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15 想定外の待ち伏せ
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公園のベンチで、力なく物思いに耽っていた僕は、ふと、喉の渇きを覚え、自動販売機に目を向けた。
アイスコーヒーで喉を潤し、溜息を吐く。
思いがけない成り行きで自分の気持ちを彼女に伝えてしまった。
情けない嘗ての自分まで曝け出して……
だけど、不思議なほど、後悔はなかった。
ただ、もう少しだけ
許されるなら、桃ちゃんを感じていたい。
焦がれるような、この想いに、身を任せていたい。
そんな身勝手な未練で、僕は彼女の答えを先延ばしにする卑怯な男だと自嘲する。
ベンチを探そうと園内に目をやった時、背後になにやら気配を感じて振り返った。木の影からこちらを覗くのは、制服を着た女の子?
「え……?君は…… 」
突然の事に、僕は目を瞬かせた。
そこには、少し前まで、一之瀬の隣で怯えるように僕を見ていた凛子と言われる一之瀬の彼女がいたからだ。
彼女は自分を守るように鞄をギュッと抱きしめ、怯えるようにして立っていた。
固まったように立ち尽くしているのに、彼女の鞄にぶら下がっている白いくまのキーホルダーだけが、ブラブラと空気を読まずに揺れている。
(なんだ…?)
まるで恐ろしいものを見るかのように、こちらを見つめて何も言わない彼女。そんな小動物みたいな彼女に、僕はどうしていいか分からなくて、ありきたりな声をかけた。
「え~と、たしか、凛子ちゃん、だったよね?…一人なの?」
彼女は、硬直したまま、頼りなげな様子で小さく頷いた。一緒に揺れる柔らかそうな淡い色の猫っ毛。
「僕に…、なにか用?」
そう躊躇って問いかけると、彼女は目を見開いて硬直したまま、また小さく頷いた。
(何なんだろう… この状況は?)
違和感しか感じない彼女の様子に、僕はどうしていいのか分からずに、とりあえず、ベンチを指差して笑ってみた。
「話、あるの?だったら、……座る?」
僕がそう言うと、彼女はビクッとしてベンチを凝視して引き攣った。だが、そのまま返事はない。
(なんなんだ……?)
そのまま、眉間に皺を寄せてしばらく何か考えるようにしていた彼女は、かなりの間を置いた後、思い切ったようにコクリと頷いた。
(これって、座るって事でいいんだよね?)
僕は、自分に向けられた初めての女の子の態度に戸惑った。自分は決して、一之瀬のような強面ではないし、厳つい体つきでもない。
だから、女の子に怯えられるような事は今までに無かった。
それなのに彼女はまるで、恐ろしい者を目の前にしたかのように、緊張しているようだった。
自分からやってきたにしては、額に汗を浮かべて、顔と肩は見事に硬直し、手は小刻みに震えていて、カチンコチンになって引き攣っている。
「きっ、君… 大丈夫?? どこか、調子でも悪いんじゃ…?無理はしないでいいんだよ?」
彼女の様子があまりに不自然で、僕は彼女の体を気遣いそう言ったが、彼女は一瞬肩をピクンと震わせて、また小さく首を横に振った。
「だ・だ・だ… 大丈夫…で…す。」
(しゃべった…)
彼女は僕にではなく、自分に言い聞かせるようにそう小さく呟いたが、見ている限り、全く大丈夫そうではない。僕はただ躊躇いながら頷いた。
(僕に緊張しているのか?それともさっきのが別れ話だとしたら、そのショックなのか?…でも、そうだとしたら、何だってまた、僕のところに…?)
