27 / 50
26.好敵手
しおりを挟む◇
闘技場が近づくにつれて大きくなっていく喚声。何事かと思い歩みを速める。コロッセオのような円柱状の建物、観覧席にいる騎士たちの熱狂で暑いのかと思ったが、それだけではないようだ。闘技場の中心にいるのはカイ。立ち込める魔力と、それによって生み出される炎の渦。四人の騎士に囲まれているがそれを諸共しない。
どこかに座って観戦しようと辺りを見る。所々にボロボロの騎士もいる。
目に留まるのは毛先に燃やされたあとが残る金髪。項垂れて白い肌にも煤汚れがある。さすがに可哀想だと思い、気配を消して背後に回り込む。背中にちょんと、人差し指を立て治癒の魔力を流し込む。
「余計なお世話だ。」
碧眼が後方を仰ぎみる。バレた。
元通りとまでは言わないか、だいぶマシになった。勝手にやっといてなんだが感謝して欲しいくらいだ。もう神子としての力を持った今の俺が何かを言われる筋合いはない。
「そんな状態でよく悪態つけるな。あと、前から思ってたけどお前アルベルトの前で猫かぶり過ぎな。」
レオンがふんっと鼻を鳴らし、顔を背ける。
「後ろにいられたら何されるか分からない。降りてこい。」
腕を組み隣を指さされる。知っている顔も無いし、アルベルトがよく仕事を任せる位だ。性根はきっと悪いやつじゃない。大人しく言われた通りにする。
カイが奮った炎や剣を受け、立てなくなった四人の騎士が運ばれて行った。カイは観覧席を一通り見渡し、指をさす。
「次、お前と、お前と・・・それからお前らも来い!」
再び戦闘が始まる。こうやって焦げ付きの騎士たちが出来上がったのかと納得させられる。エドガー殿下もカイのことを強いだけが取り柄とか言ってたくらいだしな。もちろん俺はそれだけじゃないと思うけど・・・。
「俺ちょっと行ってくる。」
席を立とうとしたら、レオンに肩を捕まれ引き戻され怪訝な顔を向けられる。
「どこへ行く。」
「さっきの騎士達、立てないくらい負傷してるなら治療しに行こうかと・・・。」
「お人好しめ、どこに運ばれたか分かっているのか?」
熱狂する騎士達を掻き分けて前列の方へ行けば分かるかもしれないが、そうする勇気はなかった。しばらく考えていると、レオンに「着いてこい。」と案内される。
騎士達に隠れ見えなかったが、野球場でいうダグアウトのようなところに、何人かの騎士が横になっている。致命傷すらないが、傷だらけの騎士を見ると思うところがある。
順番に治癒していくのをレオンが後ろで見ている。背後でずっと見られるのもなんか居心地が悪い。ましてや俺の事を良く思っていない相手に・・・。
「ここまで案内してくれたのはありがたいけど、俺は勝手にやってるからもう観覧席に戻っていいよ。」
「お前が何かあったら、アルベルト団長が心配するからな。勘違いするな。」
魔力消費よりも気疲れしながら、また運ばれてくる騎士を迎え入れようとダグアウトから顔を出す。遠くにいたカイと目が合った気がした。次に戦う騎士にカイが剣を向ける。
一瞬の静寂と、すぐさま熱狂と怒号の混じる声が上がる。何事かとレオンも出てきて、息を呑んでいる。
剣を向けられ、指名された騎士が中央へ歩いていく。靡くブルーブラックの髪。・・・俺も目が離せない。
「どっちが強いと思う?」
上から覗き見ていたレオンに問いかける。野暮な質問だと自分でも思う。どちらを応援したら良いか分からない。お願いだから怪我をしないで欲しい。二人が傷付く心構えなんかしたくない。
「主属性的には、アルベルト団長が有利。それに今まで散々他の騎士の相手をしてきたカイ団長は不利だろう。でもカイ団長の本来の魔力量と今日は調子、経験値、他にも・・・どっちが勝つかなんて分からない。」
会場の中央に二人が揃う、何やら話している様だ。距離がありすぎて聞こえない。いつ開始されるのかとざわめきが起こっている。アルベルトがちらっと俺の方を見る。
カイがアルベルトに耳打ちをすると、棘のような冷気が暴風となって会場を取り巻く。
それを皮切りに剣が交わる。一太刀の重さが他の騎士達と格の違いを見せつけているようだ。湧き上がる歓声。
カイが火の玉をそこら中にだし、アルベルトへ撃ち込む。アルベルトを取り囲むように出てきた水魔法で作られた龍がそれを鎮火する。そのうち水龍はカイ本人に向かって行く。
アルベルトも剣を構え切り込んでいく。二人の距離が縮まった時オリーブ色の瞳が光った気がした。突如、切り込もうとしていたアルベルトが後方へ飛び距離を置き、水龍が揺らいだのち消えた。
カイはアルベルトが着地の時ふらついたのを見逃さない。灼熱の炎を帯びた剣はアルベルトの首を捕える。ギリギリのところでカイは動きを止める。
それでも反撃しようとするアルベルトに対しカイは強く瞳を光らせる。アルベルトは頭を抑え込むように倒れる。
見ていられず俺はレオンの制止を振り切り、アルベルトに駆け寄る。すぐさま治療しようとするが、見てわかる怪我はない。なのになんでこんなに苦しそうなんだ?
訳が分からずカイを見上げる。カイが不敵に笑い、光っていた瞳が戻っていく。目を閉じ唸っていたアルベルトがうっすらと目を開ける。
「ナオト・・・。」
「俺の精神魔法に抗おうとしたのは褒めてやるよ。でも、簡単に挑発に乗るんじゃなかったなぁ?あんな小せぇ機械分は働いたから先に部屋で休んどく。ナオト、また後でな!」
それだけ言い残すとカイはズカズカと闘技場を後にした。
アルベルトはなんとも言い難い顔で俺を見ている。治癒が必要かと思って魔力を流そうとするが拒まれた。
「ナオト、すまない。後で話がある。私は、団員達の指揮を執るから、他の負傷した騎士を治癒してくれ。でも、決して無理はするなよ。」
少しふらつく足取りで観覧席の団員に指示を出している。気がかりなことは色々あるが、とりあえずダグアウトの負傷した騎士たちの治癒にあたった。
◇
今日の鍛錬は終了ということで、アルベルトから話があると言われ部屋に案内された。終始無言の状態で抱きしめられている。こうしてるのも悪い気はしないが、どうしていいものかと悩んでしまう。
「アルベルト、疲れてるなら少し早いけどもう寝る?」
その言葉にビクッと肩を震わす。抱きしめる力が強くなり、静寂が続く。
「なんか言ってくれないと分からないよ。負けたのが悔しい?それとも、カイがまた後でって言ってきたのと関係ある?夕食一緒に食べるとか?」
「・・・・違う。すまない。カイ団長の挑発に乗ってしまって・・・。ナオトのこととなると感情が制御出来ない。」
「ん?どういうこと?」
「勝負の条件は、私が勝ったらナオトのことを諦めると・・・。カイ団長が勝ったら今晩ナオトに部屋に来てもらうというものだった。」
諦めるってどういうことだ?まぁ、俺はアルベルトと対戦するためのダシに使われたってことか。カイがアルベルトを指名する前の視線に合点がいく。
「ただ治癒しながら添い寝するだけだろ。明日出発って言ってたし、体力は回復してた方がいいよな。せいぜい抱き枕になるだけだよ。」
「・・・・・気づいてないのか?」
やっと肩にもたれかけていた頭を上げたかと思ったら、困惑と哀愁を帯びた顔で見られる。
「カイは別に、その・・・、俺のことは嫌ってないけど、性的な意味で誘ってるわけじゃないと思うよ。」
確かにキスはしたけど応急処置で、なし崩しにって感じだったし。俺もカイのことは憎からず思ってるけど、出会ってから日が浅いし・・・。城下町の帰り際のことを思い出す。
「どちらかと言うとアルベルトを揶揄って楽しんでいるような気もするんだけど・・・。なんて挑発されたんだ?」
「・・・・・・。」
また俯いてしまった。勝手に賭物にされたのは、良い気はしないけど、こんなアルベルトを責める気にもなれない。髪にキスを落とし、抱き締め返す。
31
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる