鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

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第二話

張り巡らされた糸の中で⑦

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〇東が丘中学校


俺は学校に着くと真っ先に職員室に向かい、担任に14日から来月の9日まで学校を休むことを伝えた。

「そうか、分かった。
長期の休みは届けを出す決まりになっているから、これを親に書いてもらってくれ。」

いまいち生気に欠ける土器色の顔をした、短髪白髪交じりの男が、机の上にあった書類箱から紙一枚を取り出し、俺に手渡してきた。
俺のいるクラスの担任、鷲山わしやまだ。歳は知らないが、40代半ばといったところか。
毎日のように、紺色のくたびれたジャージを上下に着ているところや、寝ぐせの残る髪を見ると、あまり身なりに神経を使うタイプでは無いようだ。

このおっさんは、俺が2年生になってからの担任だが、事務的な対応ばかりで、事情を根掘り葉掘り聞いてこないから、俺としては面倒の無い、都合の良い担任だった。
今回も俺がひと月近く休むというのに、理由を聞いてくることは無い。校長か教頭から、俺が家の都合でよく休むことを聞いているのかもしれない。

用も済んだので、踵を返すと、

「鷹空……
お前、進学か就職か考えているのか?」

突然、鷲山が、いかにも担任らしいことを聞いてきた。
……そういや進路面談が、近いうちにあるんだよな。

「ああ、就職するつもりですけど?」

「そうか。
まぁ、鷹見家当主の孫なら、進学先も就職先も、どうにでもなるよな。」

鷲山は、少し上に視線を向け、無感情に呟いた。
嫌味で言ったつもりは無いようだが、俺はちょっとムッとして、

「そういうもんじゃないですよ。
俺と代わってくれる奴がいるなら、変わって欲しいくらいだ。」

そう言い返した。
鷲山は鼻で大きく息を吸うと、

「俺が言いたいことはなぁ、他の生徒は、2、3年生になると、進路の事でピリピリするのが多くなってくるの。
お前みたいな、他の生徒に比べて進路で悩んだり苦労しない奴が、他の生徒を刺激して喧嘩になるのだけは、勘弁して欲しいんだわ。」

「はぁ……」

ようは、面倒事は御免、ということね。
こんな担任の事だから、俺がひと月居ないのは、かえって好都合なのかもしれない。

俺は売られた喧嘩は買うが、自分から喧嘩を仕掛ける気は毛頭無い。
とにかく、用の済んだ俺は、職員室を後にするため踵を返した。

「その届けの提出期限は、月曜日までだ。
誰かに頼んで、学校に持ってきてもらってくれ。」

鷲山が、後ろから声をかけてきた。

「へーい。」

俺は適当に返事をすると、職員室を後にした。


〇昼休み 屋上


「ええっ!?
一か月間、学校を休むのでござるか!」

俺の数少ない友人である、中山 彰人なかやま あきとが大きな声を上げた。
屋上で昼飯を食べた後、中山に来週からのことを説明した。

「ああ、なんつーか、家の都合でな。
6月14日から7月9日まで、学校にはほとんど来られないと思う。」

「そうで……ござるか。」

中山は不安そうな顔つきになって俯いた。
その理由は分かる。
中山は俺と連むようになる前は、同学年の不良二人から、いじめを受けていたからだ。

「ああ、お前らに悪さをしないように、烏丸からすま百舌木もずきには釘を刺しておくから安心しろよ。」

烏丸と百舌木とは同学年の不良だ。
小学生の頃から素行が悪く、人に暴力を振るう、窓ガラスを割る、他の生徒を脅して金を巻き上げる……他にも色々あるが、ガキであることをいい事に、好き放題やっているバカ共だ。
まぁ、烏丸と百舌木のバックにいる奴は、更にクズなのだが……

昨年の春、俺達が中学に入学してから、さほど経っていない頃だった。
烏丸と百舌木が中山に絡んでいたところに、たまたま俺が出くわして、そのままという訳もいかず、そいつらを『お仕置き』をした訳だ。
それ以来、中山は奴らから何もされていないというが、あの馬鹿共が反省したとは思えない。

