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10章 動き出す満腹計画

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ジローや豹に似た動物さん、マルムヘイクさんと一緒になって森をあっちに行ってエイヤッ、こっちに行ってどっこらしょ~としていたら、あっという間に一週間が経過してしまった。
森の一番深い傷の部分は粗方癒し終わり、これからは細かい部分をブクスフィさん達と調整して時間をかけて回復させる段階まで進んだ。我ながら頑張った頑張った。アルナウト父は会うたびにハルは偉い、ハルは偉いと言ってくれるけど、自分で自分で褒めたっていいじゃない?だってわたし文化祭の出し物を、全部一人で準備するぐらい頑張ったんだから。
そして今日は何をしているかというと、自転車を元に荷車を大量生産中だったりする。自転車を見たブレフトとヘイチェルさんの姉弟が、集落を再建するに当たり荷物が楽に運べる道具を欲しがったからだ。兎人の集落は見事なまでに、暴走したウイルズ・アインさん達に破壊し尽くされていて、家の跡形も残っていなかったらしい。その再建にはアーベ砦の周囲を囲んでいた壁を使用することにしたらしいんだけど、とにかく重いし、道中には癒したばかりの木々もあるから運ぶのが大変で、作業が遅々として進んでいなかったのだとか。そんな時に自転車に乗り吹っ飛ばされそうになりながら移動する私を見て、同じような物が作れないかと相談してきたのだ。
そこで私が考えて、考えて、思い出しつつ作ったのが二種類の荷物を運ぶ道具。
ひとつは、異世界ファンタジーにはありがちな荷車。木の箱に車輪と引っ張るための棒がついているあれだ。ロバにでも引かせると雰囲気が出る。荷台に子牛を乗せたら、どなどなどな~♪とか言いたくなるってシロモノ。
だが、それだけじゃないんだな~。
この荷車には実は秘密があって、箱の四隅を内側にたたむことが出来、荷台の幅が変更可能なのだ。
すごいでしょ、えっへん♪
そうする事で、狭い場所でも移動可能となっている。そしてもうひとつの荷物を運ぶ道具が工事現場で見かけるアレ。正式名称を私は知らないけれど、大きな一輪車と思ってもらえれば良い。一輪の上に荷台がついていて、手で操作する用に棒が二本突き出ている。
土とか運ぶのに便利そうな工事現場の味方。こっちは壁を運ぶのには不向きだけど、家を再建するのには絶対役に立つはず。土台作りはかかせませんって奴だよ、うん。
森の復旧作業にも役立つし、農作業にも使える人類の叡智だ。正式名称は知らないからジロー車とでも名づけておこう。
二本に分かれた尻尾を下にして、フヨフヨと空中に浮いてる様は雰囲気が似ているし、とても楽チンそうだったからだ。
「さて、これ以上作ると邪魔になるから、一回休憩かな?」
荷車とジロー車を合わせて五十位作ったら、自分の周囲が木製専用駐車場の様になってしまった。作っても置く場所に困るから一回作業は中止っと。
そうなると、しっかり仕事をしたぶん、体はしっかりとした要求を行う。
ぐぅぅ~
いつぞやのゴゴゴゴォみたいな、恐ろしい腹の音ではなく、適度な空腹が作り出す可愛げのある音だ。食べ物が少なくなっているとの話だったが、ブクスフィが謝礼として果物などを差し入れてくれたり、森に散った動物たちからも何がしかの感謝の印が送られてくるので、このままでも、一冬を越す位ならなんとかなるとヘイデェルさんが言っていた。
そういえばユルヘンは数日前にアーべ叔父と一緒に一回ホラント村に戻って行った。アーベ叔父は今回のことを領主様に報告すると言い、ユルヘンは家出みたいに出てきたけど、やっぱり自分の家が心配だからと一緒について行った。
私はその頃、月が東で日は西なのか?くらいの感覚で走り回っていたので、ユルヘンが居ないことにしばらく気づけなかった。
ユルヘンに帰れる家があるのは良い事だ。私はアルナウト父が一緒に帰ろうと言ってきても帰る気おきない。あの姉と兄と仲良く食べ物を分け合うとか想像できないからだ。必ず取り合いになって非力な私はご飯を奪われて、またまた飢える事になる。それは絶対に嫌だ。
「ん?あれはアーベ叔父さんと、ヘイチェルさんかな?帰ってきたんだ」
作業を止めて、何かお腹に補充しないと、と周りを物色していたら狩小屋の前で話し込む二人を見つける。そういえばこの二人って他種族なのに仲が良すぎはしませんかね~。アーベ叔父が狩小屋で過ごしている時にヘイチェルさんが通い妻とかしていたりして・・・。アーベ叔父は見た感じ独り身だし、そうなったらそうなったで、ハッピーな話だね。
そんな下世話な事を考えつつも、口元は微笑んでしまいながら二人に近づくと、どうやら二人はそんな雰囲気ではまったくなく、どちらかといえばかなり重い雰囲気で話をしていた。
「そう、ホラント村にはもうほとんど人が居ない、領主の館には伝言が残されていて生きている人は居なかった、現領主は中央へ持てるだけの物をもって逃げたようだ、庭には兵士と見える男たちが数十の単位で倒れていてな・・・」
「えっそれじゃあ、あの子たちの親御さんとか、アルナウトさんの家族とかは?」
「わからん、どっちの家にも人は居なかったが、共同墓地には焼かれた死体が大量でな、生きているか死んでいるかも判らないんだ」
「でも暴走したウイルズ・アインは兵隊さんが追い払ったんでしょ?なのになんで・・・あっ」
「そう感染病だ、ここで俺もなったアレだ、我々はハルの機転とケットシーの魔法で何とか生き残ることが出来たが、そもそもあの村には領主の館を含めても魔法を使える人は居ない、医師は居ただろうが、あの感染力だ対応できたとも思えない・・・」
「酷い・・・あっ」
アーベ叔父さんの話から、顔を背けたヘイチェルさんと目が合ってしまった。
「えっ、あっ、うっ」
自分でも何を言ってるのか判らない。
ホラント村に生きている人は居ない?あの怖い姉も、冷酷そうな兄も、無関心っぽい母親ももう居ない?
