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恐怖の日のはじまり 合宿前
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恐怖の始まる日。
その日は夏にしては朝からどんよりとした雲に覆われ、篭った湿度で不快指数もうなぎのぼりの状態だった。
合宿なんか生まれて初めてで、泊まりで何処かに行くのなんて、修学旅行以外なかった。だから何を持っていけば良いのか判らずに、大きな荷物になった。
二泊三日の学校への泊まりだけど、荷物はサチ一人なら入ってしまいそうなトランクケースになってしまった。
着替えはあるだけ突っ込んである。汗凄いだろうし、一日で何枚のシャツが必要になることやら。一応洗濯機もあるって話だけど、上級生が優先して使うだろうし、同級生だって、経験者さんが自然と優先になってしまうかもしれない。あの試合以来、経験者と初心者の垣根は変わらずだ。サチ以外は。
サチはあの性格で、経験者だけでなく先輩方にも可愛がられている。上手い下手とかの分類の中にサチだけが居ない。
私はまぁ最下層なんだろう。それでも別にいじめもないし、体力ついてきた最近は皆に迷惑をかけることも少なくなってきた。
お荷物はお荷物なりに居場所を得たって事なのかも。
コウメは最近二年生に混じって練習させられている時もある。本人曰く不器用なんだけれど、体力だけはあるからと言っている。
コートに入る前までは二年生の基礎練習に混じり、シャトルを扱う時間になると私と組んで練習するサイクルだ。
コウメは上手い。最初に数ヶ月は要領の良いサチのが上手かったのだが、最近はサチに負けていないし、一年の経験者の数名ともいい勝負をしていたのを見たことがある。
私は相変わらずで同じ初心者のサチに勝った事が無い。もちろんコウメにもだ。
勝ち負けの関係じゃないとは思っても、やっぱり一度も勝てないのは悔しい。
ってあれ?もしかして私、入部してから一回も勝った事ないのかも?
「おはようひかる」
「遅いぞ、ってなんだその大荷物、夜逃げでもするの?」
いつもの待ち合わせの交差点で、二人に会う。
二人とも学校の制服に、コウメは大き目の鞄を抱え、サチは普段使っていないリュックを背負っている。どちらもあたしの荷物の半分以下だ。
「おはよう、ふたりともそれで足りるの?」
「え、だって二泊三日だし、一日四枚シャツを使っても足りるくらいで計算してるけど」
「あたしは洗うの前提、学校の使えなかったら、近くのコインランドリーで舞ったりしながら仕上がり待つ計画だよ」
つまり夜の時間に先輩にいびられるよりは、洗濯だと言って抜け出す計画と言う事ね。さすがサチ、よく考えてる。
「コインランドリーって夜怖くない?一人だとなんか外から人が入ってくるだけで、びくっとなりそう」
「確かに~そん時は付き合ってよコウメ、ひかる~」
「はいはい、先輩方が大丈夫ならね」
噂では今の先輩方の上の世代、先輩の先輩さんも参加が決定しているらしい。全国に行った世代としてわが部一番のきつい人との噂で、今の先輩方を搾りまくった伝説持ちだそうだ。
「どんな練習になるのかな?脱水症状になるくらい激しいから覚悟しとけってハル先輩もトモ先輩も言ってたけど」
「合宿ってさ、初めてなんだけど、アニメとかだと鬼みたいな感じだよねぇ~」
「先輩たちから聞いた話だと、毎年最初の日に倒れる子が続出とか、昼に倒れた子は夜にダッシュさせられるとか、体重が一日で十キロ減るとか」
「あ、その最後のだけはいいかも」
最近がっちりしてきて、体重が増えてきた。脂肪が筋肉になっただけだからスタイルが悪くなったわけじゃないけど。それでも体重計のメモリの上下は、女子としての野望が詰まっている。三ミリが五ミリでも一喜一憂するもんだよね。
「ひかるが気にするところそこ?うちと違ってひかるは体力無いんだから倒れないようにしなきゃね、暑さも半端ないから塩気のある物も準備した?」
いきなりおかんキャラになるコウメ
こんな世話好きだったっけ?
