上 下
81 / 92

第80話 逃走ですね

しおりを挟む
 馬車の中で美しい所作で紅茶を飲みお菓子を食べるエリスはレイナに聞いてくる。

「貴女は魔物退治の経験はあるのかしら?」
「はい。先日ニコラ様と初めて訓練しました」

 弱い魔物であったが一応レイナにも経験はある。
 魔物は特殊な生物でありレイナとしては気持ち悪いものといった印象が強い。
 出来るなら出会いたくなというのが正直なところだが、もしもの場合はエリスの護衛として戦わざるを得ないとも思っている。

「前にも言った通り魔物が出ても貴女は何もしなくていいわ」

 エリスはレイナに言う。
 それは有り難いのだがレイナとしては、そう言う訳にもいかない。
 出来ることならエリスにも馬車で大人しくしていて欲しいと言うのがレイナの本音だ。
 それが無理と言う事は護衛のリーダーから事前に聞いている。
 エリスは自ら戦いに参加する性分であり、実際には戦力として貢献しているので守られているだけなのは嫌と言う事だ。

「魔物だ! 振り切るぞ!」
「「「!?」」」

 案の定というのだろうか、レイナの思いは届かずに魔物は出現してしまう。

 レイナは急いでお茶のセットを片付ける。
 とは言っても【インベントリ】に適当に突っ込むだけなのだが。

 向かってくる魔物は全て排除すると言う事は無く、逃げられるなら逃げる事を選択するのは生きる為に必要な事だ。
 このパーティーも先ずは逃走を試みる。

 エリスの安全が第一なら当然の選択だろう。
 馬車の中から確認すると数名が殿となり魔物を引き付けエリスの馬車を逃がす作戦の様だ。
 いつも通りなのか、護衛達は手慣れている様子でそれぞれが動く。

 魔物達を振り切り馬車が開けた場所に着いてから暫くすると魔物を引き付けていたメンバーも戻ってくる。
 どうやら作戦は成功した様だ。
 魔物と戦った返り血なのか怪我をしたのか分からないが戻ってきた護衛達の服は赤い。

 そんな彼ら二人にレイナは車内から【ヒール】をかける。
 更に馬にも同時にかけておく。
 馬上にいた護衛達と馬の体が光ると歓声が上がった。
 
「「おおっ!」」
「傷が治ったぞ!」

 どうやら成功した様だ。
 レイナが外に出ないで車内から【ヒール】をかけたのは横着からではなく、エリスの安全の為だと言う事をレイナの名誉の為に言っておく。
 それを見ていたエリスが言う。

「貴女、なかなかやるわね」
「えっ?」

 言われたレイナは何がだろうと思うが、もしかして馬車内から回復魔法をかける横着さ加減が酷かったのだろうかとレイナは考える。

 するとエリスは言う。

「普通の【ヒール】であの距離にいる人間二人と馬にも同時にかけられるなんて」
「えっ、そうなのですか?」

 どうやら回復魔法の事だと分かりレイナは安堵する。

「しかも魔力循環が淀みなくて綺麗だわ!」
「あ、ありがとうございます」
「悔しいけれど流石はニコラの弟子って事かしら」

 レイナとしては複数の人間を同時に回復させるのは必要な事だった。
 回復要員として行った第二騎士団の団員達は次から次へと治療に来たので、この技術が身に付いたのは必然と言える。

「お役に立てたなら嬉しいです」
「ふーん」

 エリスのレイナに対する見る目が少し変わった様だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

処理中です...