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たられば9

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 子供たちの、呼吸つまりは喘鳴が聞こえると言ったときに、たいていの人々は、無神論者であっても、何らかのパワーに縋ろうとした。その心を聞くと、怖いのだという。何も起きてはいないのに、怖いとはどのような感情が左右するのだろうか。まるでドアがひとりでに開くような恐怖なのか。目の眼球の周囲が痙攣するような怖さなのか。人間は、生きている限りは、何かを恐れながら生活している。それはまるで、囚われの身ではないものが、何かに囚われ始めて、それが初期症状なのか、その中間なのかにかかわらず、恐怖を感じるということである。この恐怖とは何なのであろうか?何かに怯えはじめた人間とは、決まって、うわごとのように話したがる。話すことが悪いわけではない。感情を押し出さなければ、精神が不順に陥り、破壊される。壊れた心は戻らない。

 幸福であった時代が必ず人間にはある。物語とは、紡ぐ権利を有しているかのようである。人により通常とは、異なるものであり、その生活様式も同じ人間は、一人もいないといってよい。薬剤提供の場合は、ただ例が似ていたり、過去に似た例証に沿って薬が出される。この世にピアノが弾けるようになる薬は存在しない。天才になるための薬剤は、存在しないのである。唯一、救いなのは、多くの人たちが言うように、何らかのパワーが働くのを待つばかりとなる。それは時に、時間の経過であり、時として、薬剤投与も一環として行われてきた。

 先に述べたように、完治する薬は存在しない。緩やかに下降するかのように、病気を緩和するだけである。風邪ですらも完治はしない。完治させているのは、人間の意志だからである。時々不安に思う時、人間とは、不安を絶望に変えることができる生き物である。初めから底にいたわけではない。どん底とは、人間が作り出した迷宮なのである。迷宮とは、心の中の迷いに他ならない。その奈落とも呼ぶべき逸材が、大きいのか、小さいのかの差である。

 多くの人々が用いるツールとは、薬剤に等しく同じであり、ツールにには完璧は存在しない。必ずデメリットが存在する。メリットの裏側には、必ず、使いやすければ、容易いほどに、裏が存在する。コインに表と裏があるように……。

 人間の心理もこれらの薬剤やツールと同じ扱いができた。表と裏しかない。複雑怪奇に連なり合う、表と裏には、さまざまな症状が見られたが、どれもこれも、理解できないものは存在しなかった。話を聞けば、そんな単純なことなのかと思える瞬間がある。当人にとっては、一生の問題だが、一生完治しない病などは、山のようにある。その中の一つとして、風邪を例としてあげた。馬鹿だから、風邪にかからないというのは、間違っていると思う。どんな間抜けでも、風邪にはかかる。生きとしいけるものがみな、同じであり得ないように、私生活の仕方が、それぞれ異なる。その生活様式にあわせた、対処方法が並ぶだけである。人は自分で選んでいるようだが、ようは数少ない対処療法から選ばされているのである。

 生命もその一つであり、生きるのか、死ぬのかですらも、自分で選んでいるわけではない。他人に生かされているのである。最も典型的な例をあげようか。自分で生きているという人々の多くが、他人の力で成功したことを認めたがらなかった。例えるならば、社員がいなかったら大企業にはなりえない。または、私は独学で成功したという人ですらも、先見の明の知識が勝ったゆえに、独学でといえるのである。誰の知識も得ないで成功できたものを一人も知りえなかった。ひとりもである……。
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