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合宿最終日の朝のこと
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合宿最終日、三日目。
朝の練習が始まる、ずっと前。
たぶん明け方くらいに私は悪夢にうなされていた。
たぶん寝る前の出来事がショッキング過ぎて、それが影響したんだろう。
私はなぜか荒野に居た。
さらに何故か誰かに追われていた。
追ってくるのは海兵隊?とかに見える兵隊さんたちが一杯。
薄暗い天気の荒野を逃げていると、ポツリと教会が見える。
これだけは現実と同じですでに息が切れていた私は、教会に逃げ込み、いくつも並んだベンチの様な椅子の下に隠れる。
ベンチの下から窺うと、教会の入り口が見える。
ここで息を殺してやり過ごそう。
そう思いつつ、自分の武器を確認。
これも何故か私は女ではなく、追ってくる兵隊さんと同じ屈強な男で、胸ポケットにでっかいナイフを装備していた。
銃は無い。
バァン
教会のドアが開く。
夢だから分かるあるあるで、二人の兵隊さんが近づいてくるのが分かる。
一人はぶつぶつ、こんな所探してもしかたねぇよ~とあの時の男たちの声でぼやく。
しかしもう一人はひとつひとつのベンチの下まで確認している。
このままじゃ見つかる!
私は匍匐前進で位置を変え、見つからないようにする。
しかしその努力も実らず、目の前に男の顔が現れる。
「いやぁぁ」
咄嗟にナイフでぶすり。鶏肉の塊に包丁をいれた時の様な感触が手に残り、そこでコウメに起こされた。
すぐには現状が認識できず、どこに居るのかわからない、分からないけど心配そうなコウメの顔ですぐに冷静になった。
「ごめん、うるさかった?」
さっきの悲鳴が実は現実の寝言みたいに叫んでいたら恥ずかしい。
「ううん、大丈夫、何かうなされてたみたいだから、朝までまだまだあるからもう一回寝た方が良いよ」
そういってコウメが頭を撫でてくれる。こういう時のおかんコウメは癒されるわ~。甘える事が許されていた子供の頃の気持ちでゆったりと眠りなおすことができた。
「んん~」
あの後、よっぽど深く眠ったみたい。すっきりと目覚めるとまだ日が昇ったばかりで、薄暗い。朝連は6時からだから、まだ2時間はあると思う。
パシュッ、パシッと言う音が聞こえる。
一瞬幻聴かと思ったけど違う。この音はここ数ヶ月ずっと聞いていた音。シャトルを打つ音だ。
誰だろう?教室から聞こえるってことは体育館じゃないはず。
こっそりと教室を抜け出すと音が大きくなっていく。たぶん校舎の壁に向かってシャトルを打っているんだと思う。
壁打ちってやつだ。
自分で難易度を調整できるから、一人で出来る練習としては効果的だ。
窓から下を覗き込む。
あ、タフィちゃん。
タフィちゃんは学生じゃないので教室には泊まらずに確かホテルに泊まって聞いてたから、朝来たんだと思う。
でもすっごい早いな。
声をかけるのもなんか気が引けて、静かに階段を降りて練習が見える位置まで移動する。結構激しい息遣い。
昨日の練習で見たような綺麗なバレエみたいな動きではなく、ぎりぎり転ぶかもしれない
位の激しい動き。
スマッシュ、ドライブ、クリア、ドロップ、様々な技を繰り出し、そのすべてを自らレシーブする。
呼吸は小刻みにリズミカルに、どんなに姿勢は崩れても視線だけはシャトルに集中している。もっと近づいても気づかないかも。
あ、落ちた。
強いスマッシュの衝撃で壁に当たったシャトルが羽を散らせて跳ね返ることなく、そのまま落ちた。
予想外のシャトルの動き。
だけどタフィちゃんは全力で拾いに行く。
素早い。
でもそのままの勢いだと。
「あぶない!」
けれど、タフィちゃんはシャトルにラケットを届かせると、校舎の壁に右足を出し、その場で後方宙返りを決めた。
