遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第7章「アドルフと7月の奇跡」

7-5

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ベルリンで大行進が行われている、その頃。
 ポーランド合衆国国境地帯の森にたたずむ一軒の家の前でユリウス・アーレルスマイヤー元武装憲兵隊准尉は、その横に黒の家旅団、第一部隊、軽砲小隊を従え、共に警戒態勢に入っていた。
 持ち主の名前からしたらだいぶ地味なバンガロー作りの家は、よく見れば一本一本の木が恐ろしくでかくて太い木材を使用しており、しかも継ぎ目の精巧さは芸術品の域に達している作りだった。
 以前、ハンガリー同盟軍の軽機関銃でなぎ倒された細い木など、この大木作りのバンガローハウスから比べたら、針と杭ほども違う。
 この大木であれば重機関銃の弾も通らないかもしれない。
「しかし、本当に来るんですかね教官?」
「フェネ、ここは信じて待つしかない、貴族連合の立ち上げがうまく行かなければ、黒の家旅団の今後は厳しい物になるんだし、旨く行かなくてこの話しがご破算になっても、最悪ペーネミュンデ公爵夫人は守らないと」
 ユリウスはつい数日前、黒の家旅団に現れた三人の男女との話し合いを思い出した。
 一人は彼の元上司であり、会談の仕掛け人とでも言えばいいのか、それが憲兵隊司令官フリードリッヒ・ノイバンシュタイン大佐だ。実は後で聞いた話で、ユリウスも知らなかったが大佐の家、ノイバンシュタイン家は大元はドイツがドイツと名乗る前の時代に地方貴族として、由緒ある家系でペーネミュンデ公爵家とも無関係ではなかったらしい。
 そしてもう一人が、首都兵站課課長のハンス・ゲオルヅ・ローエングリン中佐。こちらは貴族とは全く関係がなく今も昔もバリバリの庶民の家系だと自慢気に言っていた。本当かどうかは、まぁユリウスには一生分からないし、別に調べたいとは思わない。
 今度の反乱と言うか、クーデターと言うか、併合されそうな事件はこの男が情報源となって、黒の家旅団にもたらされた。なんでこんな弱小勢力に?とも思ったが、ハンス中佐の主張だと、あまり大きい派閥に声をかけると後で利権だなんだとうるさいし、それに憲兵隊司令官が一枚かんでいるのが気に入ったそうだ。つまり黒の家旅団であれば利権云々もないし、憲兵と組んでいることから不正とかには縁遠いだろうと推測しての事だ。
 しかし結果が旨くいくかどうかはハンス中佐自身はどうでも良く、併合に反対の姿勢を取る一部勢力が居るという形にしたかったらしい。
 そんなハンス中佐だから、今回の黒の家旅団の活躍を見たら、当てが外れたとか言うかもしれない。
 そして最後が、この家の持ち主、エーデルマイヤー・ペーネミュンデ公爵夫人だ。彼女は貴族が廃止された今でも尊称として公爵という通り名を許されている程の人物で、ポーランド最後の大物貴族だ。
 その貴族様が何故に黒の家旅団を頼ってきたのか?その実、公爵夫人は古い伝を頼って憲兵隊司令官のノイバンシュタイン大佐に話をしにきたのだが、彼から黒の家旅団を紹介されたらしい。
 その依頼内容は、貴族連合を作ろうとする元貴族達を抑えること。
 今のポーランド合衆国国内において、大貴族と呼ばれていたペーネミュンデ公爵家は、権力は無いが以前と変わらない財力があるため、問題なく生活できている。
が、そうではない中小貴族達は、生きるにままならない状況下にある。
 それはパウラの家もそうであるように、一部の元貴族の家では娘を売りに出してまで生活をしている家もある。
 そんな状況の中、軍部がドイツ連邦併合に集中している今こそ決起して立ち上がり、貴族の国を取り戻そうとする動きがあった。
 そうなると貴族たちとしては、旗頭が是非とも必要になり、ポーランドで貴族の旗頭と言えばペーネミュンデ公爵家しかない。
 公爵夫人も、実はぞんな貴族たちの困窮を見かねて資金援助などもしていたので、話は即座に伝わってきた。
 公爵夫人としては貴族連合、貴族の国を取り戻すなんて話には加わりたくない。せっかく財産があって、平和になったのに、なんで争いの渦中に舞い戻る必要があるのか?権謀術数の限りを尽くして貴族社会を泳いで渡ってきた彼女にしてみれば、もう争い騙しあいはこりごりだという気持ちが強い。
 だが、ペーネミュンデ公爵家の当主、つまり公爵夫人の夫だが、彼は病弱で二十代の中ごろより発病し、それ以来ずっと病床に臥せっている。
 その為、公爵夫人が前に出て話をするが、貴族たちは当主の言を聞かなければ、諦めきれないと言って聞かない。
 だが、彼らを夫である公爵に会わせれば数に物を言わせて、勝手な話を作り上げるか、もしくは亡き物にして、遺言をでっち上げることだろう。
 困った公爵夫人は、今現在ペーネミュンデ公爵家と利害関係のない、ノイバンシュタイン家を訪ねたというわけだ。
 しかし彼女は訪れたときとは全く真逆の事を行うように説得される。彼女が頼った思慮深く大人なノイバンシュタイン大佐ではなく、お子様二人に。
「さて、来るならそろそろ来ないと暗くなる、正規軍はドイツ連邦に向いているから、こっちには気付かないと思うけど、配置は大丈夫かフェネ?」
「もちろんです教官!各分隊とも配置完了で、いつでも来いって感じで待ち構えてます」
 今回の第一部隊軽砲小隊は、三つの分隊に別れ、うち一つが前進偵察部隊、これは軽砲である迫撃砲を装備せずに変わりに無線機の発信機を装備した分隊で、敵と思われる存在が近づいた場合、他の分隊にそれを知らせる役目を負っている。
 前進偵察部隊の後方、バンガローハウスを囲むように残りの分隊が配置している。森の構成上、敵の侵入路として考えられるのは一方向だけなので、左右から交互に迫撃砲で攻撃すればあっという間に敵を吹き飛ばすことが可能だろう。
 但し、問題としては攻めてくる方向が一つと言う事は逃げ道もなくなるという事で、砲撃で地面をずたずたにしてしまったら、自分たちはどうにかなるが、馬車くらいしか移動手段のない貴族様たちは孤立する可能性もあった。
「まっ、でも大貴族の別荘で逃げ道が一つとかは無いか」
 貴族の邸宅と言えば隠し通路とかが定番で、無い方が珍しい。ユリウスは実際に貴族の隠し通路を見たことがあるわけではないが、権勢を争うほどの貴族なら、逃げ道の一つや二つ確保して当然でもある。
「そんなもんですかね?あっと、ええ、大丈夫ですか?ええはい」
「どした?」
「今馬車が三台、騎乗の人が数名、こちらに向かっているそうです、予想通りの貴族と、実は・・・・・」
「そっちも実はリッヒたちには予想通りなんだろうな」
 段々と馬の軽やかな足音と、馬車が放つカラカラと言う車輪の音が近づいてくる。
 表がベルリンなら、ここはここで歴史の裏って奴かな?
 ユリウスはせいぜい恭しく、元貴族たちを出迎えてやるべく、バンガローハウスのドア横に立った。

 つづく・・・かも
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