「そ…そう? 辛くなったら言ってね。…で、僕に、何か、話があるのかな? 」
そう問いかけると、彼女はまたも少し間を置いて小さく頷いた。
「あ…あ…あの… も…桃子さんと…つ…付き合ってるって…ほ、本当ですか…?」
「え……?」
彼女は泣き腫らした顔で、僕を真剣に見つめてそう問いかけた。その真っ直ぐな穢れのない瞳の前で、僕は、完全に固まった。
「い、いや…」
(なるほど、そうきたか…)
まるで自分の嘘を見透かされているかのような澄んだ瞳だった。僕は、彼女の目を真っ直ぐに受け止めることができなくて、咄嗟に彼女から目を反らした。
「そ…そうだけど、何で、そんな事をきくのかな?」
僕は、そう言って精一杯に冷笑の仮面を被り、取り繕うように彼女に言った。
「な…な…なんで、う…嘘を吐くんですか? 皆…どうして、ですか…? 」
悲しそうに顔を歪めた彼女は、そのまま俯いた。
「え… 嘘? 誰が…? 」
俺の問いに、彼女は、顔をクシャッと歪めた。
「たっくんも、も…桃子さんも、あ、あなたも… ど、どうして… 嘘を、…本当にしようって…するん、ですか?」
「へ…?」
「う、嘘は、やっぱり、嘘に、しなきゃ、じゃないと、み…みんな、辛そうなのに… わ・わ・わたし…私の、せいですか? 」
「えっ、ちょ……」
「わ・わ・わ…わたし、やっぱり凄く、め…迷惑、ですよね… 」
そう言った瞬間、彼女の大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
(え……?)
「ちょ、ちょっと待って…」
「こ…こ… こんな自分、わ、わたしだって、やっぱり嫌で… わ・わ・私なんか、いっそ、いなければ… わ・わ…」
(え!?…何だ… 一体なんだこの展開は… )
僕は、突然のことに動揺を隠しきれないで、彼女に手を伸ばした。だけど、その手が彼女の指先に触れた瞬間、彼女は、目を見開いて、後ずさりするように僕から、距離をあけ、そのまま苦しそうに喉を押えた。
(え!?… え? え? えええぇぇ!??? )
もはや驚愕するしかなかった。
パクパクと金魚のように口を開けて、眉間に皺を寄せた彼女は、咽るように咳き込み、ますます苦しそうに眉間の皺を深めてその場に崩れ落ちた。
「え?… ちょっと、大丈夫… ねぇ??」
苦しそうに、眉を寄せて何も喋れない彼女を上から見つめて僕は、事は緊急だと悟った。
「ちょ…ちょっと待ってね!?今すぐ救急車を呼ぶからね!」
そうして僕は、直ぐにスマホから救急車を呼んだ。
そのまま、居た堪れない気持ちで、一之瀬の彼女である凛子ちゃんの背中を膝をついて摩り続けた。
「大丈夫?深く、息して… 大丈夫? あぁ、どうしよう…僕、何かできる?出来る事ある?? あぁ… まだ来ないのかよ… 救急車…クソっ… 」
パニック状態の僕達には永遠にも感じるくらいに長かったが、救急車は実際は10分くらいで到着したのだろう。
「凛子ちゃん、もうすぐだからね…」
その間、僕は、彼女を励ますように、その背中を擦り続ける事しか出来なかった。
彼女は苦しそうに、涙を浮かべ、はぁはぁと不規則な息をしながら、小さな体で耐えていた。
なのに時々「ごめん、なさい…わ、わたし…」と悲しそうに僕を見つめていた。
救急車が到着した時、僕は有無を言わせず一緒に救急車に押し込められた。
だけど、何をしてやることもできない僕は、彼女の汗で濡れた額から汗を拭い、励ますように言葉をかけ、彼女の頬を撫で付けた。
「凛子ちゃん、大丈夫だよ?救急車きたからね、もうすぐ、病院だからね?」
救急隊員は、彼女の様子に眉を寄せた後、彼女の口に途中でなにか器具を押し当てた。
彼女は、それでも何度も苦しそうに息を繰り返し、やがてしばらく経ったころ、徐々に呼吸が戻り、そのまま意識を手放した。
「だ… 大丈夫ですよね…?」
そう恐る恐る問いかけた僕に、隊員の人は急がしそうにしながらも短く答えてくれた。
「あぁ…きっと“過呼吸”だろうね… 精神的に追い詰められたかな… そういう持病は、聞いてた?」
僕はその言葉に眉を寄せて首を横に振った。
「いいえ… 」
救急隊員は、小さく微笑んだ。
「そう… 」
それ以上は、語るべきではないと判断したのか、彼らは何も言わなかった。
僕も、深く立ち入ってはいけないことのような気がして、黙っていた。
彼女の汗にまみれた顔がとても苦しそうだった。
切なげに眉間に皺に寄せて苦しみのピークは過ぎ去ったとは言え、苦しさに耐えるような寝顔が痛々しかった。
そんな彼女は、苦しげに、眉を寄せた後、寝言のように一言呟いた。
「たっくん… ごめん… ごめんね… 」
そして、目尻から一粒の涙が毀れた。
僕は、その涙を親指で拭って、彼女の痛々しい寝顔を覗き込んだ。
(君は…一体、何にそんなに心を痛めているんだ…? )
病院にたどり着いた彼女は、様々な検査を受けるために処置室に運び込まれていった。
僕は、どうしていいのか判らずに、待合で彼女を待ち続けた。
アイスコーヒーで喉を潤し、溜息を吐く。
思いがけない成り行きで自分の気持ちを彼女に伝えてしまった。
情けない嘗ての自分まで曝け出して……
だけど、不思議なほど、後悔はなかった。
ただ、もう少しだけ
許されるなら、桃ちゃんを感じていたい。
焦がれるような、この想いに、身を任せていたい。
そんな身勝手な未練で、僕は彼女の答えを先延ばしにする卑怯な男だと自嘲する。
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彼女は自分を守るように鞄をギュッと抱きしめ、怯えるようにして立っていた。
固まったように立ち尽くしているのに、彼女の鞄にぶら下がっている白いくまのキーホルダーだけが、ブラブラと空気を読まずに揺れている。
(なんだ…?)
