23 / 33
3章 心が通い合う時③
しおりを挟む
「千鶴はとっくに他の相手と結婚している。地震が起こる直前、散々俺に惚気ていたから顔が赤かったんだろう。今はただの友人だよ」
目を瞬かせる夕花に白夜は説明してくれた。
「婚約当時は赤坂財閥が傾いていてね、彼女は金銭的な事情で俺の婚約者になったんだ。だが千鶴は赤坂財閥を自分が立て直すと申し出て、俺は金を貸しただけだ。彼女は実際に立て直して金を返してくれた。それで俺とも円満に婚約を解消したんだ。その後、すぐに恋仲だった幼馴染の男性を婿にして結婚したんだよ。だからよりを戻すということはありえない」
白夜の話を、夕花は呆然としながら聞いた。
「それに言っておくが、俺は千鶴を女性として好きだったことは一度もない。しかし何故そんな風に思い込んだ? 君に変なことを吹き込むやつでもいたのか?」
夕花はふるふると首を横に振った。
「い、いえ……、本を読んだからです。白夜さんの書いた本『兎に狼を殺せるか』あれを読んだ私は、てっきり千鶴さんと白夜さんのお話なのだとばかり……」
出ていく女性を愛しながら、手放すことを選んだ話。
夕花はすっかり二人の話なのだと思い込んでしまったのだ。
「あの話を書いたのは、千鶴と婚約するよりも前のことだよ。千鶴とは無関係だ」
白夜は怒ることもなくそう言った。
夕花は完全に思い違いをしていたようだ。早とちりに顔から火が出るほど恥ずかしい。
「すみません……私、早とちりしてしまって」
「だが、いい線はついている。……確かに狼は俺自身がモデルだ。でも一つ違うのは、狼は兎に恋愛感情を持っていたわけではないということ。……兎のモデルはね、俺を置いて出て行った、母親なんだ」
「……お母様……ですか」
白夜が語ったところによると、白夜の両親にはそれぞれ恋人がいたらしい。どちらも相手はごく普通の、異能のない人間だった。しかし両親は恋しい相手と添い遂げることは許されなかった。白夜の父は吸血鬼の月森家当主として、母は月森家に金で売られた幻羽族の娘として、吸血鬼の血を受け継ぐ子供を作る必要があったのだという。
「だが、形ばかりの夫婦となってもうまくいくはずなかった。吸血鬼は子供のうちに最低でも一回は両親から血を与えられるものだが、母はそれを拒んだ。そして俺が小さい頃に、義務は果たしたと出て行った。父は俺が生まれた時にはとっくにいなくなっていた。親の愛と共に与えられるべき血を与えられなかった俺は、血を吸ったことがない」
そんな、と夕花はショックを受けていた。
夕花も羽なしとして、父から愛されていなかった。しかし、亡き母だけは夕花を愛し、全力で慈しんでくれたのだ。そのおかげで夕花は今も母の思い出を胸に生きていける。しかし、白夜にはそれすら与えられなかったなんて。
「俺が血を吸えないのは精神的なものだ。婚約を解消する時、千鶴が好意で血を吸わせようとしてくれた。だが、俺は千鶴の血を吸えなかった。吸血鬼の本能としては吸いたいのに、どうしても頭が拒んで飲み込めないんだ」
「で、でも、血を吸わなくても生きていけるのなら、それでいいではないですか」
血を吸えば怪我が治癒するといっても、何か起きない限り大怪我などしない。異能の力も極力使わず、危険な場所にも行かず、静かに暮らせばいい。
「通常の吸血鬼ならな。だが、俺くらい強い異能の力を持っているだけで、まったく血を吸わずには生きていけない。少なくとも十年に一度くらいは飲む必要があるそうだ。どうしても吸えない場合は、血液から作成した薬を飲むんだ。俺も幼い頃に、幻羽族の血液から作った薬を飲んでいたんだが、ある時から薬を飲んでも効果がなくなってしまった」
「白夜さんが血を飲めないとなると、今後どうなってしまうんですか……」
「おそらく、寿命が著しく短くなるだろう。あと何年生きられるか、わかったものではない」
「……そ、そんな……」
夕花はザアッと血の気が引くのを感じていた。
「すぐに死ぬというわけではないが、今後どうなるかわからないということだ。二、三年であっさり死ぬのならまだしも、下手に寝たきりのまま十年か二十年生きてしまう可能性もある。それもあって夕花をそばに置いておくのが辛い。助けるつもりで君を連れてきたのに、それだけ長く辛い思いをさせるのは忍びない。俺なんかのために、母のようにしたいことを我慢させ、好きな人とも添い遂げられずに、ただ人生を消費させてしまうのが、辛いんだ」
「そんな、私はしたいことを我慢なんてしていません! 代書屋で働かせてもらっていますし、好きなのは──」
白夜だ、とは言えなかった。代わりにカアッと頬を赤らめた。
「白夜さんは、同情で私を助けてくれたんですか……? やっぱり、倒れたところを助けた恩返しには、大きすぎます」
「俺は……君に初めて会ったあの頃、ひどく病んでいた。血を吸えなかった──いや、親の愛情を口にできなかった俺は、ろくに睡眠も取れず、何を食べても味がしなかった。ふらふらと出歩いて、亘理にも何度も迷惑をかけていてね。綾地町にいたのは、きっと母を探していたんだ。母から血を吸わせてもらえれば、なんとかなるんじゃないかって」
「白夜さんのお母さんはあの町にいるのですか!?」
しかし白夜は首を横に振る。
「……いや、いないよ。いないってわかっているのに、吸血鬼でも幻羽族でもない恋人のところに向かった母の面影を、あの町で探してしまうんだ」
きっとそれは、綾地町が異能を持たないごく普通の人たちの営みの場所だからなのだろう。夕花も綾地町の人々の明るさや優しさに何度も心を救われた。そしてそれは、白夜も一緒だったのだ。
「俺は倒れた時も、もう全てがどうでもよかった。このまま目をつぶって終わりにしようと思ったんだよ。そこを君に救われた」
「ただ代書屋の座敷に寝かせただけですよ」
「君はあの時もそう言ったね。だが、そんなことはないよ。君のそばは久しぶりに安らかに眠れたし、君と分け合った饅頭はあれほど美味しいものを食べたのは初めてだと感じるくらいだった。もしかしたら君が心を尽くしてくれたから余計そう感じたのかもしれない。そして俺は目を覚まして、この世で最も美しいものを見たと感じたんだ」
夕花はあの時を思い出そうとしたが、よく思い出せない。美しいものなどあっただろうか。
「それは?」
「──君だよ、夕花」
白夜は、目を細め、優しく微笑む。そのあまりの美しさに、時間が止まったかと錯覚していた。
少なくとも息をするのを忘れて白夜の微笑みに見入っていた。
いや、魅入られていたのかもしれない。
ハッと我に返り、呼吸を再開した夕花に白夜は言う。
「俺は、君を愛している。目を覚ましたあの時、君の姿を見てから、どうしようもなく君に惹かれてしまったんだ」
「白夜さんが……私を……?」
「だから、月森家の力で半ば無理矢理に連れてきてしまった。君が神楽家で幸せなら、我慢できたかもしれない。調べさせた君の生活に、どうしても放っておくことはできなかった。でも、俺のわがままはこれで終わりだ。俺は狼、そして君は兎だ。手放すことも愛だと受け入れるよ」
白夜はそう言って、夕花の頬を優しく撫でた。するすると離れていき、白夜の感触がなくなる。それがとても寂しい。
「……嫌です……」
夕花はなんて言ったらいいものか、全然わからなかった。ただ、嫌だと小さな子供のように繰り返す。
「私、白夜さんのそばにいたい。それが私の望みなんです。だって私、私も──白夜さんが、好き」
心の中がぐちゃぐちゃで、涙を止めることはもうできなかった。神楽家でどんなに辛くても、何度も我慢できていた涙が、感情と共に溢れ出る。しかし、諦めの涙ではなかった。俯いて流す涙とは違う、白夜の方を真っ直ぐに見たまま、熱い心をぶちまけるような涙だった。
「白夜さんが、私の好きにさせてくれるというのなら、私は白夜さんのそばがいい。私は兎じゃありません。あんなに賢くもないし、気高くなんてない。それに何よりも、私は狼を……白夜さんを愛しているんですから!」
狼を愛さなかった兎とは違う。
夕花はその本心を白夜に向けて叫んだ。
気が付くと、夕花は白夜に抱きしめられていた。
白夜からする甘い匂いに包まれ、白夜の温かさを感じる。
「そんなことを言ったら、もう二度と君を手放さない。いいのか?」
「いいに決まってます……!」
夕花も白夜に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。心臓が今更ドキドキとして、口から飛び出してしまいそうだ。顔も真っ赤だし、泣いたばかりの目もきっと赤いことだろう。
白夜は夕花の頬を両手で挟む。
「目が赤くて兎みたいだ。……でも兎ではないんだな」
目を閉じて、と耳元で囁かれ、夕花は目をギュッと閉じた。
頬に、額に、そして唇に、柔らかな感触が降ってくる。クスッと白夜が含み笑いするのが聞こえた。
「そんなに強く閉じなくていいんだよ」
余計に恥ずかしく、おそるおそる目を開くと、白夜の端正な顔が間近にあった。
再び唇に白夜の唇が優しく触れる。何度も何度も、キスの雨が降ってくる。夕花は手を振るわせながらも、それを全て受け入れた。
夕花にはもう、白夜以外は何も見えない。木漏れ日の煌めく薄暗い森も、森の外の輝く湖も、全てが意識の外で、ただ白夜のことだけが心を占めていた。
白夜の紅色の瞳にも、夕花だけが映っている。
想いは通じ合い、とろけるような甘いひとときを、心ゆくまで過ごしたのだった。
目を瞬かせる夕花に白夜は説明してくれた。
「婚約当時は赤坂財閥が傾いていてね、彼女は金銭的な事情で俺の婚約者になったんだ。だが千鶴は赤坂財閥を自分が立て直すと申し出て、俺は金を貸しただけだ。彼女は実際に立て直して金を返してくれた。それで俺とも円満に婚約を解消したんだ。その後、すぐに恋仲だった幼馴染の男性を婿にして結婚したんだよ。だからよりを戻すということはありえない」
白夜の話を、夕花は呆然としながら聞いた。
「それに言っておくが、俺は千鶴を女性として好きだったことは一度もない。しかし何故そんな風に思い込んだ? 君に変なことを吹き込むやつでもいたのか?」
夕花はふるふると首を横に振った。
「い、いえ……、本を読んだからです。白夜さんの書いた本『兎に狼を殺せるか』あれを読んだ私は、てっきり千鶴さんと白夜さんのお話なのだとばかり……」
出ていく女性を愛しながら、手放すことを選んだ話。
夕花はすっかり二人の話なのだと思い込んでしまったのだ。
「あの話を書いたのは、千鶴と婚約するよりも前のことだよ。千鶴とは無関係だ」
白夜は怒ることもなくそう言った。
夕花は完全に思い違いをしていたようだ。早とちりに顔から火が出るほど恥ずかしい。
「すみません……私、早とちりしてしまって」
「だが、いい線はついている。……確かに狼は俺自身がモデルだ。でも一つ違うのは、狼は兎に恋愛感情を持っていたわけではないということ。……兎のモデルはね、俺を置いて出て行った、母親なんだ」
「……お母様……ですか」
白夜が語ったところによると、白夜の両親にはそれぞれ恋人がいたらしい。どちらも相手はごく普通の、異能のない人間だった。しかし両親は恋しい相手と添い遂げることは許されなかった。白夜の父は吸血鬼の月森家当主として、母は月森家に金で売られた幻羽族の娘として、吸血鬼の血を受け継ぐ子供を作る必要があったのだという。
「だが、形ばかりの夫婦となってもうまくいくはずなかった。吸血鬼は子供のうちに最低でも一回は両親から血を与えられるものだが、母はそれを拒んだ。そして俺が小さい頃に、義務は果たしたと出て行った。父は俺が生まれた時にはとっくにいなくなっていた。親の愛と共に与えられるべき血を与えられなかった俺は、血を吸ったことがない」
そんな、と夕花はショックを受けていた。
夕花も羽なしとして、父から愛されていなかった。しかし、亡き母だけは夕花を愛し、全力で慈しんでくれたのだ。そのおかげで夕花は今も母の思い出を胸に生きていける。しかし、白夜にはそれすら与えられなかったなんて。
「俺が血を吸えないのは精神的なものだ。婚約を解消する時、千鶴が好意で血を吸わせようとしてくれた。だが、俺は千鶴の血を吸えなかった。吸血鬼の本能としては吸いたいのに、どうしても頭が拒んで飲み込めないんだ」
「で、でも、血を吸わなくても生きていけるのなら、それでいいではないですか」
血を吸えば怪我が治癒するといっても、何か起きない限り大怪我などしない。異能の力も極力使わず、危険な場所にも行かず、静かに暮らせばいい。
「通常の吸血鬼ならな。だが、俺くらい強い異能の力を持っているだけで、まったく血を吸わずには生きていけない。少なくとも十年に一度くらいは飲む必要があるそうだ。どうしても吸えない場合は、血液から作成した薬を飲むんだ。俺も幼い頃に、幻羽族の血液から作った薬を飲んでいたんだが、ある時から薬を飲んでも効果がなくなってしまった」
「白夜さんが血を飲めないとなると、今後どうなってしまうんですか……」
「おそらく、寿命が著しく短くなるだろう。あと何年生きられるか、わかったものではない」
「……そ、そんな……」
夕花はザアッと血の気が引くのを感じていた。
「すぐに死ぬというわけではないが、今後どうなるかわからないということだ。二、三年であっさり死ぬのならまだしも、下手に寝たきりのまま十年か二十年生きてしまう可能性もある。それもあって夕花をそばに置いておくのが辛い。助けるつもりで君を連れてきたのに、それだけ長く辛い思いをさせるのは忍びない。俺なんかのために、母のようにしたいことを我慢させ、好きな人とも添い遂げられずに、ただ人生を消費させてしまうのが、辛いんだ」
「そんな、私はしたいことを我慢なんてしていません! 代書屋で働かせてもらっていますし、好きなのは──」
白夜だ、とは言えなかった。代わりにカアッと頬を赤らめた。
「白夜さんは、同情で私を助けてくれたんですか……? やっぱり、倒れたところを助けた恩返しには、大きすぎます」
「俺は……君に初めて会ったあの頃、ひどく病んでいた。血を吸えなかった──いや、親の愛情を口にできなかった俺は、ろくに睡眠も取れず、何を食べても味がしなかった。ふらふらと出歩いて、亘理にも何度も迷惑をかけていてね。綾地町にいたのは、きっと母を探していたんだ。母から血を吸わせてもらえれば、なんとかなるんじゃないかって」
「白夜さんのお母さんはあの町にいるのですか!?」
しかし白夜は首を横に振る。
「……いや、いないよ。いないってわかっているのに、吸血鬼でも幻羽族でもない恋人のところに向かった母の面影を、あの町で探してしまうんだ」
きっとそれは、綾地町が異能を持たないごく普通の人たちの営みの場所だからなのだろう。夕花も綾地町の人々の明るさや優しさに何度も心を救われた。そしてそれは、白夜も一緒だったのだ。
「俺は倒れた時も、もう全てがどうでもよかった。このまま目をつぶって終わりにしようと思ったんだよ。そこを君に救われた」
「ただ代書屋の座敷に寝かせただけですよ」
「君はあの時もそう言ったね。だが、そんなことはないよ。君のそばは久しぶりに安らかに眠れたし、君と分け合った饅頭はあれほど美味しいものを食べたのは初めてだと感じるくらいだった。もしかしたら君が心を尽くしてくれたから余計そう感じたのかもしれない。そして俺は目を覚まして、この世で最も美しいものを見たと感じたんだ」
夕花はあの時を思い出そうとしたが、よく思い出せない。美しいものなどあっただろうか。
「それは?」
「──君だよ、夕花」
白夜は、目を細め、優しく微笑む。そのあまりの美しさに、時間が止まったかと錯覚していた。
