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42.この国で生きること
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目を覚ますと、アルベルトは約束通り添い寝をしてくれていた。俺の捜索に疲労したのか、アルベルトはまだ夢の中みたいだ。こんなにまじまじと寝顔を見るのは初めてかもしれない。無防備な寝姿に申し訳なさもあるが、愛おしさが込上げる。しばらく端正な寝顔を眺める。
スティーブンに攫われてからの時間感覚が分からない。どのくらい寝たんだろう。窓の方を見ると明るい日差しが差し込んでいる。ふと視界に入るベッドサイドの椅子にはフードを被ったフィンがいた。
「・・・!、フィン?おはよう。」
俺はアルベルトを起こさないようにそっと起き上がり、小声で話す。
「おはようございます。それよりもお加減はどうですか?」
フードのせいで表情が見えないが昨日の怒りが混じる声ではなく、いつも通り穏やかな声で返してくれる。
「俺はぐっすり寝てたから平気。魔力も落ち着いたよ。ありがとう。・・・えっと、フィンは大丈夫?」
不安に思っているとフィンは躊躇いなくフードを脱いだ。フィンの笑顔に、俺までつられて笑顔になる。やや褐色の肌に宝石のような深紅の瞳。キラキラと光を反射する髪が眩しい。フィンは、はにかみながら目を細める。
「私は大丈夫ですよ。それにナオトに姿を見せることは抵抗はありません。いつも褒めてくださるので・・・、まだ歯痒い気持ちはありますが嫌では無いのです。」
「朝日に照らされるフィンの髪は特別に綺麗だな。初めて見た日を思い出すよ。ほんとフィンには、感謝してもしきれないな。」
何気なくフィンの髪を撫でてしまった。フィンは動揺を隠せない表情をして、何故か俺も自然とフィンの髪に触れたことに驚いた。
「そんなことは。私の方がナオトに感謝しています。こうして人前でフードを脱ぐことになるなんて・・・。」
照れくさくなってぎこちなくフィンから手を離し顔を背ける。手に残る感触が胸をザワザワさせる。何か別のことを考えようと思って、昨日エドガー殿下に連れていかれた二人がどうなったか心配になる。特にカイは国境での仕事もあるしどうなるんだろう。昨日今日で帰ることは無いと思うけど・・・。
「あっ、そうだカイはどこいるか分かる?」
「昨日あの後もこちらにナオトの様子を見ていかれましたよ。今は、どうでしょう。時間も時間だったのでまだお部屋でお休みになられてるかも知れません。」
「そっか、・・・!」
後ろから服を引っ張られ、驚いて振り向く。アルベルトが目を擦りながら起き上がろうとしていた。サラサラと揺れる髪から寝起きのアルベルトの顔が覗く。「おはよう。」と言おうとしたら医務室の扉が開く音がする。フィンが素早くフードを被る。
扉の隙間からはクリスがこちらの様子を伺っている。昨日も顔を合わせているけど、エドガー殿下の手前何も出来なかった。
「ナオト!」
俺が起きていることを確認すると勢いよく駆け寄って強く抱きしめられた。俺もクリスを抱き締め返す。後ろからもアルベルトの腕が伸びてきて、もたれ掛かるように抱きしめられる。苦しいような嬉しいような。医務室の扉からもう一人入ってくる。
「カイ!」
あんまり顔色が良くないみたいだ。寝てないって言ってたっけ。頑なに俺を離さない二人を見てカイはため息を着く。
「ナオトに俺の部屋の鍵渡しに来た。・・・ガキくせぇ。こんな時くらい離せよ。」
「・・・。」
若干の冷気と熱気が入り交じって室内はなんとも言えない空気が漂うが、多分この位は気にしない方がいい。
それより・・・
「鍵って?俺持ってて良いの?まさかもう国境の方に行っちゃうの?!」
「違ぇよ、しばらくはこっちでこき使われる。何時に部屋に戻れるか分かんねぇからな。まぁ、使わないなら別にいい。」
そう言うとカイが手に持っていた鍵をポケットに戻そうとするため手を伸ばし慌てて引き止める。
「いる!使う!カイが戻って来るの絶対、起きて待ってるから!」
俺はカイから鍵をもぎ取る。カイが満足そうに笑っていて必死すぎた自分が恥ずかしくなる。前から抱き締める力が緩まり左手を絡め取られる。クリスが心配そうに俺を見ている。
「ナオト、体調は?」
「俺はもう全然大丈夫!心配かけてごめん。クリスは?あの後大丈夫だった?」
よく見たらクリスもあまり顔色が良くない。元が色白だから気づかなかった。
「今は力があり有り余ってる位だから。」
俺はカイの手を取る。三人まとめて治癒の魔力を流す。クリスが困ったような顔を向けるが俺としても顔色が良くないクリスを見逃せない。いつもよりはっきりとした天色の光が周囲を舞う。
「僕は特にお咎めはなかったよ。いつも通り仕事するだけ。だから治癒の魔力は僕には使わなくて良いって前から言ってるのに・・・。」
俺はクリスに「ごめん。」と言うが、全然反省してないのが伝わっていてクリスは頬を膨らませている。俺は膨らんでいる頬をつついて空気を抜く。
その後クリスとカイは仕事に行ってしまった。俺と、アルベルトもサッと支度を済ませる。また俺がしてあげたいなと思いながら綺麗に結われる髪を見る。名残惜しそうにアルベルトも騎士棟の方へ向かった。
「ごめんな。こっちで話し込んで。」
俺は、ずっと存在感を消していたフィンに話しかける。
「いえ、ナオトに大切な方が三人おられるのは分かっていたことですし、多少スキンシップをしているところを見ても・・・。別に私には私のナオトにして差し上げれることもあるので気にしていません。」
フードを被り顔は見えないけどちょっと拗ねてる?出会った頃よりも怒ったり拗ねたり、色んな感情を見せてくれるようになったな。
「もし時間があるなら、俺をエドガー殿下のところに連れて行ってくれないか?」
やるべき事を的確に言ってくれそうな人。クリスのことは恋人としてもちろん大好きで頼りにしてる。でも俺に優し過ぎるんだ。今は楽じゃない道を選ぶべき時なんだと思う。
俺の魔力が奪われてしまった。それがこの国の人を苦しめることになるかもしれない。自分の大切な人だけを守ろうと思ってた。それだけではダメなんだ。大切な人が増えすぎた。もうこの国の一人の人間として出来ることを最大限にしなければいけない。エドガー殿下の執務室に向かう長い廊下で決意を固めるように一歩一歩足を進める。
それらしい扉が見えた。フィンが俺を振り返り戸惑いを隠せない声で言う。
「あの、本当に入られらますか?昨日ナオトに価値がないなどと言った方ですよ。」
「うん、でも話さないとダメなんだ。あとは俺一人で大丈夫だよ。ここまで案内ありがとう。」
俺はフィンの両手を包み、祈るように自分の額に当てる。苦手と思う人と対面するのは勇気がいる。心の中で「大丈夫。」と言い聞かせながら深呼吸をしてゆっくりと額に挙げていた手を降ろす。
意を固め、顔を上げるとフィンがフードを外している。俺がしていたように今度はフィンが俺の手を包み込んでくれた。額にフィンの唇が優しく触れる。いたわってくれているのが分かる。
「私はここで待っています。御三方がおられない時は私がナオトを見守ります。」
「ありがとう。」
ノックをして、エドガー殿下の返事が聞こえ扉を開ける。すくみそうになる足をなんとか前に進める。
エドガー殿下は俺を一瞥し書類に視線を戻す。「何の用だ。」と面倒くさそうに言い放つ。
「俺に出来ることは何でもするからこの国を守るために出来ることを教えて欲しい・・・です。」
「お前は何か勘違いをしてないか?自分を過大評価し過ぎだな。召喚の儀を成功させたことに意味があると教わらなかったのか。お前自身はそれのおまけのようなものだ。一応守護の神子なんだろう。優秀な人材を縛り付けるな。お前を守らせるな。」
「・・・っ、すみません。」
昨日騎士さん達に散々迷惑をかけたばっかりで、ぐぅのねも出ない。俺自身よりも召喚の儀の成功の方がよっぽど価値あることだろう。
それ以上何も言えず黙っていると、エドガー殿下は数枚の紙を俺に向ける。
