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第2章 ここらあたりで救いがなければ物語としては不十分で即終了だ、でもこれが救い?

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初めての魔法術式を打ち消した成果に浮かれていた俺は、見張り番交代の時間をついつい忘れて、ファル先生相手に、あーでもないこーでもないと術式についての講義を延長で行ってもらっていた。インプに生まれて初めての成功体験って奴がよっぽど嬉しかったんだろうな俺は。そのせいで、見張り交代にやってきた俺以外のもう一人のインプの存在に気付くのが遅れた。ついさっきまで偉そうに講釈を垂れていたファル先生は、おれよりいち早くインプに気づき、姿を消していた。
 恥ずかしがりやとかじゃなく、物理的にはただの虫サイズのファル先生は不意に手で叩かれただけでも死ぬ可能性があるか弱いからだだ。蚊の様にぴしゃんと手でたたかれたら、ぺしゃんと潰れて、たまに田舎の車道で明け方に見られる、せんべいの様になった狸と一緒になってしまう。俺の時もこっちが黒猫関連の異世界人だと判るまでは、姿を主張してなかったし。俺が鈍感で気づか蚊な型だけと言う噂もあるが・・・。
「・・・交代の時間・・・」
「あっ、ああ、そうだった、そうだった、ついつい見張りに集中しすぎて忘れていたぜ、じゃあ、後よろしくな」
 交代に来たインプの脇を取りぬけて小屋へと向かおうとすると、インプがこちらに片手で合図する。
「少し話したい、今までとこれからの事、大事な話・・・」
 驚いた!正直に言って驚天動地レベルの驚きだった。
 インプって奴は、かつて御者の中級悪魔に殺された奴らも含めて、自我が存在しないんじゃないかって位に言葉が少なく、自分の意思を表明しない。
 上級の悪魔に言われたことをただ黙々とこなすだけで、死が目の前に迫ってきても、逃げようとか反撃しようとか考えない、木偶の様な生き物だと思い込んでいた。
 だけど、よく考えたら俺はインプだ。その俺は無感情でも無反抗でもない。
 インプにしてみれば饒舌で、ファル先生ともしっかりコミュニケーションが取れている?うん、取れている筈。まぁそんな俺がインプなんだから、他のインプだって自我があって、自分の考えがあって行動していたんだろう。俺が気づかなかっただけで。
「あ、ああ、そうだよな、いきなりこんな場所に連れてこられて戦の最前線だとか言われても、俺たちには無理な事ばっかりで、大変だよな、お前も何か言いたいこと溜まっているんだろう?」
 う、ううん、やっぱり俺はコミュニケ―ションに難がある。あの時まともに会話した最後の人間がいじめ対策で隣の学校から派遣されてきたいがぐり岩石顔のカウンセラーだったから、その話し方を真似してしまった。
 当時の俺はそのなんでも判っているし、その答えも判ってる、すべてはいじめた側、いじめられた側双方に問題があるみたいな話し方に、須郷嫌な気持ちになった。
 一方的に貶められ、言葉と力で抑圧してきた相手に対して、俺も悪いことがあったかもしれないよごめんなとか言えるわけがない。こみあげてくるのは、嫌悪感と恐怖感のみ。
 最後の瞬間の少し前、含み笑いが透けて見えるいじめっ子が、形だけでも謝罪をしている横で満足そうに頷くいがぐり岩石顔のカウンセラーと、その肩を叩く神経質そうな教頭の顔。俺はその場を飛び出して屋上へまっしぐらだった様な気がする。
 今考えても衝動的で、子供じみた行動だとは思うけど、それでもあの時の俺はそうするしかなかったんだ。よく命のなんちゃら電話とか、自殺者が出ると必ず一コマ流れるけれど、あれってまったく意味がないと思ってる。あれで救われる人が居るんなら、その人はそんなものが無くても救われる力が自分の中にあるんだともう。
 そうじゃなくて、自分で自分を救うことが出来なくなってしまった人が最後の最後に縋りつく場所として電話したのに、返ってくるのはどっかの専門書に書いてあることばかり。しまいにはこちらから歩み寄ってみれば世界の見え方が変わるかもしれないとかお題目を唱え、救いを求めて来た人を奈落に落とすのが趣味なのかと言う対応。
 もちろん誠意も熱意もあって、そうじゃない人も居るんだろうけど。じゃあたまたまそうじゃない人に当たった人は運が悪かったから、諦めて自殺しなさいとでもいうのかね?
 って、ちょっと古い腐ったようなじくじくとした傷を思い出して、熱くなっちゃったぜ。とにかく今の俺は異世界でインプやってる。うん、ただのインプじゃない。ファル先生の弟子って名のインプだ。そこらのインプと一緒にするなよ?とか言ったら少し格好いいかな?
「お前はすごい、ただのインプじゃないと感じていた、俺も同じように強くなりたい、だけど俺たちはインプで、碌な武器も防具も無いし、武芸を教えてくれる人も居ない」
「まぁな、俺たちに武芸教えても意味がないと上の奴らは思っているだろうし、武器だって潤沢にあるわけじゃないから、戦えないインプよりも下級悪魔とかに渡すよな普通、俺だって武器も防具もないぜ、言うなれば同じ身の上って奴だ」
 しかし、本当に戦が始まったら武器だけは確保したい。ファル先生の教えは守りには有効かもしれないが、勝つには、攻めるための武器が居る。それが味方から支給されないなら、敵から奪うしかないんだろうが、インプがまともにやって勝てる相手は少ない。
「戦は始まる、それは判る、だが俺たちには無もない、囮か盾しか役目がないと、死ぬ、どうしたらいい?」
 足手まといの叩けないインプがなぜ戦に居るかと言えば、やっぱり囮とか肉の壁を形成するためにだろうなぁ、普通なら戦って相手を倒すところを、インプには求められていない。
「味方がくれない物は敵から奪うしかねぇだろうが、戦って勝てる相手じゃねぇ、なら協力して罠に嵌めて、身ぐるみ剥いじまうしかねぇな」
「罠?」
「ああ、そうだ、ここは森で罠の材料なら一杯あるし、幸い戦の前哨戦、さらにその前での斥候合戦はこの近くで始まる、そうだよ、罠をいっぱい作って敵の武器と防具をかっさらううんだよ!」
「おお?かっさらう~!」
 意味が分かっているのか少し怪しいが、とにかく俺ともう一匹のインプは2人がかりで、敵が来るだろう方向に向けて罠の設置を始めた。
 昼は罠の設置、夜はファル先生と術式の勉強と効果的な罠の作り方を学ぶ。
 体の寸法が虫サイズしかないくせにファル先生が考案する罠はなかなか刺激的だ。
 1つの罠では非力だったり回避されてしまうかもしれないが、そこは非力さ故の根性で罠の大量生産をおこない、見張り小屋から向こうは罠だらけで、野生の魔物も現れない罠天国となっていた。
 記念の100個目の罠を設置した時、インプ同士でハイタッチしたのはい思い出だ。文化祭のノリとかよく覚えていない・・・、うんごめんなさい、嘘ついた。俺は文化祭なんか味わった事は無い。覚えていない前に、脳に記憶として焼き付いた事が1度もない
クラスの出し物が何かを聞かされる前に、クラスの中心を制圧したグループからいじめられ、その他大勢のクラスメイトと言う無機質な名を持つ、和訳すると学友とかって絶対に意味違うだろっとか叫びたくなる名前の奴らは、目先の自分たちの幸せの形である文化祭を汚されない様に、ありていにいって俺と俺にかかわるすべてを無視した。
 クラス全員から無視か抑圧と言う名のいじめを受けている中で、文化祭と言うキーワードは漫画の中だけのものとなっていた。中学で3回の文化祭のシーズンを越えて登校していたはずだけど、文化祭が実在する物とは最後まで判らなかった。
 だが今は遊びのウソが蔓延る子供だましな文化祭のアトラクションとは大きく違う。おっきな大人の兄さんお姉さんでも、満足すること間違いなしの阿鼻叫喚が味わえる!かもしれない罠の数々100連発。全部無傷で乗り越えたら、豪華景品何もなしで、逃げるインプと下級悪魔の背中と、その先に斥候目標としては重要な砦が見えますよみたいなアトラクション。
 多分世の中の中学生が必死で作った文化祭の何かより、命のやり取りが出来栄えに直結するこの罠天国のが品質も熱意も量も上だろうな。もう文化祭なんて参加する事は一生無いかも知れないけど、参加したことが無いから、こっちのが楽しいって事にしておこう。
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