それに顔は見ていないけど、たぶん百人近い人が住んでいたあの村が今は無人なんて・・・。
私たちは生き残ったけど、その裏で病に苦しむ人が大量に死んでいたなんて・・・。
ホラント村にウイルズ・アインさんが向かったのを私は知っていたはずなのに・・・。
暴走したウイルズ・アインさん達が病気になっていて、それが人にうつる事も判っていたはずなのに。
「な、なんで、私、気づ、か、なかったん、だろう・・・」
気づいていれば、戦いが終わって数日ぼうっとしていないで、すぐにジローとヘイチェルさんに頼んで村の様子を見に行けば、間に合った人も居るかもしれない。
あの病気はジローの水魔法で作った水があれば簡単に治る。それは私自身が体験しているし、生き残ったウイルズ・アインさん達をみれば判る。
私はなんでそんな簡単な事に気づかなかったんだろう?村には良い思い出が無いから?あの怖いヒセラ姉と、冷酷美少年のシーム兄なら何があっても自己責任だ。とか思っていたから?どちらもそうだ。私は心のどっかでそう思っていた。姉とか兄とかを助けようとは露ほども思わなかったし、母親なんか思い浮かべもしなかった。アルナウト父を見舞いにも来ない家族を批判していたくせに、私はもっと酷いことをしたかもしれない。
「ご、ごめ、ん、なさい」
意識せずに涙があふれてくる。これは私じゃなくてハルの涙かもしれない。私にはきつくて冷たいだけの姉や兄だったけど、ハルにとっては本当の血のつながりのある家族だったんだ。嫌な思い出ももちろんあっただろうけど、それだけじゃないはずだ。きっと心が温まるような時もあったに違いない。
それを、全部ぶち壊したのは私だ。
「だめっ、ハルちゃんは悪くないっ!だってここに居るアーベさんも、私も誰も気づかなかったんだから、それを全部ハルちゃんが悪いって言わないし、誰にも言わせないよ」
ガバッと、ヘイチェルさんが体当たり気味に、私をきつく抱きしめる。
「で、で、でも、気づくのが出来てれば、私には助けられる方法があったのに」
「本当だったら薬師見習いの私が気づかなきゃいけなかった、ハルちゃんは私が出来なかったここの人たちを救ってくれた、それだけだってすごい事なんだよ」
そうなのかもしれない。でも、それを私はハルに言うことが出来る?ハルの家族を救わずに他の人や動物を助けていたから間に合わなかったと。それに私にはぼうっとしている時間が合った。出来ることを出来るだけするなんて、とんだお笑いぐさだ。
「でも、でもっ」
ペシッ
「いい加減にしろハルっ、今更悔やんでも遅いし、お前は聖人様じゃないんだ、普通のただの子供なんだ!それ以上いうなら、今度は痛くて座れない位にお尻を叩くぞ!」
 アーベ叔父がそういいながら、私の額をペシっ弾いた。痛くは無かったけど、それでも泣き止まなきゃいけないと目に力を入れる。
今更悔やんでも遅い・・・。そう生きているか死んでいるかまだ判らないんだ。もしかしたら頭が良さそうなヒセラ姉の事だ。逃げる領主様を家族全員で手伝って一緒に逃げていたとしておかしくない。中央がどこだか判らないけど、そこで領主様の庇護の下、新しい生活を始めているかもしれない。そんな可能性だってない訳じゃないんだ。
私は自分と自分の中に居るハルにそう言い聞かせて、涙を止めた。
「よしよし、とにかくまだハルちゃんは小さいんだから、今日は良く食べて、よく寝よう、それにアーベさん!こんなに可愛いくて健気なハルちゃんのお尻を叩くなんて駄目ですからね!」
ヘイチェルさんに背中を撫でられながら、私はそのまま眠りに落ちてしまった。
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