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15 熱でふわふわ
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レオンは頼んだ通り、ツィツィーの世話をしてくれている。
ベッドにいてもツィーツィーと甘える鳴き声が聞こえる。
レオンは銀鳥の親鳥を飼っているし、世話にも慣れているので任せても安心だ。
「なあ、グレイス。次の週末も俺と出かけないか」
レオンはツィツィーに餌をやりながらそう言った。
「しばらくはゆっくり休んで、風邪がちゃんと治っていれば、だけどな。それと、出来れば次は俺が行く先を決めたいんだが」
「うん、いいわよ。私が二回連続で決めたものね」
私は頷く。
それに、こうして熱がある頭では上手く作戦を練れそうにない。
「そうか、ありがとう。グレイスを連れて行きたいところがあるんだ」
「楽しみにしてる」
私は熱でふわふわになった頭でそう答えた。
「……そう言ってもらえて嬉しいよ」
窓際でレオンが目を細めて微笑むのが見えた。
窓から入る日差しと、銀色に輝くツィツィーの照り返しでレオンがキラキラとしている。
金色の髪も、青い瞳も、微笑みも、伏せられた睫毛まで全てが輝いていた。
──あら、なんだか熱が上がっているみたい?
私はガラが用意してくれた氷嚢に熱くなった頬を強く押し当てたのだった。
「餌やりは終わったよ。ツィツィーは特に問題もなさそうだな」
レオンは腕にツィツィーを止まらせて、ベッドで横たわる私に見せてくれた。
「ありがとう、レオン」
レオンはツィツィーの首を指でこちょこちょ撫でている。うっとりしたツィツィーは大人しく鳥籠に戻っていった。
こうして様子を見てもらえたから、しばらくは安心だ。
「ツィツィーは俺の銀鳥より仕草も可愛らしいし、随分グレイスに懐いているみたいだ。グレイスが大切にしてくれているのがわかるよ」
「ええ、だって可愛いもの。それにレオンから貰ったものだから大事にしてるの」
「んんッ!」
レオンは何故か咳払いをしている。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない……俺があげたから……大事にしてくれてるのか……そうか」
レオンの呟きは、語尾がゴニョゴニョと消えてよく聞き取れなかった。
しかし今気がついたのだが、レオンに嫌われて無事に婚約破棄してもらえた場合、可愛いツィツィーを手放さなければならないということだ。
「ど、どうしましょう……!」
飼い始めてからそれほど経っていないのに懐いてくれて、腕や肩に止まってツィーツィーと愛らしい鳴き声を聞かせてくれるツィツィーを返さなければならないのは、考えただけで身震いしてしまうほど辛い。
「グレイスが何考えているのか想像付くが……」
気怠げにため息を吐くレオン。
その姿は絵画のように美しい。しかしどうして浮かない顔をしているのだろう。
「ねえレオン、もしかして体調悪いんじゃない? さっき咳をしていたし、今もなんだか怠そうだわ。レオンも風邪かしら。どうしましょう……私の風邪が感染ってたら……」
「いや、それはない。安心してくれ」
レオンは私に首を横に振って見せた。
「どうしてそう言えるの。本当に風邪だったら大変でしょう」
「実は、俺は一度も風邪を引いたことがないんだ。今まで熱も出たことがない」
私はそれを聞いて目を瞬かせた。
