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第1章「アドルフという名の少女」
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「なんだってこんな役目を、俺が負うことになるんだ?」
ミュンヘンの街中で、オットー兵曹は背後の建物に対してつばを吐きながら、それでも命令書を破り捨てることまでは出来ずにいた。
この命令書はベルリン郊外の参謀本部から、ミュンヘン駐屯の警備部隊に今朝方届いたばかりで、中身については極秘とされていた。
しかし、とオットーは思う。
ベルリンの参謀本部、そこを実質的に動かしているポーランド系の奴らは馬鹿なんじゃなかろうか?と。
つい三年前に人類種に対してのひどい事件が横行し、それに対抗する為に、頼りにならないベルリンの代わりにミュンヘン住民が一致団結した事を奴らは何も分かっちゃ居ない。
ベルリンで極秘のスタンプを押したとしても、それを運ぶ郵便局員であるウサギ種も、受領印を押す陸軍受付のカバ種も、その全員が黒い家の名前と、そこを根城に頑張っている少年少女たちを知っている。
幾ら人類種が多い施設だからとて、ミュンヘンの住民たちは彼らに最大限の便宜を図るし、裏切る様なまねは出来ないし、絶対にしない。
それがミュンヘンっ子である誇りだ。
ミュンヘンの癌であり恥部を、実力で排除したアドルフ達黒い家に対して、ミュンヘンの住民の誰一人として裏切ることなんか出来やしない。
オットー兵曹も生粋のミュンヘン生まれのミュンヘン育ち、下士官学校入学のために、一時期ミュンヘンを離れて、北のキール軍港で生活していたが、下士官に採用されてからは昇進をチラつかされようが、ずっと志願してミュンヘンに居る。
そんなミュンヘンで極秘文書が極秘のまま届くはずが無い。しかもその内容が、黒い家、アドルフに関することならば、ミュンヘンの誰がこの極秘文書を持ったとしても中身を確認することだろう。
勿論オットー兵曹も、彼にこの命令書を渡したワルトリンゲン中尉相当官も中身は見ていた。
「中身が問題だよなぁ、なに考えてんだか、でも憲兵来るって話しだしなぁ」
その中身は、黒い家の総力を上げて、ハンガリー方面に進出。
ポーランドへ敵対行動を続けるハンガリー同盟を監視しつつ、戦争状態へ移行する為の方策を実行せよ。
と言うような内容だった。
つまり、ポーランド合衆国はドイツを代理として、大戦時に煮え湯を飲まされたハンガリー同盟に戦争を吹っかけるつもりなのだ。
けれど、お互い大国同士。気に入らないからと言ってそれだけで戦争が行えるはずも無い。
大義名分が必要で、人も国も正義の名の下に、でなければ戦争はできない。
だから黒い家がハンガリーにちょっかいをかけて、全滅に等しい損害を受ければ、子供だけで編成されている部隊。
その仇討ちの機運を盛り上げた上、堂々と正面から非難決議でも出せば、ドイツ連邦とハンガリー同盟は開戦の道へ進むことだろう。
何を単純なことで?と思うかもしれないが、先の大戦、総勢三百五十万人が死亡したきっかけは、ハプスブルグ大皇国の放蕩王子が、薬のやりすぎで、愛人である青年に間違って殺されたのが原因だったとされている。もちろん、その真相は一介の下級軍人であるオットーが知る由もない。
こんな命令書を届けない、紛失したとする方法もある。
今の参謀本部であれば二ヶ月も放置しておけば自分たちが何を命令をしたのか、確認も出来なくなるに違いない。
実際、そんな実績もある。
砲兵と機関銃小隊の新設に伴う演習を命令しておきながら、燃料弾薬、機関銃や大砲は故ルーデンドルフ指揮の下、確立された鉄道輸送システムでミュンヘンに搬入されたが、肝心要のそれを操作する人間は誰一人来なかったという事もあった。
