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2章 月下の幼女
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ユルヘンから貰った干し豆と干し肉を食べたおかげで、何とか満腹にはならないまでも、目が回る様な飢餓状態からは脱することができた。
逃げ出したスヒァー達もユルヘンの誘導よろしく柵の中に帰り、それではお互い家に帰りましょうってなった時に、それは起こった。
あたりはすっかりと暗くなり、外灯なんか無いこの世界は日が落ちたら真っ暗闇になるのかと思っていたけれど、日と交代で上ってきた二つの明るい星のお陰で、足元くらいは見える明るさがあった。
「今日のポボスとデイモスは光が強いね、これだけ明るかったら滝の妖精にもあえるかもしれないね、ハル」
「う、ううん、そうかも、ね」
ポボスとデイモスってなんぞ?
あの上空にある円形じゃなくて楕円形?みたいな二つの岩の塊にしか見えないやつの事かな?夜空に輝くのは円形の物って思っていたけど、なんかラグビーボールみたいなものも、月みたいに、夜空にあるんだねぇさすが異世界。とか思っていたら、正面に危険が迫っていたのに気がつかなかった。
「ぐべし」
ぼんやりと上空を眺めながら歩いていたら、何かが顔面にぶつかってきた。顔を抑えて痛みに耐えるってほどではないけど、痛いのは痛いし、なんか嫌な感じがする。
足元を見ると、枯れた小枝。
これが私の顔面に飛んできたに違いない。
そして、飛んできた方向には、二つの歪な月の光を受けて仁王立ちしている女性がいた。
「あ、あの・・・」
「あら、ユルヘンこんばんは、我が家の駄目な妹がいつも迷惑をかけてごめんなさいね。ユルヘンももうこんな時間なんだから、お家に帰らなければ駄目よ、しかられてしまうわ」
「あっ、はっ、はいっ~、すぅ、すみませんヒセラさん!すぐにかえりますぅ~」
横を見ると、先ほどまでゆったりとした余裕が見え隠れしていたユルヘンが顔を真っ赤にして緊張している。
体の動きも変で、いやにギクシャクしている動きだなと思うまもなく。持ち前の快速で来た道を戻って行った。
「え?ええ~」
そんな、こんな、なんか凄い迫力ある人の前に置いていかないで~。
さっき、なんか友情っぽいこと言っていたじゃない、薄情者~。
「ハルっ」
「はっはひっ」
ヒセラと言う女性の圧がすごい。
大きな声ではないけれど、なんていうか体の奥底に震えが走るような感じで、口もうまく動かない。
「仕事は終わったの?」
「えっ、あの、ちょっとしか・・・」
私の言葉が終わらない内に、ヒセラさんの目つきがすっと鋭くなり、怒りが内部で溜め込まれているのが判る。
「ハル、私はね、なにもハルだけをことさらにいじめたり、嫌がらせしているわけじゃないの、これでも私は家族が好きよ、だからもちろんハルにも優しくしたい」
「・・・」
話の内容を文字で見るなら、別に怖い事もおそろしい事も言っていない。けど私の内心はガクガクブルブルで、腕には鳥肌が立って、背中に冷たい汗が流れる。
「でもね、ハル、私が働きに出ている領主様のお館前で倒れたり、仕事もろくにせずに回りの子供たちにも迷惑をかける妹って、どう思う?」
口調は相変わらずゆったりとして、怒声ではないけれど、怒鳴られるよりむしろ怖い。
「・・・」
バシンっ
何かがヒセラさんの手元から電光石火の速さで放たれ、私のおでこにあたった。たぶんさっきと同じような小枝だろう。
「ど、う、お、も、うって聞いてるの!ちゃんと答えなさい!」
「ひっ、あ、あの、えっと、ごめんなさい」
「またそれなの?ハルゥ~、いい加減にしなさいもう七歳でしょう、来年には見習いも始まるのよ、同じ歳の時には私は領主様からのお声がけで働きに出てたのに、誤れば終わるなんて思っているんじゃないでしょうね?」
「そ、そ、それは、そんな事、ない、です・・・」
「あらそう、ならお仕置きは覚悟してるって事ね」
何をされるんだろう?どうも良く判らないけれど、話を聞いているとこのヒセラさんは私の姉みたいだ。なんで姉が妹にこんな言い方するの?
兄である酷薄美少年シームと言い、このヒセラ姉といい、ハルとの関係は最悪だ。よく今までハルはこんな兄と姉と一緒に生活できたよね?
「覚悟しているならお仕置きするわ、いいのよね」
ヒセラ姉の手元に、今度は木刀と同じくらいの太さと長さを持った木の枝が握られた。
あの枝で私を叩くのがお仕置きなのだろうか?あんなので思いっきり叩かれたら、打ち所が悪ければ骨折してしまうのに。
でも、さすがに姉と妹、手加減はするだろうし、本当に骨折させたら治療が面倒
だし本気ではない筈。
ここで一発叩かれてそれでお仕置きが終わり、その後に曲がりなりにも草よりま
しな夕飯があるのなら耐えてみせる。
「えいっと、うまくいかないわね」
枝を軽く素振りするヒセラ姉。
ちょっとこの人、凄い力じゃない?素振りしてるだけで風がびゅんびゅん言って
るんですけど・・・。
「ちょっと叩かれやすいように、前に出なさい」
酷い要求だ。痛いのは嫌なんだけど、でも、ご飯のためなら仕方がない。ぐっと
奥歯をかみ締めて、なるべく痛くなりませんように、と祈りながら足を前に出そう
とした。
逃げ出したスヒァー達もユルヘンの誘導よろしく柵の中に帰り、それではお互い家に帰りましょうってなった時に、それは起こった。
あたりはすっかりと暗くなり、外灯なんか無いこの世界は日が落ちたら真っ暗闇になるのかと思っていたけれど、日と交代で上ってきた二つの明るい星のお陰で、足元くらいは見える明るさがあった。
「今日のポボスとデイモスは光が強いね、これだけ明るかったら滝の妖精にもあえるかもしれないね、ハル」
「う、ううん、そうかも、ね」
ポボスとデイモスってなんぞ?
