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第3章「黒の家旅団」
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「いいか、小銃は反動が強い、その分、反動の軽い拳銃よりも遠くに飛ぶんだ、だから拳銃と小銃の使い方と撃ち方は同じじゃない、そう拳銃は右手で握り、左手で、そう、そうだ、左手で引っ張るように構える、これで銃口が安定する、引き金を弾く時、小銃で遠くを狙う時はどうするんだ」
ここはミュンヘン郊外の野営地。
ミュンヘン出陣から既に一ヵ月半の時が過ぎていた。
いつの間にかこの場所は「黒の営庭」と呼ばれ、非公認では有るが黒の家旅団の訓練場となっており、日夜少年少女たちが戦争に関わるあらゆる事を学んでいた。
ユリウスの受け持ちしている少年少女はまだ年端も行かない為、彼の独断で戦闘訓練ではなく後方勤務を割り当てている。その為に彼は日中暇であることが、参謀役でこの旅団の副官でもあるハインリッヒ中尉にばれてしまい、射撃訓練教官に駆り出されたというわけだ。
「羽毛が地面に落ちるくらいのスピードで弾くんでしょ?」
「おお~そうだ、お前は飲み込みが早いな、名前は?」
「ヨナです、ユリウス教官、ヨナ・ゲッベルス十三歳!」
ぴしっと可愛らしく敬礼する少女。着ているのは黒の旅団特製、斑色の軍服だが、ややサイズが合わないようで、どこか借物みたいだ。
人間種が多い黒の家にあって、彼女は動物種であるようだが、白い毛に覆われた耳以外特徴的な部分は少なく、ユリウスは彼女が何種であるか分からなかった。
「そうか、元気は良いが、敬礼する時は武器を降ろせ、間違って発砲したら自分や仲間を傷つける、気をつけるように!」
これが憲兵隊であれば、やった瞬間に殴り飛ばしている。武器を構えたまま敬礼などたとえ弾が入っていなくてもありえない。戦場での事故を未然に防ぐ、それが訓練だからだが、この黒の家ではそこまでは出来ない。
何せ生徒であるのが反抗期もまだかもしれない少年少女なのだ。
いきなり殴り飛ばしたら大泣きされて、事態の収拾を図るので手一杯になってしまう。甘いと言われようが、効率重視。それに素直すぎる少年少女は殴らなくても、些細な叱責で同じ効果が得られている。
既にヨナは厳しい顔つきで、自らの行為を反省しており、安全装置を確認後拳銃はホルスターに収納している。その上でユリウスの前に立ち、審判が下るのを待っている。
褒められた直後に怒られたら、普通の子供なら反抗してくるのが普通だろうし、生意気な口の一つも聞いて、訓練などボイコットするかもしれない。
しかし、この子供達は違っていた。
皆分かっているのだ。自分達が敬愛するアドルフの立場を。
そして彼女についていく為には、厳しい訓練を乗り越えなければ、置いて行かれてしまうかもしれないと言う事を。
この訓練は義務ではなく、権利なんだと言うことを。
「いいかヨナ、武器は生き物を傷つける物だ、それは敵だけじゃなく、味方だって傷つける、ヨナの不注意でアドルフが怪我したら嫌だろう?」
「・・・・・・うん」
「だから、武器を扱うときは注意が必要だって事だ、いつもどんな時でも、武器がその手にある時は、常に自分が大切な仲間を傷つけるかもしれないと思うんだ、いいかヨナ」
「はいっ教官!」
ヨナ・ゲッベルスの頭に軽く手を乗せ一回二回、撫でてからクルリと方向転換させ訓練へと戻す。
本日のユリウスの訓練は近接戦闘の拳銃指導だ。小銃の扱いは武装憲兵隊に居た頃からからっきし下手だったが、拳銃の扱いは部隊で一番だった。
その為、憲兵隊司令から特にユリウスは二丁拳銃を許されており、小銃は持たせるといろんな意味で危険なので、禁止された経緯がある。