騎兵による騎馬突撃に対する陣形の調査の為に、何故か大量の農耕馬が輸送されたりしたが、それも結局は参謀本部から来た少佐殿がたいそうなレポートを書いただけで、ミュンヘンに置き忘れていき、今では駅馬車や簡便輸送としてひっそりと利用されていたり。件の少佐は、結局ミュンヘンの土を踏んだのかも怪しいものだ。
一事が万事そんな事だから、伝えたくない命令は伝えなくても大丈夫なのではないか?とオットー兵曹も考えてしまうが、今回だけは違う。
参謀本部はその調子だが、今回はその命令の確認に武装憲兵隊二個小隊がミュンヘンに派遣されて来るとなっている。
武装憲兵隊といえば、ぼろぼろの国防軍の中にあって、規律の象徴とされ、総数で五千も居ないはずなのに、ポーランドやフランスの影響から骨抜きになりかかっている現場を引き締めている。
彼らが居なければ敗戦の年に国防軍は解散し、軍警察という名称に変わっていただろうという有識者も居るくらいだ。
更に近年は武装憲兵隊を組織し、一個小隊で歩兵一個中隊相当と戦える武装と練度を持った部隊を各地に派遣し始めている。
それが二個小隊も派遣されてくれば、歩兵四個小隊、中隊になるには装備が足りていないミュンヘン警備部隊なんぞよりもよっぽど強力だ。
「渡すしか、無いんだろうな・・・・・・」
これをアドルフ達に渡すようオットー兵曹に指示したのは、大戦前に引退したが、この敗戦のせいで人員不足になってしまった国防軍を支えるために現地任用されたワルトリンゲン中尉相当官。
彼の時代、将校になれるのは騎士か貴族のみだったことから、ワルトリンゲン中尉担当官はおそらく元貴族なのだろうが、そんな雰囲気など微塵も出さず、好々爺全開の上官で、普通に考えればこんな命令書は見なかった事にするぐらいの器量はあるように思える。
「それでも、渡してきたって事は、そういうことだよな、あ~あ、しがない宮仕えは悲しいなぁ~」
懐を探り、もう一度命令書を確認してみる。
ミュンヘンの街中で、オットー兵曹は背後の建物に対してつばを吐きながら、それでも命令書を破り捨てることまでは出来ずにいた。
この命令書はベルリン郊外の参謀本部から、ミュンヘン駐屯の警備部隊に今朝方届いたばかりで、中身については極秘とされていた。
しかし、とオットーは思う。
ベルリンの参謀本部、そこを実質的に動かしているポーランド系の奴らは馬鹿なんじゃなかろうか?と。
つい三年前に人類種に対してのひどい事件が横行し、それに対抗する為に、頼りにならないベルリンの代わりにミュンヘン住民が一致団結した事を奴らは何も分かっちゃ居ない。
ベルリンで極秘のスタンプを押したとしても、それを運ぶ郵便局員であるウサギ種も、受領印を押す陸軍受付のカバ種も、その全員が黒い家の名前と、そこを根城に頑張っている少年少女たちを知っている。
幾ら人類種が多い施設だからとて、ミュンヘンの住民たちは彼らに最大限の便宜を図るし、裏切る様なまねは出来ないし、絶対にしない。
それがミュンヘンっ子である誇りだ。
ミュンヘンの癌であり恥部を、実力で排除したアドルフ達黒い家に対して、ミュンヘンの住民の誰一人として裏切ることなんか出来やしない。
オットー兵曹も生粋のミュンヘン生まれのミュンヘン育ち、下士官学校入学のために、一時期ミュンヘンを離れて、北のキール軍港で生活していたが、下士官に採用されてからは昇進をチラつかされようが、ずっと志願してミュンヘンに居る。
そんなミュンヘンで極秘文書が極秘のまま届くはずが無い。しかもその内容が、黒い家、アドルフに関することならば、ミュンヘンの誰がこの極秘文書を持ったとしても中身を確認することだろう。
勿論オットー兵曹も、彼にこの命令書を渡したワルトリンゲン中尉相当官も中身は見ていた。