あの上空にある円形じゃなくて楕円形?みたいな二つの岩の塊にしか見えないやつの事かな?夜空に輝くのは円形の物って思っていたけど、なんかラグビーボールみたいなものも、月みたいに、夜空にあるんだねぇさすが異世界。とか思っていたら、正面に危険が迫っていたのに気がつかなかった。
「ぐべし」
ぼんやりと上空を眺めながら歩いていたら、何かが顔面にぶつかってきた。顔を抑えて痛みに耐えるってほどではないけど、痛いのは痛いし、なんか嫌な感じがする。
足元を見ると、枯れた小枝。
これが私の顔面に飛んできたに違いない。
そして、飛んできた方向には、二つの歪な月の光を受けて仁王立ちしている女性がいた。
「あ、あの・・・」
「あら、ユルヘンこんばんは、我が家の駄目な妹がいつも迷惑をかけてごめんなさいね。ユルヘンももうこんな時間なんだから、お家に帰らなければ駄目よ、しかられてしまうわ」
「あっ、はっ、はいっ~、すぅ、すみませんヒセラさん!すぐにかえりますぅ~」
横を見ると、先ほどまでゆったりとした余裕が見え隠れしていたユルヘンが顔を真っ赤にして緊張している。
体の動きも変で、いやにギクシャクしている動きだなと思うまもなく。持ち前の快速で来た道を戻って行った。
「え?ええ~」
そんな、こんな、なんか凄い迫力ある人の前に置いていかないで~。
さっき、なんか友情っぽいこと言っていたじゃない、薄情者~。
「ハルっ」
「はっはひっ」
ヒセラと言う女性の圧がすごい。
大きな声ではないけれど、なんていうか体の奥底に震えが走るような感じで、口もうまく動かない。
「仕事は終わったの?」
「えっ、あの、ちょっとしか・・・」
私の言葉が終わらない内に、ヒセラさんの目つきがすっと鋭くなり、怒りが内部で溜め込まれているのが判る。
「ハル、私はね、なにもハルだけをことさらにいじめたり、嫌がらせしているわけじゃないの、これでも私は家族が好きよ、だからもちろんハルにも優しくしたい」
「・・・」
話の内容を文字で見るなら、別に怖い事もおそろしい事も言っていない。けど私の内心はガクガクブルブルで、腕には鳥肌が立って、背中に冷たい汗が流れる。
「でもね、ハル、私が働きに出ている領主様のお館前で倒れたり、仕事もろくにせずに回りの子供たちにも迷惑をかける妹って、どう思う?」
口調は相変わらずゆったりとして、怒声ではないけれど、怒鳴られるよりむしろ怖い。
「・・・」
バシンっ
何かがヒセラさんの手元から電光石火の速さで放たれ、私のおでこにあたった。たぶんさっきと同じような小枝だろう。
「ど、う、お、も、うって聞いてるの!ちゃんと答えなさい!」
「ひっ、あ、あの、えっと、ごめんなさい」
「またそれなの?ハルゥ~、いい加減にしなさいもう七歳でしょう、来年には見習いも始まるのよ、同じ歳の時には私は領主様からのお声がけで働きに出てたのに、誤れば終わるなんて思っているんじゃないでしょうね?」
「そ、そ、それは、そんな事、ない、です・・・」
「あらそう、ならお仕置きは覚悟してるって事ね」
何をされるんだろう?どうも良く判らないけれど、話を聞いているとこのヒセラさんは私の姉みたいだ。なんで姉が妹にこんな言い方するの?
兄である酷薄美少年シームと言い、このヒセラ姉といい、ハルとの関係は最悪だ。よく今までハルはこんな兄と姉と一緒に生活できたよね?
「覚悟しているならお仕置きするわ、いいのよね」
ヒセラ姉の手元に、今度は木刀と同じくらいの太さと長さを持った木の枝が握られた。
あの枝で私を叩くのがお仕置きなのだろうか?あんなので思いっきり叩かれたら、打ち所が悪ければ骨折してしまうのに。
でも、さすがに姉と妹、手加減はするだろうし、本当に骨折させたら治療が面倒
だし本気ではない筈。
ここで一発叩かれてそれでお仕置きが終わり、その後に曲がりなりにも草よりま
しな夕飯があるのなら耐えてみせる。
「えいっと、うまくいかないわね」
枝を軽く素振りするヒセラ姉。
ちょっとこの人、凄い力じゃない?素振りしてるだけで風がびゅんびゅん言って
るんですけど・・・。
「ちょっと叩かれやすいように、前に出なさい」
酷い要求だ。痛いのは嫌なんだけど、でも、ご飯のためなら仕方がない。ぐっと
奥歯をかみ締めて、なるべく痛くなりませんように、と祈りながら足を前に出そう
とした。
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