不本意ながら、馬鹿共をどうするか考えていた俺は、ふと腕時計を確認した。
あと10分もすれば昼休みは終わりだ。

「さて、そろそろ授業だから戻ろうぜ」

俺と中山は弁当箱を片付けると、屋上に出入りするドアを静かに開け、校内に入る。
本来、特別な理由が無いのに屋上に入るのは禁止なのだ。
先公に見つからないように、速やかに階段を下りていると……

「よぉ!クソ鷹空と中山クンよぉ!」

噂をすれば、なんとやら……
金髪オールバック頭、耳にピアス、褐色の肌色をした俺と同じくらいの身長の、目つきの悪い男が俺達の前に立ちはだかる。

「キヒヒッ、俺達も屋上で、お前らの知的な語らいに、是非混ぜて欲しいと思ったのに、降りてきちまったかぁ。」

烏丸の後ろに居た、黒髪の長髪に派手なバンダナをした猫背の小柄な男が、こちらを子馬鹿にするような笑い声を上げた。

「ええと……どっちが烏丸で、百舌木だっけ?」

正直言うと俺は、どっちが烏丸か百舌木か、分かっていなかった。

「アァッ?!ナメてんのか?テメェ?
この烏丸 荒支からすま あらし様のことを忘れたとは言わせねぇぞ?」

腰を屈めて、下の方から睨みつけてきた。このデカい方が烏丸か。
それと同時に、俺の制服の背中のあたりをギュッと握りしめる感覚がする。
後ろを横目で確認すると、中山が怯えた表情で震えていた。

「ヒヒヒ!中山の奴、鷹空の後ろでビビッてやがる!」

それで、あっちの陰湿そうな長髪バンダナ野郎が百舌木か。
百舌木は、喧嘩の腕は大したことが無いのだが、卑怯なことを平気でする奴だ。
それに、魔法の力はそこそこ高いため、烏丸と堂々と肩を並べている。

更に、百舌木から一歩引いたところに、浅葱色の髪色のぼっちゃん頭の、中肉中背のハンサム顔のクソ野郎が、口元を笑みで歪めながら俺の様子を伺っていた。
そいつの顔を見た俺は、一気に最悪の気分になった。

「で、俺達に何の用かい?」

俺は不快な気持ちを抑えつけ、烏丸に俺達の前に立ちふさがる理由を問う。

「おめぇが、しばらく居なくなるって聞いてなぁ。
中山が寂しがるだろうから、また仲良くしてやろうってぇ……

挨拶しに来たんだよ!」

烏丸は途中から叫びながら、俺に殴りかかってきた。
思い出した……この烏丸は恵まれた体格とパワー、殴り合いだけの喧嘩であれば、校内の不良の中では最強らしい。
それに、小学校では空手も習っていたと、中山から聞いたことがある。
話が通じず凶暴で手がつけられないので、ほとんどの先公が避けている。
しかし……

「待ちなって。」

その拳を、俺は右手で受け止めた。
お袋や朱王の爺さんに鍛えられている俺にとって、烏丸は敵では無い。
不意打ちのつもりで自信たっぷりに放った拳を受け止められ、烏丸は驚きの表情をしている。

「ク、クソ……!」

「去年に比べて、早くて重くなったな。
真面目に空手道場にでも、通い始めたのか?」

「う、うるせぇ!」

烏丸は俺を蹴り上げようと、右脚を振り上げようとするが、俺はすかさず烏丸の膝関節を、左足で踏み抜くように突いた。

「うぎっ!」

烏丸はそのまま、前のめりに倒れ込む。
しかし奴が倒れ込む前に、俺は顔面を狙って膝蹴りをかましてやる。
烏丸はその反動で後ろに倒れ込むと、烏丸は鼻を押さえて、のたうち回る。