ええ~!体操選手?格好いい。
「あっ」
空中にいたタフィちゃんと視線があった気がした。危なげなく着地したタフィちゃん、そのままスタスタと私の前に立つ。
「おはよぅ」
「も、も~にん?」
言った瞬間にタフィちゃんに爆笑されてしまった。ころころとした笑いは年齢相応に見えてかわいらしい。
「ひかるは私が日本語使えるって知ってるのに、それにその発音、どこのなまり?ってかんじだよぉ」
流暢だった。そうかやっぱりあの時の囁きはタフィちゃんだったんだ。
「でもなんで皆には内緒にしてるのタフィちゃん、日本語使えるほうがもっと仲良くなれるし」
「ここに僕がいるのって長くないし、変に仲良しになったら悲しいじゃん、それに英語しかしゃべれないミステリアス少女のが可愛くない?」
なるほど。
タフィちゃんがここに居るのは、インターナショナルスクールの手続きが済むまでの間だけだ。手続きが済んじゃえば一緒にバドミントンをすることもなくなる。そう考えるとやっぱり悲しい気持ちになる。
「でも、バドミントンやめるわけじゃないし、夏の大会とか秋の大会とか出れば」
「インターナショナルでは夏も秋も日本の大会にはでないんだよひかる、出るのは国際的なやつだけ、そうなると逆に日本の高校生はほとんど参加しないから一緒の大会は難しいんだ、、バドミントンは今のところやめるつもりはないから、いつか有名な選手になったら大会を見に来てもらうって言うなら可能性はあるけど」
国際的な大会?有名選手になる?そこまで考えているんだタフィちゃん。すごっ。私なんか高校を卒業した後のことなんかほとんど考えていない。中学のころはそこそこの大学に行って無難に就職。そのうち慎ましい恋でもして母親になるくらいしか想像してなかった。今は本当に毎日の事だけで、その先には思考が至ってない。
「そっか、先まで見えてるんだタフィちゃんは、小っさいのに偉いわ~」
「小さいは余計だよひかる、ボクはひかるとそんなに歳変わらないよ、もう十三歳だし」
って事はは中学二年生だよね。二歳は結構な違いだと思う。
「ひかるはねぇ、踵上げてリズミカルに動いて、手首を柔らかくしてシャトルとやさしく扱えば絶対に旨くなるよ、前にも言ったけど手足長いから、後はリズムを刻んでテンポ良くすれば」
「あはは~やっぱだめだめだよねぇ~私」
「そういう所、もっと自信持って突っ込めばなきゃ、これからつまらなくなるんだよ」
「そういうもの?」
「そういうもの、上手くなれる実感も勝てる喜びもなければこんな辛いスポーツ続かないよ、個人競技だし、勝ちにこだわって行かなきゃ」
マジで頭が下がる思いだわ。強い子だなぁタフィちゃん。プロを目指す人ってのはバドミントンに限らず違うんだろうけど、そんな子が今目の前に居るって事は珍しいんだろうな。もし大人になって家庭のお茶の間でタフィちゃんが出てるオリンピック中継とか見たら私は何を思い何を言うんだろう。
「お母さんね、昔にこの人と一緒にプレイしたことあるんだよ、すごいでしょ」
とかかな。
それってなんか嫌だな。
テレビで見るんじゃなくて、関係者席で彼女のプレイを真剣にみつけどうすれば勝てるかを研究している私のが数倍格良いし、憧れる。
「そっか、ありがとうタフィぃちゃん、ちょっとこだわって見るよ」
「ん、ひかるファイト、ボクも挑戦するから、朝練習始まるでしょ?またね」
言われて嫌な汗が出てくる。
ジャージ派だったら最悪、このまま朝練に参加しても問題ない。だがしかし私はしっかりパジャマ派だ。
この格好。水玉のパジャマで声だしとか恥ずかしすぎる。かと言って遅刻すればヒカガミ先輩に何を言われるか、恐怖しかない。
「もうそんな時間?やばっ、また後でねタフィちゃん」
わき目も振らずにダッシュ。教室では呆れた顔をしたコウメ、ニヤニヤにっこりなサチが準備万端で待っていた。
