遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第6章「第二次タンネンベルク会戦」

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「あれはなんだ?」
 部隊がタンネンベルグ高原にさしかかった時、前方になにやら数名が立っているのが見えた。どうにも兵隊と言う感じではなく、農夫の代表と言う殊勝な感じでもなく、言ってみれば村のはみ出し物の集団が隣村と出入りの喧嘩をするんじゃないかって集団だった。
「ええと、多分付近の村の住民では?軍服も着ていないですし、持っているのも棍棒とか、剣とか古めかしいのばかりですから」
 グスタフの問いに、なんとか整合性のある答えを返すパウラ。
 彼女にしても、まさかタンネンベルグ高原で何かと接触するとは考えていなかった、もし万が一接触するとしてもな不良集団ではなく、正規軍である筈だ思い込んでいた。
 これは、予想外の事が起きた。その事に嫌な予感がしてくる。
 ここタンネンベルグ高原では、大戦末期予想外の事が起きて、ポーランド戦史上もっとも被害が大きかった大敗北を喫した場所だ。
悪い予感はして当然か・・・・・・。
 パウラは、司令官であるグスタフともども一時休止を進言し、自らは数名の部下と共にこの怪しげな集団に近寄っていった。
 怪しげな集団は当初、無茶が大好きな若者が中心になってやんちゃをしているのかと想像していたが、パウラはそうではないことにすぐに気付いた。
 なにせ、その集団、とは言っても十名未満だが。若者は一人も居ず、全員が自分よりも年上にしか見えなかったからだ。
 手に持つ武器は中世だったら戦闘兵器として有用で、それこそ町で遊ぶ少年少女からみたら憧れの的だった物ばかり。
現代戦闘で有用かと聞かれれば、パウラは否定するしかない。
 あんな重い武器を担いで戦場まで走って行き、鉄の鎧の上からがんがん叩き合って戦争が済んでいた時代ではもう無い。
 火薬の塊が空を飛び、剣や弓矢が届く遥か以前に相手を吹き飛ばす。距離と言うのは非常なもので、もし中世の一個軍、一万名が大隊に攻めかかっても、大隊の勝利は揺るがない。つまり兵器の質とはそこまでの差を生むのであって、魔法使いや妖術師、召喚師なぞ存在しない現実のこの世の中で、銃に敵う剣は無い。
「あなたたち、何をしているの!ここはこれからから軍隊が通ります、即刻火遊びは止めて村に帰りなさい」
 見ると集まっていた男たちの集団から二名の男、一人は馬にでも乗っているかのような大男、一人は黒いローブを身に纏い、背中に身長を越える何か木の棒を背負っている男がこちらを振り向き歩いてくる。
 その男たちの背後、先ほどまで集団が集まって何かしていた場所には、この高原に似合いのキャンピング用の机が設置され、足元には何かのエンジンが置かれていた。
 エンジンを使うような物をこの男たちが持っているようにはパウラには見えなかったが、それよりも自分に近づいてくる男たちの異様に気を取られてしまった。
「前回は失敗しちまったが、今回は失敗しないように、まずは順番でお前から行けよピエトロ」
「仕方ありませんねセルゲイさん、今回は時間稼ぎではなく、ただの降伏勧告なのですから、私よりどちらかと言うとセルゲイさんのが得意でしょうに」
「そうでもねぇ、ぐだぐだ言うより首はねた方が早いしな」
「野蛮ですねぇ、それじゃあいつまでたってもお嬢様の言ってる進化は出来ませんよセルゲイさん」
「しかたあんめいよ、これからの戦争に俺の出番が本当に無くなったってんなら、素直に引退するさ」
「嘘ばかり、嘘は神の御名において許しませんが、まぁ今回神は関係有りませんしね、では参りましょうか?」
 ローブを着て背中に大きな木の様な何かを背負う男。ピエトロが大男セルゲイの前に出て来る。
「あなたたち一体なんなの?それで普通の村人とでも言うつもり?」
 最初は不良集団と思っていたが、再度パウラはこの集団の評価を改めた。どうみてもこの男たちはおかしい。馬鹿にしてるとしか思えない武装のくせに、体から湧き上がる殺気は新兵だったら漏らして逃げるレベルだ。
「何と聞かれますと、まぁただの神の使徒としか言いようがありません、これでも別に変態でも化け物でもないんですよ?勿論悪魔でもありません」
「?何?タダの神の使徒?ってどうしてそんなのが私たちを待ち伏せしたかのようにここに居るの?ただの偶然と言うつもりなの」
 パウラの脳裏には謀略と言う二文字が浮かんでいた。こいつらは奇抜な空気でこちらを足止めして何かをたくらんでいるのではないだろうか?
そうすると、この変な男たちはドイツ連邦の諜報機関の所属なのだろうか?
 今回の併合作戦では、ドイツ連邦国内の併合派が諜報機関の動きはありえないと言っていたが、それも謀略ではないと言い切れない。
「この神の世に、偶然などと言う事は塵一つも存在いたしません、全ては神の意思による必然、あなた方が今この場所で私に出会うのは神の意思なのです」
 ピエトロはそう言うと、背中に背負う十字架型の撲殺武器を取り出し、彼女の前にドォーン音を立てて屹立させる。先日騎兵隊長を撲殺した際の傷も血糊もなくなっていることから、整備と掃除はマメに行っているのだろう。
「これって・・・・・・」
「おや、これをご存知ですか?この十字架は神の御使いが悪魔と戦う為に、その身を捧げた神聖なものです、これの前に神は無く、これの後にも神は居ない、神は常に自らの心のうちにあり」
「・・・・・・・自らの行いを、自ら掣肘することを求めていると?・・・・・・」
「ほほう、まさかあなたもご同輩ですか?」
「まさか、こんな所で、そんな・・・・・・」
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