愛いって・・・、ちょっと嬉しくなる。
「あっ!」
「ん?今度はどうしたんだい!」
「え、うち、うち、今寝巻が・・・」
 そう、実家に帰ってきて旅支度を解くことなく、眠気に負けて適当に昔の寝巻を着て寝ていた!サイズがほとんど変わって無くてがっくりとしたけど、可愛いしお気に入りだったからいいかって着たんだっけ。白地に赤いハート柄の寝巻を!
「うん、可愛いじゃないか?君がそんなに可愛いとは私も気づかなかったよ?もっと君は自分の良いところを自覚するべきだね」
 また可愛いって言われちゃった♪
 槍の聖騎士とも旅では一緒だったんだけど、こんなに長い時間喋った事は無かった。うちの目はダンカンに向いていたし、人見知りで話すのが苦手なうちはダンカンとばかり喋っていたから。
「ニト~早く起きなさい!朝寝坊もいい加減にしないと嫁の貰い手なくなるわよ~」
「やばっ、母さん!もう起きたから、すぐに下に行くから!」
「おっ、ニトの家族かい?なら挨拶しないといけないかな?」
 うちの忙しい朝はこうして始まった。
 母さんが槍の聖騎士を、うちを追っかけて来た好青年と思い込んだのは好都合だったので、そのままにしたら、母さんが聖騎士にあれこれ質問攻めにしていたけど・・・。
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