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第15話 人は感情で動くみたいですね

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「ニコラ師匠、レイナを頼んだぞ」

 イーサンもレイナの真似をしてニコラを師匠と言っている。

「ちょっとニコラ様、私を睨まないでください!」

 イーサンが勝手に言っているだけなので気にしない事にしようとレイナは現実逃避する。

「そうだそれからレイナ、君に剣術の師匠も付ける事にしたよ。手が空いた時にでもサムエルの所に行ってみてくれ」
「剣術ですか?」

 サムエルさんって執事長よね、とレイナ顔を思い出す。
 隙の無い雰囲気はあったけれど、やっぱり強い人物なのだろう。

 確かに、盗賊に襲われた時レイナは簡単に剣を弾かれてしまった。
 あれでは直ぐにやられてしまう。
 もう少し剣術についての知識と技術があれば違ったかもしれない。

 それを分かっていてイーサンは紹介してくれたのだろう。
 やっぱりイーサンは優しいなとレイナは感謝する。
 
「分かりました。ありがとうございます。後日伺います」
「レイナ、ニコラの前ならそんなに、かしこまらなくてもいいよ」

 そんな提案をイーサンがしてくる。
 公式な場ではないのでいいのかなと疑問に思うもレイナは従う事にした。

「うん、じゃあ色々とありがとうイーサン」
「ああ、気にするな」

 急に砕けた感じで喋るレイナ達をニコラは驚いた様子で見つめる。

「ほう、兄上に対してそんな態度を許される者はそれほど多くはない。お前は何者なんだ?」

 ニコラは訝しげな表情でレイナに突っ込みを入れてくる。

「えっと、何者と言われましても……」

 レイナとしては普通の町娘ですと言うしかない。
 言葉遣いに関してはレイナもどうかとは思ってはいる。
 イーサンはレイナにとって雇用主であり命の恩人。
 そんな人間に対して不適切ではないかと考えてしまう。

「いいんだ。俺がそうしてもらっているからね」

 イーサンがレイナのフォローをする。
 確かに、一国の王子に町娘が普通はこんな態度とれない。
 あそこで出会って無ければレイナも例外ではなかったはず。
 不思議な縁と言うしかない。
 知り合えたのはレイナとしてはラッキーだった。

「レイナは友人だからね」 

(あっ、友人にランクアップしたみたい)

 確かに友人なら砕けた感じも許されるかもしれない。
 知り合って短期間だけれど、友情は時間の長さじゃないしねとレイナはいい風に捉えた。

「イーサン、ありがとう!」

 レイナは嬉しかったので素直にお礼を言っておく。

「友人? そうですか……」

 ニコラはしっくり来ていない様子だ。
 上流階級の世界では同じような身分の者が友人というのが普通なのだろう。
 レイナは元令嬢だけれど追放されてしまったので、今は只の町娘だ。

 しかも盗賊に襲われている所を助けられたというのはニコラも知っている。
 そんな人間が王族である兄と友人というのも納得しにくいのかもしれない。
 
「兄上にとって特別な存在という事か……」

 小さな声だったのでレイナはニコラの声を聞き取る事は出来なかった。
 護衛のラウルも感じた様に、イーサンがここまで女性の面倒を見る事など今までは無かった。
 ニコラとしても見たことが無いので戸惑いがある。

「分かりました。俺のやることは変わりません。徹底的にしごきます」
「えっ? 今の話の流れで何故そうなるのですか?」
「ふん!」

 当然の疑問をニコラに一蹴される。
 レイナは理由は分からなかったが、ニコラの心に火をつけてしまったのは間違いなさそうだ。
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