上 下
23 / 36

モノカラケ11

しおりを挟む
 マグワイ……。眠らない街 新宿歌舞伎町は、今宵も大盛況である。よな夜な訪れる疾風迅雷は、時々、風となり、雷となり……。拙く捗らない人々を迷いの森へと誘う。彷徨える魂は、森や川へと流された。

 賭博とは、勝ったり負けたりだが……。深夜帯に行われる美味な魂とは、颯来る誘いの森や川を越えて、越境する。鯉や竜が百虎する中。祭殿に築かれし魂がひとり宿る。その木は桜の木のように美しく。乱れてはいない。花鳥風月のような雄鶏が鳴く。

 白柳隼人は、出所して久しく女性遊びをしていない。天も落ちるとでもいうのであろうか……。女子や女性からは持て囃されるのだが、病の床に臥していた時間が長かったのか。女性には一切興味が持てなくなっていた。しかし、ギャンブルは打つ。飲む打つ買うの三拍子揃った男は、今では牙の抜かれた憑き物が落ちたような……。それでいて負けないのであるから不思議といわざるをえない。

 彼が逮捕された原因はかなり遡る。美弥との事であり、当時は、不同意わいせつ罪がない時代。矢張り9歳の子供の心を滅茶苦茶にした行為は、世間を揺るがしたのである。二十歳に満たないという理由だけでは許されないとして、検察庁は求刑 懲役五年を言い渡した。それに対して、論告求刑を経て、実刑 四年六ヶ月という短い刑期で済んだのであるが、なかでの喧嘩で相手を半殺しにして懲役は伸びていた。

 その後に別件逮捕を繰り返して、出所する頃には、浦島太郎と化していた。彼は、自分が何のために生まれ、何のために生き恥を晒すのかを苦慮していた。

 「浜松へ出所したら鰻を食いに来い!」との幹部のお達しから、少ない金を持ち浜松へと向かう。数日間の旅を終えて、東京へ戻る頃には、一週間が経過しようとしていた。彼がいなくなった新宿は、元の形を保ってはおらず、若者の賑わう街と化していた。

 彼は新宿に見切りをつけると、最後の仕掛けた花火を虎視眈々と狙う。浜松の務所の先輩が言うには、wakonia が熱いと言う。あそこにはカジノも何もないだろうに……。そう思っていた矢先に、敵襲に遭う。喧嘩ならば誰にも負けない自信があったが、チャカを突き付けられて、敗北を余儀なくされた。今はどこに居るのかはわからない。

 彼の最も嫌うものが、「○○子」である。人に罪を擦り付けて、誰彼構わず、襲うというスタイルは、半グレの彼には許せなかった。今の渡世は、暴力団法やら規正法やら煩くてかなわん。と言うのが彼の意志である。出所してまじかの半思想家には、合わない世の中になりつつあった。

 白柳隼人は、流れ弾に当たり死んだ……。と言う事にして、中国からアメリカへと渡る。wakonia とは、どんな場所なのか。それが真の関心事であった。しかし、である。ここの遣り方も日本同様、クソであった。女性を閉じ込めて、好き放題する。考え方自体は嫌いではない。集団で動き、自分たちは何もリスクを背負わずに、何かを得るという思考が嫌いであった。

 一方その頃、桜は……。導かれるように集うのであった……。

 乳母車にお産婆のようなお部屋で苦しんでいた。脚を大きく開かされて、大の字で耐える事ほど卑劣なことはない。アウシュビッツのような計らいに悶え苦しむ桜……。この苦難を乗り越えられるのであろうか。

 隼人が、影であれば、桜は、光であった。属性が被らなければ、重なる事はなく、惹かれ合う事もない。ただひとつ類似点があるとするならば、「家が好きである。」という点だけである。しかし、この点も、隼人と桜は、類似点にはならない。お互いに歩んで来た道のりが異なる。隼人が、まだ暗い路地裏に居るとするならば、桜は、スターであった。そして、ふたりはその事をまだ知らない。たがいが互いを受け入れる準備がなければ、呼び覚ますことは困難であった。

 モノカケラ を ……。

 モノカケラとは?月夜の晩に暦が重なり合う。その時、悪魔とダンスを踊る姫が現れるであろう。さすれば全ての呪いが解けて、今までの行いが変わるという。この島、特有の伝説である。

 一番の難点は、お互いを知らない。であった……。隼人は、アイドルなどに興味がなく、桜もまた、刑務所に行くような人に興味はない。これが大きかった。乗り越えなければならない壁はいくつも存在する。

 偽りの神々が嘲弄跋扈する新時代の幕開け。その夜までに、ふたりは出会えるのか……。そして、難関を越えてなお難しいには、ふたりが恋に落ちるというものである。

 絶対に起き得ない奇跡がいくつも重なり合う。奇跡とは、起きないから奇跡なのではない。無理難題を超えてなお、不可能が可能になるから奇跡なのである。そんな事は起こり得ない。二人が出会っても恋には絶対にならない。と思われた。

 しかし、ふたりは難なく出会うことになる……。

 「おっ!広い所に出たな……。」『来ないでください……。』

 びっくりしたー!なんであの女、お股お広げて「おっぴろげて」寝てるんだ?果たして女なのだろうか!?全身整形した?実は男……だったりして……。

 そんでもって今は整形が終わったばかりなのかも知れないな。知らないで通ろう。馬鹿につける薬はねえって言うもんなー。

 隼人が桜を見ずに、この部屋を抜けようとすると、『ちょっと待ってくださいー!』馬鹿がなんかいってらー……。ムシムシコロコロキンチョール……。『ちょっと待ってー……!!』

 『テメー!ちょっと待て……。不細工な顔しやがって……。』

 「挑発ならもう少しましなもんにしな!あんだってー!!」

 『オメーだよ!オメー!他に誰かいるかよ。クソボケかぼちゃが。』

 「このクソ、餓鬼!!」

 顔を拝んでやる。お前の母ちゃんでべそって言ってやるんだから……。泣かしてくれる。ぜってー殺す!!

 妊婦台を飛び越えるようにジャンプをすると桜のデジャブを破壊した……。既視感が破壊され妄想が解けた。桜はブーストを得た。

 『助けてください……。』

 「……。」

 ポッ……。うそだろー……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

メロウ+さんのメロメロメロウ

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:306pt お気に入り:7

何を優先にするべきか、よく考えた方がいい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,903pt お気に入り:35

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:3,287pt お気に入り:4,236

パーティー追放されました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

処理中です...