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21 修羅場と誤解
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店から出た私は、外にいるレオンを追いかけた。
レオンと黒髪の女性はスタスタと先を歩いていく。二人とも妙に足が早く、私は小走りになってようやく追いついた。
「レ、レオン!」
振り返ったレオンが私を見て目を丸くした直後、真っ青な顔でドッと汗を流した。
私が言うのもなんだけど、ド修羅場である。
「レオン、これはどういうことなの?」
「グレイス……こ、これは……仕事で」
「魔術騎士団の制服を着ない仕事? オルブライト公爵家がらみの仕事にしてはラフな格好よね。ねえ、私のことが嫌いになったのなら、正直にそう言ってよ。レオンから婚約破棄するって約束したじゃない! その人が好きで、私と結婚したくないなら……」
「待ってくれ、グレイス。落ち着いて……」
「私は落ち着いてるわ!」
狼狽えるレオンに私は詰め寄る。
「あ、あの……すみません。お二人とも落ち着いて。少し行ったところに人気のない公園があるので、とりあえずそちらに向かいましょう」
黒髪の女性が淡々とそう言った。やけに低い──いや、低すぎる声で。
「え……?」
「ああ、そうだな。グレイス、行こう」
私は何故かレオンに手を握られて、そのまま公園に連れて行かれたのだった。
公園は人気がない。さらにその隅の方の林の中で話すことになった。
「グレイス、すまない! でも誤解なんだ」
レオンは真っ青な顔でそう言った。
「レオン先輩がこんなに狼狽えたのも真っ青になったのも初めて見ましたよ」
黒髪の女性はそう言った。声はやっぱり聞き間違いではないほど低い。男性の声にしか聞こえない。
「あ、あの……どういうこと?」
黒髪の女性が「はい」と片手を挙げる。
「僕からご説明させてください。声を聞いてわかるかと思いますが、僕は男です」
「え、ええと……?」
「そして僕は魔術騎士団の後輩です。簡単に言うと、潜入捜査中です。驚かせてしまって申し訳ありません」
「ほ、本当なんだ。グレイス。このライエルに女装させて、恋人同士という体で捜査をしていたんだ。本当に魔術騎士団の仕事の一環で……」
「僕はグレイスさんに一度会っています。覚えていないかもしれませんが……」
黒髪の女性──いや、ライエルさんは言う。
私はまったく覚えがなく首を傾げた。
「ほら、移動遊園地で貴方に鞄をぶつけた女性に、連れの男がいたでしょう」
「え、ええと……あ、謝ってくれた人」
鞄をぶつけられた後に腰を低くして謝ってくれた連れの男性がいたのは覚えている。
「はい。あれが僕です。僕、元が地味顔で影が薄くて、手先も器用なので、変装して潜入が得意なんですよね」
「ええっ!?」
私はライエルさんをじっと見つめる。声以外はどこからどう見ても美女だ。あの時の男性は印象が薄くて顔をはっきりと覚えてはいないが、今の姿とは似ても似つかない。
「髪はカツラです。似合うでしょう。ただ女性にしては背が高くなってしまうので、相手役がレオン先輩くらい体格がよくないと悪目立ちしてしまうんです。誤解させてしまってすみません」
「い、いえ……私こそ誤解して、お仕事の邪魔をしてしまって……」
今更ながら、なんてことをしてしまったのかと、カアッと頬が熱くなる。
「いや、俺がグレイスに何も言わなかったから」
「でも、誤解したのは私だし……なんてお詫びをしたらいいか」
「気にしないでください。まだ店舗の特定も出来ていなかったので、デートのふりをしてウロウロしていただけでしたから」
「ああ……対象は守秘義務で詳しく言えないんだが」
「レオン先輩、多少の情報開示は仕方ないですよ。彼女も被害者ですし」
「それはどういうことですか?」
私は首を傾げる。
「実は、とある国から違法の呪術具が密輸されているようなのです。それも、女性向けのアクセサリーなんかに紛れているらしくて……」
