くず異世界勇者~こんなくそ世界でも勇者してやるよ~

和紗かをる

文字の大きさ
上 下
12 / 45
第4章 逃避行しながらの再会は圧倒的に不合理でご都合主義って事は判っているさ。

4-1

しおりを挟む
 転生してから初めて俺は逃げていた。
 魔物に襲われても、盗賊団の中に居ながら雑用しかさせてもらえず、団長に死刑宣告された時も、魔王と対峙した時も逃げなかった俺だけど、今は自分の足では逃げられなかったので、両肩を支えられて逃がしてもらっている。
 なんと情けない、と言う気持ちは少しはあるけど、少しだけだ。拷問の痛みから逃げ出したいのではない。あの牢獄の部屋で死ぬことも出来ず、ただ無為に過ごすことが怖かったのだ。段々と魂を削られ、肉人形の様に息を吸って吐くだけの生き物にはなりたくなかった。エルフにも謝りたい。どうせあいつの事だから、俺のせいで巻き込まれてる筈だから。
 なんだかんだでエルフって奴は、唯一背中を預けても安心な相手だった。勇者スキルから見たら実力はまだまだだったけど、それでも何となく、俺が変わらなければ、エルフは変わらず一緒にいてくれるって素直に思える。
 妹姫様の様にエルフは俺を憎んだり、騙したり、殺したいとか思っていないと信じられる。
 だからこそ迂闊なエルフが俺の道連れで、何か大変なことになってはいないか心配だ。
 エルフに心配させて、今回の事に巻き込ませたのは間違いなく俺のせいだ。
 どこに居るのか判らないけれど、俺が城にの地下に監禁されていた事をエルフが知ったとすれば、近くにいるはずだ。きっと俺を助けるつもりでいるに違いない。
「なぁ、ちょっとお前ら、どこかで事情とか、聞かせてくれると助かるんだが」
 俺の肩をそれぞれ支えているのは、肌の青い魔族の男女だ。
 二人とも頭の上に獣耳があるから、純粋な魔族ではなく、獣人と魔族のハーフとかだろう。どっかで見覚えがあると思っていたが、魔王城の地下にいた奴らだった。
「まだ無理だ、お前逃がすのに、皆、協力してる、ここで落ち着くこと、出来ない」
 魔族と人間では使う言語が違うのは知っていたが、この青肌ケモミミ娘の使う言葉はそのどちらとも違っていた。
 肉体的な効果は雲散霧消している勇者スキルさんだが、言語翻訳能力は僅かに残っていたみたいだ。彼女の言葉が片言ながら理解できる。
 スキルが万全であれば通訳さん越えレベルで理解できるんだろうけど。
 ちなみに俺は勇者スキルに気づくまで、人間族以外の言葉はつかえなかった。いや言語能力の低い俺だったから、完璧に使えていたかと言うと微妙だったかも。
 それが魔族の言葉だけでなく、魔物の一部の言語も理解できる様になっただけでも驚きだったけど、魔王城攻略ごろには人型じゃない魔物の意思も感じられるようになっていた。勇者スキル、チートすぎだろ。あのままちゃんと勇者スキルを使い続けていれば、魔物を仲間にして一緒に戦うとか出来てた?
 そうなったら人族の村とか町とか入場禁止になってだろうし、少し不便だったかも。
「助けられている身だから、お願いしかできないけど、どこまで行くんだ?」
 魔族2人に抱えられての逃避行。大の男を抱えて逃げるのだから一般人だったら普通に歩くのと一緒の速度だろうけれど、この2人はすごい。
 風がびゅんびゅん過ぎていくし、背後の城もどんどん小さくなっていく。
 イメージとしたら、原付バイクの速度は出て居そうだ。
 そうなると、もしかしたら俺を救いに来ているかもしれないエルフが俺を見失ってしまう。ここで魔族に連れられて逃げて、エルフが俺を見失ってしまたら二度と会えなくなる。
「もう、すぐ、遠くまでは逃げない・・・」
「あれか、逃げたと見せて足元に潜伏するてきなやつか・・・」
 逃げる者の心理として、捕らえられていた場所から少しでも早く遠くに逃げたがる。相手は王国から魔族のいる地域まで逃げると推測するだろう。捕縛隊も検問もそれを想定して手配するに違いない。
「そうだ、もうすぐ、だ、だから、黙っていろ」
 素直に従う事にする。
 俺の体はボロボロだ。ここで魔族獣耳女の言う事を無視しても、それで何が出来るわけでもない。それに王都内に居るのならば、旨くすればエルフと再会することも可能だろう。
 俺にとっては悪い話じゃない。
 そうなると、まず俺が考えなければならない事は、自分の体の事だ。
 これからの事も、これから何をするかについても、まずは俺の体がそうなのか確認しないと、出来る事が判らない。
 まず、一番気になるのは手足の先の状態。
 なんだかって輪は、まだ手首にも足首にもしっかり装着されている。そこから伸びていた鎖もジャラジャラと地面を引きずってついてきている。
 輪っかも鎖も、すごい魔道具らしく魔族の2人でも解除することが出来なかった。その為逃げるのに鎖が打ち付けられていた壁を破壊した程だ。