まるで恐ろしいものを見るかのように、こちらを見つめて何も言わない彼女。そんな小動物みたいな彼女に、僕はどうしていいか分からなくて、ありきたりな声をかけた。
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彼女は、硬直したまま、頼りなげな様子で小さく頷いた。一緒に揺れる柔らかそうな淡い色の猫っ毛。
「僕に…、なにか用?」
そう躊躇って問いかけると、彼女は目を見開いて硬直したまま、また小さく頷いた。
(何なんだろう… この状況は?)
違和感しか感じない彼女の様子に、僕はどうしていいのか分からずに、とりあえず、ベンチを指差して笑ってみた。
「話、あるの?だったら、……座る?」
僕がそう言うと、彼女はビクッとしてベンチを凝視して引き攣った。だが、そのまま返事はない。
(なんなんだ……?)
そのまま、眉間に皺を寄せてしばらく何か考えるようにしていた彼女は、かなりの間を置いた後、思い切ったようにコクリと頷いた。
(これって、座るって事でいいんだよね?)
僕は、自分に向けられた初めての女の子の態度に戸惑った。自分は決して、一之瀬のような強面ではないし、厳つい体つきでもない。
だから、女の子に怯えられるような事は今までに無かった。
それなのに彼女はまるで、恐ろしい者を目の前にしたかのように、緊張しているようだった。
自分からやってきたにしては、額に汗を浮かべて、顔と肩は見事に硬直し、手は小刻みに震えていて、カチンコチンになって引き攣っている。
「きっ、君… 大丈夫?? どこか、調子でも悪いんじゃ…?無理はしないでいいんだよ?」
彼女の様子があまりに不自然で、僕は彼女の体を気遣いそう言ったが、彼女は一瞬肩をピクンと震わせて、また小さく首を横に振った。
「だ・だ・だ… 大丈夫…で…す。」
(しゃべった…)
彼女は僕にではなく、自分に言い聞かせるようにそう小さく呟いたが、見ている限り、全く大丈夫そうではない。僕はただ躊躇いながら頷いた。
(僕に緊張しているのか?それともさっきのが別れ話だとしたら、そのショックなのか?…でも、そうだとしたら、何だってまた、僕のところに…?)
「そ…そう? 辛くなったら言ってね。…で、僕に、何か、話があるのかな? 」
そう問いかけると、彼女はまたも少し間を置いて小さく頷いた。
「あ…あ…あの… も…桃子さんと…つ…付き合ってるって…ほ、本当ですか…?」
「え……?」
彼女は泣き腫らした顔で、僕を真剣に見つめてそう問いかけた。その真っ直ぐな穢れのない瞳の前で、僕は、完全に固まった。
「い、いや…」
(なるほど、そうきたか…)
まるで自分の嘘を見透かされているかのような澄んだ瞳だった。僕は、彼女の目を真っ直ぐに受け止めることができなくて、咄嗟に彼女から目を反らした。
「そ…そうだけど、何で、そんな事をきくのかな?」
僕は、そう言って精一杯に冷笑の仮面を被り、取り繕うように彼女に言った。
「な…な…なんで、う…嘘を吐くんですか? 皆…どうして、ですか…? 」
悲しそうに顔を歪めた彼女は、そのまま俯いた。
「え… 嘘? 誰が…? 」
俺の問いに、彼女は、顔をクシャッと歪めた。
「たっくんも、も…桃子さんも、あ、あなたも… ど、どうして… 嘘を、…本当にしようって…するん、ですか?」
「へ…?」
「う、嘘は、やっぱり、嘘に、しなきゃ、じゃないと、み…みんな、辛そうなのに… わ・わ・わたし…私の、せいですか? 」
「えっ、ちょ……」
「わ・わ・わ…わたし、やっぱり凄く、め…迷惑、ですよね… 」
そう言った瞬間、彼女の大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
(え……?)