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だ。子供の頃からずっとだな」
「すごいのね……! それって、ギフトってことなの?」
ギフトとは特別な才能の一種で、加護とも言う。神に愛され、特別な才能や能力を持って生まれてくるのだ。
ギフトは多岐に渡り、魔術抵抗が高いとか、特定の魔術の威力が高いなど、魔術騎士をする上で便利なギフトも多い。中には怪我の治りが早いとか、風邪を引かない能力なんかもあるそうだ。
レオンほどの人間ならギフトがあってもおかしくない。
「いや。これはただの体力があるせいだな。俺は生まれつき魔力と体力の多さが人並み外れているから、それがギフトなんじゃないかとは言われたことがある」
「魔力と体力が……? 私、全然知らなかったわ」
「ああ、子供の頃から誰に教えられたわけでもないのに無意識で肉体強化の魔術まで使っていたそうだから」
私はレオンの言葉に、ふと子供の頃を思い出す。子供の頃、レオンは私のことを振り回していた。私が倒れるまで連れ回して。でも、それって。
「レオ──あっ」
慌てて上体を起こそうとして、クラッと目眩が起こる。起こしかけていた上体が横倒しになった。
「グレイス! 大丈夫か?」
レオンが私のそばに駆け寄り、支えるように私の肩に触れる。
──その瞬間、バチッと緑色の火花が散った。
「きゃっ!」
一瞬とはいえ、目も眩むような火花だった。
しかし衝撃はあったものの、なんの痛みはない。
「い、今の、何かしら……」
「これは……」
呆然と呟いた私にレオンは硬い声で告げる。
「すまない、グレイス。仕事を思い出した。来たばかりだが魔術騎士団に戻る。週末の予定に関してはまた銀鳥で連絡する」
「レオン……?」
レオンはそのまま大股歩きで部屋から出ていった。
「どうしたのかしら……それに今の火花も」
魔術を使った時に生じる光に似ていた気がする。
しかしそれだけにしては妙に光が強い気もした。
私は潜在魔力はあるにはあるが、魔術の素養はほとんどない。
それに、レオンにも今のやり取りで魔術を使う必要はなかったはずだ。
「あら?」
私はふと気が付いて額に手を当てる。
それから慌ててガラを呼んだ。
「……間違いなく熱が下がってますね」
「やっぱりそうよね」
熱のときの怠さが急に消えたのだ。
「どういうことなのかしら……」
急に出て行ったレオンのことも気になる。
そして何より不思議だったのは、ついさっきまであったはずの肩のあざが綺麗さっぱり消えていたことだった。
ベッドにいてもツィーツィーと甘える鳴き声が聞こえる。
レオンは銀鳥の親鳥を飼っているし、世話にも慣れているので任せても安心だ。
「なあ、グレイス。次の週末も俺と出かけないか」
レオンはツィツィーに餌をやりながらそう言った。
「しばらくはゆっくり休んで、風邪がちゃんと治っていれば、だけどな。それと、出来れば次は俺が行く先を決めたいんだが」
「うん、いいわよ。私が二回連続で決めたものね」
私は頷く。
それに、こうして熱がある頭では上手く作戦を練れそうにない。
「そうか、ありがとう。グレイスを連れて行きたいところがあるんだ」
「楽しみにしてる」
私は熱でふわふわになった頭でそう答えた。
「……そう言ってもらえて嬉しいよ」
窓際でレオンが目を細めて微笑むのが見えた。
窓から入る日差しと、銀色に輝くツィツィーの照り返しでレオンがキラキラとしている。
金色の髪も、青い瞳も、微笑みも、伏せられた睫毛まで全てが輝いていた。
──あら、なんだか熱が上がっているみたい?
