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あんた俺が好きなんですよ!
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「総務部の莉子先輩……?」
そう引き攣った顔で発する言葉に頷く泉。
「…スっ」
「………………」
絶句したまま声が出なかった。
「それって、…トイレの花子さん、的な?」
(気味悪がられてたのかな、やっぱり私…)
「ちょっと違いますね、まぁ強いて言えば」
そう言って考える泉。
「あー、…そうっすね、どちらかと言うと旧旅館の座敷童ってほうが…」
その言葉に目を瞬かせる。
「ざ、座敷わらし?」
「あー、でもちょっと違うかな?うーん見れたらラッキー的な黄色い車とか?」
「車…?」
(しかも、ラッキーなの私?でも人ですらないし…)
「やっ、でもやっぱり、そんな複数頻出なんじゃなくて、えっと、小さいオッさんなんかは、うーん、やっぱちょっとちがうか」
小さいオッさんと言う言葉に目を見開いた瞬間、泉がポンと手を叩いた。
「あっ、ビリケンさん!」
「はっ…い…?」
もはや固まるしかない。
「うん、イメージ近いかもしれないっす。いつもみんなの影から笑いながら様子を伺うビリケンさんスマイル!」
「ビリケン……?」
ウンウンと頷く泉に全く頷けない。
(ビリケンさんってあれだよね?
大阪の串カツの店とかでよくみるあれ。あれってキャラだっけ、神さまかなんかだっけ?)
「まっ、それは例えるならばって事で、会社の奴らにとっちゃもう、莉子先輩は莉子先輩。愛すべき総務部の莉子先輩っす!」
意味が分からず固まる私に、泉は意味深に意地悪な笑みを作った。
「まぁ、俺にとってはそれだけじゃないっすけど…」
「…………」
☆
泉の話はこうだった。
どうも、私は学校の七不思議ならぬ、会社の不思議人と言われる存在になっていたようだ。
しかも…
処女を拗らせて、魔法使いになった【総務部の莉子先輩】
これが30を前にした私の実に不名誉な一般認識だったようなのだ。
しかも何故か、私は処女故に不思議な魔力を持っていて、会社や個人に幸せをもたらす《お守りキャラ的》な存在とされていたと言う。
マスコットにしようと言う話まで上がったとか上がらなかったとか…。
(なにがどうしてそうなった…?)
それは泉の話を総合すると、私が密かに妄想のネタを探して会社をチョロチョロしているうちに副産物として生成された多くの飛躍や、恋の成就が噂となり、実績を積み重ねた結果だと言う。
振り返って私と目が合い微笑まれたら恋が成就するとか、部署移動の時背中押された人はその部署で出世するとか…。私が入れたお茶に茶っ葉が混ざってたら、商談が上手くいくとか。
特に会社から注目されたジンクスは、私に一年目の新入社員を預けたら、三年間での離職率が大幅ダウンすると言うものだったようだ。
(それで、新人研修…?そう言えば何度か大きな商談の前に重役会議に名指しでお茶を持ってかされたような…)
まさか
あれって…?
いやいや、まさかね…
平安時代の政治じゃあるまいし…
そんなあり得ない予感に茫然とするわたしは、首筋に滑るなにかを感じてピクンと体を震わせた。
(えっ……?)
思わぬ真実に動揺していた私は、今、泉に抱き込まれている状態である事すら頭から抜けていた。
「……この話はここまでです」
そう言って体制を変えて後ろから泉に抱き込まれる。
そして覗き込まれるように抱きしめられた。
「ちょ、待って泉…まだっ…」
話は終わってないと言おうとしたその瞬間チリっとした痛みを鎖骨に感じた。
「いたっ…」
恨みがましく泉を見つめると、それ以上の瞳で私を見据える泉の瞳に捕らえられた。
「ねぇ、あいつと、……したの?」
「へっ…?」
突然耳元でそう問われて固まる。
そしてさっきまでの翔との淫らな光景が蘇り顔に熱が集まり眉を寄せて俯いた。
「………」
「………したの?」
再びの問いかけ。
いつもより低く暗い声の後、続く沈黙。
無言の圧力ってこんな感じだろうかと思うほど空気が重い。
「………、し、してない。最後までは…」
その重さに耐えきれず辛うじてそう答えた。
「っ…、最後までって…」
その瞬間、泉の顔はどす暗く歪んだ。
「どこまで……?どこまでアイツに許したんですか?」
「泉……?」
その剣幕に目を見開く。
「ちょろ過ぎるでしょ?莉子先輩。あんたほんと馬鹿なんですか?」
「なっ、そんな事言ったって…」
(だって、一瞬だけあの誘惑に勝てなかったんだもん。)
心の中で言い訳するのに、何故か泉にそう言える雰囲気ではない。
「昔の男だからって…、なんなんですか?」
「泉?…怒らないでよ!」
「怒るでしょ、普通!」
もはや何が何だか分からない中で、詰られて涙目の私を睨みつけた泉は舌打ちした。
「そんな顔したって許しません…」
「えっ…」
「絶対、俺、…許しませんから」
「な、なんで?泉には…」
その瞬間、肩を掴まれてベッドに倒された。
そのまま泉に両肩を挟まれる形で詰め寄られる。
でもその体制より、その切なげな瞳から逃げられなかった。
「関係ないって、…そう言うんですか?」
そう真剣に見つめられて、心臓がはねる。
「本当に…?」
そう言われて、胸が今までになく騒めく。
頷こうとするのに頷けない。
なんで…
なんで…
「言えないでしょ?…莉子先輩、関係ないなんて」
「………」
頷けないなくて眉を寄せて泉を見つめる。
「…なんでか俺、分かりますよ」
「……?」
その言葉と瞳に背中がゾクってした。
「だって、あんた、…俺のこと好きですもん」
「…?、、!…違っ…」
その瞬間、泉の唇で否定の言葉は堰きとめられた。
割入れられた泉の舌が、私の舌を絡みとり口内を蹂躙する、どれくらい時が経ったのだろう蕩けた様に身体の力が抜けた。
私の後頭部を支えていた泉の大きな手の平の力が優しく緩められ、名残惜しげに私の濡れた唇を親指の先で
拭う。そんな見たことのない泉の表情を真っ白な頭でみつめる。
「ほら、……拒めないでしょそんな顔して、…ねっ、言った通りでしょ?…あんた俺のこと好きなんですよ」
「っ……」
「そうなんですよ……」
「誰よりも俺が可愛くて、誰よりも心配で放っておけなくて、そして誰といるよりも楽でしょ?」
否定できずに固まる私に、自嘲するように泉は言った。
「他の奴には存在するパーソナルスペースだって、俺にだけはない…」
(た、たしかに…)
「認めてください。莉子先輩は、俺が好きなんです」
「………」
「…だって、そうなるように、俺、努力しましたもん」
そう言った泉は獰猛にすら感じる瞳で私を見つめた。
真を問うような有無を言わさない瞳に囚われたようにゾクリとした痺れが身体を走る。
「ねぇ、莉子先輩、おれ、待てができるいい犬だったでしょ?」
「従順だったでしょ?…あんたにだけは…」
「泉…?」
「でも、そうじゃなくしたのは、…莉子先輩ですから、もう引き返せませんから、あきらめて俺のものになってください」
そう引き攣った顔で発する言葉に頷く泉。
「…スっ」
「………………」
絶句したまま声が出なかった。
「それって、…トイレの花子さん、的な?」
(気味悪がられてたのかな、やっぱり私…)
「ちょっと違いますね、まぁ強いて言えば」
そう言って考える泉。
「あー、…そうっすね、どちらかと言うと旧旅館の座敷童ってほうが…」
その言葉に目を瞬かせる。
「ざ、座敷わらし?」
「あー、でもちょっと違うかな?うーん見れたらラッキー的な黄色い車とか?」
「車…?」
(しかも、ラッキーなの私?でも人ですらないし…)
「やっ、でもやっぱり、そんな複数頻出なんじゃなくて、えっと、小さいオッさんなんかは、うーん、やっぱちょっとちがうか」
小さいオッさんと言う言葉に目を見開いた瞬間、泉がポンと手を叩いた。
「あっ、ビリケンさん!」
「はっ…い…?」
もはや固まるしかない。
「うん、イメージ近いかもしれないっす。いつもみんなの影から笑いながら様子を伺うビリケンさんスマイル!」
「ビリケン……?」
ウンウンと頷く泉に全く頷けない。
(ビリケンさんってあれだよね?
大阪の串カツの店とかでよくみるあれ。あれってキャラだっけ、神さまかなんかだっけ?)
「まっ、それは例えるならばって事で、会社の奴らにとっちゃもう、莉子先輩は莉子先輩。愛すべき総務部の莉子先輩っす!」
意味が分からず固まる私に、泉は意味深に意地悪な笑みを作った。
「まぁ、俺にとってはそれだけじゃないっすけど…」
「…………」
☆
泉の話はこうだった。
どうも、私は学校の七不思議ならぬ、会社の不思議人と言われる存在になっていたようだ。
しかも…
処女を拗らせて、魔法使いになった【総務部の莉子先輩】
これが30を前にした私の実に不名誉な一般認識だったようなのだ。
しかも何故か、私は処女故に不思議な魔力を持っていて、会社や個人に幸せをもたらす《お守りキャラ的》な存在とされていたと言う。
マスコットにしようと言う話まで上がったとか上がらなかったとか…。
(なにがどうしてそうなった…?)
