上 下
31 / 50

30.調律

しおりを挟む


 ずっと二人を避けていてもなんの解決にもならないのは分かってる。さっきの神官が言っていたように、分かってもらえるように努力しなければいけない。そうとなれば話し合うのが良いのは分かるけど・・・。なんて話せば良いんだろう。
 カイを好きになってごめんね?まるでカイを好きになったことが間違ってるみたいで嫌だ。誰か一人を選べば罪悪感から抜け出せる?無理だ。三人がそれぞれ特別で大切だ。浜辺で膝を抱え考え込む。


「おい!」

 後ろから怒声が聞こえ振り返る。仁王立ちになっているのは、以前焦げ付きながら俺に悪態を着いてきた金髪碧眼。今も怒りを隠すつもりは全く無い様子でこちらを睨んでいる。アルベルトやクリスじゃないことに落胆する自分がいる。

「アルベルト団長に心配かけるのも大概にしろよ。俺は優しくないからな、お前のタイミングなんか知らん。引きずってでも宮殿に帰す。」
 そう言うと本当に腕を掴み引きずられる。抵抗する気力もない。
「アルベルト・・・。心配してたんだ。」
「はぁ?ここ数日は見てられない程だった。どうせお前がなんかしたんだろ。今日は珍しくクリス殿下も取り乱していた。」

 二人の名前を聞くだけて胸が裂けるように痛い。でも心配してるなら迎えに来てくれても良かったんじゃ・・・。考えれば考える程ドツボにハマっていきそうだ。
 頭の片隅で引きずられるなら、浜辺は良いがレンガ敷きはやばい。絶対痛い。そう思ったとき「重い、そろそろ歩け。」とパッと手を離された。レオンを仰ぎみる形で地面に倒れ込む。
「おまっ!?何泣いてんだ、まるで俺が悪いみたいじゃないか。」
 俺は無意識に出ていた涙を、隠すように両手で顔を覆う。
「心配してるなら、なんで二人は来てくれなかったんだろ。」
 レオンは溜息をつきながらかがむ。呆れながら俺の額を指で弾いた。
「めんどくさいヤツだな。戻ってくることを信頼して待ってくれているとは思わないのか。」
 意外に優しい回答に調子に乗って、他のことも聞いてしまう。
「同時に複数の人を好きになったらどうすればいい?」

「俺に恋バナするな。お前が好きになった人はそんなに話し合いができない相手なのか。違うだろ。お前が勝手に逃げているだけだろ。」

 レオンは言い方はキツイけど、さっきの神官と同じようなことを言うんだな。配慮はないし、評価軸がアルベルトに寄り過ぎているがいつでも割と正論だ。クリスやアルベルトの様子で恐らく大体のことは予想が付いているのに、本当に確信的なことまでは踏み込んでは来ない。レオンに「ほら、立て」と無理やり立たされる。

 ちゃんと歩いてついてきているか時々監視されながら宮殿に戻っていく。周りからジロジロと見られるのを気にもとめない様子で先導し、俺の自室のドアノブに手をかけて止まる。どうしてここで静止したか分からず俺はレオンを見上げる。レオンと視線は合わず、ただ真っ直ぐにドアを見ていた。

「俺が尊敬する人をこれ以上苦しめたら燃やしてやるからな。」

 レオンは小声でそう呟くように言うと、勢いよくドアを開ける。そして俺を室内に押し込む様に背中をド突いてきた。俺は床にへたり込む。

「ナオト!」
 クリスに真っ先に抱きしめられた。何日かぶりの温度に瞬く間に視界が霞んでいく。


「心配かけてごめん、・・・・ぅっぐ、俺っ、カイのことも好きなんだ。二人のことずっと避けててごめん。気持ちの整理が付かなくて・・・。」

 もっと落ち着いて、ちゃんと言葉にするつもりだったのに二人を前にすると断片的なことしか出てこない。それでも包み込んでくれる腕は優しくて・・・。なんとかゆっくりと呼吸をして抑えていたが、堪えきれなくなり嗚咽が漏れる。

「そうだと思って、待ってたんだ。そこまで悩んでたのは気付かなかった。ごめんね。」

クリスは「怪我とかしてない?大丈夫?」と気遣いながら俺を床から立ち上がらせ、ベッドの脇に誘導する。

「勝手に賭物にしたアルベルトが悪いよ。それにナオトがカイ団長を好きになるのは時間の問題だったと思うしね。アルベルトがナオトへの好意をこじらせ過ぎてるんだから、気に病むことないんだよ。」

 優しく俺の頭を撫でながら、壁側にいるアルベルトにクリスが鋭い目線を送っている。アルベルトはバツが悪そうにしている。


「ここまでナオトを追い込んだの僕は許さないからね。荒療治でもしないとダメかな?」

そう言って次に開かれた瞳は光って見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

処理中です...