「あがっ!いでぇ!いでぇよぉ!」

鼻血を出したのだろう。
押さえているところから血がダラダラと流れ、床を赤く染めた。

「手ごたえからして、鼻折れたんじゃね?
もう、大人しくしとけ?」

「うるせぇ!ぶっ殺してやる!」

逆上した烏丸は、ゆらりと立ち上がると、懐からサバイバルナイフを取り出した。
……このぐらいで引き下がる訳は無いか。

「ひぃ!」

俺の腕から顔を出し、恐る恐る烏丸達の様子を伺っていた中山が、小さな悲鳴を上げた。
緊張と恐怖で、俺の制服を掴んでいるところに、力が籠るのが分かる。

「中山、俺から離れていろ。」

俺は後ろ手で中山の腰のあたりを軽く叩いて合図をすると、中山は慌てて俺の制服を離し、後ろに下がる。

「が、凱君、せ、先生呼んで、くるでござるよ!」

中山が甲高い声叫ぶ。

「いや、行かなくていい。
俺がこいつらを、ぶっ倒すところを見ていきな。」

十中八九、生徒指導の先公が飛んでくるだろうが、その先公は既にこいつら側……正確には奥で俺達の様子を窺っている『ぼっちゃん頭』の僕だ。
俺が悪者にされるに決まっている。

「死ねぇ!」

烏丸は鼻血を流しながら、俺にナイフを振るう。
俺は、その腕を受け止めると、握りつぶすように力を込めてやる。

「あぎゃあああああああ!」

俺が掴んだ烏丸の腕の辺りから、メキメキという音がする。
烏丸は痛みにナイフを落とし、廊下に金属音を鳴り響く。

「流石に刃物で切りかかってきたら、俺にもそれ相応の出方があるぜ。
……歯、食いしばれや」

俺は一応警告すると、烏丸の左の頬を殴り飛ばす。

「ぶぅ!」

殴られた方向に吹っ飛ばされた烏丸は、壁に顔面からぶつかり、勢いよく床に叩きつけられた。

「おうっ…ううっ」

呻き声を上げながら立ち上がろうとする烏丸の口から、血と涎と共に折れた歯が数本、廊下に落ちた。

「おいおい、言っただろ?
ちゃんと歯を食いしばれって……」

「くひょやおうが…!」

烏丸はヨロヨロと立ち上がりながら、何かを叫んだ。
その時、横を通り過ぎる気配を感じて、そちらに後ろ回し蹴りを放つ。
ダンッ!という乾いた音が響き渡る。
窓側の壁に、俺の蹴りが炸裂した音だ。
脚のすぐ横には、百舌木が仰け反りながら震えている。

「あ…あわ…!」

「百舌木さんよ、どこへ行こうっていうの?
便所だったら、回れ右した方が早いんでない?」

どうせ、俺の後ろにいる中山を、人質にでも取ろうとしたのだろう。

「う、うるせぇ!」

百舌木は飛び退きながら、腰から棒を取り出し、呪文を唱え始めた。
その棒は30cmくらいの長さで、先端には緑色の石がついている。
奴の魔道器、ロッドだった。

「学校で魔法をぶっ放す気かよ。」

俺が百舌木の方を向いて苦笑いを浮かべると、その隙に烏丸が腕を振り上げながら飛び掛かってきた。

「うああああああ!」

しかし、俺は素早く烏丸の方に向き直ると、右の頬を左の拳で撃ち抜いた。

「ぶしぃ!」

烏丸は、更に折れた歯を、血と涎と共に廊下にまき散らしながら、後方に吹っ飛んだ。
その後ろに控えていた『ぼっちゃん頭』は、烏丸が自分の方に飛んでくるのを予め予測していたかのように、既に体を壁に預けていた。
そして、目の前に転がった烏丸を、冷たい目で見降ろしている。

「は……はひぃ…はひ……」

烏丸は意識を朦朧とさせながら、口をパクパクさせている。

百舌木は、そんな仲間の状況など気にも留めず、呪文を唱え終えて、俺に向かって魔法を射出しようと、ロッドを構えた。

「キヒヒッ!百舌木 鷺男もずき さぎお様の超魔法を食らって、のたうち回って死ね!
水の精霊よぉ!目の前のクソ木偶の坊を酸の雨でドロドロのグチョグチョに溶かし給え!
『アシッドレイン!』」

俺の真上あたりに、雲の渦が生まれ始めた。
下手をすると中山が危ないから、発動させる訳にはいかない。

「させるか!」

俺は、咄嗟に百舌木の目の前に移動すると、持っていたロッドを蹴り上げた。
それは天井に当たり、

「あだっ!」

百舌木の頭に当たり、廊下に転がった。
それによって、ロッドに溜めていた魔力は霧散し、真上にあった雲は消え去った。

「クソぉ!
き、碧斗きよとさん……」

百舌木は、明らかに怯えて後ろに下がり、『ぼっちゃん頭』を見やった。
しかし、百舌木が『碧斗』と呼んだ野郎は、無言で「行け」と言う様に俺を顎で指し示す。
百舌木は怯えた表情をしつつ、こちらを向くと、

「クッソ!今度こそ!」

恐れを振り払うように百舌木は叫びながら、転がったロッドを拾う。
その隙に、俺は再び百舌木と一気に距離を詰め、左手で顎を掴むと、相撲の喉輪落としの要領で持ち上げ、地面に叩きつけてやった。

「がはっ!」

そのまま、左手に力を込め、顎を握りつぶす。

「あがっ!ぶはっ!あぁ!ああっ!」

骨を砕く感覚が左手に伝わる。
更に俺は立ち上がると、百舌木の口の辺りを右足で踏みつぶした。
その拍子に、百舌木の歯が血と共に、廊下に数本、散らばった。

「ウンッ!ン~~ッ!ン~ッンッ!」

百舌木は口を押さえて、妙な唸り声を上げながら、廊下を転げ回る。

「これで、詠唱に頼るお前は、魔法を使うことは出来ない。」

「凱…くん、流石に、や、やりすぎで、ござるよ。」

中山はいつの間にか、ビビッて尻もちついていた。

「ははっ、中山。
もしかして、スカっとするよりもビビっちまったか?
だったらすまねぇな。」

俺は中山に向かって、安心させてやるつもりで、ニカっと笑みを浮かべてみせた。
中山は、ハハハと引きつった笑みを浮かべている。

それはそうと…問題は…
烏丸達の相手をしつつも、こいつの出方を伺ってはいたが、何もしてこなかった。
こいつは正々堂々、サシで喧嘩というタイプでも無いはずだが、それが妙に不気味だった。

「よぉ、碧斗きよと、てめぇ今更、何のつもりだ?」

「気安く名前を呼ぶな。この不細工なゴミ猿が。」

鋭い目つきで、鷹見 碧斗たかみ きよとが俺を睨みつけた。

こいつは蒼源の弟、鷹見 碧雲たかみ へきうんの孫にあたる。
俺が小学生に入って間もなく、いじめを受けていた話はどこかでした覚えがあるが、その主犯格が、この鷹見 碧斗だった。
また、コイツの子分達だけではなく、担任までいじめに加担してくれていたのだから、性質が悪い。

あの時は、蒼姫を身籠っていたお袋に、負担をかけるから打ち明けることもできず、いじめに耐えていたが、ある日、俺はこいつらの悪ふざけが原因で、顔に大怪我を負ってしまう。
それがすぐに要のおっさんにばれ、蒼源のジジイの耳に入り、碧斗達からいじめを受けていることが発覚。
ジジイは弱くて情けない俺に怒りを覚え、俺にスパルタ教育を施し始めたわけだ。

「彼らが、貴様に挨拶をしたいと言ってきたから、暇つぶしに付いてきただけだ。」

「嘘を言ってんじゃねぇぞ。
コイツらをけしかけたのは、オメーなんだろ?」

どうせ、何か悪さを考えていて、邪魔な俺の実力が、今はどのくらいあるのかを、烏丸と百舌木を使って計ろうとしたのだろう。

「……貴様に、彼らが殴られるのを見て、忌々しいことを思い出したよ。」

碧斗はそういいながら、烏丸の顔を軽く蹴った。
烏丸がビクッと反応する。

「クラスメイトの前で、お前を担任や子分共々、ボコボコにして泣かせたことか?
あれは仕返しで、やったことじゃねぇか?
てめぇのお陰で、俺はあれから毎日のように、蒼源のジジイから修行をつけられるハメになったんだぞ?ああ?」

逆に恨み言を返した俺に、

「フン調子に乗るなよ、このゴミ猿。
今度は貴様が俺に土下座をし、情けなく許しを請うのだ。」

碧斗は怒りに顔を歪ませて、その場を後にしようと踵を返した。

「おい!質問に答えろ。
今になって、俺に喧嘩を吹っかけてきた理由はなんだ?
マジで小学校の頃の仕返しかよ!?」

追いかけようとした俺に、奴は素早く振り返り、それと同時に掌を俺に向けた。
その掌には、一枚の札。
奴は引っ掛かったと言わんばかりに、口元を笑みで歪めていた。
畜生!フェイントか!