「ごめん、すぐ行くから先に行ってて」
最終日の練習が始まる。夏はまだ半分残っている。
朝の練習が始まる、ずっと前。
たぶん明け方くらいに私は悪夢にうなされていた。
たぶん寝る前の出来事がショッキング過ぎて、それが影響したんだろう。
私はなぜか荒野に居た。
さらに何故か誰かに追われていた。
追ってくるのは海兵隊?とかに見える兵隊さんたちが一杯。
薄暗い天気の荒野を逃げていると、ポツリと教会が見える。
これだけは現実と同じですでに息が切れていた私は、教会に逃げ込み、いくつも並んだベンチの様な椅子の下に隠れる。
ベンチの下から窺うと、教会の入り口が見える。
ここで息を殺してやり過ごそう。
そう思いつつ、自分の武器を確認。
これも何故か私は女ではなく、追ってくる兵隊さんと同じ屈強な男で、胸ポケットにでっかいナイフを装備していた。
銃は無い。
バァン
教会のドアが開く。
夢だから分かるあるあるで、二人の兵隊さんが近づいてくるのが分かる。
一人はぶつぶつ、こんな所探してもしかたねぇよ~とあの時の男たちの声でぼやく。
しかしもう一人はひとつひとつのベンチの下まで確認している。
このままじゃ見つかる!
私は匍匐前進で位置を変え、見つからないようにする。
しかしその努力も実らず、目の前に男の顔が現れる。
「いやぁぁ」
咄嗟にナイフでぶすり。鶏肉の塊に包丁をいれた時の様な感触が手に残り、そこでコウメに起こされた。
すぐには現状が認識できず、どこに居るのかわからない、分からないけど心配そうなコウメの顔ですぐに冷静になった。
「ごめん、うるさかった?」
さっきの悲鳴が実は現実の寝言みたいに叫んでいたら恥ずかしい。
「ううん、大丈夫、何かうなされてたみたいだから、朝までまだまだあるからもう一回寝た方が良いよ」
そういってコウメが頭を撫でてくれる。こういう時のおかんコウメは癒されるわ~。甘える事が許されていた子供の頃の気持ちでゆったりと眠りなおすことができた。
「んん~」
あの後、よっぽど深く眠ったみたい。すっきりと目覚めるとまだ日が昇ったばかりで、薄暗い。朝連は6時からだから、まだ2時間はあると思う。
パシュッ、パシッと言う音が聞こえる。
一瞬幻聴かと思ったけど違う。この音はここ数ヶ月ずっと聞いていた音。シャトルを打つ音だ。
誰だろう?教室から聞こえるってことは体育館じゃないはず。
こっそりと教室を抜け出すと音が大きくなっていく。たぶん校舎の壁に向かってシャトルを打っているんだと思う。
壁打ちってやつだ。
自分で難易度を調整できるから、一人で出来る練習としては効果的だ。
窓から下を覗き込む。
あ、タフィちゃん。
タフィちゃんは学生じゃないので教室には泊まらずに確かホテルに泊まって聞いてたから、朝来たんだと思う。
でもすっごい早いな。
声をかけるのもなんか気が引けて、静かに階段を降りて練習が見える位置まで移動する。結構激しい息遣い。
昨日の練習で見たような綺麗なバレエみたいな動きではなく、ぎりぎり転ぶかもしれない
位の激しい動き。
スマッシュ、ドライブ、クリア、ドロップ、様々な技を繰り出し、そのすべてを自らレシーブする。
呼吸は小刻みにリズミカルに、どんなに姿勢は崩れても視線だけはシャトルに集中している。もっと近づいても気づかないかも。
あ、落ちた。
強いスマッシュの衝撃で壁に当たったシャトルが羽を散らせて跳ね返ることなく、そのまま落ちた。
予想外のシャトルの動き。
だけどタフィちゃんは全力で拾いに行く。
素早い。
でもそのままの勢いだと。
「あぶない!」
けれど、タフィちゃんはシャトルにラケットを届かせると、校舎の壁に右足を出し、その場で後方宙返りを決めた。
ええ~!体操選手?格好いい。
「あっ」
空中にいたタフィちゃんと視線があった気がした。危なげなく着地したタフィちゃん、そのままスタスタと私の前に立つ。
