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この気持ちの正体は…

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「あら莉子先輩、今日お洒落、もしかしてデートですか?」

あれから一週間の時が経過していた。
今日は金曜日。
昨日まで残業続きだったけど、定時上がりだ。

「う、うん?デート?私が? あ~、でも、う~ん、やっぱりちょっと違うかな、でも…」

デートと言われて戸惑う私。

「もう、莉子先輩ったら相変わらずミステリアスなんだから!でも、すっごくお似合いですよそのスカート」

そう言われて背中をパシンと叩かれる。

「あ~、そうかな?あ、でも、あ、ありがとう?」

そう言って引き攣り笑いする私を可愛い笑顔でクスリと笑う。

「でも、ちょっと待ってください。少しだけ髪の毛乱れてますね?直しちゃいます♡」

そう言ってニッコリ微笑む後輩の飛鳥ちゃんは、手持ちのバックからスプレーと櫛を出してチョイチョイっと器用に私の髪の毛をセットして、「私もデートなんで、それじゃまた」と軽い足取りで去って行った。


(軽いね~足取り、凄いね女子力……)

その可憐な後ろ姿はやはり今の私には出せない若さを持っていて、これから待つ男とのどんな甘々エピソードが待っているのかを想像してニヤリと妄想に耽りそうになった私は、ハッとして時計を見つめた。

今日は、(リアル社会で)翔と待ち合わせがあるのだ。
飛鳥ちゃんの足取りに比べ、私の足取りは重かった。

あの無理やりの見合いの日から、10日が経っていた。

あれから、のらりくらりと翔からの誘いを理由を付けては断ってきた私だが、遂に断り切れなくて今日食事となった。

「もう、つれないな。そんななら、また待ち伏せしちゃおうかな?」

その言葉に、私は大いに慌てた。
また、前のように社内が騒然となるのかと思うと頷くしかなかった。

「分かった。行くよ!行くから、だから会社には来ないで」

そう言うと、電話口での翔は一瞬沈黙した。

「ふ~ん、誰か見られたくない男でもいるの?」

「そうじゃないけど、この前だって野次馬凄かったでしょ?自分が今、うちの会社でどれだけ注目されているのかよく考えてよ??」

そんな会話をしたのは二日前の夜。
既に予約済みと言う待ち合わせの店を聞いて、急遽昨日の帰りに地下鉄直ぐのブティックの店員に進められるままに買ったのがこの服。

リアルと遠のいて、高級レストランに相応しい服の一枚も持っていなくて大いに慌てたのだ。

何故、私達がそんなやり取りをしているかと言えば、私は、結局お見合い(?)の日に縋るように私に執着する翔をすぐには振り切れなかったのだ。

すでに7年が経過していて、翔が未だに私を好きだと言っている事にまず驚いた。
でも、冷静に考えてみれば、それは思い込みではないかと思うのだ。

多分、別れたくて別れた訳ではない。
あれが本当だとしたら、私は過去に絶望して生きてきたけど、翔は過去を美化して生きてきたのではないかと思うのだ。

そして、残念な事に(?)私は既にあの頃の自分ではないと思っているから。

そして、7年経過して色んな方面に脳内開花してしまった今の私が、翔の言うように再び翔を好きになれるかと言えば、正直自信が無いとしか言いようがない。

別れには行き違いがあったのかもしれない。
だけど、成り行きはどうであれ、あの頃翔は私との別れを選んだのだ。

会社の飲み会で酔いつぶれて朝気が付けば、会社の女の子が隣にいたというベタな理由であったとしても、
きっとあの女の子との複数回の身体の関係があったのは事実なのだろう。

そして、それすらももう今の私にはあまり意味をなさない。

だって、私はもうとっくになのだから。

そのあたりの事をオブラートに包みながらも話してみたけれど、翔は意味が判らなかったのか決して諦めなかった。そのままでは返してくれない勢いだった。

これ以上騒ぎを起こしたくない私は、翔が百歩譲って提案したと言う苦肉の方法に頷いた。

「どうしても直ぐに付き合えないって言うんだったら、でもいいから俺と付き合って!?」


と言う事で、そうなのだ。
私達は今、と言う事になっている。

(はぁ~、こんなのってやっぱり中途半端だよね)

何だか翔に申し訳なくて、自分が許せない気もする。

(やっぱりちゃんと、話さないと駄目かな…?)

唯一見栄を張りたいと願ったかつての恋人に、《自分はあれからめっきり恋愛方面はダメでついには腐女子になってしまいました!今は、自分への興味すらありません。興味があるのはあんなものや、こんなものです……》なんて……

私は、溜息を吐いた。

(やっぱり、細かく言うのはハードルが高い……)

でも、こんな中途半端なことしてちゃ駄目だよね。


いつもはパンツスタイルにヒールのほとんどないウォーキングパンプスなるものを愛用している私は、久しぶりの新しい服と7センチヒールのパンプスを履いた。
店員さんに「ご年齢に合った落ち着きのあるお色味ですので、流行りのデザインでもとても素敵に見えますよ?」と褒められているのか貶されているのか分からない感想を貰った買ったばかりのグレーの女性的なデザインのブラウスと品のいいシフォンスカートだ。
流石に短いスカートを履く勇気はないからこんなものだろう。

そこまですれば、私の中にもまだ女心が残っていたのか、化粧を直し、お気に入りのピアスをする。
やや、あどけなさを失った顔にガッカリしながらも鏡から二三歩の距離をとって自分を納得させる。

(まぁ、年齢的に、こんなもんだよね?)

そうブツブツと思案しながらカバンを持った時に失敗に気が付いた。

(あちゃ… スマホ事務所だ…)

仕方がないので、そそくさと事務所に入ってさっさと出ようとしたが、入ったところでいきなり目があった後輩に声をかけられた。

「莉子先輩!?」
一瞬目を見開く後輩

「キャー どうしちゃったんですか?なんだかメチャクチャ可愛いです!」
そんな声に視線が集まる。

(やめて、イタイお局だと思われるから!)

「ほんとだ、どこか行かれるんですか? まさか…」

「デート?デートなんですか?」

「え、莉子君がデートだって??」

(げっっ係長まで……)


そう、集まる声と視線。

「あっ、え~と、デートって訳じゃないんですがちょっと約束があって…」

そこに後ろからドアの開く音と共に一人の男の声がした。

「ただいまっ……」

救いの手を得たような気分。
泉の声だ!!

チャンスだと振り返ると、そこには絶句したように私を見る泉がいた。

「あっ、おかえりなさ~い」
「お疲れです!」

泉に皆の視線が移った瞬間に私は退散を決めた。

「あっ、泉、 お疲れ様! 今日残業? 私、丁度今から帰るところだから頑張ってね~」

そう言った瞬間、泉は何かを言いかけた。

「莉子先輩? ちょ…… 待ってください」

「ごめん、急いでるから!じゃあね」

後ろからは、ヒソヒソと声が聞こえていたがドアを閉めた瞬間そんな声は遮られた。
そのまますぐに来たエレベータに乗り込む。

今日は定時帰りの人が多いのか、各階でエレベータは止まる。
ムッとする熱気に耐えながらようやく一階に辿り着いた私は、ヨタヨタと後方からエレベータの外に出て、ようやく大きく息を吸い込んだ。

「暑かっ…ぐふっ…」

はずだったのだが、目の前に仁王立ちする一人の男を見つめたまま絶句した。

「いっ、泉? 何でここにいるの? あんたもしかして、瞬間移動?」

さっきまで、私と同じ13階のオフィスにいたはずの泉が今、若干の息を切らせながら目の前にいたのだ。












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