「拳銃は二種類の使い方がある、いいか、一つは中距離の相手に対して牽制をすること、射程距離や弾道精度から言って拳銃で百メートル先の相手に致命傷を与える事は困難だ、だが相手からしたらどうだ?当たるか当たらないかではなく、自分に向けて銃弾が飛んでくる、その恐怖は抑えようが無い、よっぽどの馬鹿じゃなければ、撃たれたら隠れるか、伏せるかするだろう、その為に撃つ、それが牽制射撃だ」
基本的な拳銃の有効距離は概ね五十メートルくらいだ。だが俺なら愛用の片方、モーゼルC96に銃床をつけて百メートルが二百メートルでも、相手の急所を狙って負傷させる事は出来るけどな。と思いながらユリウスは説明を続ける。
今、必要なのは職人芸が出来る芸術的な撃ち手ではなく、平均的な能力を持って戦い続ける兵士なのだ。
「もう一つ、これは近接防御の中に入る、つまり塹壕に侵入してきた敵に対して拳銃を使うときだ、こんな時、先ほど教えた様な狙って撃つなんて事は出来ない、だったらどうする?敵と自分の距離が五メートルも離れていない、相手の攻撃と自分の攻撃、どちらか一瞬でも早いほうが命を保つその瞬間、ヨナ、お前ならどうする?」
「はいっ、私なら、相手がそんな近くに来る前に逃げます!」
「んん・・・・・・まあ正しい判断だ、無理せず逃げろ、これはアドルフ旅団長の言葉だったしな、でも、そうだな、じゃあヨナ、君の背後に負傷したアドルフが居たとしよう、君が逃げればアドルフが敵にさらわれる、そんな時は?」
「ナイフを使います、拳銃だと外れた時に二度目が無いかもしれないけど、ナイフなら一度攻撃に失敗しても、もう一度攻撃することが出来ます」
「確かにナイフは重要だし、古来から護身用の武器でもある、だが相手を確実に止める力があるのはやはり拳銃だよヨナ、まず点を狙うという行為を止める、相手のどこかの部位を狙うと外れる、これはまぁジンクス的な話かな、顔だろうが心臓だろうが、狙うと外れるのが近接戦闘の基本だと思っていい、だから近接戦闘の時は相手を点で捕らえずに面で見るんだ、相手の体表面の何処に当たってもいいと考える。そして一つ重要なのが、連射するということだ」
「マガジンに入っている九発全部ですか?」
今度はヨナではなく、その隣で伏せ撃ちの姿勢でいる少年が質問してくる。立ち上がったり敬礼などせず、射撃姿勢を維持しているのが好ましい。
「大人が大人に、質問する時は、その前に名前を名乗るべきだぞ少年?」
「申し訳ありません、ヘルムート・ライオネル・ヴィッツレーベン十四歳です、弾は大事で一発一発心に留めて撃てと聞いたのですが?」
「そうだなレーベン少年、それは遠距離射撃、特に狙撃を行う時は重要な心構えだ、だがさっきも言った通り、君の目の前、お互いが一歩を踏み出しあえば、手が握れる距離に相手は居る、そんな時に心に留めて一発一発撃てる奴は居ない、動揺して一発も撃てないのが関の山だ、だからだ、点ではなく面で、マガジンに入っている弾は全部撃ちつくせ、狙い?知ったことか、相手の居る方向に向けて全部撃てば一発は当たるだろう、もし全部外れるほど間抜けな奴が居ても、いきなり連射を浴びた敵は瞬間的にひるむだろう」
「牽制射撃と同じですね教官」
「うん、まぁそうだ」
今度はレーベン少年と背中合わせに後方警戒姿勢で拳銃を構える赤毛が口を挟む。いちいち名前を聞くのも面倒になって来たユリウスは話を続ける。
「ひるんだ相手に今度こそナイフで立ち向かえば良い、最初からナイフで戦うよりもまずは拳銃から近接戦闘は始めること、いいか、非力なお前らはまず最初はなんだ、ヨナ」
「はいっ、まず考えるのは逃げることです、それが出来ない時、拳銃を使います、最後にナイフで身を守ります」
「満点だ、ではここからは近接戦闘の基本、連射とマガジン交換の最速化訓練を行う、二組に分かれて行動、開始!」
即座に十数人の子供達が二つに分かれて訓練を開始する。それまで無言で周囲に散らばっていた元部下達が指導補佐につくので、ここからユリウスは子供達から離れて、一人司令部のあるテントに向かう
今の黒の家の戦力は、子供がアドルフも含めて八十八人、元武装憲兵隊員が二十四名、ミュンヘン警備部隊から七名の参加で、人数だけなら中隊を名乗れるくらいの数にはなった。旅団というにはまだ程遠いが・・・・・。
武装も着々と強化されていき、それに伴う訓練の時間も多くなってきている。
このまま後半年も訓練に明け暮れれば、今でさえ装備の質は最強な黒の家旅団は、ドイツ連邦最精鋭部隊となる事だろう。
「半年は待ってくれないだろうがな」
既に命令受領から一ヵ月半、そろそろ参謀本部も、その後ろに居るポーランド合衆国も痺れを切らしてくるはずだ。
このまま進軍しなければ抗命罪とか、潤沢すぎる装備補給は横流しの為だったとか、難癖つけてくるだろう。それは避けたいところだ。
「それで本日の会議って事なんだろうな」
今日の会議には、旅団長であるアドルフ少佐は勿論の事、参謀役のハインリッヒ、憲兵隊から補給支援を行っているミント少尉、ミュンヘン警備部隊から無理やり参加したオットー兵曹、子供達の代表として第一部隊長のクローネ、第二部隊長のヴェザリアと、黒の家旅団の幹部が勢ぞろいだ。
そろそろ、作戦に向けての話が出ることだろう。
「ユリウス・アーレルスハイマー准尉だ、入るぞ」
司令部のテントとは言いつつも、別に歩哨が立っているわけでもなく、他のテントと大きさは変わらない。唯一の違いといえばこのテントは女性専用で、その使用者はアドルフだということだけだ。
「や、良く来たね准尉、いよいよ動かないと後ろが騒がしくなってきたんだ、出るよ?」
ユリウスが来る前に話しは決まっていたのだろう、長机の上に広げられた地図を、ユリウス以外の参加者全員が見つめている。
「出るって、作戦は決まってるんだろうな?時間通り到着でなんか遅刻気味な状態だけど、リッヒが説明してくれるんだろう?」
テントの隙間から洩れる光だけなので、内部は暗い。リッヒはユリウスから一番遠い場所で木の棒片手に地図を指し示し説明を始めた。
「では全員そろったことだし、作戦会議を始めよう、アドルフとも相談したんだけど、黒の家旅団の目的はここだ」
バシっと木の棒で地図の一角を指し示す。
その場所は、遅れたせいでなんの説明も受けていないユリウスにとっては、また奇策を取るだろうと考えていた彼からしてみれば予想外の場所だった。
ここはミュンヘン郊外の野営地。
ミュンヘン出陣から既に一ヵ月半の時が過ぎていた。
いつの間にかこの場所は「黒の営庭」と呼ばれ、非公認では有るが黒の家旅団の訓練場となっており、日夜少年少女たちが戦争に関わるあらゆる事を学んでいた。
ユリウスの受け持ちしている少年少女はまだ年端も行かない為、彼の独断で戦闘訓練ではなく後方勤務を割り当てている。その為に彼は日中暇であることが、参謀役でこの旅団の副官でもあるハインリッヒ中尉にばれてしまい、射撃訓練教官に駆り出されたというわけだ。
「羽毛が地面に落ちるくらいのスピードで弾くんでしょ?」
「おお~そうだ、お前は飲み込みが早いな、名前は?」
「ヨナです、ユリウス教官、ヨナ・ゲッベルス十三歳!」
ぴしっと可愛らしく敬礼する少女。着ているのは黒の旅団特製、斑色の軍服だが、ややサイズが合わないようで、どこか借物みたいだ。
人間種が多い黒の家にあって、彼女は動物種であるようだが、白い毛に覆われた耳以外特徴的な部分は少なく、ユリウスは彼女が何種であるか分からなかった。
「そうか、元気は良いが、敬礼する時は武器を降ろせ、間違って発砲したら自分や仲間を傷つける、気をつけるように!」
これが憲兵隊であれば、やった瞬間に殴り飛ばしている。武器を構えたまま敬礼などたとえ弾が入っていなくてもありえない。戦場での事故を未然に防ぐ、それが訓練だからだが、この黒の家ではそこまでは出来ない。
何せ生徒であるのが反抗期もまだかもしれない少年少女なのだ。
いきなり殴り飛ばしたら大泣きされて、事態の収拾を図るので手一杯になってしまう。甘いと言われようが、効率重視。それに素直すぎる少年少女は殴らなくても、些細な叱責で同じ効果が得られている。
既にヨナは厳しい顔つきで、自らの行為を反省しており、安全装置を確認後拳銃はホルスターに収納している。その上でユリウスの前に立ち、審判が下るのを待っている。
褒められた直後に怒られたら、普通の子供なら反抗してくるのが普通だろうし、生意気な口の一つも聞いて、訓練などボイコットするかもしれない。
しかし、この子供達は違っていた。
皆分かっているのだ。自分達が敬愛するアドルフの立場を。
そして彼女についていく為には、厳しい訓練を乗り越えなければ、置いて行かれてしまうかもしれないと言う事を。
この訓練は義務ではなく、権利なんだと言うことを。
「いいかヨナ、武器は生き物を傷つける物だ、それは敵だけじゃなく、味方だって傷つける、ヨナの不注意でアドルフが怪我したら嫌だろう?」
「・・・・・・うん」
「だから、武器を扱うときは注意が必要だって事だ、いつもどんな時でも、武器がその手にある時は、常に自分が大切な仲間を傷つけるかもしれないと思うんだ、いいかヨナ」
「はいっ教官!」
ヨナ・ゲッベルスの頭に軽く手を乗せ一回二回、撫でてからクルリと方向転換させ訓練へと戻す。
本日のユリウスの訓練は近接戦闘の拳銃指導だ。小銃の扱いは武装憲兵隊に居た頃からからっきし下手だったが、拳銃の扱いは部隊で一番だった。
その為、憲兵隊司令から特にユリウスは二丁拳銃を許されており、小銃は持たせるといろんな意味で危険なので、禁止された経緯がある。
「拳銃は二種類の使い方がある、いいか、一つは中距離の相手に対して牽制をすること、射程距離や弾道精度から言って拳銃で百メートル先の相手に致命傷を与える事は困難だ、だが相手からしたらどうだ?当たるか当たらないかではなく、自分に向けて銃弾が飛んでくる、その恐怖は抑えようが無い、よっぽどの馬鹿じゃなければ、撃たれたら隠れるか、伏せるかするだろう、その為に撃つ、それが牽制射撃だ」
基本的な拳銃の有効距離は概ね五十メートルくらいだ。だが俺なら愛用の片方、モーゼルC96に銃床をつけて百メートルが二百メートルでも、相手の急所を狙って負傷させる事は出来るけどな。と思いながらユリウスは説明を続ける。
今、必要なのは職人芸が出来る芸術的な撃ち手ではなく、平均的な能力を持って戦い続ける兵士なのだ。
「もう一つ、これは近接防御の中に入る、つまり塹壕に侵入してきた敵に対して拳銃を使うときだ、こんな時、先ほど教えた様な狙って撃つなんて事は出来ない、だったらどうする?敵と自分の距離が五メートルも離れていない、相手の攻撃と自分の攻撃、どちらか一瞬でも早いほうが命を保つその瞬間、ヨナ、お前ならどうする?」
「はいっ、私なら、相手がそんな近くに来る前に逃げます!」
「んん・・・・・・まあ正しい判断だ、無理せず逃げろ、これはアドルフ旅団長の言葉だったしな、でも、そうだな、じゃあヨナ、君の背後に負傷したアドルフが居たとしよう、君が逃げればアドルフが敵にさらわれる、そんな時は?」
「ナイフを使います、拳銃だと外れた時に二度目が無いかもしれないけど、ナイフなら一度攻撃に失敗しても、もう一度攻撃することが出来ます」
「確かにナイフは重要だし、古来から護身用の武器でもある、だが相手を確実に止める力があるのはやはり拳銃だよヨナ、まず点を狙うという行為を止める、相手のどこかの部位を狙うと外れる、これはまぁジンクス的な話かな、顔だろうが心臓だろうが、狙うと外れるのが近接戦闘の基本だと思っていい、だから近接戦闘の時は相手を点で捕らえずに面で見るんだ、相手の体表面の何処に当たってもいいと考える。そして一つ重要なのが、連射するということだ」
「マガジンに入っている九発全部ですか?」
今度はヨナではなく、その隣で伏せ撃ちの姿勢でいる少年が質問してくる。立ち上がったり敬礼などせず、射撃姿勢を維持しているのが好ましい。
