遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第6章「第二次タンネンベルク会戦」

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その同じ時刻、ドイツ連邦首都のベルリンではいくつかの行為が同時多発的に行われ、ある場所では友好的に、ある場所では血を伴った小規模戦闘、ある場所では全くの空振りなど様々なドラマを生んだ。
 そのドラマの一つ、憲兵隊司令部では今日この日が有ることを予測していたノイバンシュタイン憲兵隊司令の命令で、入口に厚さ120mmの鉄板を仕込み、更に、一階の窓も木材で打ちつけ侵入防止策を図っていた。
 更に首都近辺に展開する武装憲兵隊四個小隊の内、二個小隊を完全武装で司令部に配置し、残りの二個小隊の内の一個小隊を情報収集の為に市内に配置していた。
 しかし、事態は彼が思うよりも急速に早く進んだ。市内に配置していた武装憲兵一個小隊は陸軍親衛旅団に包囲され、若干の銃撃は有った物の、数十分で武装解除させられ、その僅か数十分後、憲兵隊司令部は千五百の併合賛成派に囲まれる事となった。
 手に手に武器を持ち、あからさまに陸軍所属である事がバレバレだが、それでも私服で民間人に偽装し、気勢を上げる千五百の集団に対して、立て篭もっている憲兵も発砲するわけに行かず、膠着状態になっている。
 また、一方首相官邸では、まだ寝起きで、パジャマ姿だった現首相、ズォード・レッグハルトが武装した兵士に監禁され、その後持病の心筋梗塞で死亡していた。
 大統領府で働く職員の大半は今日有る事を事前に察知しており、賛成の者は勇んで登庁し、少数の反対派は姿を隠すか、大統領府に監禁された。
 しかし、肝心の大統領であるアルジュール・フォン・ボック元陸軍大将は前日の夜から姿を隠し、憲兵隊司令部が包囲されるまでの間には見つかっていない。
 そして、この日七月三十一日、午後十三時二十四分、反乱の首謀者達は一同に参謀本部に集結。ポーランド陸軍到着までの間にやるべきことの最終確認を行った。
 そのメンバーは、ドイツ連邦副総裁ヘルマン・ドクトリウス、陸軍大将ルンテシュテット、参謀本部総長メッサー・フォン・マインフェル中将、親衛旅団指揮官アルンフォルスト・ハッサウ少将、同副官、パストラル・フォード中尉、海軍第一艦隊司令ナイアム・レーデン大将。
 有力将官だけでもこれだけの数が参加しており、更には無名な佐官、尉官は数多く参加している。
 今回の騒動に関しては、一般の兵士には治安維持を目的とした緊急出動と説明されており、革命でもクーデターでも反乱でもない事が強調されていた。
 しかし少し頭が回る兵士ならばこれがクーデターであることは当たり前の様に気付いていたし、更に言えばもう少し頭が回る兵士は、クーデターで有ると分かっていたとしても、命令に従っていればどっちに転んでも罰は軽いと考えていた。
「今回の義挙に参加した部隊は大統領捕縛を完全に失敗、また現在報告が無いのが兵站部鎮圧隊ですが、それ以外の場所での制圧は概ね順調です」
 この部屋の中にいる制服組の中で、一番下の階級であるフォード大尉が澱みなく報告を行う。
首都に展開している部隊の殆どは、彼女と彼女の司令官が指揮する親衛旅団のみで、今回の作戦の大部分もこの二人で作り上げた。
 陸軍大将や、参謀本部総長など名前だけは立派なお偉方が参加しているが、フォード大尉にしてみれば、そんな存在は、つまりは飾りで、実質的に今回の事を仕切っているのは親衛旅団であると自負している。
 その彼女の立案した作戦において、政府行政の中枢、と軍部中枢の確保は最大懸案事項だったが、現在のところ、行政関係の確保は終了。大統領の行方のみ分からないが、どのみち、作戦が最終段階に進めば必要の無い存在なのでほうっておいても問題ない。
 軍部中枢に関しては、憲兵隊指令部が抵抗するのは判りきっていたことで、それでも戦力が一個中隊に満たないのであれば封じ込めは容易だった。解せないのは兵站部の確保を行っている部隊からの報告がないことだが、所詮は兵站部。兵隊とは言ってもあそこは事務屋の集まりだ。百人近くの兵士が居ることになっているが、本当に戦えるのは二十人も居ないだろう。そこに百五十名の武装した親衛旅団兵が向かったのだから、失敗の要素が無い。
 おそらく今回の混乱で情報が錯綜しているのか、伝令が届かないのか、それとも、色気を出して降伏勧告なんかをしているのだろう。
 無線が使えれば、こんな事を気にしなくてもすんだのに・・・・・・。
 今回の作戦、お歴々に言わせれば義挙だが、無線を使わない無線封鎖の状態で作戦を遂行することが求めらられた。
 その理由は「自分達はポーランド合衆国の圧力で決起したのではない、その為ポーランド合衆国との今回の義挙についての打ち合わせは無い」という、フォード大尉からしてみれば茶番以下の理由だ。
また軍事的に言えば、それ以上に、首都に一日でたどり着けるような周辺部隊は居ないが、無線を傍受して首都開放に動き出す部隊が出るのは好ましくないとの判断、それが理由だ。
 つまり義挙とは言いながら、お歴々にはその実、賛同しない部隊から逆襲される危険性のあるクーデターである事は周知の事実だったわけだ。
それでも決起した理由は、ポーランド合衆国が実力で併合に動いた今、併合後の自分たちの立場を確保すると言う保身でしかない。
 自分達は、親衛旅団動いたのは保身からではない。
 本当の義挙のために、動いている。
 こっそりとフォード大尉は胸に秘めた作戦を、心の中だけで確認しつつ、自らが敬愛する司令官を見つめる。
 親衛旅団司令官アルンフォルスト・ハッサウ少将は三十五歳の割には、童顔の影響もあり、かなり若く見られる、狼種には珍しい藍色の髪を持つ青年だ。本人は青年ではなくもうおじさんですよ?と答えているが、彼を見て、おじさんと言える同僚も、下級将校も居ない。それは彼個人の童顔の故もあるが、それだけではなく、彼の周囲にこっそりと、いやちゃっかりとか?造られているファンクラブのような組織の影響もあった。
 ちなみにフォード大尉もそのクラブに入会しており、会員ナンバーは一桁。彼を支える最前線の役目としてクラブの羨望と、期待を一身に集めていた。
 そんなフォード大尉が、決意を胸に秘めている頃から数時間前。
 彼女が気にしている兵站部では何が起こっていたかというと、一つの事件が勃発していた
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