遥かな星のアドルフ

和紗かをる

文字の大きさ
上 下
15 / 35
第3章「黒の家旅団」

3-4

しおりを挟む
「まずは二基設置して煙幕の準備、敵方向八時の方角、距離は七百で設定、でいいですよね教官?」
 森の中に進み、ユリウスが指示するよりも早く軽砲隊は二基の最新型迫撃砲の設置を開始する。
「問題ない、残りの四基を扇状に配置して、弾種は榴弾、距離は三百に設定しておいたほうが間違いないな」
「了解いたしました!」
 最新型迫撃砲の高さは二千五百ミリ、口径百二十ミリで、翼端付弾体を最大射程八百メートルまで運ぶことが出来る。
 組み立ても簡単で、三人の兵士で五分もかからずに設置完了となった。
「煙幕弾行きます!」
 ユリウスが発射照準補正に口を出す前に、フェネが両手を挙げて、ニ基の迫撃砲に、別々な合図を送る。同時に発射したのでは効果範囲と、効果時間が限られてしまうからだ。
 数秒後、それと分かる白い煙幕が湧き上がる。入道雲が地上で発生したかのようなそれは、急速に拡大して戦場を包み込んだ。
「やりすぎ?でしたかね」
 視界一杯に煙幕が広がるのを見てフェネが首をかしげる。彼女の予定ではもうちょっと煙幕は向こう側、自分達ではなく相手側に広がる予定だったのだ。
「馬鹿っ、風を計算してなかっただろう、煙幕の場合は風を計算しておかないと、こっちが煙幕でやられることになるんだぞ」
 ユリウスは迫ってくる煙幕の白い煙に対して、拳銃を構える。右手はモーゼル、左手にはワルサーと、両方ともドイツ連邦が誇る軍用制式拳銃だ。
 両手合わせて十八発の九ミリバラベラム弾を発射することが出来、その効果は一弾倉二十発の軽機関銃と同等の制圧効果がある。
「後退準備!何が飛び出してくるか判らんが、警戒を怠るな、迫撃砲は分解、三分で出来なければ放置して下がれ!」
 煙幕弾の効果は三分。
 その間に撤退準備をしないと、敵は確実にこちらに狙いをつけているだろう。
 戦場でいきなり煙幕が起こったのだ。敵としたら自分達に煙幕が迫ってこないので、多分煙幕を隠れ蓑にして敵が迫ってくると判断するだろう。
 煙幕が晴れてもそこに敵はいず、その向こうに間抜けにも俺たちがぼけっとしていたら、確実に向こうの大砲にやられる。悲しいかな最新兵器である迫撃砲も、大砲には射程距離で勝てない。一度配置されてしまった大砲を迫撃砲で潰すには、気付かれることなく忍び寄っていきなり近距離からズドンが正解だが、相手との距離が開いている状況で見つかってしまえば逃げ場は無い。
 煙幕で相手を包んでいれば、勝機はあったのだ。こちらの位置を悟らせること無く、煙幕弾を随時発射して大砲を無力化。あせって飛び出してきた敵の歩兵を近距離榴弾で撃退というシナリオ。
「まっ、戦争はシナリオ通りにはいかないよな」
 ユリウスの横で、やはり眠たそうな顔をしたまま、フェネが撤退準備をしている。
 これならば間に合いそうだと、気を緩めた瞬間、煙幕を突き破ってそいつらは現れた。
「なんだ?」
「あ~えっと、これは空想科学小説の話ですか?」
 煙幕から飛び出してきたのは中世の騎士もかくやと思わせる集団だった。皮鎧に長槍、弓矢に大剣、レイピアを腰につり、単発式の火縄銃を担いでいる男も居る。
「中世にタイムスリップでもしたのかよ?」
「おっ、あんちゃん、どこの誰だか知らないが、この煙幕は助かったよ、だからついでに逃げるからどっちだい?」
 小柄だが、その体以上に大きなモーニングスターを抱えた少女が声をかけてくる。その上半身は擦り切れてあちこちぼろぼろのなめし皮の鎧。内側が銀色に光っているのは恐らく鎖帷子の類を着ているのだろう。
 少女のように見えてそれだけの装備をしているくせに、煙幕を一番に越えてきたのは彼女が熊種だからだろう。
 熊種特有の耳と尻尾がそれを物語っている。
「おいお前ら何処の誰だよ?何だってハンガリー同盟に追われてるんだ?」
 つい少女の勢いで自分達の後方、第一部隊の本体が居る場所を指差してしまうフェネの頭を軽くたたいて注意すると共に、ユリウスはモーニングスターの少女の道を塞ぐ。構えた拳銃はそのままだったので、モーニングスターの少女は不承不承動きを止めた。
「あんなぁ、あんちゃんこんな場所でにらみ合いとか無駄だって分かってるっしょ?こっちは傭兵、向こうはハンガリーの正規兵、そしてあんたらは、う~ん多分ハンガリーとは仲良くない人らでしょ?だったら仲良くした方が得だって」
「言ってることは分かる、だが仲良くするかは俺が決めることじゃない、とにかく逃げるなら逃げろ、後で話しがしたかったらミュンヘン方面に進んで来い、そしたら話を聞いてやる」
「偉そうに、でも助かる、じゃあ、そういうことで」
 モーニングスターの少女が動き出すのに併せて、煙幕で見えていなかった位置からわさわさと中世風の男達が後に続く。
「煙幕弾再装填、出来るか?」
「準備完了してますよ教官」
 その答えに瞬間的に恐れにも似た感覚が走る。この眠そうなウサギ種に似ただけの人間種は何者だ?少なくとも俺より兵隊能力は上じゃねぇか。
 他の四基の迫撃砲には撤退準備を行っていたフェネだったが、状況をすばやく確認。ユリウスと熊種の少女が話している間に煙幕弾を発射した二基の内の一基に煙幕弾を再装填して待機していたのだ。
「よおし、今度は風向き間違えるなよ!森の上空と地表面では風の流れが変わる場合がある、それに注意して発射!」
「らじゃ~ですっ!」
 再度煙幕弾が撃ちあがるが、着弾点はこちらからは見えない。
 うまく着弾して相手を混乱させてることを祈って、ユリウスは残った迫撃砲の分解を協力して行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...