ひかる、きらきら

和紗かをる

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コートデビュー

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順番はもう少し後かと思っていたんだけど、意外にも私の試合はすぐだった。相手は経験者の仲でも強そうな子で、私がコートに入るのをスクワットしながら待っていた。表情はちょっとまっすぐ見るのが怖い。同学年にまで迷惑かけた意識はあるけどさ。
「ひかる、ちょっと待って、これ」
 コウメが差し出して来たのは、私がいつも借りている重いラケットではなく、彼女が卒業から入学前の期間にバイトして買った新品のラケットだった。
 なんかNASA公認新素材とか、人体の動きを計算して作られたフォルムとか、凄いらしい。
「いいの?」
「コートデビューだもんね、壊さないでね、次はうちが使うんだから」
 こんな華々しくも晴れがましくも無いデビューだけど、さらに少しは頑張らなければと思う。友達っていいものだね。
「うん、気をつける」
 かくして、ゲームスタート。
 始まった瞬間に敗北を悟る事に・・・。
何が違うって、速さがぜんぜん違う。
 シャトルの速さも。
コートの中の動きも速くてスマートで無駄が少ない。
私がバタバタとコート内を走って、なんとかラケットをシャトルに当てるだけなのに対して、彼女は二歩のステップで追いつき、鋭いシャトルを返してくる。
 すぐにマッチポイントを迎えた。
「もう、終わりになっちゃう」
 コートに入ってから、わずかな時間で終わり。
そりゃ実力差なんか判っていたけど、本当にすぐに終わりって悔しい。
「高瀬、次でラスト!」
 他の経験者から声がかかる。次の試合なんだろう。早く終わらせて次って気持ちからの声援なんだろうな、まぁ仕方が無いけど。
「おっけ」
 高瀬さんが私のヘロヘロサーブに反応する。彼女はこれも二歩で追いつき、スマッシュの姿勢に入る。
腕が伸びてくる。
ここから驚異的な速さのスマッシュがくるのは判っている。
だけどそれがどこに来るのか判らない以上、私は練習で教わった通り腕を上げ、膝をやわらかく、目線をシャトルと高瀬さんの腕の動きに集中させる。
 バシュっ
 私からしたら、目のも止まらないスピードで振られたラケットにシャトルが食い込む。
ガットに食い込んだシャトルが空気中に解き放たれた時、バシュッという音と共に空気抵抗で水鳥の羽が震える白い点が迫る。
 瞬きしている間に、目の前まで到達する速度だ。
「あ」
 高瀬さんの呟きが聞こえた気がした。
 その意味を考えるより早く、目の前にシャトルが来ていた。
顔面直撃コースだ。
「んっと」
 咄嗟に顔面を守ろうとした手の動きに合わせて振られたラケットが、完全に偶然でシャトルを捕らえる。
 ガキッ
 高瀬さんのスマッシュとは雲泥の差の音がラケットに伝わってくる。
張られたガット部分ではなく、フレームでシャトルを叩いてしまったみたい。
ふらふらと宙に頼りなく浮かんだシャトルは、ゆっくりと相手のコートに進む。
 しかし、そんなイレギュラーなシャトルにも、高瀬さんは反応してネット際で待ち受けてる。さすが経験者。
 今度こそ、駄目だ。
 でも、諦めたって良いことは無い。
私もとにかく前にでる。
「はっ」
 高瀬さんの短い気合。
同時にネットぎりぎりに飛んでくるシャトル。
 昔、シャトルってのは山なりの軌道を描くものだと思っていたけれど、この部に入ってシャトルは横に飛ぶ物と知った。
「しょっ」
 がちがちで、攣りそうな足で方向転換し、跳ね返ってきたシャトルに腕を伸ばす。
 これがいつもの重たいラケットならまったく届かなかっただろう。しかし今はコウメから借りた最新式のラケットだ。
しかし、今度もガット部分ではなくフレームが届き、ちょうどネットぎりぎりで返っていく。
 もちろん、すぐにそのシャトルにも反応する高瀬さん。
 すでに私は転ばない様にするだけで精一杯、次に返ってきたら見送るしかない。
 だが私が返したシャトルはこちらに帰っては来なかった。
 ネット際で、振り終わったラケットがネットに触れない様に注意していた高瀬さんのシャトルは、ネットの壁を上までのぼり、しかしそのままネットを越えることなく、床に落下していった。
「うっそ」
 サチが、私がワンポイント取った事に信じられない顔をするが、そこはサチ。驚いた顔をすぐに消して私にサムアップしてきた。
 コウメは?と探したが、彼女は室内モップでコートに散った水鳥の羽を集めていた。
 私の酷いプレーのせいで、シャトルにくっついている水鳥の羽が傷だらけになり、半分ぐらいの羽が散っている。
 そっか、だから高瀬さんが失敗したのね。
 半分も羽がなくなってたらシャトルの動きも変になる。だからこそのワンポイントとだったのか。
 その後は奇跡みたいな事は起きることなく、あっさりとゲームセット。
私は当然の様に負けた。
 コウメとサチについては、同じように負けたみたいだけれど、私みたいに一方的じゃなかった。二人とも経験者が相手でもちゃんとバドミントンしていた。
 凄いな、二人とも。でも試合って楽しい。
 負けるとか勝てるとか関係なくて、必死にシャトルを追って、打ち返して、緊張しながあプレイするって、震える。
 感動とか良く判らないけど、もしこれで旨くなって公式戦とか出れたら最高なんじゃない?
 コートデビューの最後の重いでは、コウメに平謝りしたことだった。私が雑に扱ったせいで。フレーム塗装に傷がついていたから。
 コウメはこれも思い出だよとか笑ってくれたけど、私は真剣に謝った。それだけじゃ気がすまなかった私はコウメにジュースを奢り、さらに肩まで揉んで、最後に今度お互いの家に遊びに行くって話で終わった。
 あたしも混ぜてって突っ込んでくるかと思っていたサチだったけど、今回それは無かった。たぶんダブルス組んだ経験者と、お話に夢中だったからだろう。
 コミュニケーション上手って羨ましい。
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