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第1章 ヨルの森編

10話 少年と卵

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 その大きな白銀の狼はシロナを見つめていった。

 『白銀の温かき魔力を纏う心優しき少年よ、どうか私の子をそなたに預けさせてはもらえないだろうか?』


 「「・・・え?」」
 シロナとリンは二人そろって驚きの声を上げてしまった。
 
 「卵・・・ですか??」
 狼なのに!と心の中でツッコミをいれつつシロナは応える。

 『まあ、神獣の類は最初は卵の状態で生まれてくるのが普通なのだ。この子に少年の魔力を分け与えて育ててやってくれないか?』

 「そんな・・・そんな大層な役目を僕なんかに託してもいいのですか?」

 『私は長い間生きてこの世界を眺めていたが、そなた程の純粋な魔力を持つものに出会ったことはない。清き者に託したいと常常思っていたのだ』

 「・・・わかり、ました。僕なんかでよろしければ預からせていただきます!」

 シロナがそう伝えると銀狼はその大きな瞳を細めて微笑んだ気がした。

 『頼む、少年。きっとこの子はそなたの良き友となり、良き相棒となるだろう。この子に広い世界を見せてやってくれ』

 シロナは銀狼に呼ばれるがままに卵に近付き、両手でやっと抱えられる大きさの卵をしっかりと抱きしめる。

 触れてみるとわかる。ほのかに温かいその卵は確かに生きていることを感じる。

 シロナは自分の手の中に新たな命が宿っていることを実感する。

 「ありがとうございます。大切に育てていきます」

 頭を下げながらきゅっ、と卵を抱きしめる。どんな子が生まれるのだろうかと先程の緊張感が嘘のように期待に胸を膨らまし、笑顔を浮かべる。

 シロナのその様子を見守っていた銀狼は『もう帰りなさい』と言って森の奥深く、最深部まで戻っていった。

 その背中を見つめたまま、シロナはもう出会うことはないであろう銀狼に心の中で感謝を述べる。

 ・・・僕に新しい友達を預けてくれてありがとうございます。

 最後にもう1度銀狼が去っていった方角にぺこりと頭を下げ、シロナとリンは卵を安全に運ぶ為慎重に元来た道を戻った。

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