それは泉の話を総合すると、私が密かに妄想のネタを探して会社をチョロチョロしているうちに副産物として生成された多くの飛躍や、恋の成就が噂となり、実績を積み重ねた結果だと言う。
振り返って私と目が合い微笑まれたら恋が成就するとか、部署移動の時背中押された人はその部署で出世するとか…。私が入れたお茶に茶っ葉が混ざってたら、商談が上手くいくとか。
特に会社から注目されたジンクスは、私に一年目の新入社員を預けたら、三年間での離職率が大幅ダウンすると言うものだったようだ。
(それで、新人研修…?そう言えば何度か大きな商談の前に重役会議に名指しでお茶を持ってかされたような…)
まさか
あれって…?
いやいや、まさかね…
平安時代の政治じゃあるまいし…
そんなあり得ない予感に茫然とするわたしは、首筋に滑るなにかを感じてピクンと体を震わせた。
(えっ……?)
思わぬ真実に動揺していた私は、今、泉に抱き込まれている状態である事すら頭から抜けていた。
「……この話はここまでです」
そう言って体制を変えて後ろから泉に抱き込まれる。
そして覗き込まれるように抱きしめられた。
「ちょ、待って泉…まだっ…」
話は終わってないと言おうとしたその瞬間チリっとした痛みを鎖骨に感じた。
「いたっ…」
恨みがましく泉を見つめると、それ以上の瞳で私を見据える泉の瞳に捕らえられた。
「ねぇ、あいつと、……したの?」
「へっ…?」
突然耳元でそう問われて固まる。
そしてさっきまでの翔との淫らな光景が蘇り顔に熱が集まり眉を寄せて俯いた。
「………」
「………したの?」
再びの問いかけ。
いつもより低く暗い声の後、続く沈黙。
無言の圧力ってこんな感じだろうかと思うほど空気が重い。
「………、し、してない。最後までは…」
その重さに耐えきれず辛うじてそう答えた。
「っ…、最後までって…」
その瞬間、泉の顔はどす暗く歪んだ。
「どこまで……?どこまでアイツに許したんですか?」
「泉……?」
その剣幕に目を見開く。
「ちょろ過ぎるでしょ?莉子先輩。あんたほんと馬鹿なんですか?」
「なっ、そんな事言ったって…」
(だって、一瞬だけあの誘惑に勝てなかったんだもん。)
心の中で言い訳するのに、何故か泉にそう言える雰囲気ではない。
「昔の男だからって…、なんなんですか?」
「泉?…怒らないでよ!」
「怒るでしょ、普通!」
もはや何が何だか分からない中で、詰られて涙目の私を睨みつけた泉は舌打ちした。
「そんな顔したって許しません…」
「えっ…」
「絶対、俺、…許しませんから」
「な、なんで?泉には…」
その瞬間、肩を掴まれてベッドに倒された。
そのまま泉に両肩を挟まれる形で詰め寄られる。
でもその体制より、その切なげな瞳から逃げられなかった。
「関係ないって、…そう言うんですか?」
そう真剣に見つめられて、心臓がはねる。
「本当に…?」
そう言われて、胸が今までになく騒めく。
頷こうとするのに頷けない。
なんで…
なんで…
「言えないでしょ?…莉子先輩、関係ないなんて」
「………」
頷けないなくて眉を寄せて泉を見つめる。
「…なんでか俺、分かりますよ」
「……?」
その言葉と瞳に背中がゾクってした。
「だって、あんた、…俺のこと好きですもん」
「…?、、!…違っ…」
その瞬間、泉の唇で否定の言葉は堰きとめられた。
割入れられた泉の舌が、私の舌を絡みとり口内を蹂躙する、どれくらい時が経ったのだろう蕩けた様に身体の力が抜けた。
私の後頭部を支えていた泉の大きな手の平の力が優しく緩められ、名残惜しげに私の濡れた唇を親指の先で
拭う。そんな見たことのない泉の表情を真っ白な頭でみつめる。
「ほら、……拒めないでしょそんな顔して、…ねっ、言った通りでしょ?…あんた俺のこと好きなんですよ」
「っ……」
「そうなんですよ……」
「誰よりも俺が可愛くて、誰よりも心配で放っておけなくて、そして誰といるよりも楽でしょ?」
否定できずに固まる私に、自嘲するように泉は言った。
「他の奴には存在するパーソナルスペースだって、俺にだけはない…」
(た、たしかに…)
「認めてください。莉子先輩は、俺が好きなんです」
「………」
「…だって、そうなるように、俺、努力しましたもん」
そう言った泉は獰猛にすら感じる瞳で私を見つめた。
真を問うような有無を言わさない瞳に囚われたようにゾクリとした痺れが身体を走る。
「ねぇ、莉子先輩、おれ、待てができるいい犬だったでしょ?」
「従順だったでしょ?…あんたにだけは…」
「泉…?」
「でも、そうじゃなくしたのは、…莉子先輩ですから、もう引き返せませんから、あきらめて俺のものになってください」
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