「干し梅のタブレットなら一応準備してあるけど」
私の全方位準備に抜かりはない。日焼け止めから、額に張る冷えるシールまで準備は万端だ。塩分補給程度なら抜かりない。
「なんか二人ともすごいねぇ~どうせ学校なんだから、何とかなるって」
絶対、着替えだけしか入っていないようなリュックを見せるサチ。
後で何か足りないって騒ぎそうだけど、私の全方位準備はそれも想定済みだ。シャンプーもトリートメントも三人分を確保している。
「遅刻したくないし、もう行こう」
炎天下で話をしてるだけで汗が出てくる。合宿前に疲れてしまうと地獄の特訓に耐えられなくなる。ただでさえ体力の無い私は私なりに、配分を考えている。
「おっけ、じゃあ競争~」
走り始めるサチを見送って私は歩いて学校に向かう。無駄にしていい体力なんてないのさ
「熱中症になるよ、ひかる」
スッと、日陰が差し出される。
「日傘とか持ってたんだ」
「今年の夏はいつも以上って言ってたから、日焼けもしたくないし」
差し出された日傘を持つコウメの白い腕が目の前に来る。細くてしなやかな真っ白な腕には染みひとつ、ほくろ一つもない完璧だ。
「何?」
「いや、コウメって腕綺麗ね、真っ白ですべすべそう」
「何それ、ひかるって変なの」
そういってはにかむコウメはやっぱり可愛い。おかんキャラでも可愛いものは可愛い。並んで歩くと少しだけ私より身長低いのを誤魔化そうとしてかかとを上げて歩いているのも、バランス崩さないように足元に集中しながら、日傘がふらふらするのも可愛らしい。
ん?やっぱり私って変なのかな?
女の子なんだもん、可愛いもの好きで何が悪い。
そんな感じでこの夏最大の難所、バトミントン部恒例の地獄の合宿が始まったのだった。
その日は夏にしては朝からどんよりとした雲に覆われ、篭った湿度で不快指数もうなぎのぼりの状態だった。
合宿なんか生まれて初めてで、泊まりで何処かに行くのなんて、修学旅行以外なかった。だから何を持っていけば良いのか判らずに、大きな荷物になった。
二泊三日の学校への泊まりだけど、荷物はサチ一人なら入ってしまいそうなトランクケースになってしまった。
着替えはあるだけ突っ込んである。汗凄いだろうし、一日で何枚のシャツが必要になることやら。一応洗濯機もあるって話だけど、上級生が優先して使うだろうし、同級生だって、経験者さんが自然と優先になってしまうかもしれない。あの試合以来、経験者と初心者の垣根は変わらずだ。サチ以外は。
サチはあの性格で、経験者だけでなく先輩方にも可愛がられている。上手い下手とかの分類の中にサチだけが居ない。
私はまぁ最下層なんだろう。それでも別にいじめもないし、体力ついてきた最近は皆に迷惑をかけることも少なくなってきた。
お荷物はお荷物なりに居場所を得たって事なのかも。
コウメは最近二年生に混じって練習させられている時もある。本人曰く不器用なんだけれど、体力だけはあるからと言っている。
コートに入る前までは二年生の基礎練習に混じり、シャトルを扱う時間になると私と組んで練習するサイクルだ。
コウメは上手い。最初に数ヶ月は要領の良いサチのが上手かったのだが、最近はサチに負けていないし、一年の経験者の数名ともいい勝負をしていたのを見たことがある。
私は相変わらずで同じ初心者のサチに勝った事が無い。もちろんコウメにもだ。
勝ち負けの関係じゃないとは思っても、やっぱり一度も勝てないのは悔しい。
ってあれ?もしかして私、入部してから一回も勝った事ないのかも?
