45 / 50
44.根源
しおりを挟む「こんなに痕つけやがって、まったく・・・。」
カイは自分の身体に無数につけられているキスの痕をなぞり、呆れながら言う。
「普通に隊服着れば見えないだろ。なんでいつも着崩してるんだ?」
最初は盗賊の首領かと思うくらい豪気で怖くなかったと言えば嘘になる。でも、一緒に居れば居るほど誤解だった事に気がつく。本当はとことん優しくて、細かい気遣いもしてくれる。人間誰しも多面的であるのは当たり前だけど、カイの場合はわざとそういう一面を隠してるようにも見える。
カイはベッドの端に座って外を眺める俺を後ろから抱きしめて、俺の頭の上に顎を置いている。だからカイの表情が見れない。
「俺はアイツみたいに人柄や剣術でのし上がったわけじゃねぇからな。見た目や言動でも舐められねぇように必死だったんだ。」
懐かしむように呟く。カイはいつもアルベルトのことをアイツって呼ぶよな。でも珍しくアルベルトを褒めてるようにも聞こえる。
「カイはどうして団長になったの?」
「タイミングだな。俺が23の時、元の団長が辞めて他にやる奴が居なかっただけだ。」
その時の状況なんて俺にはこれっぽっちも分からないけど、どうしようもない人に団長なんか任せないだろうに。周りからの信頼なんて自分では分かんないもんなのかな。カイが俺を攫った時クリスやアルベルトはそれを許してた。あのエドガー殿下もカイを強いと断言してる。団長になってからずっと気を張っていたんだろうか。魔法で過去に戻れるなら、昔のカイを抱き締めてやりたい。でもそれは叶わないから振り向いてカイの頬にキスをする。
「もし着崩してたら、俺がボタン留めるからな。もうカイのことを認めてない人なんかいないよ。見てくれどうこうじゃなくて、カイは騎士として、何より人としても十分だよ。・・・ずっと頑張ってきたんだな。」
俺は体ごと振り向きカイの横に膝立ちになる。見た目よりも何倍も柔らかいオリーブ色の髪を撫でながら抱き締める。その内カイが俺の肩に頭を埋め擦り寄ってきた。甘えてるような姿に胸が締め付けられる。今カイは何を思い出してるんだろう。過去のカイに思い渡す。
カイの長く息を吐く音が聞こえ、少しずつ体重をかけてくる。俺は身体を支えられながらベッドに倒れ込んだ。
「今日はこのまま寝る。」
「うん、おやすみ。愛してるよ。」
◇
あったかくて心地いい。もう少し寝たいな。夢心地に浸っていると唇に柔らかいものが触れる感触がある。
「んっ?」
瞼を開けると着替えを済ませたカイが腕枕をしてくれていた。
「そろそろ起きれるか?俺はもう仕事の方へ行かなきゃならねぇ。」
「ん、おはよ。起こしてくれてありがと。」
まだ眠たい体を起こし、カイを見るといつも通り隊服を着崩している。露出している肌からは無数の痣が見える。俺がやった事とはいえ・・・。こんなにつけたっけ?
いつにも増して色っぽく見える。カイも起き上がり、開かれている胸元を指さす。
「ナオトが留めてくれるんだろ。」
「うん、結構痛々しくらい残ってるな。治癒する?」
見ていられなくて顔を背けながらボタンを留めていく。上から笑いを堪える声が聞こえる。
「いや、このままでいい。じゃあナオトも無理するなよ。」
「分かってるよ。午前中はブレアのとこ行って、午後から医務室に行くよ。疲れたら来てね。カイ、行ってらっしゃい。」
「あぁ、行ってきます。」
そういうとカイは俺にキスをして部屋を出て行った。その後ろ姿は間違いなく団長としての風格を持った背中だった。
21
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる