歌って踊れて可愛くて勝負に強いオタサーの姫(?)

不知火読人

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幼女研鑚

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 記憶を取り戻してからしばらく経ち、わたしは三歳になった。

 誕生日会では六人の年子のお兄様達とお会いできた。
 ママはわたしを生むまでの二年出産を控えていたので、一番下のお兄様はわたしと三歳違いだ。

 それだけでなくママの実家からも結構な人たちがお祝いに来てくれていた。

 三歳になった記念に結わえてもらった白銀に輝くツィンテールの髪形を可愛いと称賛され、わたしはお兄様達とママの実家の人達に甘え捲った。
 何段にも積み重ねられた誕生日ケーキは甘くておいしく、御馳走はほっぺが落ちるほど美味かった。
 普段からいいもの食べさせてもらってるけど、今日は料理長が腕を振るったというだけはあると妙に納得してしまった。

 ママにねだって黒いフレームの伊達眼鏡をおしゃれアイテムとしてプレゼントしてもらい、今日から愛用することにした。
 ママからおねだりしたことを聞いたパパ達は、それぞれ自分の趣味でわたしに似合いそうだと思った眼鏡をプレゼントしてくれた。
 おかげで部屋に眼鏡専用の収納を急遽取り付ける必要が出来たほどだ。

 パパ達の中で気の利いている人もいて、眼鏡は競合するからと大きなぬいぐるみや、うちの庭でママとサッカーする為にとスパイクをプレゼントしてくれた人もいた。
 まだ小さいから使い潰す前に履けなくなるだろうけどこれは非常にありがたい。
 大事に使わせてもらおう。

 三歳の誕生日をお祝いしてもらった翌日から行儀作法や歩き方などの淑女教育が始まり、水泳教室にも通い始めた。
 他にも今後習い事としてバレエ、日舞とダンス――このダンスは男性を誘惑するためのものらしく、手本として見せてもらったダンスは、可愛い振り付けと、セクシーなダンスと、艶っぽい振り付けと、エロいダンスがあった――。合気道などの護身術。ピアノ、ヴァイオリンとギターを嗜み程度にはできるように習い、ヴォイストレーニングと歌唱の練習を徐々に加えていく予定だ。
 それ以外では五歳を迎えたら床技の指導も始まるらしい。

 この世界では一人の女性が複数の男性と交わる事は当たり前で、時には同時に何人もの相手をすることがある為女性がスポーツをして体力をつけることは好意的な目で見られている。
 また女性のスポーツを性的な視点で見る男性も多く、それ故女子プロスポーツ選手は押しなべて高収入であり、男女を問わず憧れと欲望の入り混じった目で見られる一種のアイドルとして持て囃されている。

 習い事の数と種類を考えると、幼い頃から歌って踊れるアイドルを育成しているようなメニューのようにも見えるので、多分そういうことなんだろうと思ってはいる。

 しかしそれらより優先されるのがママとのボール遊びである。
 それはわたしの興味を引く範囲で楽しめるようにママに教えてもらっている。
 パパたちから推奨され、他の習いごとよりも優先されているのは、ママが橘家に嫁入り前に結婚する条件として

『娘が生まれたらプロサッカー選手として活躍させたい』

 と強く希望し、それを受け入れたのが橘家だけであったため約束を守る形で優先されているらしい。

 この世界は前世とは歴史が違うし地理もかなり違うところがある。その中でもびっくりしたことはなんとママは先代ロシア皇帝の孫娘であり、現ロシア皇帝の姪なのだそうだ。
 家柄としては先代皇帝直系の公爵家(現在は皇位継承権はあるものの傍系)の姫君だったそうで、たまたま当時の帝室は女子が三人、ママの生まれた公爵家にも二人の女子が先に生まれていたため彼女はかなり好きな事をさせてもらえたらしい。

 ママはプロサッカー選手として少女の頃から活躍したが22歳の時に怪我で引退、その後アイドル的な人気も高く、嫁入り先は引く手数多だったそうだが、先ほどの条件を飲んだのが橘家だけであり、彼女自身も現役時代日本でプレイし、愛着もあった為嫁入りしたのだとか。

