ひかる、きらきら

和紗かをる

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放課後、教室、二人の視線

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 次の日。
 私は、もうとっても苦しんでいた。
 疲れると体が鉛のように重くなるってのは、半分嘘だって実感してた。
 確かに体は鉛のように重いのだけれど、それだけじゃない。もう、一歩歩くだけど、全身のどっかがガタピシと悲鳴を上げて痛い。
 足なのか腰なのか、お腹なのか、それとも全部か、わからない位だ。
 少し離れた席で、同じような顔をしているユッコとは朝から喋っていない。
喋る気力が無いってのもあるけど、なんか悪いことしたな~って気分があって、話かけにくいし、正直気力もあんまり無い。。
 さらに大きな問題は、心の中の声だ。
 また、あのつらい練習の時間が来る。
 昨日と同じ事を、今日も出来るか分からない・・・。うん嘘。同じ事なんか出来やしない。絶対倒れる。
痛いのいや。
 ならどうする?サボる?
 いやいや、サボったら、明後日部活行ける?どんな顔をして?
 それも辛いなぁ~
 ならいっその事、辞めちゃう?
 いやいや、そんで中学みたいに色の無い灰色の春、灰春を送るっての?せめて中学時代とは違う高校生活を送るって決めたんじゃないの私。
「はぁ~」
そんな風にうだうだ考えていたら、あっという間に放課後になってしまった。
さっきまで居たユッコはもう居ない。たぶんもうユッコは部活には来ないだろう。
もともとが私の付き合いみたいなもので、やりたかったわけじゃない。もし今日も部活に行くなら、声くらいかけてくるだろうし。
 さて、どうしよううかな。
 体は痛い、時間は過ぎる。
ここで部活が終わるまでじっとしていても仕方が無い。
分かってる、分かってるんだけど、お尻から根が生えたように体は動かない。
 サチとコウメは、部活に行っただろうか?
 サチは要領よくやってそう。
 コウメは、受験後から運動して準備してたって言うから、昨日の練習もそれほど大変じゃなかったのかもしれない。
 もしサボったら私、二人に嫌われるかな?情けない奴って思われるかな。
 机に突っ伏して、窓から見える空を眺める。
 昨日よりも青くて、雲がきらきら光って、なんか私程度のことどうでもいいって感じに見える。
 曇って、楽そうでいいな。
 逃避したい現実を前に、私はどうしたいんだろう。
 やっぱりこのままこっそり家に帰り、部屋のベッドにダイブするのが一番気持ちが良いよね。体も痛いし。
 ダラっと動画でも見ながら、夕飯までの時間を過ごしたら・・・。
 とっ、そこまで考えたところで、誰も居ない筈の教室で、視線を感じた。
 痛む体を無理やり起こして背後を見る。幽霊、は居なかった。
 教室のドアに二人の影。
昨日散々見た姿。
「ほら~やっぱり、ぜったいこうなるってわかってたんだよなぁ」
 サチ。
「仕方ないじゃない、いきなりあれだけ走ったし、その後の筋トレだって、初めてのひかるには辛かったと思うし」
 コウメ。
「そう?あたしは平気だったよん、ひかるが根性なしなだけじゃん」
「根性論とか、サチって古い人?」
「そうそう、あたしは鬼コーチって、なんでやねぇん」
「ぷっ」
 なんだかなぁ、中学の時にはなかったこの雰囲気。仲間ってこんな関係なのかな。
 さっきまでどうしたら睨まれることなくサボれるか考えていたのに、そんなのもうどっかに行ってしまった。
「二人してどうしたの、部活は?」
「あのね、うちは反対したんだけどサチが、多分ひかるは筋肉痛で動けなくなってるからって、引きずってでも連れてていかないとサボるからって」
「ははは・・・」
 乾いた笑いで返すしかなかった。ここで、そんな訳ないじゃないと明るく言えるほど私は嘘がうまくない。
「だってさ、いきなり運動部の洗礼浴びたら辞めたくなっちゃうって、だってあのふくよかな、ってかあの子も初日でいきなり辞めたし」
 ふくよかな子、ユッコのことだろう。
 私が保健室に行っている間にユッコはすでに退部を周囲に伝えていたみたい。私はうじうじ今の今まで、どうしようかって思ってたのに、ある意味ユッコの思い切るのよさは尊敬できる。
「ひかるは違うでしょ、部活行くよね?」
 ちょっと上目使いの、心配そうな顔。
 う~ん、やっぱ何度見ても可愛い。
 この顔で聞かれて、行かないって言えない。
「ちょっと体痛いけど。大丈夫、行くって」
「じゃあ、行こう~」
 軽やかなステップで私の背後に来たサチは。グッと私の背中を押す。
「痛っイタタ」
 気持ちはだいぶ軽くなったけど。体のほうはまだまだだった。
 根性論って、私、たえられるかなぁ~。
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