28 / 35
第6章「第二次タンネンベルク会戦」
6-4
しおりを挟む
「あれはなんだ?」
部隊がタンネンベルグ高原にさしかかった時、前方になにやら数名が立っているのが見えた。どうにも兵隊と言う感じではなく、農夫の代表と言う殊勝な感じでもなく、言ってみれば村のはみ出し物の集団が隣村と出入りの喧嘩をするんじゃないかって集団だった。
「ええと、多分付近の村の住民では?軍服も着ていないですし、持っているのも棍棒とか、剣とか古めかしいのばかりですから」
グスタフの問いに、なんとか整合性のある答えを返すパウラ。
彼女にしても、まさかタンネンベルグ高原で何かと接触するとは考えていなかった、もし万が一接触するとしてもな不良集団ではなく、正規軍である筈だ思い込んでいた。
これは、予想外の事が起きた。その事に嫌な予感がしてくる。
ここタンネンベルグ高原では、大戦末期予想外の事が起きて、ポーランド戦史上もっとも被害が大きかった大敗北を喫した場所だ。
悪い予感はして当然か・・・・・・。
パウラは、司令官であるグスタフともども一時休止を進言し、自らは数名の部下と共にこの怪しげな集団に近寄っていった。
怪しげな集団は当初、無茶が大好きな若者が中心になってやんちゃをしているのかと想像していたが、パウラはそうではないことにすぐに気付いた。
なにせ、その集団、とは言っても十名未満だが。若者は一人も居ず、全員が自分よりも年上にしか見えなかったからだ。
手に持つ武器は中世だったら戦闘兵器として有用で、それこそ町で遊ぶ少年少女からみたら憧れの的だった物ばかり。
現代戦闘で有用かと聞かれれば、パウラは否定するしかない。
あんな重い武器を担いで戦場まで走って行き、鉄の鎧の上からがんがん叩き合って戦争が済んでいた時代ではもう無い。
火薬の塊が空を飛び、剣や弓矢が届く遥か以前に相手を吹き飛ばす。距離と言うのは非常なもので、もし中世の一個軍、一万名が大隊に攻めかかっても、大隊の勝利は揺るがない。つまり兵器の質とはそこまでの差を生むのであって、魔法使いや妖術師、召喚師なぞ存在しない現実のこの世の中で、銃に敵う剣は無い。
「あなたたち、何をしているの!ここはこれからから軍隊が通ります、即刻火遊びは止めて村に帰りなさい」
見ると集まっていた男たちの集団から二名の男、一人は馬にでも乗っているかのような大男、一人は黒いローブを身に纏い、背中に身長を越える何か木の棒を背負っている男がこちらを振り向き歩いてくる。
その男たちの背後、先ほどまで集団が集まって何かしていた場所には、この高原に似合いのキャンピング用の机が設置され、足元には何かのエンジンが置かれていた。
エンジンを使うような物をこの男たちが持っているようにはパウラには見えなかったが、それよりも自分に近づいてくる男たちの異様に気を取られてしまった。
「前回は失敗しちまったが、今回は失敗しないように、まずは順番でお前から行けよピエトロ」
「仕方ありませんねセルゲイさん、今回は時間稼ぎではなく、ただの降伏勧告なのですから、私よりどちらかと言うとセルゲイさんのが得意でしょうに」
「そうでもねぇ、ぐだぐだ言うより首はねた方が早いしな」
「野蛮ですねぇ、それじゃあいつまでたってもお嬢様の言ってる進化は出来ませんよセルゲイさん」
「しかたあんめいよ、これからの戦争に俺の出番が本当に無くなったってんなら、素直に引退するさ」
「嘘ばかり、嘘は神の御名において許しませんが、まぁ今回神は関係有りませんしね、では参りましょうか?」
ローブを着て背中に大きな木の様な何かを背負う男。ピエトロが大男セルゲイの前に出て来る。
「あなたたち一体なんなの?それで普通の村人とでも言うつもり?」
最初は不良集団と思っていたが、再度パウラはこの集団の評価を改めた。どうみてもこの男たちはおかしい。馬鹿にしてるとしか思えない武装のくせに、体から湧き上がる殺気は新兵だったら漏らして逃げるレベルだ。
「何と聞かれますと、まぁただの神の使徒としか言いようがありません、これでも別に変態でも化け物でもないんですよ?勿論悪魔でもありません」
「?何?タダの神の使徒?ってどうしてそんなのが私たちを待ち伏せしたかのようにここに居るの?ただの偶然と言うつもりなの」
パウラの脳裏には謀略と言う二文字が浮かんでいた。こいつらは奇抜な空気でこちらを足止めして何かをたくらんでいるのではないだろうか?