 わたしもプロサッカー選手として活躍出来れば、世界有数の財閥である橘本家と金満ロシア帝室との繋がりを求めるところ以外にも嫁入りの選択肢も増えるだろうとのことだ。

 その話をした時
「ねぇサーシャよぉ聞いて。嫁入り先はよっぽどけったいな家やのうたら、嫁入りしはる娘が好きに選べるやけど、婚姻を求めてへん相手の所へは嫁げへんのえ。そやさかい女神みとうなアイドルになって自分の価値を引き上げる必要があんのんえ」
 真剣な顔でママが言った。

 わたしはそのことを自分の中で反芻し、どうせ嫁がなくてはならないならと割り切り、
「わたったわまま。うちはいつかせかいいちのサッカーアイドルになって、ごっつええとこにおよめさんにいくわ」
 と微笑みながら答えたのであった。

 そしてわたしは残暑の厳しい今日も、また蝉の鳴き声がまだやかましく響く中、全身汗まみれになってママと一緒にサッカーボールで戯れ続けるのであった。


 前世の記憶が戻る前、もっと幼い頃にはボールを上手く蹴ることもトラップすることもできなかったが、私がむずがるとママは色んなテクニックをゆっくり分かり易く根気強く教え続けてくれた。

 ボールをトラップするときに足元に置きたければ接触する瞬間トラップする箇所をちょっと手前に引けばどこかに遠くに転がっていく可能性は減る。
 足でトラップするなら足の力を出来るだけ抜いて柔らかく受け入れることも重要だ。
 ただトラップはボールを受け取って御終いではなく、次のプレー、次の次のプレーに繋がるようにボールをコントロールすることが本当の意味で大事なことで、ボールを受け取って止めましたでは相手チームの選手に囲まれてボールを奪い返されるだけになる。

 その為にはボールを受ける前に周囲を確認する必要があるし、ボールを貰う瞬間には足元を見ずルックアップして次の動作に容易く移行出来るようにしている必要がある。

 ママからは常に周囲を見回しながら、変化する状況を見てない位置まで予測し、三手、四手……出来ればそれ以上を想定しながらボールを持ってない内に走る。
 そしてボールがもたらされた時に後はゴールにパスをするようにシュートを決められるようになるのがママの目指した理想の姿だったらしい。

 アタッカーならゴールの為に必要なのがどうやってゴールを決めるか? というイメージで、それを実現するために必要なのが技術であり戦術であり相手の情報なのである。

 より多く、より容易く、ゴールするためにそれらはあればいいだけで、それらがなくてもゴールを量産できるのならばなくてもいい。

 ただ論理的に考えればあった方がゴールを量産しやすい。
 なのでボールの感覚を身に付けるよう習い事をするとき以外は家の中でも出来るだけボールを足で扱いながら日常を過ごす癖をつけようとしている。


 パス一つにも意味あり、どちらの足にどれくらいの力でパスを出すか? で、その後の展開は大きく変わる。
 ここでも状況の変化を理解しつつその先をどうしたいのか想定した上で、その状況を作る為のパスを送る必要がある。
 パスを出したらその瞬間に出し手は受け手に変わり、次の状況、その更に次の状況を作る為に考えながら走らなければいけない

 理想的な選手とはその瞬間にゴールのイメージを持ち、そこから逆算してパスやドリブルやフリーランで状況を作り上げていく選手なのかもしれないが、想定していたのと違う局面になった場合も慌てず修正を入れられなければいけない。

 そういう意味ではサッカー選手は技術や体力も大事だが、最も大事なのは洞察力や想像力そして機転といった頭脳的な部分が最も重要なのかもしれない。

 そんなことを考えてはいても実際ボールを操るのはあまり上手く行ってない。
 これは幼女の身ゆえか?
 それともサッカーの経験がまるでないからか?