「大人が大人に、質問する時は、その前に名前を名乗るべきだぞ少年?」
「申し訳ありません、ヘルムート・ライオネル・ヴィッツレーベン十四歳です、弾は大事で一発一発心に留めて撃てと聞いたのですが?」
「そうだなレーベン少年、それは遠距離射撃、特に狙撃を行う時は重要な心構えだ、だがさっきも言った通り、君の目の前、お互いが一歩を踏み出しあえば、手が握れる距離に相手は居る、そんな時に心に留めて一発一発撃てる奴は居ない、動揺して一発も撃てないのが関の山だ、だからだ、点ではなく面で、マガジンに入っている弾は全部撃ちつくせ、狙い?知ったことか、相手の居る方向に向けて全部撃てば一発は当たるだろう、もし全部外れるほど間抜けな奴が居ても、いきなり連射を浴びた敵は瞬間的にひるむだろう」
「牽制射撃と同じですね教官」
「うん、まぁそうだ」
今度はレーベン少年と背中合わせに後方警戒姿勢で拳銃を構える赤毛が口を挟む。いちいち名前を聞くのも面倒になって来たユリウスは話を続ける。
「ひるんだ相手に今度こそナイフで立ち向かえば良い、最初からナイフで戦うよりもまずは拳銃から近接戦闘は始めること、いいか、非力なお前らはまず最初はなんだ、ヨナ」
「はいっ、まず考えるのは逃げることです、それが出来ない時、拳銃を使います、最後にナイフで身を守ります」
「満点だ、ではここからは近接戦闘の基本、連射とマガジン交換の最速化訓練を行う、二組に分かれて行動、開始!」
即座に十数人の子供達が二つに分かれて訓練を開始する。それまで無言で周囲に散らばっていた元部下達が指導補佐につくので、ここからユリウスは子供達から離れて、一人司令部のあるテントに向かう
今の黒の家の戦力は、子供がアドルフも含めて八十八人、元武装憲兵隊員が二十四名、ミュンヘン警備部隊から七名の参加で、人数だけなら中隊を名乗れるくらいの数にはなった。旅団というにはまだ程遠いが・・・・・。
武装も着々と強化されていき、それに伴う訓練の時間も多くなってきている。
このまま後半年も訓練に明け暮れれば、今でさえ装備の質は最強な黒の家旅団は、ドイツ連邦最精鋭部隊となる事だろう。
「半年は待ってくれないだろうがな」
既に命令受領から一ヵ月半、そろそろ参謀本部も、その後ろに居るポーランド合衆国も痺れを切らしてくるはずだ。
このまま進軍しなければ抗命罪とか、潤沢すぎる装備補給は横流しの為だったとか、難癖つけてくるだろう。それは避けたいところだ。
「それで本日の会議って事なんだろうな」
今日の会議には、旅団長であるアドルフ少佐は勿論の事、参謀役のハインリッヒ、憲兵隊から補給支援を行っているミント少尉、ミュンヘン警備部隊から無理やり参加したオットー兵曹、子供達の代表として第一部隊長のクローネ、第二部隊長のヴェザリアと、黒の家旅団の幹部が勢ぞろいだ。
そろそろ、作戦に向けての話が出ることだろう。
「ユリウス・アーレルスハイマー准尉だ、入るぞ」
司令部のテントとは言いつつも、別に歩哨が立っているわけでもなく、他のテントと大きさは変わらない。唯一の違いといえばこのテントは女性専用で、その使用者はアドルフだということだけだ。
「や、良く来たね准尉、いよいよ動かないと後ろが騒がしくなってきたんだ、出るよ?」
ユリウスが来る前に話しは決まっていたのだろう、長机の上に広げられた地図を、ユリウス以外の参加者全員が見つめている。
「出るって、作戦は決まってるんだろうな?時間通り到着でなんか遅刻気味な状態だけど、リッヒが説明してくれるんだろう?」
テントの隙間から洩れる光だけなので、内部は暗い。リッヒはユリウスから一番遠い場所で木の棒片手に地図を指し示し説明を始めた。
「では全員そろったことだし、作戦会議を始めよう、アドルフとも相談したんだけど、黒の家旅団の目的はここだ」
バシっと木の棒で地図の一角を指し示す。
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