【完結】疎開生活のような物語 仮想空間のような生活 共有する スペース 部屋というには手狭な 物語

すずりはさくらの本棚

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繰り返される過ち

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 緊急連絡先へと一報がはいる。「お前は、何も理解していない。」という文章だった。体から一気に血の気を抜かれた思いだ。コノ文章を見たときには、おおよその見当がついていた。安心とやすらげる王国を目指していたのに、また子供たちのホスピタルを目指してしまった。友人からの一報は、このように続く。「子供たちは、お前が好きなんだ。子供の気持ちを蔑(ないがし)ろにするな。」わたくしは叫んだ。『どうしろって、ゆうんじゃい!』中途半端な愛というカタチを成さない、学術研究という名ばかりの愛し方。しかし、その愛という無造作に置かれた代物には、本質が無い。ただ、「ありがとう」がいいたくて、はじめた託児所的な児童保護。そこに愛はあるのかと問われれば、世間体を気にした黒い何か。教育方針とは、安心ややすらぎとは、ほど遠い位置に根差したただの活動過多な劣等感の塊が世間という風に揺れていた。

 湿っぽさを感じさせる空間は苦手だ。これまでは、子供たちのためにと思って動いてきたが、所詮はそれらは、世間体を気にした名ばかりの罅(ひび)の入った陶器であった。外へと出ると熱気と共に茹(う)だるような暑さが、燦々と輝き、直射日光を対面から受けた人柱が、影となって棒のように延びた。「暑い……。」もうすぐ夏がやってくると言うのに、ジャケットはクタクタに寂れており、夏ぼこりとでもいうのだろうか。太陽に打たれてアスファルトが照り輝き、熱せられて、躍動するかのようである。

 五月雨の季節とは、紆余曲折を経て、辿り着いたのが、人間の欲(よく)という結末であった。どんだけ、綺麗ごとを言っても、金の上に守銭奴(しゅせんど)のように胡坐(あぐら)をかいていることに変わりはない。誰も儲けてはダメだとはいっていない。わたくしは弱音を吐いた。「だからイヤなんだよ……。相手がいる職業は……。」

 コノ言葉は、自らが築いている物事への裏切りだと知っていた。何もかもがバカらしく思えてならない。人生の岐路に立ったとき、そう思えるときは必ずある。それが、生き様だろうと職業であろうと自らを否定したくなる時があるのだ。築いて来たすべてを倒壊(とうかい)させるのは簡単である。その場逃れの虚偽を自分について、その虚偽の上に自分をダマクラかし、自分が正義だと思えば、それはそれは立派な一夜城の誕生となる。虚偽の上に嘘も方便と言い放ち、自分を落とし込むのである。気分はその日限りで、明日(あす)の保証はまったくない。整列した美しくはないが、チンピで貧相な今の自分から逃れるのか、それとも、今後にソレを生かすのか。今は囲碁で言うならば黒や白の石の死に目だろう。しかし、一筋の光はある。それが人生と言うものである。

 九死に一生を得るとは、このような死に目に瀕(ひん)した時に、どれだけ頑張れるかが問題となる。子供のためにと思ってしたことや教育をきちんと与えたいと思ってはならないことが痛烈な批判となって自らを苛(さいな)んだ瞬間であった。自分が食べてゆくためにも、子供たちが食べてゆくためにも、ビジネスは必要となる。それを否定するものはいないだろう。しかし、大切なものが見えなくなってしまうのは、世の常である。こうして失われた信用と言う問題に対して、以前の自分であれば、逃げるか、距離を置いただろう。そんなことは何の解決にもならないことを知りながら……。

 いまは、大切な時期である。子供と教育。そして、今後の行く末をどうするのか。人は立場により自らの行くべき道を「生(せい)」とも「死(し)」とも言えるだろう。それは与えられた役職や与えられている権限による。通常は、そのような権限が一般の会社員には与えられてはいない。権限とは、役職や地位や名誉そして、財により異なるが、多くの大人たちは、それらを有していても、多くの過ちを起こして、それらの権限を見失う。そして逃れ出た矢先に待っているものは、離婚と破局である。ビジネスにおいて感性とは非常に重要となる。自分がピラミッドのどこに属しているのかで、その生死は決まる。ようやく納得すると、子供たちのいる場所へと帰宅した。

 そこで目にしたものは、教育者に対して怯え、一方では抗議を唱えるかのように無視を決め込む子供たちの姿であった。大人とは無力だ……。この時感じた無力感は、一生忘れないであろう。子供たちにより良き未来を、より良き教育を与えたいと思ったのは傲慢極まりなかったようである。この子供たちは、その場所から逃れ出たものたちだったからである。教育とは……。子供の未来を形作ろうとしたこの子供たちのご両親の苦労を改めて垣間見た瞬間であったのだ。携帯を弄(いじ)くりながら、我侭(わがまま)な駄々っ子のように唇を尖らしていた。そこには不満の二文字が咲いていた。

 わたくしは静に教室内へと入ると、子供たちは不平不満の声に満ちた顔をした。「ごめん……。」と謝罪すると、「いいよ……。許してあげる……。」と小声で応えると、わたくしは子供たちと共に嘆いた。迷いでた子羊は、わたくしの方だったのである。子供たちの幸福だけを願うならば、教育現場から逃れてきた子供に対して、教育を施そうとは思わないだろう。それは暴力となるからである。こうして、何度目かの釈明を求められては、許されてを繰り返しながら、子供の親としての意識が徐々に芽生え始めていたのであった。
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