「騎士団のジョストの成績や、過去の功績を元に作ったデータだ。印が着いている騎士を強化しろ。そのほかの騎士達の治癒ももちろん、訓練も怠るな。あとは、せいぜいウォリアー王国に取り入ることだな。」
俺は紙を受け取り一通り見る。強さだけで決まってる訳では無いみたいだ。属性?家柄?考え込んでいると、「私情は挟むなよ。私は忙しい。用が済んだら出ていってくれ。」冷たく言われた。
これ以上、居ていい雰囲気ではなく紙を握りしめすぐさま部屋を後にした。
「フィンっ。・・・ちょっと怖かった~。」
緊張の糸が切れて執務室の扉を閉めた瞬間、傍らで待っていてくれたフィンに飛び込む。
「お疲れ様です。頑張りましたね。」
頭を撫でてくれる手に安心感が募る。神官服からお日様の香りがして落ち着く。しばらくこのままでいたいなと思っていると、少しずつフィンの頭を撫でる手が緩やかになっていく。そろそろ離れないとな。
「・・・・・・えっと、ナオトその紙は?」
「あー、フィンは騎士さん達の名前だいたい分かる?少し手伝って欲しいんだ。」
俺も騎士の名前を全て覚えている訳では無いし、いちいち名前を聞き照らし合わせながら治癒、強化していたら鍛錬の邪魔になる。
同じく治癒を仕事としてるフィンなら協力を得やすい。執務室内で行われた話をすると快く引き受けてくれた。
「じゃあ、早速お願いします。」
騎士棟へ向かおうとする俺をフィンが引き止める。
「今日から復帰されるのですか?休まれては?」
「いや、身体は回復してるし休んでる暇ないよ。今後はブレアのところで魔力訓練も再開させるんだから。・・・フィンに頼りすぎだよな。他に心の属性持ってる人がいるなら魔力訓練の方は別の人に変わる?」
「絶対に嫌です。私がしますからお気になさらずに。」
いつもは柔らかで落ち着いた物言いのフィンが珍しく語気を強める。
「わかったよ。ありがとう、今度ちゃんとお礼しないとな。何が欲しいか決めといて。よし!じゃあ行こうか。」
それからはフィンに教えて貰いながら騎士の強化、怪我人の治癒をした。煤汚れがついている騎士を見る度になんだか胸を張ってしまう。疲労で心が折れそうになる度にポケットに入っている鍵の存在を確かめる。それを繰り返すうちに目まぐるしい一日が終わっていく。
スティーブンに攫われてからの時間感覚が分からない。どのくらい寝たんだろう。窓の方を見ると明るい日差しが差し込んでいる。ふと視界に入るベッドサイドの椅子にはフードを被ったフィンがいた。
「・・・!、フィン?おはよう。」
俺はアルベルトを起こさないようにそっと起き上がり、小声で話す。
「おはようございます。それよりもお加減はどうですか?」
フードのせいで表情が見えないが昨日の怒りが混じる声ではなく、いつも通り穏やかな声で返してくれる。
「俺はぐっすり寝てたから平気。魔力も落ち着いたよ。ありがとう。・・・えっと、フィンは大丈夫?」
不安に思っているとフィンは躊躇いなくフードを脱いだ。フィンの笑顔に、俺までつられて笑顔になる。やや褐色の肌に宝石のような深紅の瞳。キラキラと光を反射する髪が眩しい。フィンは、はにかみながら目を細める。
「私は大丈夫ですよ。それにナオトに姿を見せることは抵抗はありません。いつも褒めてくださるので・・・、まだ歯痒い気持ちはありますが嫌では無いのです。」
「朝日に照らされるフィンの髪は特別に綺麗だな。初めて見た日を思い出すよ。ほんとフィンには、感謝してもしきれないな。」
何気なくフィンの髪を撫でてしまった。フィンは動揺を隠せない表情をして、何故か俺も自然とフィンの髪に触れたことに驚いた。
「そんなことは。私の方がナオトに感謝しています。こうして人前でフードを脱ぐことになるなんて・・・。」
照れくさくなってぎこちなくフィンから手を離し顔を背ける。手に残る感触が胸をザワザワさせる。何か別のことを考えようと思って、昨日エドガー殿下に連れていかれた二人がどうなったか心配になる。特にカイは国境での仕事もあるしどうなるんだろう。昨日今日で帰ることは無いと思うけど・・・。
「あっ、そうだカイはどこいるか分かる?」
「昨日あの後もこちらにナオトの様子を見ていかれましたよ。今は、どうでしょう。時間も時間だったのでまだお部屋でお休みになられてるかも知れません。」
「そっか、・・・!」
後ろから服を引っ張られ、驚いて振り向く。アルベルトが目を擦りながら起き上がろうとしていた。サラサラと揺れる髪から寝起きのアルベルトの顔が覗く。「おはよう。」と言おうとしたら医務室の扉が開く音がする。フィンが素早くフードを被る。
扉の隙間からはクリスがこちらの様子を伺っている。昨日も顔を合わせているけど、エドガー殿下の手前何も出来なかった。
「ナオト!」
俺が起きていることを確認すると勢いよく駆け寄って強く抱きしめられた。俺もクリスを抱き締め返す。後ろからもアルベルトの腕が伸びてきて、もたれ掛かるように抱きしめられる。苦しいような嬉しいような。医務室の扉からもう一人入ってくる。
「カイ!」
あんまり顔色が良くないみたいだ。寝てないって言ってたっけ。頑なに俺を離さない二人を見てカイはため息を着く。
「ナオトに俺の部屋の鍵渡しに来た。・・・ガキくせぇ。こんな時くらい離せよ。」
「・・・。」
若干の冷気と熱気が入り交じって室内はなんとも言えない空気が漂うが、多分この位は気にしない方がいい。
それより・・・
「鍵って?俺持ってて良いの?まさかもう国境の方に行っちゃうの?!」
「違ぇよ、しばらくはこっちでこき使われる。何時に部屋に戻れるか分かんねぇからな。まぁ、使わないなら別にいい。」
そう言うとカイが手に持っていた鍵をポケットに戻そうとするため手を伸ばし慌てて引き止める。
「いる!使う!カイが戻って来るの絶対、起きて待ってるから!」
俺はカイから鍵をもぎ取る。カイが満足そうに笑っていて必死すぎた自分が恥ずかしくなる。前から抱き締める力が緩まり左手を絡め取られる。クリスが心配そうに俺を見ている。
「ナオト、体調は?」
「俺はもう全然大丈夫!心配かけてごめん。クリスは?あの後大丈夫だった?」
よく見たらクリスもあまり顔色が良くない。元が色白だから気づかなかった。
「今は力があり有り余ってる位だから。」
俺はカイの手を取る。三人まとめて治癒の魔力を流す。クリスが困ったような顔を向けるが俺としても顔色が良くないクリスを見逃せない。いつもよりはっきりとした天色の光が周囲を舞う。
「僕は特にお咎めはなかったよ。いつも通り仕事するだけ。だから治癒の魔力は僕には使わなくて良いって前から言ってるのに・・・。」
俺はクリスに「ごめん。」と言うが、全然反省してないのが伝わっていてクリスは頬を膨らませている。俺は膨らんでいる頬をつついて空気を抜く。
その後クリスとカイは仕事に行ってしまった。俺と、アルベルトもサッと支度を済ませる。また俺がしてあげたいなと思いながら綺麗に結われる髪を見る。名残惜しそうにアルベルトも騎士棟の方へ向かった。
「ごめんな。こっちで話し込んで。」
俺は、ずっと存在感を消していたフィンに話しかける。
「いえ、ナオトに大切な方が三人おられるのは分かっていたことですし、多少スキンシップをしているところを見ても・・・。別に私には私のナオトにして差し上げれることもあるので気にしていません。」
フードを被り顔は見えないけどちょっと拗ねてる?出会った頃よりも怒ったり拗ねたり、色んな感情を見せてくれるようになったな。
「もし時間があるなら、俺をエドガー殿下のところに連れて行ってくれないか?」
やるべき事を的確に言ってくれそうな人。クリスのことは恋人としてもちろん大好きで頼りにしてる。でも俺に優し過ぎるんだ。今は楽じゃない道を選ぶべき時なんだと思う。
俺の魔力が奪われてしまった。それがこの国の人を苦しめることになるかもしれない。自分の大切な人だけを守ろうと思ってた。それだけではダメなんだ。大切な人が増えすぎた。もうこの国の一人の人間として出来ることを最大限にしなければいけない。エドガー殿下の執務室に向かう長い廊下で決意を固めるように一歩一歩足を進める。
それらしい扉が見えた。フィンが俺を振り返り戸惑いを隠せない声で言う。
「あの、本当に入られらますか?昨日ナオトに価値がないなどと言った方ですよ。」
「うん、でも話さないとダメなんだ。あとは俺一人で大丈夫だよ。ここまで案内ありがとう。」
俺はフィンの両手を包み、祈るように自分の額に当てる。苦手と思う人と対面するのは勇気がいる。心の中で「大丈夫。」と言い聞かせながら深呼吸をしてゆっくりと額に挙げていた手を降ろす。
意を固め、顔を上げるとフィンがフードを外している。俺がしていたように今度はフィンが俺の手を包み込んでくれた。額にフィンの唇が優しく触れる。いたわってくれているのが分かる。
「私はここで待っています。御三方がおられない時は私がナオトを見守ります。」
「ありがとう。」
ノックをして、エドガー殿下の返事が聞こえ扉を開ける。すくみそうになる足をなんとか前に進める。
エドガー殿下は俺を一瞥し書類に視線を戻す。「何の用だ。」と面倒くさそうに言い放つ。
「俺に出来ることは何でもするからこの国を守るために出来ることを教えて欲しい・・・です。」
「お前は何か勘違いをしてないか?自分を過大評価し過ぎだな。召喚の儀を成功させたことに意味があると教わらなかったのか。お前自身はそれのおまけのようなものだ。一応守護の神子なんだろう。優秀な人材を縛り付けるな。お前を守らせるな。」
「・・・っ、すみません。」
昨日騎士さん達に散々迷惑をかけたばっかりで、ぐぅのねも出ない。俺自身よりも召喚の儀の成功の方がよっぽど価値あることだろう。
それ以上何も言えず黙っていると、エドガー殿下は数枚の紙を俺に向ける。
「騎士団のジョストの成績や、過去の功績を元に作ったデータだ。印が着いている騎士を強化しろ。そのほかの騎士達の治癒ももちろん、訓練も怠るな。あとは、せいぜいウォリアー王国に取り入ることだな。」
俺は紙を受け取り一通り見る。強さだけで決まってる訳では無いみたいだ。属性?家柄?考え込んでいると、「私情は挟むなよ。私は忙しい。用が済んだら出ていってくれ。」冷たく言われた。
これ以上、居ていい雰囲気ではなく紙を握りしめすぐさま部屋を後にした。
「フィンっ。・・・ちょっと怖かった~。」
緊張の糸が切れて執務室の扉を閉めた瞬間、傍らで待っていてくれたフィンに飛び込む。
「お疲れ様です。頑張りましたね。」
頭を撫でてくれる手に安心感が募る。神官服からお日様の香りがして落ち着く。しばらくこのままでいたいなと思っていると、少しずつフィンの頭を撫でる手が緩やかになっていく。そろそろ離れないとな。
「・・・・・・えっと、ナオトその紙は?」
「あー、フィンは騎士さん達の名前だいたい分かる?少し手伝って欲しいんだ。」
俺も騎士の名前を全て覚えている訳では無いし、いちいち名前を聞き照らし合わせながら治癒、強化していたら鍛錬の邪魔になる。
同じく治癒を仕事としてるフィンなら協力を得やすい。執務室内で行われた話をすると快く引き受けてくれた。
「じゃあ、早速お願いします。」
騎士棟へ向かおうとする俺をフィンが引き止める。
「今日から復帰されるのですか?休まれては?」
「いや、身体は回復してるし休んでる暇ないよ。今後はブレアのところで魔力訓練も再開させるんだから。・・・フィンに頼りすぎだよな。他に心の属性持ってる人がいるなら魔力訓練の方は別の人に変わる?」
「絶対に嫌です。私がしますからお気になさらずに。」
いつもは柔らかで落ち着いた物言いのフィンが珍しく語気を強める。
「わかったよ。ありがとう、今度ちゃんとお礼しないとな。何が欲しいか決めといて。よし!じゃあ行こうか。」
それからはフィンに教えて貰いながら騎士の強化、怪我人の治癒をした。煤汚れがついている騎士を見る度になんだか胸を張ってしまう。疲労で心が折れそうになる度にポケットに入っている鍵の存在を確かめる。それを繰り返すうちに目まぐるしい一日が終わっていく。
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