「碧斗!てめぇ!」

俺がそう叫んだ瞬間、碧斗の掌の札が、青白い光を放つ。
俺は神経を研ぎ澄ませ回避しようと準備するが、避ければ中山に当たる可能性がある。
止むを得ず、俺は咄嗟に両腕をクロスさせ、防御姿勢を取った。

そして、碧斗の掌にある青白く光る札から、バスケットボール程の水の塊が照射された。

パァーーーーーーン!

大きな破裂音が辺りに響き渡り、強烈な衝撃が俺の腕から全身に伝わる。
俺は、物凄い勢いで、後方に吹っ飛ばされた。

「凱君!」

中山の声が耳に入る。
俺は廊下を転がりながらも、体勢を整えて立ち上がった。魔法を受けた腕が水に濡れ、床も水浸しになっている。
碧斗の野郎が得意とする『水弾すいだん』の魔法だ。
防御した腕が痺れ、体中が痛い。これでは、しばらく構えることが出来ない。
しかし、俺は強がりながら、碧斗を怒鳴りつけた。

「この野郎!
学校で魔法使うとは、何考えていやがる!」

碧斗はニヤリと口元を歪めて、

「これは、ほんの挨拶代わりだ。
鷹空のような薄汚い血筋の者などに、神器を取り戻すことなど出来る訳がない。」

俺に向かって、言葉を吐き捨てた。

「神器だと?」

次に、その表情は一転し、怒りの形相に変貌した。

「貴様が!鷹空の下衆が!鷹見家の当主候補になどに、なっていい訳が無い!」

「は?」

「お前に…鷹空に神器奪還の任を与えたのは、蒼源が若い頃の過ちを雪ぐためでしかない!
そうだとは知らずに、調子に乗るなよ!この木偶の坊のゴミ猿が!」

これが、今更になって、俺にケンカを吹っかけてきた理由のようだ。
……呆れた。
この通り、鷹空の俺が、鷹見の当主候補となる可能性を得た事に、怒りを覚えていたようだ。

「お前さぁ、わざわざ、それが言いたかったの?
だったら、お前も神器奪還に参加させて貰えよ。
もちろん、仲良く一緒には御免被るけどよ。」

どうせ、こう言っても……

「誰が蒼源の主導する政に協力などするものか!
せいぜい神器を取り返すことに、集中するがいい。
貴様なんぞに出来る訳が無いがなぁ!」

やはり、蒼源のジジイが取り仕切っている話に、こいつが乗る訳が無い。

碧斗は言いたいことを言い終えたのか、懐から取り出した札を、烏丸と百舌木の体の上に、ひらりと落とす。
すると、烏丸と百舌木の体がふわっと浮かび上がった。

「貴様に乱された学校の秩序は、この俺が整えておいてやる。
一か月後を楽しみにしていろ!」

碧斗は、そう捨て台詞を吐くと、浮遊した状態の2人を引き連れ、その場を去っていった。

「おい!碧斗!
テメー、俺が居ない間に、学校でおかしな真似をしたら、タダじゃおかねぇからな!」

それに対する返答は無い。
しかも、水浸しになった廊下まで放置しやがって……
どうしたものか思案していると、チャイムが鳴った。
昼休みが終わったようだ。

「中山、お前はさっさと教室に戻れ。」

「え、でも……」

「俺には水浸しをどうにかする、とっておき魔法があるんだ。」

俺は得意げに笑みを浮かべた。
中山は逡巡するが、

「わ、分かったよ。
先生には、言っておくから。」

「おう。頼んだ。」

俺が返事をすると中山は教室に向かって、小走りに去っていった。

とっておきの魔法などある訳でも無く、俺は誰も居ない教室から雑巾とバケツを拝借し、水や血の散らばった廊下を拭き始めた。
俺が廊下を雑巾で拭く姿を、教室移動のために通りがかった女子生徒達が、奇異な目で見てくるのが、ちと辛かった。

碧斗の野郎……覚えていろよ。
そんなこんなで、俺は約一か月、学校からオサラバすることになったのだった。
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