「ほら移動遊園地で、グレイスを鞄で殴った女がいただろう。あの女が違法の呪術具を仕入れて、さらに売人をしているようなんだ。あの日もライエルが取引現場を押さえようとして潜入していたんだが……」
「あ、あの人……そうだったのね」
「ええ。努力の甲斐あって、デート出来るくらいの仲になったのですが、あの日はタイミング悪く引ったくりにやられてしまって。彼女も取引を仕切り直すことにしたみたいです。しかも僕、あの直後にフラれちゃって……」
ライエルはやれやれというように肩をすくめた。
「なので、今度は違法呪術具を販売している店を探していたんですよ。あのあたりにあるって噂があったので。でも魔術騎士団って男所帯なので、女性の店に疎くて噂の店を特定出来てないんです。これでもアクセサリーの店は散々回ったんですけどね……」
「グレイスがあの女に鞄で殴られた後、熱を出していたのもあの女が持っていた呪術具のせいだと思う。俺が肩に触れた時、火花が出ただろう」
「ええ、私も気になって調べたの。あれってレジスト時に強く光る魔術光ってことよね。それから、私の肩に矢羽みたいな形のあざが出来ていたのだけど、レオンが肩に触って火花が散ったら消えてしまったのよ」
「矢羽みたいなあざ?」
「ええ。しかもそのあざが消えたら熱も下がったの。ツィツィーに手紙を持っていってもらったけど、読まなかった?」
「……す、すまない。忙しくて。しかし矢羽か……」
考え込むレオンに、ライエルさんが小さく頷いた。
「ということは、呪術具にも矢羽をかたどったものがあるかもしれません。もう一度、そういった形のアクセサリーを目印に探しましょう。矢羽のアクセサリー……ペンダントとかですかね」
「ああ。さっき見て回ったジュエリーの店にはそれらしいものがなかったから、もう少し範囲を広げて……」
「……ちょっと待って。アクセサリーってジュエリー店にあるとは限らないと思います」
「というと、ヘアアクセサリーとかですか」
私は不意にロベリアと話したことを思い出した。
「あの、バッグチャーム……鞄につけるアクセサリーという線はありませんか? ロベリア……友人が言っていたんです。可愛い鞄の店があるって。──確か、おまじないチャームが色々あるとか……」
「それだ!」
レオンと黒髪の女性はスタスタと先を歩いていく。二人とも妙に足が早く、私は小走りになってようやく追いついた。
「レ、レオン!」
振り返ったレオンが私を見て目を丸くした直後、真っ青な顔でドッと汗を流した。
私が言うのもなんだけど、ド修羅場である。
「レオン、これはどういうことなの?」
「グレイス……こ、これは……仕事で」
「魔術騎士団の制服を着ない仕事? オルブライト公爵家がらみの仕事にしてはラフな格好よね。ねえ、私のことが嫌いになったのなら、正直にそう言ってよ。レオンから婚約破棄するって約束したじゃない! その人が好きで、私と結婚したくないなら……」
「待ってくれ、グレイス。落ち着いて……」
「私は落ち着いてるわ!」
狼狽えるレオンに私は詰め寄る。
「あ、あの……すみません。お二人とも落ち着いて。少し行ったところに人気のない公園があるので、とりあえずそちらに向かいましょう」
黒髪の女性が淡々とそう言った。やけに低い──いや、低すぎる声で。
「え……?」
「ああ、そうだな。グレイス、行こう」
私は何故かレオンに手を握られて、そのまま公園に連れて行かれたのだった。
公園は人気がない。さらにその隅の方の林の中で話すことになった。
「グレイス、すまない! でも誤解なんだ」
レオンは真っ青な顔でそう言った。
「レオン先輩がこんなに狼狽えたのも真っ青になったのも初めて見ましたよ」
黒髪の女性はそう言った。声はやっぱり聞き間違いではないほど低い。男性の声にしか聞こえない。
「あ、あの……どういうこと?」
黒髪の女性が「はい」と片手を挙げる。
「僕からご説明させてください。声を聞いてわかるかと思いますが、僕は男です」
「え、ええと……?」
「そして僕は魔術騎士団の後輩です。簡単に言うと、潜入捜査中です。驚かせてしまって申し訳ありません」
「ほ、本当なんだ。グレイス。このライエルに女装させて、恋人同士という体で捜査をしていたんだ。本当に魔術騎士団の仕事の一環で……」
