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第3話 おまけ
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「どういう事なのですか姉上」
部屋を出ると、いきなりそう問いかけられた。
振り向くと弟が凄い形相で見ている。
部屋の中の会話など聞こえるはずも無い。
だけど確信に満ちた声に、話が筒抜けになっていたことは明白だ。
イリスは一応、誤魔化してみることにする。
「突然、何のことかしら?」
「殿下達の事です。彼らに、わざと争わせたのですか?」
随分と正確に聞き取れている様だ。
スキルか魔導具なのだろうとイリスは予想する。
「盗み聞きなんて、良い趣味では無くてよ」
出来るだけ落ち着いた口調をイリスは心掛ける。
「やはり今の話は本当なのですか!」
凄い剣幕であり怒っているのは間違いない。
「本当だと言ったら貴方はどうすると言うのかしら?」
「姉上は聖女の力をお持ちなのですよ。どうしてそれを正しい事に使われないのですか!」
家族はイリスが聖女の力を持っていることは知っていた。
ただ父から他言無用だと、きつく言われている。
「おかしな事を言うのね。貴方の正しい事って言うのは一体どういうものなのかしら?」
「聖女の力は人々の為に使われるべきです。決して私利私欲の為に使っていいものではありません」
「ご高説ありがとう。でも貴方も、わたくし達の会話を聞くのにスキルを使ってましたわよね?」
「そ、それは私のスキルは影響が少ないからです。聖女の力は強大なのですから!」
やはりスキルを使用したのかとイリスは思う。
「そうかしら。情報が得られるスキルなんて、ある意味わたくしの力より凶悪で危険なものだと思うのだけれど」
「うぐっ! そ、それは……」
こんな世の中なのだから正確な情報を得られるありがたさが、分からない訳でもないだろう。
下手をすれば人の生き死にだって左右される程の能力だ。
「そんな能力を貴方は私利私欲の為に使った。そういうことではないのですか?」
「い、いや……」
「別に貴方を責めている訳では無いのですよ。使えるものがあるなら使うべきだと言っているだけですわ」
「……」
弟は合点がいかない様子だ。
「能力も自分の魅力の一つと思っては貰えないかしら?」
「み、魅力ですか?」
「そうよ。得られた力はもう自分の一部な訳ですし、それは否定できないわ」
修練で身に着けたにせよ、偶然得られたにせよ能力を持ってしまっている。
「どうしたって自分の感情で使用してしまう。それは悪いことなのかしら?」
「ですが能力を使って人を騙すのは良くないと私は思います!」
「そうね。でもわたくしがやった事は自己アピールの一環に過ぎないわ」
つぼみを咲かせるなんてインパクトはあっただろう。
「自己アピール? ……つまり普通の女性がやっているような?」
「ええ。魅力をアピールして殿方に気に入っていただく。一般の女性がやってる普通の事なのでは?」
化粧をして髪を整え、服やアクセサリーで着飾る。
能力使用はそんな普通な事の延長だろうとイリスはアピールする。
「しかし……」
(なかなか食い下がるわね。仕方がない)
イリスは方針を変える。
「でもわたくしも今回はやり過ぎたと思いますわ。貴方の言うとおり聖女の力の使い方を考え直すことにするわ」
「そ、そうですか。分かっていただけましたか、姉上」
「ええ、弟の貴方が言うのですから。助言してくれてありがとう」
「はい! 失礼します」
会った初めとは違い弟は少し微笑みを浮かべ去っていく。
自分との会話でイリスが考えを改めてくれたという達成感なのだろう。
ある程度は満足した様だ。
(まあ、考え直すだけでやらないとは言っていないのですけれど)
こんな論点をずらした、煙に巻いた会話で満足するなんて。
(将来、私みたいな女性に騙されなければいいのだけれど……)
弟には素敵な男性になって貰いたいとイリスは思っている。
イリスは弟の成長を願う。
イリス自身もまだ安心は出来ない。
やることはまだまだある。
これからも一族の幸せの為に全力を尽くさなければ……。
イリスはそんな事を考える。
部屋を出ると、いきなりそう問いかけられた。
振り向くと弟が凄い形相で見ている。
部屋の中の会話など聞こえるはずも無い。
だけど確信に満ちた声に、話が筒抜けになっていたことは明白だ。
イリスは一応、誤魔化してみることにする。
「突然、何のことかしら?」
「殿下達の事です。彼らに、わざと争わせたのですか?」
随分と正確に聞き取れている様だ。
スキルか魔導具なのだろうとイリスは予想する。
「盗み聞きなんて、良い趣味では無くてよ」
出来るだけ落ち着いた口調をイリスは心掛ける。
「やはり今の話は本当なのですか!」
凄い剣幕であり怒っているのは間違いない。
「本当だと言ったら貴方はどうすると言うのかしら?」
「姉上は聖女の力をお持ちなのですよ。どうしてそれを正しい事に使われないのですか!」
家族はイリスが聖女の力を持っていることは知っていた。
ただ父から他言無用だと、きつく言われている。
「おかしな事を言うのね。貴方の正しい事って言うのは一体どういうものなのかしら?」
「聖女の力は人々の為に使われるべきです。決して私利私欲の為に使っていいものではありません」
「ご高説ありがとう。でも貴方も、わたくし達の会話を聞くのにスキルを使ってましたわよね?」
「そ、それは私のスキルは影響が少ないからです。聖女の力は強大なのですから!」
やはりスキルを使用したのかとイリスは思う。
「そうかしら。情報が得られるスキルなんて、ある意味わたくしの力より凶悪で危険なものだと思うのだけれど」
「うぐっ! そ、それは……」
こんな世の中なのだから正確な情報を得られるありがたさが、分からない訳でもないだろう。
下手をすれば人の生き死にだって左右される程の能力だ。
「そんな能力を貴方は私利私欲の為に使った。そういうことではないのですか?」
「い、いや……」
「別に貴方を責めている訳では無いのですよ。使えるものがあるなら使うべきだと言っているだけですわ」
「……」
弟は合点がいかない様子だ。
「能力も自分の魅力の一つと思っては貰えないかしら?」
「み、魅力ですか?」
「そうよ。得られた力はもう自分の一部な訳ですし、それは否定できないわ」
修練で身に着けたにせよ、偶然得られたにせよ能力を持ってしまっている。
「どうしたって自分の感情で使用してしまう。それは悪いことなのかしら?」
「ですが能力を使って人を騙すのは良くないと私は思います!」
「そうね。でもわたくしがやった事は自己アピールの一環に過ぎないわ」
つぼみを咲かせるなんてインパクトはあっただろう。
「自己アピール? ……つまり普通の女性がやっているような?」
「ええ。魅力をアピールして殿方に気に入っていただく。一般の女性がやってる普通の事なのでは?」
化粧をして髪を整え、服やアクセサリーで着飾る。
能力使用はそんな普通な事の延長だろうとイリスはアピールする。
「しかし……」
(なかなか食い下がるわね。仕方がない)
イリスは方針を変える。
「でもわたくしも今回はやり過ぎたと思いますわ。貴方の言うとおり聖女の力の使い方を考え直すことにするわ」
「そ、そうですか。分かっていただけましたか、姉上」
「ええ、弟の貴方が言うのですから。助言してくれてありがとう」
「はい! 失礼します」
会った初めとは違い弟は少し微笑みを浮かべ去っていく。
自分との会話でイリスが考えを改めてくれたという達成感なのだろう。
ある程度は満足した様だ。
(まあ、考え直すだけでやらないとは言っていないのですけれど)
こんな論点をずらした、煙に巻いた会話で満足するなんて。
(将来、私みたいな女性に騙されなければいいのだけれど……)
弟には素敵な男性になって貰いたいとイリスは思っている。
イリスは弟の成長を願う。
イリス自身もまだ安心は出来ない。
やることはまだまだある。
これからも一族の幸せの為に全力を尽くさなければ……。
イリスはそんな事を考える。
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🌱🐥💮