そうすると、この変な男たちはドイツ連邦の諜報機関の所属なのだろうか?
今回の併合作戦では、ドイツ連邦国内の併合派が諜報機関の動きはありえないと言っていたが、それも謀略ではないと言い切れない。
「この神の世に、偶然などと言う事は塵一つも存在いたしません、全ては神の意思による必然、あなた方が今この場所で私に出会うのは神の意思なのです」
ピエトロはそう言うと、背中に背負う十字架型の撲殺武器を取り出し、彼女の前にドォーン音を立てて屹立させる。先日騎兵隊長を撲殺した際の傷も血糊もなくなっていることから、整備と掃除はマメに行っているのだろう。
「これって・・・・・・」
「おや、これをご存知ですか?この十字架は神の御使いが悪魔と戦う為に、その身を捧げた神聖なものです、これの前に神は無く、これの後にも神は居ない、神は常に自らの心のうちにあり」
「・・・・・・・自らの行いを、自ら掣肘することを求めていると?・・・・・・」
「ほほう、まさかあなたもご同輩ですか?」
「まさか、こんな所で、そんな・・・・・・」
部隊がタンネンベルグ高原にさしかかった時、前方になにやら数名が立っているのが見えた。どうにも兵隊と言う感じではなく、農夫の代表と言う殊勝な感じでもなく、言ってみれば村のはみ出し物の集団が隣村と出入りの喧嘩をするんじゃないかって集団だった。
「ええと、多分付近の村の住民では?軍服も着ていないですし、持っているのも棍棒とか、剣とか古めかしいのばかりですから」
グスタフの問いに、なんとか整合性のある答えを返すパウラ。
彼女にしても、まさかタンネンベルグ高原で何かと接触するとは考えていなかった、もし万が一接触するとしてもな不良集団ではなく、正規軍である筈だ思い込んでいた。
これは、予想外の事が起きた。その事に嫌な予感がしてくる。
ここタンネンベルグ高原では、大戦末期予想外の事が起きて、ポーランド戦史上もっとも被害が大きかった大敗北を喫した場所だ。
悪い予感はして当然か・・・・・・。
パウラは、司令官であるグスタフともども一時休止を進言し、自らは数名の部下と共にこの怪しげな集団に近寄っていった。
怪しげな集団は当初、無茶が大好きな若者が中心になってやんちゃをしているのかと想像していたが、パウラはそうではないことにすぐに気付いた。
なにせ、その集団、とは言っても十名未満だが。若者は一人も居ず、全員が自分よりも年上にしか見えなかったからだ。
手に持つ武器は中世だったら戦闘兵器として有用で、それこそ町で遊ぶ少年少女からみたら憧れの的だった物ばかり。
現代戦闘で有用かと聞かれれば、パウラは否定するしかない。
あんな重い武器を担いで戦場まで走って行き、鉄の鎧の上からがんがん叩き合って戦争が済んでいた時代ではもう無い。
火薬の塊が空を飛び、剣や弓矢が届く遥か以前に相手を吹き飛ばす。距離と言うのは非常なもので、もし中世の一個軍、一万名が大隊に攻めかかっても、大隊の勝利は揺るがない。つまり兵器の質とはそこまでの差を生むのであって、魔法使いや妖術師、召喚師なぞ存在しない現実のこの世の中で、銃に敵う剣は無い。
「あなたたち、何をしているの!ここはこれからから軍隊が通ります、即刻火遊びは止めて村に帰りなさい」
見ると集まっていた男たちの集団から二名の男、一人は馬にでも乗っているかのような大男、一人は黒いローブを身に纏い、背中に身長を越える何か木の棒を背負っている男がこちらを振り向き歩いてくる。
その男たちの背後、先ほどまで集団が集まって何かしていた場所には、この高原に似合いのキャンピング用の机が設置され、足元には何かのエンジンが置かれていた。
エンジンを使うような物をこの男たちが持っているようにはパウラには見えなかったが、それよりも自分に近づいてくる男たちの異様に気を取られてしまった。
「前回は失敗しちまったが、今回は失敗しないように、まずは順番でお前から行けよピエトロ」
「仕方ありませんねセルゲイさん、今回は時間稼ぎではなく、ただの降伏勧告なのですから、私よりどちらかと言うとセルゲイさんのが得意でしょうに」
「そうでもねぇ、ぐだぐだ言うより首はねた方が早いしな」
「野蛮ですねぇ、それじゃあいつまでたってもお嬢様の言ってる進化は出来ませんよセルゲイさん」
「しかたあんめいよ、これからの戦争に俺の出番が本当に無くなったってんなら、素直に引退するさ」
「嘘ばかり、嘘は神の御名において許しませんが、まぁ今回神は関係有りませんしね、では参りましょうか?」
ローブを着て背中に大きな木の様な何かを背負う男。ピエトロが大男セルゲイの前に出て来る。
「あなたたち一体なんなの?それで普通の村人とでも言うつもり?」
最初は不良集団と思っていたが、再度パウラはこの集団の評価を改めた。どうみてもこの男たちはおかしい。馬鹿にしてるとしか思えない武装のくせに、体から湧き上がる殺気は新兵だったら漏らして逃げるレベルだ。
「何と聞かれますと、まぁただの神の使徒としか言いようがありません、これでも別に変態でも化け物でもないんですよ?勿論悪魔でもありません」
「?何?タダの神の使徒?ってどうしてそんなのが私たちを待ち伏せしたかのようにここに居るの?ただの偶然と言うつもりなの」
パウラの脳裏には謀略と言う二文字が浮かんでいた。こいつらは奇抜な空気でこちらを足止めして何かをたくらんでいるのではないだろうか?
そうすると、この変な男たちはドイツ連邦の諜報機関の所属なのだろうか?
今回の併合作戦では、ドイツ連邦国内の併合派が諜報機関の動きはありえないと言っていたが、それも謀略ではないと言い切れない。
「この神の世に、偶然などと言う事は塵一つも存在いたしません、全ては神の意思による必然、あなた方が今この場所で私に出会うのは神の意思なのです」
ピエトロはそう言うと、背中に背負う十字架型の撲殺武器を取り出し、彼女の前にドォーン音を立てて屹立させる。先日騎兵隊長を撲殺した際の傷も血糊もなくなっていることから、整備と掃除はマメに行っているのだろう。
「これって・・・・・・」
「おや、これをご存知ですか?この十字架は神の御使いが悪魔と戦う為に、その身を捧げた神聖なものです、これの前に神は無く、これの後にも神は居ない、神は常に自らの心のうちにあり」
「・・・・・・・自らの行いを、自ら掣肘することを求めていると?・・・・・・」
「ほほう、まさかあなたもご同輩ですか?」
「まさか、こんな所で、そんな・・・・・・」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
終末のボクたちは、スカイリアで待ってます〜仲間に振り回されて女装させられたりしつつVRMMOで生活するやつ〜
aoringo12
SF
残り短い時間を、せめて楽しく、そして全力で。
ルイとその仲間たちは、とあるVRMMOゲームを利用した治験を受けて、ゲーム内で生活していくことになる。
デスゲームでもなく、陰謀でもなく、ただただゲームにログインし続けるだけ。ちょっと変わった境遇の普通のプレイヤーたちが、ただただゲームを楽しむだけの、ただただ優しい終末の物語だ。
最後くらいは楽しく終わりたい。そんな彼らが、小さくも大きな世界をほんのちょっとだけ動かしていく。
アシュターからの伝言
あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。
なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。
テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。
その他、王様の耳はロバの耳。
そこらで言えない事をこっそりと。
あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。
なので届くべき人に届けばそれでいいお話。
にして置きます。
分かる人には分かる。
響く人には響く。
何かの気づきになれば幸いです。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる