婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

第28話 完璧な御令嬢様ですね

「ずいぶんと面白い事をしているのね。ニコラ」

　声の方を振り向くと微笑みを浮かべた女性がレイナ達を見ている。
　口元に手をおく仕草も洗練されていて美しい。
　一目見て幼い頃から礼儀作法の教育を受けているのが分かる。
　容姿も整っており、美しい髪は縦にロールされて高貴な御令嬢といった印象。

　自分の様な貧乏貴族とは違うなと感じて、レイナは憧れの眼で見てしまう。
　レイナと同じぐらいの年齢であろうか。
　顔もスタイルも仕草も整っている完璧な御令嬢だ。

　そんな人間にレイナは訓練を見られてしまったと顔を赤くする。
　最近は剣術と魔法の連携みたいな事をやっていて、おしとやかさとは無縁だ。
　メイド服で剣を持ったレイナは傍から見たら滑稽に見えるのかもしれない。

　しかしニコラを呼び捨てに出来る人物というと、王族かそれに準ずる人なのだろうとレイナは考える。

「クリスティーナ様、こちらに来るなんて珍しいですね」
「！？」

　ニコラの敬語にレイナは驚く。
　自分の時とは大違いであり、それだけ凄い相手というのが分かる。
　いったい誰なのだろうとレイナが思っているとクリスティーナが口を開く。

「ふふ、昔の様にクリスと呼んで貰って構わなくてよ」
「兄上の御婚約者にそんな事出来ませんよ」

　クリスティーナの指摘に恐れ多いとニコラは丁寧な言葉を続けた。

「あら、寂しい事を言うのね」

　そんなニコラの発言にクリスティーナは悲しそうな表情を浮かべる。
　女性にあんな顔をさせるなんてニコラは女心が分かっていない、とレイナはニコラに指摘したい。
　しかし自分が口を挟める雰囲気ではないと言うのが分かるので、仕方がなく黙っておく。

　するとクリスティーナはレイナに興味を持ったのか話を変える。

「ニコラそちらの方はどなたなのかしら。紹介してくれる？」
「はい。メイドのレイナです」

　ニコラがレイナを紹介した。
　間違ってはいない。間違ってはいないが言葉が足りないな、とレイナは苦笑いを浮かべる。
　魔法に関しては天才的であり器用なニコラだが、こんな武骨な言い方しか出来ない不器用なニコラをレイナは少し愛しく感じてしまう。
　しかしメイドであるのは事実。シンプル過ぎる紹介だが、他に言い様がないし仕方がないのだろうとレイナは諦める。

「はじめまして。クリスティーナ様。レイナと申します」

　失礼にならない様に丁寧に挨拶をする。
　レイナは空気を読める女だ。
　この人物は只物ではないと、レイナのセンサーが反応している。

「はじめましてレイナさん。クリスティーナと申しますわ」

　クリスティーナはメイドであるレイナにも礼を尽くした。
　そんな行為にレイナは素敵な女性だなと感心する。
　可愛さもあり美しさもある完璧な御令嬢。
　こんな人物は今まで見たことが無いと、レイナは心の中でクリスティーナを完璧令嬢様と呼ぼうと決める。
　
「貴女、女性なのに危ない事をされてるのね？」

　クリスティーナの周りでは、この様な訓練をする者などいない。
　レイナが訓練をする様子は珍しかった様だ。
　実際に貴族の女性が訓練など皆無だろう。

「はい。剣術と魔法の訓練をして貰っています」
「ニコラに教わっているのですね？」
「はい。ニコラ様には魔法を教えていただいています」

　驚いたような表情を見せるクリスティーナ。
　そんな顔も素敵なんだなとレイナは感心する。

「ニコラが人に教えるなんて……成長したのね」

　クリスティーナには驚くべき事であり周知の事実でもある。
　ニコラが人に何かを教えるタイプではないという事だろう。
　第二王子であるバレンもその事に驚いていた。
　ニコラが人に何かを教えるのは、周りから見ればとても意外な事なんだろうとレイナは苦笑する。

「レイナさん怪我には気を付けてね。それでは失礼するわね」

　クリスティーナは誰かに用事があって来たのだろう。
　
「レイナさんニコラ、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」

　完璧令嬢様はそれだけ言うと、来た時と同じで風の様に去っていった。