上 下
91 / 92

第90話 悲壮ですね

しおりを挟む
 帰る途中でレイナとエリスは【飛竜】に回復魔法を掛ける。
 休み無しなので魔物と言えど体のケアは必要だろう。
 レイナ達も回復薬を飲んで魔力を補充する。

 いざバレンの治療をする際に魔力切れなどあってはならない事だ。
 幸いな事に出国の時にイーサンが回復薬は複数持たせてくれたので数はある。
 ラウルも持って来た様なので大丈夫だろう。
 
 結局、馬車で7日掛かった距離をたったの数時間で到着する事が出来た。
 まだ明るい時間帯、【飛竜】の飛行能力のお陰だ。

「ありがとう!」

 レイナは【飛竜】に声をかけた。
 バレンを治療したらしっかりとお礼をしなくてはとレイナは思う。

「行きましょう!」

 ラウルがレイナとエリスを促す。
 ここからが本番だ、レイナは気を引き締める。
 魔法学園にエリスを届けたと思ったら、とんぼ返りで戻ってきてしまった。
 【飛竜】着地地点から王宮のバレンが治療している寝所まで急ぐ。

 今の自分なら毒を抜く事なら出来るはず。
 エリスの心にも作用出来た能力なのだからとレイナは【拒絶と吸収】を信じている。

「ただいま戻りました!」
「バレン様!」
「お兄様!」

 ラウル、レイナ、エリスそれぞれが言う。
 だがそれに対する反応は薄い。

 イーサンとニコラは沈痛な面持ち。
 使用人達は呆然としており第二騎士団の面々は泣いている者もいる。
 寝かされているバレンの横で寄り添って手を握り泣きじゃくるクリスティーナ。

「ま、まさか!」
「そんな!」
「嘘!」

 間に合わなかった。
 レイナ達、帰還組三人は間に合わなかった事実が受け止められない。
 頭が回らず理解が追い付かない。
 いや、認めたくない。

 飛ばせるだけ飛ばして【飛竜】に頑張ってもらった。
 あれだけのスピードで帰ってきたのだ。
 間に合わないなど考えもしていなかった。

 立ち尽くすレイナ達にイーサンは言う。

「残念だ……、バレンは息を引き取った……」

 涙を浮かべながら言葉を絞り出し残酷にイーサンは現実を突きつける。
 だがイーサンがこんな事で嘘を言う訳はない。
 頭では分かっている。でもレイナは受け入れられない。

 あんなに堂々としていて強かったバレン。
 クリスティーナと婚約したばかりであり明るい未来があった。
 そんな人間がいなくなるなど想像すらしていない。

「認めない……そんな事認めない!」
「レイナ?」

 レイナは認識阻害のネックレスへの魔力供給を止める。
 すると銀色の髪と赤い瞳が露になる。
 レイナは魔力を高める。

「貴女、な、何をするつもりレイナ!」

 エリスは言うがレイナは無視する。

「……れてください……」
「えっ? 何て言ったの?」

 レイナの聞き取れない程の小さな声にエリスは聞き直す。

「みんなバレン様から離れてええ!!」

 レイナは叫ぶと更に魔力を高めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...