「おはようひかる」
「遅いぞ、ってなんだその大荷物、夜逃げでもするの?」
いつもの待ち合わせの交差点で、二人に会う。
二人とも学校の制服に、コウメは大き目の鞄を抱え、サチは普段使っていないリュックを背負っている。どちらもあたしの荷物の半分以下だ。
「おはよう、ふたりともそれで足りるの?」
「え、だって二泊三日だし、一日四枚シャツを使っても足りるくらいで計算してるけど」
「あたしは洗うの前提、学校の使えなかったら、近くのコインランドリーで舞ったりしながら仕上がり待つ計画だよ」
つまり夜の時間に先輩にいびられるよりは、洗濯だと言って抜け出す計画と言う事ね。さすがサチ、よく考えてる。
「コインランドリーって夜怖くない?一人だとなんか外から人が入ってくるだけで、びくっとなりそう」
「確かに~そん時は付き合ってよコウメ、ひかる~」
「はいはい、先輩方が大丈夫ならね」
噂では今の先輩方の上の世代、先輩の先輩さんも参加が決定しているらしい。全国に行った世代としてわが部一番のきつい人との噂で、今の先輩方を搾りまくった伝説持ちだそうだ。
「どんな練習になるのかな?脱水症状になるくらい激しいから覚悟しとけってハル先輩もトモ先輩も言ってたけど」
「合宿ってさ、初めてなんだけど、アニメとかだと鬼みたいな感じだよねぇ~」
「先輩たちから聞いた話だと、毎年最初の日に倒れる子が続出とか、昼に倒れた子は夜にダッシュさせられるとか、体重が一日で十キロ減るとか」
「あ、その最後のだけはいいかも」
最近がっちりしてきて、体重が増えてきた。脂肪が筋肉になっただけだからスタイルが悪くなったわけじゃないけど。それでも体重計のメモリの上下は、女子としての野望が詰まっている。三ミリが五ミリでも一喜一憂するもんだよね。
「ひかるが気にするところそこ?うちと違ってひかるは体力無いんだから倒れないようにしなきゃね、暑さも半端ないから塩気のある物も準備した?」
いきなりおかんキャラになるコウメ
こんな世話好きだったっけ?
「干し梅のタブレットなら一応準備してあるけど」
私の全方位準備に抜かりはない。日焼け止めから、額に張る冷えるシールまで準備は万端だ。塩分補給程度なら抜かりない。
「なんか二人ともすごいねぇ~どうせ学校なんだから、何とかなるって」
絶対、着替えだけしか入っていないようなリュックを見せるサチ。
後で何か足りないって騒ぎそうだけど、私の全方位準備はそれも想定済みだ。シャンプーもトリートメントも三人分を確保している。
「遅刻したくないし、もう行こう」
炎天下で話をしてるだけで汗が出てくる。合宿前に疲れてしまうと地獄の特訓に耐えられなくなる。ただでさえ体力の無い私は私なりに、配分を考えている。
「おっけ、じゃあ競争~」
走り始めるサチを見送って私は歩いて学校に向かう。無駄にしていい体力なんてないのさ
「熱中症になるよ、ひかる」
スッと、日陰が差し出される。
「日傘とか持ってたんだ」
「今年の夏はいつも以上って言ってたから、日焼けもしたくないし」
差し出された日傘を持つコウメの白い腕が目の前に来る。細くてしなやかな真っ白な腕には染みひとつ、ほくろ一つもない完璧だ。
「何?」
「いや、コウメって腕綺麗ね、真っ白ですべすべそう」
「何それ、ひかるって変なの」
そういってはにかむコウメはやっぱり可愛い。おかんキャラでも可愛いものは可愛い。並んで歩くと少しだけ私より身長低いのを誤魔化そうとしてかかとを上げて歩いているのも、バランス崩さないように足元に集中しながら、日傘がふらふらするのも可愛らしい。
ん?やっぱり私って変なのかな?
女の子なんだもん、可愛いもの好きで何が悪い。
そんな感じでこの夏最大の難所、バトミントン部恒例の地獄の合宿が始まったのだった。
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