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44.根源
しおりを挟む「こんなに痕つけやがって、まったく・・・。」
カイは自分の身体に無数につけられているキスの痕をなぞり、呆れながら言う。
「普通に隊服着れば見えないだろ。なんでいつも着崩してるんだ?」
最初は盗賊の首領かと思うくらい豪気で怖くなかったと言えば嘘になる。でも、一緒に居れば居るほど誤解だった事に気がつく。本当はとことん優しくて、細かい気遣いもしてくれる。人間誰しも多面的であるのは当たり前だけど、カイの場合はわざとそういう一面を隠してるようにも見える。
カイはベッドの端に座って外を眺める俺を後ろから抱きしめて、俺の頭の上に顎を置いている。だからカイの表情が見れない。
「俺はアイツみたいに人柄や剣術でのし上がったわけじゃねぇからな。見た目や言動でも舐められねぇように必死だったんだ。」
懐かしむように呟く。カイはいつもアルベルトのことをアイツって呼ぶよな。でも珍しくアルベルトを褒めてるようにも聞こえる。
「カイはどうして団長になったの?」
「タイミングだな。俺が23の時、元の団長が辞めて他にやる奴が居なかっただけだ。」
その時の状況なんて俺にはこれっぽっちも分からないけど、どうしようもない人に団長なんか任せないだろうに。周りからの信頼なんて自分では分かんないもんなのかな。カイが俺を攫った時クリスやアルベルトはそれを許してた。あのエドガー殿下もカイを強いと断言してる。団長になってからずっと気を張っていたんだろうか。魔法で過去に戻れるなら、昔のカイを抱き締めてやりたい。でもそれは叶わないから振り向いてカイの頬にキスをする。
「もし着崩してたら、俺がボタン留めるからな。もうカイのことを認めてない人なんかいないよ。見てくれどうこうじゃなくて、カイは騎士として、何より人としても十分だよ。・・・ずっと頑張ってきたんだな。」
俺は体ごと振り向きカイの横に膝立ちになる。見た目よりも何倍も柔らかいオリーブ色の髪を撫でながら抱き締める。その内カイが俺の肩に頭を埋め擦り寄ってきた。甘えてるような姿に胸が締め付けられる。今カイは何を思い出してるんだろう。過去のカイに思い渡す。
カイの長く息を吐く音が聞こえ、少しずつ体重をかけてくる。俺は身体を支えられながらベッドに倒れ込んだ。
「今日はこのまま寝る。」
「うん、おやすみ。愛してるよ。」
◇
あったかくて心地いい。もう少し寝たいな。夢心地に浸っていると唇に柔らかいものが触れる感触がある。
「んっ?」
瞼を開けると着替えを済ませたカイが腕枕をしてくれていた。
「そろそろ起きれるか?俺はもう仕事の方へ行かなきゃならねぇ。」
「ん、おはよ。起こしてくれてありがと。」
まだ眠たい体を起こし、カイを見るといつも通り隊服を着崩している。露出している肌からは無数の痣が見える。俺がやった事とはいえ・・・。こんなにつけたっけ?
いつにも増して色っぽく見える。カイも起き上がり、開かれている胸元を指さす。
「ナオトが留めてくれるんだろ。」
「うん、結構痛々しくらい残ってるな。治癒する?」
見ていられなくて顔を背けながらボタンを留めていく。上から笑いを堪える声が聞こえる。
「いや、このままでいい。じゃあナオトも無理するなよ。」
「分かってるよ。午前中はブレアのとこ行って、午後から医務室に行くよ。疲れたら来てね。カイ、行ってらっしゃい。」
「あぁ、行ってきます。」
そういうとカイは俺にキスをして部屋を出て行った。その後ろ姿は間違いなく団長としての風格を持った背中だった。
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