私はガラが用意してくれた氷嚢に熱くなった頬を強く押し当てたのだった。
「餌やりは終わったよ。ツィツィーは特に問題もなさそうだな」
レオンは腕にツィツィーを止まらせて、ベッドで横たわる私に見せてくれた。
「ありがとう、レオン」
レオンはツィツィーの首を指でこちょこちょ撫でている。うっとりしたツィツィーは大人しく鳥籠に戻っていった。
こうして様子を見てもらえたから、しばらくは安心だ。
「ツィツィーは俺の銀鳥より仕草も可愛らしいし、随分グレイスに懐いているみたいだ。グレイスが大切にしてくれているのがわかるよ」
「ええ、だって可愛いもの。それにレオンから貰ったものだから大事にしてるの」
「んんッ!」
レオンは何故か咳払いをしている。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない……俺があげたから……大事にしてくれてるのか……そうか」
レオンの呟きは、語尾がゴニョゴニョと消えてよく聞き取れなかった。
しかし今気がついたのだが、レオンに嫌われて無事に婚約破棄してもらえた場合、可愛いツィツィーを手放さなければならないということだ。
「ど、どうしましょう……!」
飼い始めてからそれほど経っていないのに懐いてくれて、腕や肩に止まってツィーツィーと愛らしい鳴き声を聞かせてくれるツィツィーを返さなければならないのは、考えただけで身震いしてしまうほど辛い。
「グレイスが何考えているのか想像付くが……」
気怠げにため息を吐くレオン。
その姿は絵画のように美しい。しかしどうして浮かない顔をしているのだろう。
「ねえレオン、もしかして体調悪いんじゃない? さっき咳をしていたし、今もなんだか怠そうだわ。レオンも風邪かしら。どうしましょう……私の風邪が感染ってたら……」
「いや、それはない。安心してくれ」
レオンは私に首を横に振って見せた。
「どうしてそう言えるの。本当に風邪だったら大変でしょう」
「実は、俺は一度も風邪を引いたことがないんだ。今まで熱も出たことがない」
私はそれを聞いて目を瞬かせた。
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だ。子供の頃からずっとだな」
「すごいのね……! それって、ギフトってことなの?」
ギフトとは特別な才能の一種で、加護とも言う。神に愛され、特別な才能や能力を持って生まれてくるのだ。
ギフトは多岐に渡り、魔術抵抗が高いとか、特定の魔術の威力が高いなど、魔術騎士をする上で便利なギフトも多い。中には怪我の治りが早いとか、風邪を引かない能力なんかもあるそうだ。
レオンほどの人間ならギフトがあってもおかしくない。
「いや。これはただの体力があるせいだな。俺は生まれつき魔力と体力の多さが人並み外れているから、それがギフトなんじゃないかとは言われたことがある」
「魔力と体力が……? 私、全然知らなかったわ」
「ああ、子供の頃から誰に教えられたわけでもないのに無意識で肉体強化の魔術まで使っていたそうだから」
私はレオンの言葉に、ふと子供の頃を思い出す。子供の頃、レオンは私のことを振り回していた。私が倒れるまで連れ回して。でも、それって。
「レオ──あっ」
慌てて上体を起こそうとして、クラッと目眩が起こる。起こしかけていた上体が横倒しになった。
「グレイス! 大丈夫か?」
レオンが私のそばに駆け寄り、支えるように私の肩に触れる。
──その瞬間、バチッと緑色の火花が散った。
「きゃっ!」
一瞬とはいえ、目も眩むような火花だった。
しかし衝撃はあったものの、なんの痛みはない。
「い、今の、何かしら……」
「これは……」
呆然と呟いた私にレオンは硬い声で告げる。
「すまない、グレイス。仕事を思い出した。来たばかりだが魔術騎士団に戻る。週末の予定に関してはまた銀鳥で連絡する」
「レオン……?」
レオンはそのまま大股歩きで部屋から出ていった。
「どうしたのかしら……それに今の火花も」
魔術を使った時に生じる光に似ていた気がする。
しかしそれだけにしては妙に光が強い気もした。
私は潜在魔力はあるにはあるが、魔術の素養はほとんどない。
それに、レオンにも今のやり取りで魔術を使う必要はなかったはずだ。
「あら?」
私はふと気が付いて額に手を当てる。
それから慌ててガラを呼んだ。
「……間違いなく熱が下がってますね」
「やっぱりそうよね」
熱のときの怠さが急に消えたのだ。
「どういうことなのかしら……」
急に出て行ったレオンのことも気になる。
そして何より不思議だったのは、ついさっきまであったはずの肩のあざが綺麗さっぱり消えていたことだった。
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