上 下
84 / 92

第83話 素直ですね

しおりを挟む
 間に立ったレイナは両手を広げて魔物の放った魔法とエリスの暴発しそうな魔力の固まりに向ける。

 火の魔法がレイナに当たる直前、跡形もなく消え去る。
 更に、エリスの魔力の固まりも同時に消滅。

「「「えっ!」」」

 エリス、護衛達は驚きの声をあげ、そして魔物のボスも驚きを態度で示す。
 周りにいた魔物達の動きも止まる。
 それほど彼等にはあり得ない事だったのだろう。
 
 次の瞬間、一筋の光が魔物の元に向かう。
 それは魔法を放ってきた群れのボスの眉間を正確に貫き絶命させる。
 レイナが放った高速の聖魔法によりボスが倒れると魔物の群れは統制を失う。
 魔物達に動揺が広がる。

「はっ! 今だ!」

 護衛リーダーが声を上げた。
 動揺する魔物達を護衛達は斬りつける。
 バラバラに動く魔物達は与し易く次々と倒れた。
 暫く続くと残った魔物達は、ばらけて逃げて行く。

 レイナ達は魔物を追い払う事に成功した。

「エリス様、大丈夫ですか?」

 レイナはエリスに駆け寄る。
 エリスは青ざめた顔で震えており、その場に立ち尽くしていた。
 
「何で……、克服したはずなのに……」

 他国の学園にまで通い、誰よりも向上心を持って訓練してきた自負がエリスにはある。
 魔力を完全に制御出来ていたはず、しかし現実は暴発寸前、エリスは悔しさで涙が抑えられない。
 今までやってきた事は何だったのか、そんな気持ちがエリス頭の中を巡る。

「エリス様!」

 レイナは手を握り声を掛ける。
 また魔物が戻ってくるかもしれない。
 この場に残るのは得策ではないだろう。

「だ、大丈夫よ!」

 エリスはレイナの手を振り解き涙を拭く。
 何とか気丈に振る舞おうとする姿を見ると、これまでも悔しさをバネに努力してきただろう事が想像出来る。

「行くわよ!」

 エリスの号令で移動する。
 なるべく襲われにくい場所、魔物を発見し易い場所へと移動して野営する事になった。
 護衛達は順番で見張りを立てる。
 暫くして落ち着いた所でレイナにエリスが聞いてくる。

「さっきのあれは何なんですの?」
「あれと言うのは?」
「とぼけないで貴女、魔法と私の魔力を消したわよね!」

 エリスはレイナがやった不思議な現象を問い詰める。 
 魔法を無効化するなど、この世界にはない。
 避けるか防御魔法、魔力障壁ぐらいだろう。
 それを魔法など存在しなかったかの様に消し去るなどエリスは見た事が無い。
 正確には【拒絶と吸収】により分解されたのだが、周りから見れば消えた様にしか見えなかった。
 
「しかも何あの攻撃魔法! 貴女、回復要員だったはずでしょ?」

 エリスとしても色々とレイナに言いたい事があるのだろう。
 矢継ぎ早にレイナに質問を浴びせる。
 レイナとしても実際に能力を見せてしまっているので今さら隠す気もない。
 どこから説明したものかとレイナが悩んでいると。

「でも、助かったわ。ありがとう」

 素直にお礼を言うエリスにレイナは驚くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!

向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。 話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。 シャルロット……よくやってくれたわ! 貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。 これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。 聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ! ……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません 

柚木ゆず
ファンタジー
 厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。  厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。  そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。  陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。  わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。  ――ホズラティア様、お願いがございます――。  ――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。  ――どうか、国民の皆様をお救いください――。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

処理中です...