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30.調律
しおりを挟むずっと二人を避けていてもなんの解決にもならないのは分かってる。さっきの神官が言っていたように、分かってもらえるように努力しなければいけない。そうとなれば話し合うのが良いのは分かるけど・・・。なんて話せば良いんだろう。
カイを好きになってごめんね?まるでカイを好きになったことが間違ってるみたいで嫌だ。誰か一人を選べば罪悪感から抜け出せる?無理だ。三人がそれぞれ特別で大切だ。浜辺で膝を抱え考え込む。
「おい!」
後ろから怒声が聞こえ振り返る。仁王立ちになっているのは、以前焦げ付きながら俺に悪態を着いてきた金髪碧眼。今も怒りを隠すつもりは全く無い様子でこちらを睨んでいる。アルベルトやクリスじゃないことに落胆する自分がいる。
「アルベルト団長に心配かけるのも大概にしろよ。俺は優しくないからな、お前のタイミングなんか知らん。引きずってでも宮殿に帰す。」
そう言うと本当に腕を掴み引きずられる。抵抗する気力もない。
「アルベルト・・・。心配してたんだ。」
「はぁ?ここ数日は見てられない程だった。どうせお前がなんかしたんだろ。今日は珍しくクリス殿下も取り乱していた。」
二人の名前を聞くだけて胸が裂けるように痛い。でも心配してるなら迎えに来てくれても良かったんじゃ・・・。考えれば考える程ドツボにハマっていきそうだ。
頭の片隅で引きずられるなら、浜辺は良いがレンガ敷きはやばい。絶対痛い。そう思ったとき「重い、そろそろ歩け。」とパッと手を離された。レオンを仰ぎみる形で地面に倒れ込む。
「おまっ!?何泣いてんだ、まるで俺が悪いみたいじゃないか。」
俺は無意識に出ていた涙を、隠すように両手で顔を覆う。
「心配してるなら、なんで二人は来てくれなかったんだろ。」
レオンは溜息をつきながら屈む。呆れながら俺の額を指で弾いた。
「めんどくさいヤツだな。戻ってくることを信頼して待ってくれているとは思わないのか。」
意外に優しい回答に調子に乗って、他のことも聞いてしまう。
「同時に複数の人を好きになったらどうすればいい?」
「俺に恋バナするな。お前が好きになった人はそんなに話し合いができない相手なのか。違うだろ。お前が勝手に逃げているだけだろ。」
レオンは言い方はキツイけど、さっきの神官と同じようなことを言うんだな。配慮はないし、評価軸がアルベルトに寄り過ぎているがいつでも割と正論だ。クリスやアルベルトの様子で恐らく大体のことは予想が付いているのに、本当に確信的なことまでは踏み込んでは来ない。レオンに「ほら、立て」と無理やり立たされる。
ちゃんと歩いてついてきているか時々監視されながら宮殿に戻っていく。周りからジロジロと見られるのを気にもとめない様子で先導し、俺の自室のドアノブに手をかけて止まる。どうしてここで静止したか分からず俺はレオンを見上げる。レオンと視線は合わず、ただ真っ直ぐにドアを見ていた。
「俺が尊敬する人をこれ以上苦しめたら燃やしてやるからな。」
レオンは小声でそう呟くように言うと、勢いよくドアを開ける。そして俺を室内に押し込む様に背中をド突いてきた。俺は床にへたり込む。
「ナオト!」
クリスに真っ先に抱きしめられた。何日かぶりの温度に瞬く間に視界が霞んでいく。
「心配かけてごめん、・・・・ぅっぐ、俺っ、カイのことも好きなんだ。二人のことずっと避けててごめん。気持ちの整理が付かなくて・・・。」
もっと落ち着いて、ちゃんと言葉にするつもりだったのに二人を前にすると断片的なことしか出てこない。それでも包み込んでくれる腕は優しくて・・・。なんとかゆっくりと呼吸をして抑えていたが、堪えきれなくなり嗚咽が漏れる。
「そうだと思って、待ってたんだ。そこまで悩んでたのは気付かなかった。ごめんね。」
クリスは「怪我とかしてない?大丈夫?」と気遣いながら俺を床から立ち上がらせ、ベッドの脇に誘導する。
「勝手に賭物にしたアルベルトが悪いよ。それにナオトがカイ団長を好きになるのは時間の問題だったと思うしね。アルベルトがナオトへの好意を拗らせ過ぎてるんだから、気に病むことないんだよ。」
優しく俺の頭を撫でながら、壁側にいるアルベルトにクリスが鋭い目線を送っている。アルベルトはバツが悪そうにしている。
「ここまでナオトを追い込んだの僕は許さないからね。荒療治でもしないとダメかな?」
そう言って次に開かれた瞳は光って見えた。
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