「ちょ、ちょっと待って…」
「こ…こ… こんな自分、わ、わたしだって、やっぱり嫌で… わ・わ・私なんか、いっそ、いなければ… わ・わ…」
(え!?…何だ… 一体なんだこの展開は… )
僕は、突然のことに動揺を隠しきれないで、彼女に手を伸ばした。だけど、その手が彼女の指先に触れた瞬間、彼女は、目を見開いて、後ずさりするように僕から、距離をあけ、そのまま苦しそうに喉を押えた。
(え!?… え? え? えええぇぇ!??? )
もはや驚愕するしかなかった。
パクパクと金魚のように口を開けて、眉間に皺を寄せた彼女は、咽るように咳き込み、ますます苦しそうに眉間の皺を深めてその場に崩れ落ちた。
「え?… ちょっと、大丈夫… ねぇ??」
苦しそうに、眉を寄せて何も喋れない彼女を上から見つめて僕は、事は緊急だと悟った。
「ちょ…ちょっと待ってね!?今すぐ救急車を呼ぶからね!」
そうして僕は、直ぐにスマホから救急車を呼んだ。
そのまま、居た堪れない気持ちで、一之瀬の彼女である凛子ちゃんの背中を膝をついて摩り続けた。
「大丈夫?深く、息して… 大丈夫? あぁ、どうしよう…僕、何かできる?出来る事ある?? あぁ… まだ来ないのかよ… 救急車…クソっ… 」
パニック状態の僕達には永遠にも感じるくらいに長かったが、救急車は実際は10分くらいで到着したのだろう。
「凛子ちゃん、もうすぐだからね…」
その間、僕は、彼女を励ますように、その背中を擦り続ける事しか出来なかった。
彼女は苦しそうに、涙を浮かべ、はぁはぁと不規則な息をしながら、小さな体で耐えていた。
なのに時々「ごめん、なさい…わ、わたし…」と悲しそうに僕を見つめていた。
救急車が到着した時、僕は有無を言わせず一緒に救急車に押し込められた。
だけど、何をしてやることもできない僕は、彼女の汗で濡れた額から汗を拭い、励ますように言葉をかけ、彼女の頬を撫で付けた。
「凛子ちゃん、大丈夫だよ?救急車きたからね、もうすぐ、病院だからね?」
救急隊員は、彼女の様子に眉を寄せた後、彼女の口に途中でなにか器具を押し当てた。
彼女は、それでも何度も苦しそうに息を繰り返し、やがてしばらく経ったころ、徐々に呼吸が戻り、そのまま意識を手放した。
「だ… 大丈夫ですよね…?」
そう恐る恐る問いかけた僕に、隊員の人は急がしそうにしながらも短く答えてくれた。
「あぁ…きっと“過呼吸”だろうね… 精神的に追い詰められたかな… そういう持病は、聞いてた?」
僕はその言葉に眉を寄せて首を横に振った。
「いいえ… 」
救急隊員は、小さく微笑んだ。
「そう… 」
それ以上は、語るべきではないと判断したのか、彼らは何も言わなかった。
僕も、深く立ち入ってはいけないことのような気がして、黙っていた。
彼女の汗にまみれた顔がとても苦しそうだった。
切なげに眉間に皺に寄せて苦しみのピークは過ぎ去ったとは言え、苦しさに耐えるような寝顔が痛々しかった。
そんな彼女は、苦しげに、眉を寄せた後、寝言のように一言呟いた。
「たっくん… ごめん… ごめんね… 」
そして、目尻から一粒の涙が毀れた。
僕は、その涙を親指で拭って、彼女の痛々しい寝顔を覗き込んだ。
(君は…一体、何にそんなに心を痛めているんだ…? )
病院にたどり着いた彼女は、様々な検査を受けるために処置室に運び込まれていった。
僕は、どうしていいのか判らずに、待合で彼女を待ち続けた。
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