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序章

さいしょのこと

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 学校からの帰り道。
 突然、すごく一杯の水に包まれたかとおもったら、すぐに足元が地面から離れて、そこからくるくる、くるくると宙返りの様な状態。
 気持ち悪くて、もう無理なんだけど・・・と、喉元をせりあがってくる何かを必死に耐えていたら、これまた突然宙返り状態が終った。
 水に包まれたから、当然体中は水浸しでおばあちゃんに買ってもらった新しい制服もびっちょり。このまま歩いて帰るのはシンドイなぁとか考えながら、目を開けると・・・。
「はぇっ?」
 なんか、いつもよりも少し高くて幼児臭い声が出たけど、今は気にしていられない。
 目を開けて見えた先には、アスファルトも、海沿いにあったテトラポットもなくなっていた。学校からの帰り路で、いつも見えていたタワーマンションとか、どっかの会社の自社ビルさん、やたらデカくて新しいショッピングモールなんかの姿も無い。
 見えるのは、山の緑と木の葉の緑と、草の緑とか、つまり緑色ばかり。
 見慣れたコンクリートがどこにもないっ・・・。
「夢って展開はありなのかしら?」
 最新型のなんとか言う頭にセットするゲーム機でも、再現不可能と思えるくらいに自然な自然・・・。冗談でもなんでもなく、私の周囲にはそんな世界が広がっていた。
 古典的な方法として、軽く頬を叩いてみるが、しっかりと痛い。
「えっと、こんな時の対処法ってなんかあるのかしら・・・」
 どっかの馬鹿がこんな状況に憧れるとか、ほざいていた気がする。
 あれは確か、同じクラスになったばかりの坂口だ。二~三人の集団になって、何やら卑猥な、胸が異常にデカくて、顔が小さい露出狂的な服装の女性キャラが大きく書かれている本を見せながら、なんだっけ、なんか言ってたな。
「あ~異世界転生!俺もしたいなぁ~」
 だったかな?
「って、異世界?ここ異世界って奴なの?本とかアニメで流行していたのは知っているけど、実際に異世界とかあるの?ドッキリじゃなく?」
 私程度に、こんな大掛かりなセットを組んでドッキリをしかける利点は全くない。私は売れてるアイドルとかではないし、もちろん有名人のかけらも持って生まれていない。
 ただただ、教室の隅で静かにしている自称文系キャラだ。
 友人の登美子には、眼鏡があったらアンタ絶対に図書館に入り浸ってそうなタイプに見えるとか、失礼な事も言われる私だ。
 そんな私が、どんな抽選に当たって、異世界に来ちゃったのよ~。
 それに異世界に転生するとかだと、ほらっ、呼んだ相手とか、天上の神様だとかが現れて何か有用なアドバイスとか、世界一になれるスキルとかくれるんじゃないの?
 それを有効活用して、俺様すげぇって自慢して、敵対する貴族とかにざまぁとか笑いかけて、そんでそれから様々な種族の女性を侍らせて、いちゃいちゃハーレムするもんでしょう?なのに、誰もいない。
見渡す限り、動いているのは雲だけってどういうこと!
「もしかして私が女だから・・・?坂口みたいな馬鹿な男だったら、そんな王道展開とかもあったのかもしれないの?」
 ちょっと、思考が混乱していると自覚する。
 落ち着こう・・・。
 右手を心臓の位置にあてて、深呼吸する。
「あれ?」
 感触が変だ。
 卸し立ての新しい制服を着ていた筈なのに、手のひらに感じる感触はザラザラで、ちくちく。それに・・・。
「ない・・・、なんにも無い、つるぺったん・・・」
 一応ね、同学年の中で、平均以上はあった筈なのよ?
 もちろん凄い大きい娘とかもいたけど、それは特別。私には私らしい、普通の、ううん、普通よりも少しだけ大きな胸があったはずなのよ・・・。
「それが、なんで・・・」
 ペタペタ・・・。
 右手で確認して、左手で確認して、やっぱり。
 ペタペタ・・・。
「さようなら、異世界、もう私はやっていけません、どこの誰が私をこんな場所に放り込んだのか知らないけど、さようなら、もう二度と異世界なんかに会いたくありません」
 目を閉じて、瞳をぎゅぅぅっと瞑ってみて、そこではっと気づく。
 どうやったら、ここから出れるのかしら?
 自殺するしかない?
 でもなぁ、痛いのは嫌だし、なんかお腹も減ってきた。
 ペタペタでも、まぁこれから成長もするだろうし。
 とにかく、今はお腹減ったし喉も乾いてきた、だから少し歩いてみようかしら。
 そうして、私は異世界の一歩を歩み出したのだった。
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