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22.花火と繋ぐ手

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 俺は庭園のベンチに座り、カイは俺の太腿を枕にして寝ている。宮殿の明かりが遠くに見える。ガーデンランプからも遠い片隅のベンチは、満月が柔らかく照らしてくれている。

 暴発しかけた魔力はカイに注ぐことによって免れた。そのおかげで俺の体はだいぶ楽になった。代わりに、魔力を受け取りすぎたカイがこうして休むことになっている。いつも豪気なカイが弱々しく見える。申し訳なさと、反してある思いを膝の上にある、意外に柔らかいオリーブ色の髪を撫でることで紛らわせる。

「カイ、ごめんな。」

「ナオトからキスしたことを後悔して謝ってんなら許さねぇ。」
 口調とは裏腹にカイが珍しく不安げな表情を浮かべている。

「ちがっ。そうじゃない。」
 さっきのことを思い出してしまう。カイを撫でていた手を離し自分の口元を隠す。緊急事態だったとはいえお互いの気持ちをはっきりとさせていないのにキスをするとは思わなかった。それもこれも全部あいつのせいだ。

「あの、スティーブンって何者なんだ?俺、暴言吐いちゃったけど大丈夫かな。」
「ハハッ!今更かよ。さすがナオトだな。あんなん大丈夫だろ。面白かったし。」

 カイがいつものように笑ってくれて安心する。口元を隠していた俺の手はカイによって退けられる。

「あっ、今バカにしただろ!確かにこの世界のことは疎いけど・・・。」
「だからこそ俺は救われたんだ。お前のその真っ直ぐで優しいところが・・・・・・。はぁー、そろそろ迎えを呼ぶか。俺はもう護衛としては役に立たねぇからな。」

 カイは繋いでいた俺の手を離し、起きあがろうとする。俺は反射的にカイのおでこに両手を乗せて、それを押し止める。カイは眉をひそめ悩ましげに目を逸らしたが、起きあがろうとする力を抜いた。

 カイはそもそも国境付近の警備が仕事だ。それに団長ともなればそうそう宮殿には帰ってこれないだろう。
 次はいつ会えるのだろう。あんまり聞きすぎると重たいかな。そんな気持ちを振り払うようにカイを見る。今見れるだけしっかり目に焼き付けておこう。

「カイはまた元の仕事に戻るんだろ?」

「ん?そうだな、明後日にはここを発つ予定だ。どうした、寂しいのか?」

 イタズラな笑みを浮かべるカイに反発したくなる気持ちを抑え、今伝えることのできる精一杯の答えを出す。

「それなりに。それにまた城下町に連れて行って欲しいんだよ。」

「んだよ、現金なヤツだな。クリス殿下にでも言っといてやるよ。」

「いや、次もカイと一緒が良いんだ。」

 その言葉を聞くと、カイは満足げな表情に変わる。その後、気だるそうに立ちあがる。俺から少し離距離をとり、宮殿側に体を向ける。夜空に掲げた手からは魔力の塊が放たれる。まるで花火のような光が空に散る。刹那的な明るさから、儚く暗くなっていくカイの横顔は転写するように俺の心に刻まれた。



 カイは踵を返し、俺の横にドカッと腰掛ける。うんざりと言わんばかの顔をしている。
「早すぎんだろ。」
 吐き捨てるようなカイの言葉の意味を理解するより先に、肩が一気に重くなった。

『ナオト大丈夫(か)?』

  後ろを振り向きたいが、両サイドから首に回された腕で動けない。でも、もう自分を守ってくれる手はわかる。そっと、回された腕に自分の手を添え、もう片方は隣にいるカイと手を繋ぐ。

「俺は大丈夫だよ。みんなが助けてくれたから。」
 

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