 多分両方なんだろうけど。
 そんな私に対し、ママは呆れることなく真面目に教え続けてくれる。

 わたしは懸命に一つ一つの事を上手くできるように工夫を重ねているし、ママも熱心にアドバイスをくれている。
 が一朝一夕に上達はしなかい。
 どんな状況で、どんなボールが来てもきちんとコントロールできるように練習し続けるが、全く上手くなった気がしない。

 普通に渡されたパスも完璧なコントロールはまだあまりできないし、バウンドしながら転がってきたパスや、ちょっとずれたパスをコントロールすることは難しい。
 浮いた球やハーフボレーなど全く収まりが悪い。

 それでもママは修正すべき点を一緒に考えてくれながら、楽しめるよう練習させてくれる。
 トライアンドエラーを一緒にやってくれている彼女に必然的に感謝の念がわき親愛の念がわく。
 こうして労を惜しまず遊んでくれるママの為にもっと上手くなりたいと心から思う。

 それでもわたしが自分の下手さに嫌気がさし、煮詰まってくると頃合いをみて、彼女は子供が憧れるような華麗なボールさばきを見せてくれ、それに挑戦させてくれる、
 ルーレット、シザース、ダブルタッチ、ボディフェイント、裏街道、キックフェイント、クライフターン、マシューズフェイント、エラシコ、逆エラシコ、ファルカンフェイント、シャペウ、ドラッグバッグフェイク、オコチャダンス、マクギーディーターン、そしてみんな大好きツ○サ君が使ったヒールリフト, etc.

 わたしをディフェンダー役にして、あるいは見学させて多彩な技術を鮮やかに見せつけてくれた。

 前世の記憶にも女子サッカーを見た記憶もあるのだが、テクニックやセンスでは平均的な男子選手など話にもならないほど優れた女子選手はいたが、残念ながら興行的には面白いと思えなかった。
 理由は簡単で筋力の差からくる、スピードとパワーの差を前世の女子サッカーは克服しようとしなかったからだ。

 簡単に言うと女子のトップアスリートとはいえ単純な筋力に関しては男子高校生並みでしかない。
 それを鍛え上げた成人男子たちと同じピッチの大きさで、同じ大きさのゴール向かって、同じボールを蹴るのだから、男子サッカーを見慣れた人たちにとって物足りなく感じるのは当たり前えある。

 だがこの世界では女子スポーツは希少なな女性アスリートのプレイを映えさせるために、ピッチもゴールもボールの大きささえも二回りほど小さい専用の物を公式試合のレギュレーションに定めている。

 ただ、試合時間は各国国内リーグとナショナルチームフル代表は前後半45分+アディショナルタイムなのは前世の世界と同じで、年代別代表も前世のものと同じレギュレーションである。
 ワールドカップなどの決勝トーナメントではそれで決着がつかなければ延長前後半15分をプレイし。それでも決着がつかなければPK合戦となる。

 だがそういう細かな環境やルールの違いは様々な競技にあり、サッカー以外の他の二大女子スポーツ――バレーボール、ポートボール、サッカーという三つの競技が世界で最も人気のある女子スポーツらしく、競技人口も多い。その上男子のスポーツより人気と注目度と話題性、そして動く金額が桁違いに大きい――でも顕著で、競技性を優先するよりもエンターテイメントや興行としての面を重視したようで、結果として求心力が爆上がりし、それにつられるように競技水準も上がったらしい。

 わたしはママと一緒にサッカーの練習をしつつアイドル修行を無理なくこなせれば、二年後に橘グループが出資し、立ち上げる予定の幼女から淑女としての英才教育を受けられる教育機関と一体型のサッカークラブの入団テストを受ける予定らしい。

 ママからは
「うちのクラブの旗印バンディエラになったってなぁ♡」
 と、割と洒落にならない熱を込めた目で期待を語られている。

 しかし、私はママのその圧力から逃れるように別の趣味に没頭してゆく……
 それとの出逢いこそが今世での運命であったかのように、わたしはそれに夢中になるのであった。
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しばらくは他作品を優先するため不定期更新になると思います。
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