たかが子爵家

鈴原みこと

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第四章 消せない疑心

Ⅲ 魔力を操る能力

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「どうやら、ヘスティアさん達は無事プレイヤー達の避難を終え、一斉砲火の準備が整ったみたいです。五分後に────中央大陸の集中砲火が開始されます」

 さ、さすがは『紅蓮の夜叉』。めちゃくちゃ早い。

 『まだ別れてから一時間も経っていないのに』と驚愕しつつ、私は地上を見下ろす。

 ウチのメンバーも、きちんと避難しただろうか?
空中に待避しているメンバーはさておき、地上で活動しているメンバーは心配だなぁ……特にシムナさん。
避難誘導を呼び掛ける『紅蓮の夜叉』のメンバーに、めっちゃ反抗してそう。
さすがに手は出ていないと思うけど……説得に時間は掛かってそうだなぁ。

「念のため、結界を二重に張っておきますね。ヘスティアさんの火力は計り知れませんから」

 アヤさんは人差し指をクルクル回して、私達を覆う結界の外にもう一つ結界を展開させた。
元々あったものより分厚いソレを前に、アヤさんはふと顔を上げる。

「あと三秒で約束の五分です。3、2、1……一斉砲火開始」

 その言葉を合図に、地上は真っ赤な炎で覆われた。
かと思えば、ゴーレム達は次々と光の粒子へ変化していく。
その光景はまさに圧巻だった。

「うわぁ~、瞬殺じゃ~ん」

「火炎魔法に多少耐性のあるファイアゴーレム以外は、ほとんど瞬殺ですね。アイスゴーレムなんて、炎に触れた瞬間、光の粒子に変わっていますし」

「さすが炎帝って、感じだね~」

「少しやり過ぎな気もしますけどね」

 ヘスティアさんの……いや、『紅蓮の夜叉』の無双っぷりに肩を竦めるアヤさんは、どこか呆れたような表情を浮かべる。
火焔かえん地獄とも言うべき状態に、若干引いているのだろう。

 この調子だと、一瞬で片が付きそう。
炎耐性のあるファイアゴーレムでも、ここまで高温の炎に焼かれれば倒れるだろうし。

 などと思いつつ、私はゲーム内ディスプレイに目を向けた。

 時刻は深夜の二時半。
ナイトタイム及びイベント終了まで、あと一時間半……それだけ時間が余っていれば、充分だ。

「な~んか、苦労した割に呆気ない終わり方だね~」

「ゴーレム討伐に勤しんでいた徳正さん達には、そう感じるかもしれませんね。でも────あなた方がここで一生懸命頑張ってくれたから、“今”があるのです。中央大陸で奔走した過去は、無駄じゃありません」

「ま、それもそうだね~。ラーちゃんが治療しなかったら、死んでいたプレイヤーも大勢居るだろうし~。他のプレイヤーだって、生き残るために剣を振るい続けたから、“今”がある。生存率を上げるっていう観点では、充分な働きをしたかな~」

 確かに。私達は私達なりに、精一杯頑張ったよね。

 『何かしら意味のあるものだったんだ』と納得する中────不意に機械音声が流れる。

『おめでとうございます。只今を持ちまして、ゴーレム討伐イベントクリアとなります。詳しい説明は『箱庭』から、送られたメールをご確認くださいませ』

 そう言うが早いか、メールの受信を知らせる通知音が響いた。
と同時に、中央大陸を覆っていた炎が跡形もなく消える。
だけでは終わらず、失われた筈の草木を、割れた大地を元通りにした。時間を巻き戻すが如く。
また、爆破された大陸を繋げる橋カンティネン・ブリッジや干上がった海も元の姿を取り戻す。

「イベント後の修復作業は一応やるんだね~」

「そうみたいですね。この様子だと、破壊の限りを尽くした街の方も修復されていそうです」

「復旧作業とか面倒なことがなくて、助かったよ~。街の復興が済むまで、野宿とか勘弁だも~ん」

「……まあ、街や建物の復旧作業が終わっても────失われた人達は戻って来ませんけどね」

 空中をタップしていたアヤさんは、悲しそうに呟いた。
かと思えば、空中をタップしていた手が不意に止まる。

「────限界突破オーバーラインって、どういうこと……?」
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