「おはよぅ」
「も、も~にん?」
言った瞬間にタフィちゃんに爆笑されてしまった。ころころとした笑いは年齢相応に見えてかわいらしい。
「ひかるは私が日本語使えるって知ってるのに、それにその発音、どこのなまり?ってかんじだよぉ」
流暢だった。そうかやっぱりあの時の囁きはタフィちゃんだったんだ。
「でもなんで皆には内緒にしてるのタフィちゃん、日本語使えるほうがもっと仲良くなれるし」
「ここに僕がいるのって長くないし、変に仲良しになったら悲しいじゃん、それに英語しかしゃべれないミステリアス少女のが可愛くない?」
なるほど。
タフィちゃんがここに居るのは、インターナショナルスクールの手続きが済むまでの間だけだ。手続きが済んじゃえば一緒にバドミントンをすることもなくなる。そう考えるとやっぱり悲しい気持ちになる。
「でも、バドミントンやめるわけじゃないし、夏の大会とか秋の大会とか出れば」
「インターナショナルでは夏も秋も日本の大会にはでないんだよひかる、出るのは国際的なやつだけ、そうなると逆に日本の高校生はほとんど参加しないから一緒の大会は難しいんだ、、バドミントンは今のところやめるつもりはないから、いつか有名な選手になったら大会を見に来てもらうって言うなら可能性はあるけど」
国際的な大会?有名選手になる?そこまで考えているんだタフィちゃん。すごっ。私なんか高校を卒業した後のことなんかほとんど考えていない。中学のころはそこそこの大学に行って無難に就職。そのうち慎ましい恋でもして母親になるくらいしか想像してなかった。今は本当に毎日の事だけで、その先には思考が至ってない。
「そっか、先まで見えてるんだタフィちゃんは、小っさいのに偉いわ~」
「小さいは余計だよひかる、ボクはひかるとそんなに歳変わらないよ、もう十三歳だし」
って事はは中学二年生だよね。二歳は結構な違いだと思う。
「ひかるはねぇ、踵上げてリズミカルに動いて、手首を柔らかくしてシャトルとやさしく扱えば絶対に旨くなるよ、前にも言ったけど手足長いから、後はリズムを刻んでテンポ良くすれば」
「あはは~やっぱだめだめだよねぇ~私」
「そういう所、もっと自信持って突っ込めばなきゃ、これからつまらなくなるんだよ」
「そういうもの?」
「そういうもの、上手くなれる実感も勝てる喜びもなければこんな辛いスポーツ続かないよ、個人競技だし、勝ちにこだわって行かなきゃ」
マジで頭が下がる思いだわ。強い子だなぁタフィちゃん。プロを目指す人ってのはバドミントンに限らず違うんだろうけど、そんな子が今目の前に居るって事は珍しいんだろうな。もし大人になって家庭のお茶の間でタフィちゃんが出てるオリンピック中継とか見たら私は何を思い何を言うんだろう。
「お母さんね、昔にこの人と一緒にプレイしたことあるんだよ、すごいでしょ」
とかかな。
それってなんか嫌だな。
テレビで見るんじゃなくて、関係者席で彼女のプレイを真剣にみつけどうすれば勝てるかを研究している私のが数倍格良いし、憧れる。
「そっか、ありがとうタフィぃちゃん、ちょっとこだわって見るよ」
「ん、ひかるファイト、ボクも挑戦するから、朝練習始まるでしょ?またね」
言われて嫌な汗が出てくる。
ジャージ派だったら最悪、このまま朝練に参加しても問題ない。だがしかし私はしっかりパジャマ派だ。
この格好。水玉のパジャマで声だしとか恥ずかしすぎる。かと言って遅刻すればヒカガミ先輩に何を言われるか、恐怖しかない。
「もうそんな時間?やばっ、また後でねタフィちゃん」
わき目も振らずにダッシュ。教室では呆れた顔をしたコウメ、ニヤニヤにっこりなサチが準備万端で待っていた。
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