「中身が問題だよなぁ、なに考えてんだか、でも憲兵来るって話しだしなぁ」
その中身は、黒い家の総力を上げて、ハンガリー方面に進出。
ポーランドへ敵対行動を続けるハンガリー同盟を監視しつつ、戦争状態へ移行する為の方策を実行せよ。
と言うような内容だった。
つまり、ポーランド合衆国はドイツを代理として、大戦時に煮え湯を飲まされたハンガリー同盟に戦争を吹っかけるつもりなのだ。
けれど、お互い大国同士。気に入らないからと言ってそれだけで戦争が行えるはずも無い。
大義名分が必要で、人も国も正義の名の下に、でなければ戦争はできない。
だから黒い家がハンガリーにちょっかいをかけて、全滅に等しい損害を受ければ、子供だけで編成されている部隊。
その仇討ちの機運を盛り上げた上、堂々と正面から非難決議でも出せば、ドイツ連邦とハンガリー同盟は開戦の道へ進むことだろう。
何を単純なことで?と思うかもしれないが、先の大戦、総勢三百五十万人が死亡したきっかけは、ハプスブルグ大皇国の放蕩王子が、薬のやりすぎで、愛人である青年に間違って殺されたのが原因だったとされている。もちろん、その真相は一介の下級軍人であるオットーが知る由もない。
こんな命令書を届けない、紛失したとする方法もある。
今の参謀本部であれば二ヶ月も放置しておけば自分たちが何を命令をしたのか、確認も出来なくなるに違いない。
実際、そんな実績もある。
砲兵と機関銃小隊の新設に伴う演習を命令しておきながら、燃料弾薬、機関銃や大砲は故ルーデンドルフ指揮の下、確立された鉄道輸送システムでミュンヘンに搬入されたが、肝心要のそれを操作する人間は誰一人来なかったという事もあった。
騎兵による騎馬突撃に対する陣形の調査の為に、何故か大量の農耕馬が輸送されたりしたが、それも結局は参謀本部から来た少佐殿がたいそうなレポートを書いただけで、ミュンヘンに置き忘れていき、今では駅馬車や簡便輸送としてひっそりと利用されていたり。件の少佐は、結局ミュンヘンの土を踏んだのかも怪しいものだ。
一事が万事そんな事だから、伝えたくない命令は伝えなくても大丈夫なのではないか?とオットー兵曹も考えてしまうが、今回だけは違う。
参謀本部はその調子だが、今回はその命令の確認に武装憲兵隊二個小隊がミュンヘンに派遣されて来るとなっている。
武装憲兵隊といえば、ぼろぼろの国防軍の中にあって、規律の象徴とされ、総数で五千も居ないはずなのに、ポーランドやフランスの影響から骨抜きになりかかっている現場を引き締めている。
彼らが居なければ敗戦の年に国防軍は解散し、軍警察という名称に変わっていただろうという有識者も居るくらいだ。
更に近年は武装憲兵隊を組織し、一個小隊で歩兵一個中隊相当と戦える武装と練度を持った部隊を各地に派遣し始めている。
それが二個小隊も派遣されてくれば、歩兵四個小隊、中隊になるには装備が足りていないミュンヘン警備部隊なんぞよりもよっぽど強力だ。
「渡すしか、無いんだろうな・・・・・・」
これをアドルフ達に渡すようオットー兵曹に指示したのは、大戦前に引退したが、この敗戦のせいで人員不足になってしまった国防軍を支えるために現地任用されたワルトリンゲン中尉相当官。
彼の時代、将校になれるのは騎士か貴族のみだったことから、ワルトリンゲン中尉担当官はおそらく元貴族なのだろうが、そんな雰囲気など微塵も出さず、好々爺全開の上官で、普通に考えればこんな命令書は見なかった事にするぐらいの器量はあるように思える。
「それでも、渡してきたって事は、そういうことだよな、あ~あ、しがない宮仕えは悲しいなぁ~」
懐を探り、もう一度命令書を確認してみる。
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