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開錠

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 もしも我々が生きているのがSでもなくTでもなく

 Nでもないならば我々はどこへ向かっているのだろうか?

 我々人間が個体つまりは点ではないならば

 人間とは線なのかも知れない

 マルチバースはすべての可能性がある宇宙

 わたしは、このマルチバースの理論をこよなく愛した

 人生をすべて塗り替えてくれる存在

 マルチバースに部屋はあるのか?

 答えは、No Way Home. (ノー・ウェイ・ホーム)

 「帰る場所は無い」

 わたしの頭の中を支配したノーウェイホームの言葉と意味

 あなたには、行く場所も帰る場所も無いのよ

 こればかりは、回答としては、人生で一番応えた解だと思う

 そうか・・・・・・わたしには、とっくに家が無いのか

 無限連鎖のように積もる思いと涙・・・・・・

 これまでの我慢と穢い肉欲への憎しみと嘔吐

 穢れきった肉体と悲しみは、ただ、ただ、嘔吐へと向かう

 なんだか、センチメンタルではないが、理屈が屁理屈になった瞬間だ

 法的処置の結果、児童相談所から孤児院へと移送になった

 そして、襲ったのが三密だ・・・・・・

 人宮じんぐうへと来ることになった経緯だが、ラビリンスと訳したい

 迷宮とも言えるかも知れない・・・・・・

 No Way Home. とは、行き場所をなくした者たちの辿り着く場所

 Lost Their Way. (ロスト・ゼア・ウェイ)「道に迷った」からつけられた

 わたしの場合は、「I wanna get lost.」(迷子になりたい)になるのだが

 開錠は、成功した そして、わたしはここにいる

 マルチバースは存在した 存在の否定こそが、理論上存在しない部屋へと

 入るための鍵だったのだ そこに居場所があったと言えるだろう

 こうして、すべてが可能な宇宙は開錠されて、その身に宿したプラネットは

 露になった 露出したと訳されるだろう

 学生生活を頓挫とんざした、わたしの居場所となり

 ダークマター「正体不明」のローブに包み込まれた

 わたしたちは、ここで、死線に彷徨うこととなる・・・・・・

 人間は点であると唱えたわたしの理論は、間違いなく、結ばれることは無い

 物理法則上は、点と点が線になることは無い

 人間が個体であるならば、それは点だからである

 しかし、それが移動したならば、個体ではいられないだろう

 点と点はいずれは、線となるかも知れない

 移動しないものは、勝手に朽ち果てるのみである

 生きることに飢え渇き、生命を渇望するもののみが、

 希望を捉えることが出来るだろう

 
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