異世界で、初めて恋を知りました。(仮)

青樹蓮華

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8.夜風と火照り

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 自室に戻り布団を被る。ほだされそうになるたびに、過去の失恋がちらつく。どうせまた傷つくだけだと。どこかで、これ以上はダメだと警鐘けいしょうを鳴らす。それでも、今日はおそらく結界は張れていないだろうという事を物かなしく思う。素直に受け入れられない自分が憎い。守られることに慣れすぎた自分にうんざりする。こんなに一人でいることが寂しいと思ったことはない。

 到底眠れる気がせず夜風にあたりに行こうと外へ出る。すっかり暗くなった庭園には誰もいない。ガーデンライトは灯っているが限られる視界の中で見る景色は、まるで元の世界に戻ったように錯覚させる。ただ一つ、違和感を感じ花壇に近づいてみる。元の世界でもよく見かける花だ。ただ青い色は自然では咲かないと聞いた事がある。自分の常識がここでは通用しないことを再認識する。夜露に濡れる青い花びらがあまりにも綺麗で見惚れていると後ろから足音が聞こえる。

「一日に何回心配させれば気が済むんだ。」
 突然声をかけられた驚きはすぐに安堵に変わる。振り返らなくても分かる、聞き慣れた声はアルベルトだ。

「ごめん。なんだか寝れなくて。慰労会は終わったの?」
「まだ飲んでるやつもいるが、私はもういい。こうやってナオトと話せる時間を作れたから結界を張っておいて良かった。」
「は?結界張ってたの?今日魔力使いすぎてフラフラしてたのに?」
「当たり前だろ。ナオトに何かあれば気が気じゃない。それに夕食のあと、部屋に二人で入っていたらと思うと・・・。」

 昼間のことは俺が悪いけど、いつも毅然きぜんとしてるアルベルトがあんなにフラフラになって顔色も悪くて、呼吸も苦しそうにしてたのに・・・
 俺は、両手を伸ばしアルベルトの頬を包み固定する。お酒のせいかちょっと火照ってるけど、顔色は悪くない。呼吸も整ってるし、今は大丈夫そうだ。うん。

 アルベルトは意表をつかれたように目を見開く。その後、直人の右手を掴み頬から離す。
「どういうつもりだ?」

「昼間あんなに体調悪かったのに、結界なんかで魔力使ったらだめだろ!俺だってアルベルトのことが心配なんだ!」

 被せるように言うと、アルベルトはもう片方の手で俺の顎を少し持ち上げる。瞑色の瞳が近づいてくる。夜空のような瞳に魅入ってしまう。すんでのところでアルベルトの唇を手で覆い防ぐ。
「あっ、えっと嫌とかじゃないんだけど・・・。」
 俺は、自分の感情をどう表せば良いのか分からず言い留まる。
「今は、その言葉だけで十分だ。過去の恋愛を引きずっていることはわかる。だからこそ遠慮はしない。私が全部塗り替えてやる。」
 アルベルトは俺の左手のひらに口付けをし、にへらと笑う。
 夜の庭園、まだ少し肌寒いはずなのに身体中がフツフツと火照って来るのを感じる。
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