「僕はグレイスさんに一度会っています。覚えていないかもしれませんが……」
黒髪の女性──いや、ライエルさんは言う。
私はまったく覚えがなく首を傾げた。
「ほら、移動遊園地で貴方に鞄をぶつけた女性に、連れの男がいたでしょう」
「え、ええと……あ、謝ってくれた人」
鞄をぶつけられた後に腰を低くして謝ってくれた連れの男性がいたのは覚えている。
「はい。あれが僕です。僕、元が地味顔で影が薄くて、手先も器用なので、変装して潜入が得意なんですよね」
「ええっ!?」
私はライエルさんをじっと見つめる。声以外はどこからどう見ても美女だ。あの時の男性は印象が薄くて顔をはっきりと覚えてはいないが、今の姿とは似ても似つかない。
「髪はカツラです。似合うでしょう。ただ女性にしては背が高くなってしまうので、相手役がレオン先輩くらい体格がよくないと悪目立ちしてしまうんです。誤解させてしまってすみません」
「い、いえ……私こそ誤解して、お仕事の邪魔をしてしまって……」
今更ながら、なんてことをしてしまったのかと、カアッと頬が熱くなる。
「いや、俺がグレイスに何も言わなかったから」
「でも、誤解したのは私だし……なんてお詫びをしたらいいか」
「気にしないでください。まだ店舗の特定も出来ていなかったので、デートのふりをしてウロウロしていただけでしたから」
「ああ……対象は守秘義務で詳しく言えないんだが」
「レオン先輩、多少の情報開示は仕方ないですよ。彼女も被害者ですし」
「それはどういうことですか?」
私は首を傾げる。
「実は、とある国から違法の呪術具が密輸されているようなのです。それも、女性向けのアクセサリーなんかに紛れているらしくて……」
「ほら移動遊園地で、グレイスを鞄で殴った女がいただろう。あの女が違法の呪術具を仕入れて、さらに売人をしているようなんだ。あの日もライエルが取引現場を押さえようとして潜入していたんだが……」
「あ、あの人……そうだったのね」
「ええ。努力の甲斐あって、デート出来るくらいの仲になったのですが、あの日はタイミング悪く引ったくりにやられてしまって。彼女も取引を仕切り直すことにしたみたいです。しかも僕、あの直後にフラれちゃって……」
ライエルはやれやれというように肩をすくめた。
「なので、今度は違法呪術具を販売している店を探していたんですよ。あのあたりにあるって噂があったので。でも魔術騎士団って男所帯なので、女性の店に疎くて噂の店を特定出来てないんです。これでもアクセサリーの店は散々回ったんですけどね……」
「グレイスがあの女に鞄で殴られた後、熱を出していたのもあの女が持っていた呪術具のせいだと思う。俺が肩に触れた時、火花が出ただろう」
「ええ、私も気になって調べたの。あれってレジスト時に強く光る魔術光ってことよね。それから、私の肩に矢羽みたいな形のあざが出来ていたのだけど、レオンが肩に触って火花が散ったら消えてしまったのよ」
「矢羽みたいなあざ?」
「ええ。しかもそのあざが消えたら熱も下がったの。ツィツィーに手紙を持っていってもらったけど、読まなかった?」
「……す、すまない。忙しくて。しかし矢羽か……」
考え込むレオンに、ライエルさんが小さく頷いた。
「ということは、呪術具にも矢羽をかたどったものがあるかもしれません。もう一度、そういった形のアクセサリーを目印に探しましょう。矢羽のアクセサリー……ペンダントとかですかね」
「ああ。さっき見て回ったジュエリーの店にはそれらしいものがなかったから、もう少し範囲を広げて……」
「……ちょっと待って。アクセサリーってジュエリー店にあるとは限らないと思います」
「というと、ヘアアクセサリーとかですか」
私は不意にロベリアと話したことを思い出した。
「あの、バッグチャーム……鞄につけるアクセサリーという線はありませんか? ロベリア……友人が言っていたんです。可愛い鞄の店があるって。──確か、おまじないチャームが色々あるとか……」
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