 この魔道具の力で勇者スキルはほとんど使えない。勇者スキルさんに心の中で話しかけても無言だ。答えは無いが、なんかテンパって残業増殖中的な雰囲気は伝わってきたので、お亡くなりにはなっていないだろう。
 輪っかと鎖を何とかすれば復活してくれると予測している。手先は辛うじて指は判別できる状態にあるが、物を握る事が出来ない。骨と申し訳程度にくっついている皮があるだけで、左右とも物の役に立たない状況だ。見えないけれど足先も同じような状況だろう。
 魔法術式も簡単な物を遣おうとしたが、効果は発現せず。
 それ以外は胸に疼痛があるけれど、我慢すれば問題ない。
 結果俺の自己診断としては、輪っかと鎖をどうにかしなければ一般人以下でしかないって事だ。この世界にあるのかどうか知らないが、車椅子を必要としている体なのかもしれない。
 城が小さくとも辛うじて見える辺りで、俺は降ろされた。
 俺が王都に居た時間は監禁されていた時間を抜けば長くもないので、ここがどんな場所なのか判らない。だけれども、パッと見ただけでも、家族団欒が当たり前に出来る場所ではなさそうだ。辛うじてスラム街、悪い予感に従って見てみれば貧民街だ。
 石造りばかりだと思っていた王都の建物の中で、この辺りは木造家屋ばかり。庭なんて存在せず、複雑に絡み合った木造建築が、むしろ芸術的までと言える異様さで乱立している。前世の世界だったら建築基準法に抵触して取り壊される運命の建物たち。盗賊団で働いていた時でも、こんな場所には足を踏み入れなかった。それぞれ裏社会での縄張りがあって、俺が所属していた盗賊団は、裏の中でも表側に近い真っ当な盗賊団だった。殺しは極力しない、他の組織とは揉めない、出来れば盗む相手も命までは獲らない。
「ここで、少し、潜伏するから、お前、我慢していろ」
 青肌獣耳たちに放り込まれたのは、四畳半くらいの小屋。
 一面に動物用かもしれないが、枯れ草が敷いてあり、寝場所には困らない。
「ああ、判った静かにしているよ」
 正直疲れている。輪っかのお陰で勇者スキルは抑えられているから、疲れが抜けない。 
 前は徹夜だろうが、連戦だろうが、何人抜きだろうが疲労はすぐに回復して睡眠自体いらないんじゃないかって状態だった。勇者スキルって本当に人間離れしているなぁ~と思ったもんだ。これを前世の世界に持ち込んだら、ブラック企業さん大喜びのアイテムだ。
 うん、もしまかり間違って前の世界に戻る時が来たとしても、勇者スキルは絶対に秘密にしよう。不幸な会社員の屍を量産するのはいけない。
 俺の答えに満足した青肌獣耳たちはどこぞに去っていった。あんな目立つ肌と耳しているからあまり動き回らない方が良いんではと考えるが、逆に注目を集めての攪乱狙いとかなら納得だ。
 ってか、あいつら誰だっけ?とか思ったり?
 なんか、わざわざ人族の他人様の城に忍び込んで、囚人で勇者スキル絶賛封印中の俺を助けてくれるのはなんでだろう?
 俺を助けて、得する連中なんかいるだろうか?
 自分の今までを顧みて、誰かに命を賭けてまで感謝される事をした記憶はない。個人的な想いで助けられる人は勝手に助けたけど、それはあ奥までも俺が勇者って立場に酔いたいからだけで、別井命を賭けてまでではなかった。命を賭けてだ江化を救うために戦えって言われたら、今でも、勇者スキル全開のあの頃でも、絶対に俺は戦わず逃げたと思う。
 だから勇者スキル持ちだからって、そんな男を命を賭けてまで救う価値なんてないんだよ。結局俺は好きなようにやって、好きなようにやったツケでこうなった自業自得なんだから。
 なんて後ろ向きな事を考えていたら、眠気に逆らえなくなってきた。
 好きなようにやってきたんなら、最後まで好きにやるだけさ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】異世界先生 〜異世界で死んだ和風皇子は日本で先生となり平和へと導きます〜

雪村
ファンタジー
ある日カムイ王都の皇子、シンリンは宮殿に入った賊によって殺されてしまう。しかし彼が次に目覚めたのは故郷である国ではなく機械化が進んでいる国『日本』だった。初めて見る物体に胸を躍らせながらも人が全く居ないことに気付くシンリン。 そんな時、あたりに悲鳴が響き渡り黒く体を染められたような人間が人を襲おうとしていた。そこに登場したのは『討伐アカデミーA部隊』と名乗る3人。 しかし黒い人間を倒す3人は1体だけ取り逃してしまう。そんな3人をカバーするようにシンリンは持っていた刀で黒い人間を討伐して見せた。 シンリンの力を見た3人は自分達が所属する『討伐アカデミー』の本拠地へと強制的に連行する。わけのわからないシンリンだったが、アカデミーで言われた言葉は意外なものだった……。

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...