少なくとも息をするのを忘れて白夜の微笑みに見入っていた。
いや、魅入られていたのかもしれない。
ハッと我に返り、呼吸を再開した夕花に白夜は言う。
「俺は、君を愛している。目を覚ましたあの時、君の姿を見てから、どうしようもなく君に惹かれてしまったんだ」
「白夜さんが……私を……?」
「だから、月森家の力で半ば無理矢理に連れてきてしまった。君が神楽家で幸せなら、我慢できたかもしれない。調べさせた君の生活に、どうしても放っておくことはできなかった。でも、俺のわがままはこれで終わりだ。俺は狼、そして君は兎だ。手放すことも愛だと受け入れるよ」
白夜はそう言って、夕花の頬を優しく撫でた。するすると離れていき、白夜の感触がなくなる。それがとても寂しい。
「……嫌です……」
夕花はなんて言ったらいいものか、全然わからなかった。ただ、嫌だと小さな子供のように繰り返す。
「私、白夜さんのそばにいたい。それが私の望みなんです。だって私、私も──白夜さんが、好き」
心の中がぐちゃぐちゃで、涙を止めることはもうできなかった。神楽家でどんなに辛くても、何度も我慢できていた涙が、感情と共に溢れ出る。しかし、諦めの涙ではなかった。俯いて流す涙とは違う、白夜の方を真っ直ぐに見たまま、熱い心をぶちまけるような涙だった。
「白夜さんが、私の好きにさせてくれるというのなら、私は白夜さんのそばがいい。私は兎じゃありません。あんなに賢くもないし、気高くなんてない。それに何よりも、私は狼を……白夜さんを愛しているんですから!」
狼を愛さなかった兎とは違う。
夕花はその本心を白夜に向けて叫んだ。
気が付くと、夕花は白夜に抱きしめられていた。
白夜からする甘い匂いに包まれ、白夜の温かさを感じる。
「そんなことを言ったら、もう二度と君を手放さない。いいのか?」
「いいに決まってます……!」
夕花も白夜に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。心臓が今更ドキドキとして、口から飛び出してしまいそうだ。顔も真っ赤だし、泣いたばかりの目もきっと赤いことだろう。
白夜は夕花の頬を両手で挟む。
「目が赤くて兎みたいだ。……でも兎ではないんだな」
目を閉じて、と耳元で囁かれ、夕花は目をギュッと閉じた。
頬に、額に、そして唇に、柔らかな感触が降ってくる。クスッと白夜が含み笑いするのが聞こえた。
「そんなに強く閉じなくていいんだよ」
余計に恥ずかしく、おそるおそる目を開くと、白夜の端正な顔が間近にあった。
再び唇に白夜の唇が優しく触れる。何度も何度も、キスの雨が降ってくる。夕花は手を振るわせながらも、それを全て受け入れた。
夕花にはもう、白夜以外は何も見えない。木漏れ日の煌めく薄暗い森も、森の外の輝く湖も、全てが意識の外で、ただ白夜のことだけが心を占めていた。
白夜の紅色の瞳にも、夕花だけが映っている。
想いは通じ合い、とろけるような甘いひとときを、心ゆくまで過ごしたのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
後宮で立派な継母になるために
絹乃
キャラ文芸
母である皇后を喪った4歳の蒼海(ツァンハイ)皇女。未来視のできる皇女の養育者は見つからない。妃嬪の一人である玲華(リンホア)は皇女の継母となることを誓う。しかし玲華の兄が不穏な動きをする。そして玲華の元にやって来たのは、侍女に扮した麗しの青年、凌星(リンシー)だった。凌星は皇子であり、未来を語る蒼海の監視と玲華の兄の様子を探るために派遣された。玲華が得意の側寫術(プロファイリング)を駆使し、娘や凌星と共に兄の陰謀を阻止する継母後宮ミステリー。※表紙は、てんぱる様のフリー素材をお借りしています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる