異世界で、初めて恋を知りました。(仮)

青樹蓮華

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24.疑念

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 あんまり眠れなかった。目を擦りながらまだ気だるい体を起こす。既に着替えを済ませたアルベルトが髪をいて結おうとしている。窓から差し込む朝日に照らされるブルーブラックの髪は、いつもより青みが強く見えて一層綺麗だ。アルベルトは俺が起きたことに気がつき手を止める。

「ナオト、おはよう。身体は大丈夫か?」

「えーと、まぁまぁ?」

 白状するならば腰も、喉も他にも至るところが痛い。それにまだ少し上擦った気持ちから抜け出せないでいる。本当のことを言えばきっと心配させるから曖昧な返事をした。

 そんなことを知ってか知らずか、アルベルトは直人の髪を撫でながら眉を顰める。
「じゃあもっとすれば良かったな。」
 直人がギョッと見上げると、「冗談だ、無理させてすまない。」といつもの優しげな笑みを浮かべていた。


 サラサラと、俺の頬を掠める髪。ずっとしてみたかったことがある。
「今日は俺がアルベルトの髪を結っても良い?上手にできるかわからないけど・・・。」

 直人の言葉を聞くと、アルベルトは綻ばせながら髪紐を手渡し、後ろを向く。

 容易に背後を見せてくれる。特に騎士であるアルベルトが、というところが自分が特別な存在であると証明し幸せな気分になる。
 この髪に、寝癖が着いてるのは見たことがない。まるで性格を体現しているようだ。慎重に指を通すとやっぱりサラサラでいい匂いがする。俺自身は短髪だし、弟も髪を伸ばす事はなかった。初めてのことへの好奇心と、上手にできるのかという不安がある。

 不慣れながら頑張ってみたはいいものの、いつもより少し下の方にくくってしまった。
「ごめん、やっぱり上手く出来なかった・・・。やり直していいよ。」
 自分が不器用で不甲斐ないと感じたが、それでも喜んでくれているアルベルトを見ると、たまにはやってみてもいいかなと思った。

           ◇

 いつものように二人で朝食を摂っていると、齷齪あくせくしているクリス殿下に執務室に呼ばれた。急いで食べ終わらせ、そのまま執務室はへ向かう。

 扉を開け中に入ると、クリス殿下とカイ、ブレアそして・・・。クリス殿下の兄であり、この国の第一王子である。名前は確か、エドガー殿下。前回、通りすがりに一瞥いちべつされた事が蘇る。カイ以外は萎縮しているというか、なんとも言えない空気が流れている。その原因である人物が俺の目の前まで歩いてくる。

「人の美醜に興味は無いが、願い下げだな。」
 開口一番失礼なことを言われた気がする。とりあえず顎クイされながら聞くセリフじゃないな。クリス殿下みたいに慈悲は無さそうだから下手なことは出来ないと自分に言い聞かせていると、小指で耳をほじっていたカイがフッとエドガー殿下に飛ばす。
 朝までの高揚感がエドガー殿下に落とされたと思ったが、カイに助けられた。エドガー殿下は切れ長の目をさらに険しくしている。

「チッ、低俗な。」
 カイはそれを気にもとめないように目を背ける。
「サーセン。育ちが悪いもんで。それよりもナオトを虐めてる暇があるなら、なんで呼ばれたか教えて頂きたいですねぇ。」

「別に虐めてなどいない。初代神子は、次期国王と婚姻したと言うから品定めしたまでだ。貴様らを呼んだのは、まとめて訓戒処分くんかいしょぶんした方が効率的だからな。あまり調子に乗っていると昨日お前が壊した備品の始末書を書いてもらう。」

 そういえばイヤモニ壊してたな。それは・・・カイが悪い。でもエドガー殿下の態度は気に食わないし、こっちだって婚姻なんて願い下げだ。・・・・口には出さないけど。

 渋い顔をしたカイは押し黙った。エドガーはいつもクリスが座ってる王座に座る。殺風景なのは表情だけでは無い、声色こわいろまでも機械のようだ。エドガーはクリスに向かって手で合図する。クリスは居心地の悪そうに周りの顔色を伺いながら述べていく。

「カイ第二騎士団団長は言わずもがな備品の破損。ブレア魔道士は、まだおおやけにしていない神子の能力の暴露。ナオトは、その・・・スティーブン閣下への痛罵つうばと晩餐会の途中退出。アルベルトと僕も晩餐会を途中で離れたこと。」

 クリスが言い終わると、エドガーは腕を組み威圧的に目を細める。
「いずれにしても神子の能力は公表する予定だった。だが、いち魔導士が明かす事ではないな・・・。スティーブン閣下には、未熟な神子が魔力を暴走させたと詫びを入れて置いたよ。あとはどう償ってもらおうか。」

 無礼をした自覚はあるが、スティーブンの方から仕向けてきた事だ。自己防衛以外の何物でもない。あれがなければ今、エドガー殿下から指摘されている全てのことは起こり得なかった。よどんだ空気を払いのけるように俺は一歩前に出た。

「お言葉ですが、スティーブン閣下?の目が光って魔力を感じました。だから何かされそうだったのは事実で、先にバカにしてきたのはあっちです。そのせいで俺の魔力が暴走したんだ。ここにいるみんなは悪くない。」

 エドガーは表情を変えないまま一度頷いた。
「知っているよ。ただ証拠は?人身売買の噂もある、きな臭い人物であるのは確かだ。でも相手は侯爵。神子であろうが罵声を浴びせていい相手ではないよ。貴族の世界というのはそういうものだ。」

 まだ貴族階級のことかよ。うんざりする。俺には関係ないって。
「正直この国がどうなってもいい。俺は大切だと思う人を守りたいだけだ。これ以上とがめるなら、俺の力はこの国のためには使わせない。」
 啖呵たんかを切ったはいいものの、やっぱり反応が怖いからさっとカイの後ろに隠れた。ひょこっと顔だけだし、べーっと威嚇する。

 エドガーはそれを頬杖をつき呆れたように眺めている。一度溜息を漏らし、考えるように目を閉じる。ゆっくりと目を開け、話し始める。

「全て不問にすることは出来ない。そうだな、カイ団長は明日持ち場に戻るんだったか。始末書は免除するが、壊した物の分はしっかりと働いてもらう。強さだけが取り柄だろう。今日はアルベルト団長と第一騎士団の指導でもしてもらおう。」

 昨晩、自分が魔力を暴発させたせいで、カイがぐったりしていたのを知っている。言い返そうと、また前に出ようとしたがカイとアルベルトに肩を抑えられできなかった。

 それを見たエドガーはほくそ笑み話しを続ける。

「ブレア魔導士は、今後中立国であるウォリアー王国との交流の場で健闘してもらおうか。神子と接触したスティーブン閣下が今後どのような動きを見せるかわからない・・・・が、牽制のため他国へも召喚の儀の成功を知らしめなければならないからな。処分が決まればもう用はない。せいぜい励む事だな。」

そう言うとエドガーは、執務室を去って行った。
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